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2017年9月15日 (金)

マーラー 歌曲集「少年の魔法の角笛」 名盤

Wunderhorn_1874_titel
マーラーの歌曲集「少年の魔法の角笛」は本当に魅力に溢れる作品です。演奏時間が50分にも及ぶ大作ですが、聴いていて楽しくて仕方が有りません。

マーラーの20代から30代の頃の多くの作品に影響を与えている「少年の魔法の角笛」(Des Knaben Wunderhorn)は、クレメンス・ブレンターノとルートヴィッヒ・アヒム・フォン・アルニムの二人が収集したドイツの民謡歌謡の詩集です。「少年の不思議な角笛」、「子供の不思議な角笛」あるいは「子供の魔法の角笛」とも訳されます。(写真は1874年版の表紙絵)

マーラーはこの詩集に音楽を付けて歌曲集としました。但し初めから一つの歌曲集として作曲をしたわけではなく、それぞれ個別に作曲した曲を出版時に一つにまとめ上げましたので、初演時や出版時、さらに出版後に曲の入れ替わりが起きています。

当初出版されたのは以下の12曲です。番号は単に便宜的に記しただけで、演奏する際の曲順は演奏者に委ねられています。

1.歩哨の夜の歌
2.むだな骨折り
3.運の悪い時の慰めっこ
4.この歌を作ったのはだあれ?
5.この世の生活
6.魚に説教するパドヴァの聖アントニウス(交響曲第2番の第3楽章に流用)
7.ラインの伝説
8.塔に囚われ迫害される者の歌
9.美しいラッパの鳴り響くところ
10.お高い良識 自慢する歌
11.原光(交響曲第2番の4楽章に転用)
12.三人の天使が歌った(交響曲第3番の5楽章に転用)

これに後から以下の2曲が加えられました。
13.起床ラッパ
14.少年鼓笛兵

その後、11は交響曲第2番の4楽章に転用され、12も交響曲第3番の5楽章に転用されました。そのために演奏の際に省かれることが多く、1~10に13、14を加えた12曲で演奏されることが一般的となっていました。しかし演奏者によっては11を加えて13曲とすることも有りますし様々です。

その一方、6は交響曲第2番の第3楽章に堂々と流用されていますが省かれることは有りません。マーラーならではの屈指の名曲だからかもしれません。

また更に補足しますと、出版される前まで含まれていて、出版の際に削除された「天上の生」という曲が有りますが、これは交響曲第4番の4楽章に転用されています。

さて、以上のような複雑な経緯が有るためにCDを選ぶ際には、まず収録曲に気を付けなければなりません。もちろん収録曲が多ければ演奏は二の次で良いという問題でもありませんが、個人的には「原光」入りの13曲のものを好んでいます。

さらに楽譜には、歌をどのパートに歌わせるかの指示が有りませんので、様々に歌われています。それぞれの曲を男性が歌ったり、女性が歌ったり、あるいは男女の掛け合いで歌ったりとCDによって色々です。当然、そこには聴き手の好みが現れるわけで、演奏の良し悪しを語る前に自分好みの歌手の配役を選ばなければなりません。ただ、それは幾つかのCDを比較してみて初めて気づくことではあるのですが。具体的には「この歌を作ったのはだあれ?」「ラインの伝説」は絶対に女性に歌ってほしいし、「パドヴァの聖アントニウス」は男性に歌って欲しいです。

曲の演奏順番も多種多様ですが、これは余り気にしていません。

ともかくは所有盤をご紹介します。

<管弦楽版>
Mahler51tjx1stoil_sx355_ワルター・ベリー(T)、クリスタ・ルードヴィヒ(Ms)、レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル(1967、69年録音/ソニー盤) 「原光」を加えた13曲収録です。オーケストラの音色は明るいのですが、ロマンティックで情緒が非常に豊かに感じられます。各曲のテンポの振幅が大きく実に雄弁に演奏していて楽しませてくれます。弾ける様な楽しさは同じニューヨーク・フィルとの交響曲第4番を思い起こさせます。そして二人の歌手が大変素晴らしいです。歌の分担もまずは理想と言って良いですが、「パドヴァの聖アントニウス」だけはルードヴィヒが歌わずに男性のベリーに歌って欲しかったです。

Mahle41t8c3n03klディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)、エリーザベト・シュヴァルツコップ(S)、ジョージ・セル指揮ロンドン響(1968年録音/EMI盤) 一般的な12曲収録です。二人の歌手がべらぼうに上手く、両者とも時に過剰な表現意欲を見せる欠点がここではほとんど感じられません。音楽にピタリと同化していますし、二人の絶妙な掛け合い部分には思わず聴き惚れます。セルのオーケストラ統率力にも抜群でロンドン響の一糸乱れぬアンサンブルに驚きます。その分表現がやや堅苦しい印象も無いわけではありません。問題は私の大好きな「この歌を作ったのはだあれ?」をこともあろうにFディースカウが歌っていること。この歌はやはり女性でしょう!しかし逆に「パドヴァの聖アントニウス」では素晴らしい歌を聴かせてくれます。「原光」が入らないのも現在となってはマイナスです。

418kq5z8nclベルント・ヴァイクル(Br)、ルチア・ポップ(S)、クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィル(1985、86年録音/EMI盤) テンシュテットのマーラー交響曲全集の完成段階で並行して録音されました。一般的な12曲収録ですが、あたかもシンフォニーのように管弦楽が濃密に演奏されていて説得力抜群です。和声や対位法の処理の素晴らしさも流石です。好き嫌いが分かれそうなのは、曲によってはまるでオペラのようにオーバーな歌い方をしているヴァイクルです。特に初めは抵抗感が有りますが、聴き慣れてみるとこれはこれで面白さも感じます。ポップの歌唱は美しく素晴らしいです。男性、女性の歌の分担は正に理想的で、自分の好みと100%合うのはこの盤とインバル盤のみです。ただ「原光」が入らないのがとても残念です。

Mahler51wrcxaz3xl_sx355_アンドレアス・シュミット(Br)、ルチア・ポップ(S)、レナード・バーンスタイン指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1987年録音/グラモフォン盤) 「原光」を加えた13曲です。ニューヨーク・フィルとの旧盤と比べると全体的に落ち着いたテンポに変わっています。旧盤のどきどきするような愉しさは失われましたが、その分コンセルトヘボウのしっとりと落ち着いた響きが非常に美しく魅力的です。シュミットは地味ですが堅実、ポップは美しい声質に惹かれます。但し「パドヴァの聖アントニウス」をやはり女性が歌うのは旧盤と同じでバーンスタインの考えなのでしょう。これは個人的にはマイナス。最後に「原光」が置かれていますがこれは非常に美しい名演です。

Mahler_img_5ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)、ダニエル・バレンボイム指揮べルリン・フィル(1989年録音/ソニー盤) 一般的な12曲収録ですが、何といってもFディースカウが一人で歌ってしまう驚きのディスクです。彼自身はシュヴァルツコップ、セルとの共演盤の声のパワーに任せた歌唱よりもずっと表情のゆとりと円熟さを感じさせます。なのでどの曲を聴いても余り違和感を覚えません。しかし男女で歌われる演奏に比べればどうしても変化に乏しい印象になるのはやむを得ないところです。それにこの人特有の演出臭さが無いわけではありません。バレンボイムはベルリン・フィルから柔らかい響きを引き出していて中々に見事な指揮ぶりを聞かせます。

Mahler230010525_2ベルント・ヴァイクル(Br)、イリス・フェルミリオン(S)、エリアフ・インバル指揮ウイーン響(1996年録音/DENON盤) 「原光」を加えた13曲です。歌の分担は理想的で、「パドヴァの聖アントニウス」は男性のヴァイクルが歌っていますし、「この世の生活」と「ラインの伝説」はしっかりと女性が歌っています。色々なCDが有る中で好みと100%合うのはこの盤とテンシュテット盤のみです。ヴァイクルは表情が大げさでオペラっぽく歌いますし、フェルミリオンはオバさんっぽい声質なので最初は戸惑いましたが、何度か聴くうちに不思議とハマりました。インバルもウイーン響の持つ素朴な音を美しく鳴らしていて素晴らしいです。

Mahler51ckktvwq1lマティアス・ゲルネ(Br)、バーバラ・ボニー(S)、リッカルド・シャイ―指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(2000年録音/デッカ盤) 「原光」と「三人の天使が歌った」を加えた14曲の収録ですのでこれはアドヴァンテージとなります。「原光」はメゾに、「起床ラッパ」はテナーにそれぞれ1曲づつ別の歌手に歌わせているのは特徴的です。どの曲も美しく整えられた演奏ですが、比較的あっさりとしていてバーンスタインのようなマーラーへの濃密な思い入れは感じられません。美しいですが余り印象に残りません、曲の分担でも「この世の生活」と「ラインの伝説」を男性のゲルネに歌わせるのは疑問。どちらも絶対に女性でしょう!

<ピアノ版>
Mahler51tjx1stoil_sx355_ワルター・ベリー(T)、クリスタ・ルードヴィヒ(Ms)、レナード・バーンスタイン(Pf)(1968年録音/ソニー盤) これはウイーンでのライブ録音であり、LP盤での発売当時はオーケストラ盤との二枚組でした。その後は別々に販売されていましたが現在はCD二枚組としてオリジナルの形で販売されています。ですのでこれは是非この形で購入して欲しいです。バーンスタインはピアニストとしての技量を論じる前にマーラーの音楽の表現者として計り知れない深みと大胆さを持っているのは流石です。この音楽を是非ともオーケストラ版と聴き比べて欲しいです。元々楽しい歌曲が更に楽しくなります。

Mahlerimg0912ィートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)、ダニエル・バレンボイム(Pf)、(1978年録音/EMI盤) オーケストラ版のセル盤とバレンボイム盤の中間に録音された、マーラー歌曲集に収められています。こちらも一般的な12曲の収録です。バレンボイムはピアニストから出発した指揮者ですので、技術も表現力も素晴らしいピアノを聴かせています。歌曲の伴奏と考えればバーンスタインよりもずっとそれらしいです。ここでも男性一人が歌うので変化に限界は感じますが、好き嫌いは別としてFディースカウの表現力には舌を巻きますし、これはこれで楽しむことが出来ます。

以上の中から、マイ・フェイバリットを選ぶとすれば、管弦楽版はバーンスタイン/ニューヨーク・フィルの旧盤。ピアノ版もバーンスタイン盤です。どちらも最高に楽しい歌曲集の最高に楽しい演奏です。それがカップリング2枚組で購入できるのですから他に選択の余地はありません。
他に上げるとすればテンシュテット/ロンドン・フィル盤とインバル/ウイーン響盤です。どちらも男性歌手がオペラっぽい点が共通していますが、男女歌手の曲分担はベストですしオーケストラも素晴らしいです。

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コメント

こんばんは。

この曲も「大地の歌」も男女の歌唱で聴きたいですよね。
どこかいつも何か背伸びした感じの交響曲と違い
等身大のマーラーという気がします。
死を扱った曲が多いのは
兄弟姉妹の多くが死んだせいもあるのでしょうか?
この中で聴いた中ではバーンスタインのピアノ盤が好きです。

投稿: 影の王子 | 2017年10月 4日 (水) 23時02分

影の王子さん、こんにちは。
お返事遅くなりました。

そうなのですね。「魔法の角笛」も「大地の歌」もやはり男女の歌で聴きたいですね。
特に一人で歌うのはいただけません。

バーンスタインのオケ盤も良いですが、ピアノ盤も良いですよね!

投稿: ハルくん | 2017年10月 8日 (日) 23時56分

こんばんは。

男女の曲分担は今まで意識していませんでしたが重要ですね。
「パドヴァの聖アントニウス」はやはり男声であるべきです。
曲の皮肉さが女声では薄くなりますからね。

投稿: 影の王子 | 2017年10月12日 (木) 23時26分

影の王子さん、こんにちは。

そうなのです。演奏家の良し悪し以前の問題だと思うのですが、意外に語られることが少ないですね。
でも私も幾つか演奏を聴き比べてみて初めてこの重要性に気が付きました。

投稿: ハルくん | 2017年10月13日 (金) 12時52分

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