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2017年4月19日 (水)

マーラー 交響曲第5番 テンシュテット/北ドイツ放送響の1980年ライヴ盤

Ph13058クラウス・テンシュテット指揮北ドイツ放送響(1980年録音/Profil盤)

マーラー演奏を得意とする古今の指揮者は何人も挙げられますが、それでも突き詰めればレナード・バーンスタインとクラウス・テンシュテットが双璧だと思っています。

もっともバーンスタインがニューヨーク・フィル、ウイーン・フィル、コンセルトへボウといった超一流のオーケストラとの共演が多かったのに対し、テンシュテットの演奏はランクが一段下のロンドン・フィルがメインでした。というのもテンシュテットはリハーサルの際に、まるでアマチュアオケのように厳しく練習を行うことから、伝統のあるドイツ・オーストリアの楽団とは折り合いが悪かったからです。

その点、ロンドン・フィルは献身的に練習をこなし、団員は「彼の為なら我々は120%の演奏を行う」と言っていました。事実、彼らは毎回死に物狂いの熱演をしましたし、ライヴ録音からはそれが確かに感じ取れます。

しかしどんなに献身的に熱演をしたとしても、やはり超一流の音は出せないのです。それが証拠に「折り合いが悪かった」という北ドイツ放送響やウイーン・フィルとの数少ないライヴ録音の圧倒的な名演にはどうしても及ばないからです。

テンシュテットの最高のマーラー演奏の記録は恐らく北ドイツ放送響との第2番「復活」だと思います。これはテンシュテットのマニアなら誰でも知っている海賊レーベルFirst Classicsから出ていたもので、あのバーンスタインの「復活」をも凌ぐであろう唯一の演奏です。

テンシュテットが北ドイツ放送響の音楽監督だったのは1979年から1981年のわずか3年であり、しかも録音が非常に乏しいのが現実ですので、海賊盤ながら極めて優秀な音質で聴くことが出来るこの録音には計り知れない価値が有ります。

マーラーには同じFirst Classics盤に第1番が有り、これもまた非常に素晴らしい演奏ですので、どうしてこのオケともっと多くの録音を残してくれなかったのか悔やまれてなりません。

そんな中で、1980年録音の北ドイツ放送響との「第5番」のライヴ録音が一昨年にProfilレーベルからリリースされました。ご紹介がすっかり遅くなりましたが、これを紹介しないわけには行きません。

テンシュテットが特に得意として何度も指揮していた第5番には、まず主兵のロンドン・フィルとは1978年のセッション録音(EMI盤)、1984年の大阪ライヴ(TDK盤)、1988年のライヴ録音(EMI盤)が有ります。特にライヴ録音は壮絶な演奏で絶対に聴いておかなければなりません。

また、コンセルトへボウ管に1990年に客演した際のライブ盤は、ロンドン・フィルとのライヴほどの壮絶さは無いもののオケの優秀さから、個人的にはこれまで最も好んできた演奏です。

そこで、この北ドイツ放送響と1980年にハンブルクで行われたライヴ盤を実際に聴いてみましたが、第1楽章からテンシュテット得意の大見得を切った迫力が凄いです。巨大で濃厚な表現は後年の演奏と比べて全く遜色なく、この時期で既に曲の解釈、表現が完成されていたことがよく理解できます。北ドイツ放送響の音は色彩や艶やかさにはやや乏しく、かなり暗めの音色なのですが、腹に響く底力の有る音が凄く、これだけ充実して聴き応えの有る音は中々有りません。何度も何度も厳しい練習を繰り返して仕上げられたであろう演奏の完成度は驚異的です。それは単にミスが有る無しという次元の話ではありません。

バーンスタインやカラヤンはディナーミクの変化を極端に大きく取るので、弱音部では旋律線が弱くなる傾向が有ります。それに対してテンシュテットは決して旋律が消え入るほどには弱くしません。従って北ドイツ放送響の弦楽セクションにはウイーン・フィルのような色気は有りませんが、頻繁に現れる情緒的で歌謡調のメロディを存分に味わうことが出来ます。

この演奏で、もしも僅かでも物足りなさを感じるとすれば、第4楽章アダージェットでしょうか。あの深い闇の中や空間に消え去ってしまいそうな感覚というのをこれ以上に強く感じさせる演奏は他にも存在するからです。

この演奏はライヴ録音ながら完成度が極めて高いのですが、第4楽章で第1ヴァイオリンの中にハイポジションの音を外している人が居たり、更にどうしたことか終楽章のイントロでホルンが音をコケています。中にはこの部分を挙げてこの演奏を否定する方が居るかもしれませんが、それでは余りに勿体無いです。実演では疵は付きものですし、全体の圧倒的な感銘の前には些細な問題だと私は考えます。いずれにしても最も好むマーラーの第5番の録音が登場しました。

なお、このディスクは2枚組で同じ1980年のライブの「亡き子をしのぶ歌」が収録されています。ビルギット・ファスベンダーが独唱を務めていて、こちらももちろん素晴らしい演奏です。

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コメント

お早うございます。

フフフ...今年に入って偶然知って、いつでも書き込める準備はしていました笑。

曲の特徴が違うとはいえFirst Classicsのアレを聴いてしまっていますし、5番はバーンスタインのアレがあるので、どうしてもインパクトはアレですが、ほの暗い音色はまさに!です。

コンセルトヘボウとの録音もとても興味があるのですが、自主制作BOXですし中古でも高値なので躊躇しています。他にも聴くべき演奏が含まれているようですけど...。

投稿: source man | 2017年4月22日 (土) 11時13分

source manさん、こんにちは。

バーンスタインの5番は確かに最高なのですが、この頃はあそこまで粘着質でないテンシュテットを好んでいます。
仮にコンセルトへボウ盤が1枚もので発売されたとしても、たった一つに絞るならテンンシュテットの5番はこのNDR盤を取りたいです。

投稿: ハルくん | 2017年4月25日 (火) 12時37分

またまたお久しぶりです
いつもハルくんの立派な演奏評に逆らうようなことばかり書くまっこいです。ハルくんの度量の大きさに甘えて書き込んでいます。
さてテンシュテットですが、彼のマーラーは殆ど感心したためしがないのです。
2番のNDRSO盤は凄いとは思いますが…
2番はともかく、3番や中期、後期交響曲であまり大見得を切って欲しくないのですね。
それといみじくもハルくんが書かれています「テンシュテットは決して旋律が消え入るほどには弱くしません」という部分ですが、私にはこれがディナーミクの単純化に聞こえます。要するにマーラーが精魂込めて書き分けたピアニッシシモもピアニッシモもピアノも同じにしか聞こえないのです。テンシュテットのマーラーでもっとも気に入らないのがここですね。これはアバドにも共通する弱点だと思います。
5番の演奏はハイティンクのクリスマスマチネが最高と思っています。

投稿: Mahler | 2017年4月30日 (日) 16時25分

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