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2017年3月

2017年3月12日 (日)

ルッツ・レスコヴィッツ ヴァイオリン・リサイタル

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昨日は”第37回プリモコンサート”として、オーストリアの巨匠ヴァイオリニスト、ルッツ・レスコヴィッツさんのヴァイオリン・リサイタルが開催されました。ヴァイオリン・リサイタルと題されてもピアノトリオが2曲も演奏されるという豪華なプログラムです。

普段からルッツさんのデュオを務めるピアニストの長谷川美沙さんに加えてチェリストの大島純さんが加わり、東京では初のピアノトリオが演奏されました。

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シューベルトとブラームスのヴァイオリンソナタ、それにハイドンとメンデルスゾーンのピアノトリオと、ドイツ・オーストリアの大作曲家たちの名曲をたっぷりと素晴らしい演奏で聴かせてくれましたのでお客様も皆さん大満足されました。

特にプログラム最後のメンデルスゾーンは、スケール大きくロマンティシズム一杯に演奏されて圧巻でした。ルッツさんのストラディヴァリウスに大島さんのチェロが重なり合う見事なハーモニーにはしばし言葉を失いました。

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2017年3月 5日 (日)

ドヴォルザーク 弦楽四重奏のための「糸杉(Cypresses)」 名盤

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ドヴォルザークは弦楽四重奏曲も多作で全部で14曲を書きました。ボヘミアの爽やかさを感じるような魅力作が並びますが、さすがに最高傑作の「アメリカ」のレベルを期待すると拍子抜けする恐れが有ります。それよりもむしろ僕が惹かれているのは”弦楽四重奏のための「糸杉」”という番号無しの作品です。

ドヴォルザークは青年時代、音楽学校を卒業後、オーケストラのヴィオラ奏者を務めていましたが、その仕事の合間にチェルマーコヴァ家の二人の娘さんの音楽教師となります。そこで姉のヨゼフィーナに恋心を抱くのですが見事に失恋してしまいます。

そこでドヴォルザークは失意のうちに、当時プラハで出版されていたモラフスキーの詩集「糸杉」を題材とした18曲の歌曲集を作曲します。詩の内容は絶望と悲しみに満ちていて、終曲では「この苦しみが自分の故郷となる」という悲痛さの中で終わります。

ところが、彼は後にヨゼフィーナの妹であるアンナと結婚をするわけですから、アントンくんも中々やりますね。どうしてどうして”女性”には案外逞しかったようです。少なくとも生涯独身のブラームス先生を越えています(?)。

当時24歳だったドヴォルザークが書いた歌曲集「糸杉」は、友人の作曲家のカレル・べンドルに献呈されましたが、余り評価をされなかったので、後に改定を加えて「4つの歌 作品2」「愛の歌 作品83」の別の歌曲に編曲しました。

更に歌曲集の作曲から22年後、46歳となったドヴォルザークが弦楽四重奏用に編曲した12曲がこの「糸杉」という作品です。

各曲のタイトルは以下の通りです。

  1. 私は甘い憧れに浸ることを知っている
  2. 死は多くの人の心をとらえる
  3. お前の優しい眼差しに魅せられて
  4. おお、私たちの愛は幸せではない
  5. 私は愛しいお前の手紙に見入って
  6. おお、美しい金の薔薇よ
  7. あの人の家の辺りをさまよい
  8. せせらぎに沿った森で
  9. おお、ただ一人の愛しい人よ
  10.そこに古い岩が立っている
  11.この地にさわやかな西風が吹き
  12.私の歌がなぜ激しいか、お前は尋ねる

どの曲も3分前後の短い曲ですが、元々が歌曲であるだけにどの曲もとても情緒的な美しい旋律を持っています。甘く恋を歌う曲も有れば、悲しみに包まれた曲も有り、ドヴォルザークの才能が既に明確に表れています。

現在では「糸杉」と言えば、むしろ弦楽四重奏版の方が取り上げられることが多いようです。実際にCDも複数出ていますが、原曲の歌曲の方は余り取り上げられていません。

ところで、Cypressの語源ですが、ギリシア神話で美少年キュパリッソが姿を変えられたのが糸杉だとされていることから、この名が付きました。キプロス島の名前もここからとされています。

糸杉はヒノキ科の木で、欧米では街路樹や建築資材に多く使われますが、キリストがはりつけにされた十字架がこの木で作られたという言い伝えがある為に、花言葉は「死」「哀悼」「絶望」であり、死や喪の象徴とされます。
これで歌曲集の意味がよくお解りでしょう。

それではCDのご紹介です。

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プラハ弦楽四重奏団(1973年録音/グラモフォン盤) 
これは彼らのドヴォルザークの弦楽四重奏曲の全集盤に含まれている演奏で、単売されていないのが残念です。けれども演奏は非常に素晴らしく、僕はこの演奏が最も気に入っています。何といっても第1ヴァイオリンのブジェティスラフ・ノヴォトニーの歌い回しが絶品で、この曲の持つ数々の美しい旋律から優しさや愛の悲しみを余すところなく表現し尽くしています。ボヘミアの情緒もこぼれ落ちそうです。

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パノハ弦楽四重奏団(1994年録音/スプラフォン盤)
パノハ四重奏団の演奏も素晴らしいです。彼らも弦楽四重奏の全集盤を完成させていて、その中に含まれますが、単売もされています。ちなみに自分が所有しているのは後期作品を集めた3枚セットです。第1ヴァイオリンのイルジー・パノハに代表されるいかにも”チェコの弦”の特徴である、しなやかで美しい音がどの曲においても楽しめます。愛を失った悲しみに溢れるこの愛すべき曲にふさわしい慈愛に満ちた名演奏だと思います。

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プラハ・ヴラフ弦楽四重奏団(1996年録音/NAXOS盤)
単品で手軽に購入されたい場合にはこちらがお勧め出来ます。廉価盤と侮ることなかれ。本場チェコの団体が行った全曲録音の中の1枚で、彼らはメジャーレーベルの演奏団体と比べて少しも遜色の無い充分な実力を持っています。楽器の音色も綺麗です。彼らの歌い回し、表現そのものは控え目で奥ゆかしさを感じますが、それは目の前の悲しみに”立ち向かう”というよりも”そっと寄り添う”というイメージです。けれどもここぞという場面ではしっかりと悲痛な叫びを上げています。

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2017年3月 1日 (水)

ドヴォルザーク 弦楽四重奏曲第12番ヘ長調 op.96「アメリカ」 名盤

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一般的に”渋い”イメージの有る弦楽四重奏曲ですが、その中でもポピュラーな曲の筆頭格なのがドヴォルザークの第12番「アメリカ」ですね。

それほど人気の高い曲の「名盤」を今まで何故記事にしなかったのかと言えば、スメタナ四重奏団の演奏する「アメリカ」を記事にしていたからです。完全無欠の彼らの演奏は極論を言えば、それだけで事は足ります。けれども、それではあんまりですし、他にも名演奏が無いわけではありません。そこで、彼らの演奏を含めて「名盤」を記事にすることにしました。

ドヴォルザークは弦楽四重奏曲を全部で14曲書きましたが、その最高傑作が「アメリカ」です。プラハからニューヨークに渡ったドヴォルザークが最初に書いた大作は交響曲「新世界より」ですが、そのすぐ後に音楽院の夏季休暇に入ったので、チェコからの移民が多く暮らすアイオワ州のスピルヴィルで過ごし、約2週間で書き上げたのが「アメリカ」でした。

もっともドヴォルザーク自身はこの曲に副題は付けていません。かつては「ニガー」(黒人の俗称)などと呼ばれもしましたが、現在では「アメリカ」と呼ばれています。

「新世界より」と「アメリカ」は、どちらも黒人やインディアンの民謡の影響を受けた共通点が有りますが、ニューヨークで書かれた「新世界より」と、ボヘミア移民の村で書かれた「アメリカ」とは幾らか趣の異なりが感じられるかもしれません。

この曲は全楽章が魅力に溢れていますが、第1楽章のドラマティックな曲想の変化、第2楽章の美しい旋律による痛切な寂寥感が特に印象的です。それを受ける第3楽章、第4楽章も比較的シンプルながら民謡調の動機が小気味良く流れて行くので飽きることが有りません。正に”旋律家”ドヴォルザークの面目躍如というところです。

ところでドヴォルザークが大変な鉄道マニアであったことは有名な話で、汽車に乗ってはその走行する音を楽しんでいたのだそうです。そんな汽車のリズムが第4楽章からはっきりと聞き取れると思います。シュッシュポポ、シュッシュポポ、とね。

それでは、まずドヴォルザークと同郷のチェコの団体が演奏するCDからご紹介します。

Amerikano10695ヤナーチェク弦楽四重奏団(1962年録音/DECCA盤) 彼らはこの当時、スメタナ四重奏団よりも人気が高かったと思います。このカルテットの魅力は一にも二にも第1Vnのイルジー・トラヴニチェクにあります。表情豊かで濃厚な歌い回し、切れの良さが迫力を生み、いかにも民族的な土の香りに溢れています。それが音楽への共感に溢れているので少しもわざとらしさが感じられません。他の三人の表現がトラヴニチェクには及びませんが、これはまだ第1ヴァイオリン主導型のスタイルが全盛の時代だったからなのでしょう。トラヴニチェクは残念なことに1973年に急死してしまい、メンバーも交代して実力はともかく、それまでの名声は保てなくなりました。

41zm8h2t6al__sl500_aa300_ スメタナ弦楽四重奏団(1966年録音/EMI盤) 彼らは「アメリカ」を全部で5回録音しています。時代と共にスタイルは少しだけ変りますが、全て名演です。このEMI盤は非常にスタイリッシュな演奏で、後年のライブ録音のようなルバートや音のタメは有りません。ですのでドラマティックさは余り強く感じません。けれども音には非常にしなやかさがありますし、切れの良さや流れの良さが格別です。技術的にも全盛期にあり完璧です。第1ヴァイオリンのノヴァークも上手いのですが、第1楽章第1主題を弾くヴィオラのミラン・シュカンパの魅力は惚れ惚れするほどです。ヤナーチェク四重奏団のような強い個性は有りませんが、やはり好きな演奏です。

Amercans51jvz5egcclプラハ弦楽四重奏団(1973年録音/グラモフォン盤) 1956年にプラハ交響楽団の首席ヴァイオリニスト、ブジェティスラフ・ノヴォトニーを中心に結成された団体ですが、グラモフォンの全集録音に抜擢されました。全集を残していないヤナーチェクQやスメタナQが取り組めばそれ以上の出来栄えの全集が生まれたことと思いますが、歴史は変えられません。ノヴォトニーの弾き方がスタッカート気味で、やや弾み過ぎる傾向にあるのが時に気になりますが、全体的には土の香りのする演奏で情緒表現も豊かですので不満は有りません。CDでは単売されておらず、全集で購入するしか無いのが不便ですが、他の曲も聴いてみたいと思う方にはお勧めします。

Cci00029スメタナ弦楽四重奏団(1980年録音/DENON盤) 彼らの録音の中でも特に素晴らしいのは4回目の1980年の日本ツアーの際に神戸文化会館で残したライブ盤です。まだ技術の衰えは感じませんし、時に大きなルバートや音のタメが見られる、彼らとしては最もドラマティックに歌わせた演奏です。とは言え、彼ららしく基本的には端正で、過剰に弾き崩したりはしません。このCDはこともあろうに廃盤扱いです。中古店では時々見かけますので、「アメリカ」やスメタナ四重奏団がお好きな方には是非ともお聴き頂きたいと思います。

307スメタナ弦楽四重奏団(1987年録音/DENON盤) 彼らは晩年にもプラハの芸術家の家でスタジオ録音を行いました。80年の神戸ライブに比べると、技術的にはだいぶ衰えを感じます。特に第1ヴァイオリンのノヴァークにそれを感じてしまいます。またアンサンブルとしても明らかに結晶度が落ちています。しかし、それではこれがつまらない演奏なのかと言えば、全くそんなことは無く、もしも80年盤が存在しなければ、こちらを代表盤としても十分に通ります。彼らのドヴォルザークの演奏は、どれもが本当に素晴らしいです。もし「新世界より」で例えてみるとすれば、王道をゆくヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルの演奏というところでしょう。

Amerikan040パノハ弦楽四重奏団(1994年録音/スプラフォン盤) チェコのヴァイオリニスト、イルジー・パノハをリーダーに1968年に結成された団体です。彼らの全集盤からの演奏ですが単売もされています。いかにもチェコの団体らしいしなやかで美しい音を持ち、どこかで素朴さ感じさせます。但し、かつてのスメタナQやヤナーチェクQのような貫禄は無く、どうしても小粒に感じてしまうのが残念です。ヴィオラ奏者がやや弱いのもマイナスです。それでも一貫してこの美音と高レベルの演奏が聴けるのであればむしろ全集盤の価値が高いように思います。

続いてはチェコ以外の団体のCDです。

Amerikan882ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団(1962年録音/DENON盤) ウエストミンスターへの数々の録音で今でも人気の高い彼らですが、ウイーン・フィルが日本に来た時に日本コロムビアによってステレオ録音が残されているのは奇跡です。この団体もまた第1ヴァイオリンのアントン・カンパ―の魅力が際立ちますが、このとき第2ヴァイオリンを担当したワルター・ウェラーも秀逸です。カンパーは既にかなり体力を落としていて、この後直ぐに亡くなるのですが、いざ録音を開始すると別人のように毅然と演奏をしたそうです。彼らの甘くたっぷりとした歌い回しは最高で、ダイナミクスと優雅さが共存した素晴らしい演奏です。「新世界より」であれば、これはさしずめイシュトヴァン・ケルテス/ウイーン・フィルの演奏です。

Amerikansimジュリアード弦楽四重奏団(1967年録音/CBS SONY盤) この団体は音楽的には第1ヴァイオリンのロバート・マン主導の古い専制君主型なのですが、いかんせん他のメンバーも技術が非常に高いので四者均等型のように聞こえます。各パートの音はバランス良くすこぶる立体的に構築されていて、一聴したところはクールで緻密な演奏のように感じますが、中々どうして歌からは郷愁が強く訴えかけられて来ます。しかし全体からは田舎の素朴さよりも大都会に建ち並ぶビルディングを想わせます。これは「新世界より」ならジョージ・セル/クリーヴランド管の演奏というところです。

ということで、「アメリカ」のマイ・フェイヴァリットは何を置いてもスメタナ四重奏団の1980年神戸ライブですが、ヤナーチェク四重奏団、更にはウイーン・コンツェルトハウス四重奏団、ジュリアード四重奏団も外せません。

<注記>
スメタナ四重奏団のCD紹介内容は過去の「スメタナ四重奏団の忘れられない思い出」からの抜粋です。ほぼ重複していることをお断りしておきます。

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