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2017年3月 1日 (水)

ドヴォルザーク 弦楽四重奏曲第12番ヘ長調 op.96「アメリカ」 名盤

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一般的に”渋い”イメージの有る弦楽四重奏曲ですが、その中でもポピュラーな曲の筆頭格なのがドヴォルザークの第12番「アメリカ」ですね。

それほど人気の高い曲の「名盤」を今まで何故記事にしなかったのかと言えば、スメタナ四重奏団の演奏する「アメリカ」を記事にしていたからです。完全無欠の彼らの演奏は極論を言えば、それだけで事は足ります。けれども、それではあんまりですし、他にも名演奏が無いわけではありません。そこで、彼らの演奏を含めて「名盤」を記事にすることにしました。

ドヴォルザークは弦楽四重奏曲を全部で14曲書きましたが、その最高傑作が「アメリカ」です。プラハからニューヨークに渡ったドヴォルザークが最初に書いた大作は交響曲「新世界より」ですが、そのすぐ後に音楽院の夏季休暇に入ったので、チェコからの移民が多く暮らすアイオワ州のスピルヴィルで過ごし、約2週間で書き上げたのが「アメリカ」でした。

もっともドヴォルザーク自身はこの曲に副題は付けていません。かつては「ニガー」(黒人の俗称)などと呼ばれもしましたが、現在では「アメリカ」と呼ばれています。

「新世界より」と「アメリカ」は、どちらも黒人やインディアンの民謡の影響を受けた共通点が有りますが、ニューヨークで書かれた「新世界より」と、ボヘミア移民の村で書かれた「アメリカ」とは幾らか趣の異なりが感じられるかもしれません。

この曲は全楽章が魅力に溢れていますが、第1楽章のドラマティックな曲想の変化、第2楽章の美しい旋律による痛切な寂寥感が特に印象的です。それを受ける第3楽章、第4楽章も比較的シンプルながら民謡調の動機が小気味良く流れて行くので飽きることが有りません。正に”旋律家”ドヴォルザークの面目躍如というところです。

ところでドヴォルザークが大変な鉄道マニアであったことは有名な話で、汽車に乗ってはその走行する音を楽しんでいたのだそうです。そんな汽車のリズムが第4楽章からはっきりと聞き取れると思います。シュッシュポポ、シュッシュポポ、とね。

それでは、まずドヴォルザークと同郷のチェコの団体が演奏するCDからご紹介します。

Amerikano10695ヤナーチェク弦楽四重奏団(1962年録音/DECCA盤) 彼らはこの当時、スメタナ四重奏団よりも人気が高かったと思います。このカルテットの魅力は一にも二にも第1Vnのイルジー・トラヴニチェクにあります。表情豊かで濃厚な歌い回し、切れの良さが迫力を生み、いかにも民族的な土の香りに溢れています。それが音楽への共感に溢れているので少しもわざとらしさが感じられません。他の三人の表現がトラヴニチェクには及びませんが、これはまだ第1ヴァイオリン主導型のスタイルが全盛の時代だったからなのでしょう。トラヴニチェクは残念なことに1973年に急死してしまい、メンバーも交代して実力はともかく、それまでの名声は保てなくなりました。

41zm8h2t6al__sl500_aa300_ スメタナ弦楽四重奏団(1966年録音/EMI盤) 彼らは「アメリカ」を全部で5回録音しています。時代と共にスタイルは少しだけ変りますが、全て名演です。このEMI盤は非常にスタイリッシュな演奏で、後年のライブ録音のようなルバートや音のタメは有りません。ですのでドラマティックさは余り強く感じません。けれども音には非常にしなやかさがありますし、切れの良さや流れの良さが格別です。技術的にも全盛期にあり完璧です。第1ヴァイオリンのノヴァークも上手いのですが、第1楽章第1主題を弾くヴィオラのミラン・シュカンパの魅力は惚れ惚れするほどです。ヤナーチェク四重奏団のような強い個性は有りませんが、やはり好きな演奏です。

Amercans51jvz5egcclプラハ弦楽四重奏団(1973年録音/グラモフォン盤) 1956年にプラハ交響楽団の首席ヴァイオリニスト、ブジェティスラフ・ノヴォトニーを中心に結成された団体ですが、グラモフォンの全集録音に抜擢されました。全集を残していないヤナーチェクQやスメタナQが取り組めばそれ以上の出来栄えの全集が生まれたことと思いますが、歴史は変えられません。ノヴォトニーの弾き方がスタッカート気味で、やや弾み過ぎる傾向にあるのが時に気になりますが、全体的には土の香りのする演奏で情緒表現も豊かですので不満は有りません。CDでは単売されておらず、全集で購入するしか無いのが不便ですが、他の曲も聴いてみたいと思う方にはお勧めします。

Cci00029スメタナ弦楽四重奏団(1980年録音/DENON盤) 彼らの録音の中でも特に素晴らしいのは4回目の1980年の日本ツアーの際に神戸文化会館で残したライブ盤です。まだ技術の衰えは感じませんし、時に大きなルバートや音のタメが見られる、彼らとしては最もドラマティックに歌わせた演奏です。とは言え、彼ららしく基本的には端正で、過剰に弾き崩したりはしません。このCDはこともあろうに廃盤扱いです。中古店では時々見かけますので、「アメリカ」やスメタナ四重奏団がお好きな方には是非ともお聴き頂きたいと思います。

307スメタナ弦楽四重奏団(1987年録音/DENON盤) 彼らは晩年にもプラハの芸術家の家でスタジオ録音を行いました。80年の神戸ライブに比べると、技術的にはだいぶ衰えを感じます。特に第1ヴァイオリンのノヴァークにそれを感じてしまいます。またアンサンブルとしても明らかに結晶度が落ちています。しかし、それではこれがつまらない演奏なのかと言えば、全くそんなことは無く、もしも80年盤が存在しなければ、こちらを代表盤としても十分に通ります。彼らのドヴォルザークの演奏は、どれもが本当に素晴らしいです。もし「新世界より」で例えてみるとすれば、王道をゆくヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルの演奏というところでしょう。

Amerikan040パノハ弦楽四重奏団(1994年録音/スプラフォン盤) チェコのヴァイオリニスト、イルジー・パノハをリーダーに1968年に結成された団体です。彼らの全集盤からの演奏ですが単売もされています。いかにもチェコの団体らしいしなやかで美しい音を持ち、どこかで素朴さ感じさせます。但し、かつてのスメタナQやヤナーチェクQのような貫禄は無く、どうしても小粒に感じてしまうのが残念です。ヴィオラ奏者がやや弱いのもマイナスです。それでも一貫してこの美音と高レベルの演奏が聴けるのであればむしろ全集盤の価値が高いように思います。

続いてはチェコ以外の団体のCDです。

Amerikan882ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団(1962年録音/DENON盤) ウエストミンスターへの数々の録音で今でも人気の高い彼らですが、ウイーン・フィルが日本に来た時に日本コロムビアによってステレオ録音が残されているのは奇跡です。この団体もまた第1ヴァイオリンのアントン・カンパ―の魅力が際立ちますが、このとき第2ヴァイオリンを担当したワルター・ウェラーも秀逸です。カンパーは既にかなり体力を落としていて、この後直ぐに亡くなるのですが、いざ録音を開始すると別人のように毅然と演奏をしたそうです。彼らの甘くたっぷりとした歌い回しは最高で、ダイナミクスと優雅さが共存した素晴らしい演奏です。「新世界より」であれば、これはさしずめイシュトヴァン・ケルテス/ウイーン・フィルの演奏です。

Amerikansimジュリアード弦楽四重奏団(1967年録音/CBS SONY盤) この団体は音楽的には第1ヴァイオリンのロバート・マン主導の古い専制君主型なのですが、いかんせん他のメンバーも技術が非常に高いので四者均等型のように聞こえます。各パートの音はバランス良くすこぶる立体的に構築されていて、一聴したところはクールで緻密な演奏のように感じますが、中々どうして歌からは郷愁が強く訴えかけられて来ます。しかし全体からは田舎の素朴さよりも大都会に建ち並ぶビルディングを想わせます。これは「新世界より」ならジョージ・セル/クリーヴランド管の演奏というところです。

ということで、「アメリカ」のマイ・フェイヴァリットは何を置いてもスメタナ四重奏団の1980年神戸ライブですが、ヤナーチェク四重奏団、更にはウイーン・コンツェルトハウス四重奏団、ジュリアード四重奏団も外せません。

<注記>
スメタナ四重奏団のCD紹介内容は過去の「スメタナ四重奏団の忘れられない思い出」からの抜粋です。ほぼ重複していることをお断りしておきます。

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コメント

こんばんは。

昨夜、何度目かにして苦笑、スメタナ弦楽四重奏団/'80神戸ライヴをようやく最後まで聴き終えられました。他でも聴いてみようとは思えない位なイイ余韻に浸れます。

奇遇にも、拝読した数日後に中古屋で見かけたのです。

魅惑の第2楽章はアレとして、イイ気分で作曲されたのだろうと判ります。でも通して、ドヴォルザークな哀愁も感じられるのが不思議な魅力です。

Miles Davisは自叙伝で、日本では自分をいつも王様のように待遇してくれたと述懐してますが、Zeppelin、Purple、クラシックでも他に貴blogで紹介された来日時のライヴやセッション録音で名演が多く遺されたのも、共通項が在るのだと思います。

投稿: source man | 2017年3月16日 (木) 20時55分

source manさん、こんにちは。

神戸ライブを聴かれましたか!
気に入られたようで良かったです。

外来演奏家のライブ録音は沢山ありますが、非常に価値ある名盤も結構有りますね。
やはり日本は多くの演奏家にとって良い国なのでしょう。
倉庫に残された録音の発掘を更に頑張って貰いたいところです。ただライセンスの問題で中々採算が取れないのかもしれませんが。

投稿: ハルくん | 2017年3月17日 (金) 16時47分

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