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2017年6月27日 (火)

マーラー 「大地の歌」 ~マーラーのピアノ版、シェーンベルク編曲による室内楽版~

マーラーの「大地の歌」は、全曲を通して歌曲的な要素が非常に高いことと交響曲番号が付けられていないことから交響曲に含めないのが主流のように見受けられます。

しかし番号が付いていないのはマーラーが『交響曲第9番』に纏わる不吉なジンクスを嫌った為ですし、何よりも本人が「交響曲」だと言っているわけですから、それを全集から外すことには少なからず疑問を感じます。

それはそれとして「大地の歌」には、マーラー自身が書いたピアノ伴奏版の楽譜が存在します。この楽譜がコンサートでの使用を前提としたものなのか、それとも単に交響曲を作曲するための草譜なのかは分かっていません。

ともかく、ピアノ1台で伴奏される場合にはやはり歌曲として扱われるのが妥当だと思います。

このオリジナルピアノ版の出版は、東京の国立音大が資金協力をして実現したことから、世界初演はこの大学のホールで1988年にヴォルフガング・サヴァリッシュのピアノ演奏により行われました。

現在ではCDも幾つか出ていますが、私が所有しているのは世界初演の翌年にリリースされて、いまだに評価の高いカツァリスがピアノを弾いた演奏です。

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トーマス・モーザー(テノール)、ビルギッテ・ファスベンダー(メゾソプラノ)、シプリアン・カツァリス(ピアノ)(1989年録音/TELDEC盤)

このCDに関しては、とにもかくにもカツァリスのピアノの上手さに尽きます。演奏が時に説明口調となり煩わしさを感じるという欠点の有るカツァリスですが、マーラーのこの曲ではそれが全て長所となっています。

カツァリスは高い技巧を持ち、オーケストラの演奏に引けを取らないほどの幅広い表現力があり、どの曲でも聴いていて非常に面白く、惹き込まれてしまいます。

当たり前ですが、ピアノのみの伴奏で聴くとこの曲が完全に歌曲のように聞こえます。

歌手の二人については、モーザーはとても素晴らしいです。ファスベンダーはジュリーニ盤などでこの曲を歌っていますが、この演奏ではあっさりと淡白に歌っていてやや物足りないです。しかし総合的に、ピアノ版でこれ以上の演奏を見つけるのは現在も今後も中々に難しいと思います。

一方、この曲にはシェーンベルクが室内楽版に編曲した楽譜も存在します。

シェーンベルクが自ら立ち上げた“私的演奏協会”では当時の新しい音楽を人々に紹介するために演奏会を毎週開催して、様々な作品を紹介しました。

その演奏会では費用上の問題から、管弦楽作品を室内楽に編曲をして演奏が行われましたが、この「大地の歌」もマーラーを敬愛していたシェーンベルクが室内楽編成に編曲したものです。

CDは幾つも出ていて有名どころではフィリップ・ヘレヴェッへやオスモ・ヴァンスカなどのディスクも有りますが、私の愛聴しているのは新盤で入手性も良い下記のものです。

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チャールズ・レイド(テノール)、スーザン・プラッツ(メゾソプラノ)、ジョアン・ファレッタ指揮アタッカ四重奏団、ヴァージニア・アーツ・フェスティヴァル・チェンバー・プレイヤーズ(2015年録音/NAXOS盤)

ナクソスレーベルには中々侮れないディスクが多々存在していますが、これもその一つです。余り耳にしない演奏家名ですが、指揮者は女流のジョアン・ファレッタですが、幾つものコンクールで優勝している実力者です。そしてアンサンブルの中心となるのは米国の新進カルテットのアタッカ四重奏団です。こちらもご存知の方は多くないでしょうが、2011年の大阪室内楽コンクールで優勝を飾り、その後も来日して演奏を行っています。このカルテットの第ニヴァイオリンを担当しているのは日本人の徳永慶子さんです。このカルテットに管楽器、コントラバス、ピアノが加わり演奏されています。

この編曲版を耳にして最初は戸惑うかも知れません。しかし聴き進むうちに直ぐに面白さの虜になると思います。普段聴いている分厚い管弦楽の響きとはうって変って非常に透明感あふれる繊細な音が繰り広げられるからです。もっとも個人的にはこの編成の場合にはピアノの音がやや異質に感じられます。むしろピアノを外した方が良いのではと思います。これが始めからピアノ版であれば当然気にならないのですが。

歌い手のチャールズ・レイドもスーザン・プラッツもアメリカ人ですが、二人ともマーラーを良く研究しているようでとても共感に満ちた歌を聴かせています。

ピアノ版だとこの曲が歌曲に聞こえますが、室内楽版だと歌曲と交響曲の中間のイメージとなるのがとても面白いところです。

『どちらが』ということではなく、マーラーが、大地の歌が、お好きな方には是非どちらも聴かれて欲しいと思います。

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コメント

こんばんは!

「大地の歌」は無限の可能性を秘めた作品だと思います。
通常のオケの演奏だと、オケに釣られて「絶叫」の歌唱に
陥る演奏も少なくありませんが
ピアノ版と室内楽版だとその心配が無くなります。

カツァリス盤はお書きになられた通りですね。
これを凌ぐ演奏はなかなか考えられません。
時間的に無理でしたが、バーンスタインに弾いてほしかった。

室内楽版はメロディーの美しさが一層際立つ気がします。
比較的小規模のいづみホールで聴いた時は絶品でした。

しかし、どの版にしてもやはり男女の歌唱が良いですね。
男声のみはどうしても単調に聴こえます。

投稿: 影の王子 | 2017年6月28日 (水) 20時51分

影の王子さん、こんにちは。

交響曲として、またピアノ伴奏歌曲として両方楽しめるというのは嬉しいですね。しかも良く有る後年に別の人が編曲をしたわけではありませんから。
それにシェーンベルクの室内楽版が加わって、もう言うことなしです。
これも作品が本当に素晴らしいからですね。

歌にかんしてはやはり男女で歌うのでなければ嫌ですね。どんなに上手い歌手が歌おうともです。

投稿: ハルくん | 2017年6月29日 (木) 12時44分

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