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2018年5月30日 (水)

ショパン 「練習曲集」(エチュード) 名盤

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ショパンの練習曲(エチュード)集は作品10の12曲、作品25の12曲、作品番号無しの新練習曲の3曲と全部合わせて27曲が楽譜に残されていますが、一般的には作品10と作品25が圧倒的に有名で、この24曲だけでレコーディングされることも多いです。

作品10が発表されたのはショパン23歳のときで、フランツ・リストに捧げられました。
これらの作品はその名の通り”練習曲”として書かれていますが、極めて難易度の高い演奏技術の鍛錬を目的としています。その反面、音楽的にも大変優れているのでコンサートピースとして広く演奏されています。
作品10と作品25では幾らか性格が異なり、高度な技術的要素が前面に現れる作品10に対して、作品25では高度な技術要素を越えた充実した音楽内容が一層感じられます。しかし作品10にはあの美しい名曲「別れの曲」(原題はTristesseで本来は”悲しみ”と訳されます)が有りますし、中々に甲乙は付けにくいです。

それでは愛聴盤をご紹介してみます。
 
Chopin_51htoorwail_sy355_アルフレッド・コルトー(1933-34年録音/EMI盤)(1942年録音/EMI盤) 所有しているBOXセットには2種類の録音が含まれています。録音時期に10年近くの開きがあるので再録音盤は音そのものは明確なのですが、サーフェイスノイズが大きいのがマイナスです。肝心の演奏は似たり寄ったりで、現代の奏者と比べると多くの箇所で指がもつれているように聞こえます。どちらか言えば旧録音盤のほうがまだ良く弾けている印象です。それでも全体がコルトーらしい濃い情緒感に覆われているのはさすがですが、技術的な側面がどうしても前面に出てくるエチュード集はショパンの曲の中では余りコルトー向きでは無いようです。

Chopin71lt58iq8yl__sy355_ サンソン・フランソワ(1959年録音/EMI盤) 残念なことにモノラル録音で音質に古めかしさを感じられるのが残念です。天才フランソワのショパンには常に一定の型にはまらない自由な閃きを感じますが、奇異な印象やあざとさを感じることは有りません。テクニック面でもその後に登場してくる世代と比べてもさほど見劣りすることは有りません。静かな曲での繊細な美しさは見事なものですし、逆に作品25の11、12などでは腹の底まで響き渡る凄みある音を聞かせてくれます。この人もやはり演奏史に残る偉大なショパン弾きだったと思います。

Chopin230028497 ウラディーミル・アシュケナージ(1971-72年録音/デッカ盤) もちろんアシュケナージは指折りのテクニシャンですし、ポリーニ盤とほぼ同時期にリリースされたエチュードでしたが、話題性ではポリーニに負けたように記憶しています。いま改めて聴いてみても高速アルぺジオの音の粒立ち、リズムの堅牢性などでやはりポリーニが一枚上かなと思います。もしもの話、ポリーニ盤が存在しなければ名盤として君臨することでしょうが事実は異なります。もっともポリーニ盤は鑑賞の上で余りに緊張の持続を強いられるので疲れてしまうという方にはアシュケナージ盤はお薦め出来ると思います。

Chopin61okwcttual__sl1096_ マウリツィオ・ポリーニ(1972年録音/グラモフォン盤) 発売当時のLP盤の帯に「これ以上何をお望みですか?」という吉田秀和氏の有名な言葉が印刷されていたのを知らないオールドファンは居ないと思います。ポリーニが18歳でショパンコンクールを制したのちに10年間もの沈黙を守り、再び楽壇に登場して録音をした衝撃的なアルバムでした。10年間の研鑽がそのまま結晶化したかのような演奏は「果たして人間にこのような演奏が可能なものか」と言葉を失わせる演奏でした。この演奏の凄さは正にアポロン芸術の極致で、あたかも情緒の入り込む隙間が無いほどの完璧な演奏なのですが、それでいて無味乾燥では無く、澄み切った空気感が確かに存在することです。もしもケチを付けるとすれば作品25の11、12に関しては制御が聴き過ぎているのでもっと羽目を外して荒々しく終わるほうが好みなぐらいです。これはエチュード集のみならずあらゆるピアノ演奏の五指に入る歴史的な録音だと思います。

Chopin11tbkwi1al__sl1050_ルイ・ロルティ(1986年録音/シャンドス盤) ロルティもまたグールドと同じカナダが輩出した素晴らしいピアニストです。テクニックに優れ、音の粒立ちの良さ、テンポの堅牢さはポリーニ並みですが、ポリーニほどの緊張感を強いられることは無く、むしろ澄み切った叙情性すら感じさせます。全体的にかなり速いテンポなのにもかかわらず上滑りすることなく落ち着いた印象なのは音楽が完成されていて、この難易度の高い曲の演奏にも余裕を持ち合わせるからでしょう。録音も優秀でピアノの音も幾らかオフ気味ですが非常に綺麗です。

Chopin アンドレイ・ガヴリーロフ(1985-87年録音/EMI盤) ガヴリーロフもユニークな演奏を残しました。特に作品10の大半の曲を超快速(音速か?)でかっ飛ばすのにはただ唖然とするばかりです。しかしここにはポリーニのような微動だにしない堅牢なアポロン芸術というよりはスポーツ的な快感を感じます。それでも「別れの曲」や作品10-6の静寂な雰囲気や作品10-11や25-1の粒立ちの良い光り輝く音など耳を傾ける箇所も多いです。また作品25-11以降の迫力も圧巻です。この曲集を原点の「エチュード」だと考えればポリーニに並び立つ演奏だと断言出来ます。もちろん鑑賞用としても非常に楽しいです。

Chopin51tmn0kd6gl__sy355_ スタニスラフ・ブーニン(1998年録音/EMI盤) あれだけ一般の人気の高かったブーニンですが、マニア筋には必ずしも評価が高かったわけでは無いようです。この演奏はポリーニの透徹したアポロ的な演奏とは反対に感情表現豊かなディオニソス的な演奏と言えます。もちろん技術的にも高いレベルに有ります。ポリーニやロルティのような完全無欠のアルペジオと比べればほんの僅かに劣る感じは有りますが、そもそもブーニンはこの人特有の非常にロマンティックで深い音楽をめざしているために全く気になりません。全体のゆったりと大きなスケール感も特筆ものです。これは中々にユニークな名盤だと思います。

Chopin51qnfz4bmil__sx355_マレイ・ペライア(2001年録音/SONY盤) ペライアがショパンをこれだけ弾けるのかと驚きました。ポリーニのアポロンタイプに僅かにディオニソステイストを加えたようなスタイルです。全体的に速めのテンポで颯爽と進みますが、曲によっては中々の迫力を聞かせます。この人もまた高いテクニックを持ちますが、作品10-4のような曲ではスケールが幾らか不安定のような印象を受けます。もっともそれはポリーニと比較してとお断りしておきます。録音も新しく音質も優れます。

<作品25のみ>
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グリゴリー・ソコロフ(1995年録音/NAIVE盤) 現代の幻の大ピアニスト、ソコロフのエチュードの録音は残念なことに作品25しか有りませんので番外扱いにはなりますが、ライブでこの曲の正規盤を出すのは凄いです。作品25-6のキラキラと輝く光の粒は実に綺麗ですし、25-7の詠嘆の表出には恐ろしく深みが有ります。そして25-10以降の3曲も聴き応えは充分です。決して力で押し切るわけでは無く、迫力ある音の中にも細部までコントロールされ尽くした美しさを感じさせます。作品10の録音が無いのが非常に残念です。但し、ソコロフとしては「プレリュード集」や「葬送ソナタ」の演奏の方が更に出来栄えが上だと思います。

というわけで、作品10と25の24曲をどれか一つだけ選ぶとなればポリーニ以外の選択肢は考えられません。しかし気分に応じて取り出すのは、むしろロルティ、ガヴリーロフ、ブーニンが多いです。「これ以上」を望まなくても「別のもの」を望むことは有るのですね。

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コメント

こんにちは。

ショパンの練習曲ですか。ショパンの練習曲は幼い時から聴いているので、懐かしい思い出が一杯に詰まっている曲集です。

ショパンの練習曲はプロ、アマを問わず、ピアノを弾く人なら必ず通る道です。以前も投稿しましたが、ショパンの練習曲は、演奏者の音楽の資質を全て透過させてしまう恐ろしい曲集だと、子供の頃、親しくさせて頂いたピアノの先生が仰っていました。
確かに、ベートーヴェンの「熱情」ソナタを弾ける人でも、案外「別れの曲」は凡演になってしまう人は結構多いです。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

① チェルカスキー 1955年録音

② ポリーニ 1972年録音

③ 未聴盤 バックハウス 1928年録音

①は子供の頃よくレコードで聴きいたので、今でも手放せません。幸いCD化されています。
モノラル録音ですが、チェルカスキーの気迫に圧倒されます。彼はショパンを多く録音していますが、いずれも全力投球の演奏です。どの曲もスケールの大きい演奏ですが、細部まで楽譜の読みが深く、いかなる難パッセージの前でも破綻を見せません。練習曲でも一番先に手が伸びる演奏です。

②は何も書く必要はない名盤だと思います。ある批評家は「練習曲はこのように弾かれるべきだ」と仰っておられましたが、その通りだと思います。
僕はこの頃のポリーニは素晴らしかったと思っています。実際、ベートーヴェンの後期ソナタ集やシューベルトの「さすらい人幻想曲」は今でも愛聴しています。
しかし、ある時期からポリーニの演奏には、共感できなくなりました。
この人の最大の武器であるテクニックと人並み外れた知性は健在なのですが、何か迷いのようなものを感じるのは僕だけでしょうか?

③は未聴なので、上げるべきではないのかも知れませんが、世界初のショパンの練習曲の全曲録音らしいです。
ハルくん様には申し訳ないのですが、僕は晩年のバックハウスがあまり好きではありません。
1950年前半までの演奏は大好きなのですが・・・
もしハルくん様が試聴されていたら、ご感想を賜りたいと思って取り上げさせて頂きました。

投稿: motosumiyosi | 2018年6月 3日 (日) 22時21分

motosumiyosiさん、こんにちは。

チェルカスキーは名ピアニストだと思いますがエチュードは聴いていません。機会あれば聴いてみたいですね。

ポリーニはやはりこの頃の完璧なテクニックに支えられた透徹した演奏が一番のように思います。しかし近年のベートーヴェンの演奏などを高評価される方も居ますし、やはり人それぞれでしょうか。
同じように私としてはバックハウスはステレオ録音になってからのベーゼンドルファーの美しい音をとらえた録音でないと満足できません。もちろん晩年の音楽の深さもなのですが。
そういうわけで残念ながらお尋ねのエチュードについては聴いておりません。

投稿: ハルくん | 2018年6月 5日 (火) 11時27分

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