« 2016年11月 | トップページ | 2017年1月 »

2016年12月

2016年12月27日 (火)

ブルックナー 交響曲第7番 クリスティアン・ティーレマン/シュターツカペレ・ドレスデン ~今年聴いたCDから~

Bru7_thileman_61y5pjroezl

さて、”今年聴いたCD”の締めくくりはクリスティアン・ティーレマンのブルックナーの交響曲第7番です。

この2枚組のCDがリリースされたのは今年の夏ですが、1枚目に収められているのは2012年9月のシュターツカペレ・ドレスデンへのティーレマンの首席指揮者就任祝いの演奏会でのブルックナー交響曲第7番、そして2枚目には2013年5月のワーグナー生誕200周年記念特別演奏会でのワーグナーの男声合唱とオーケストラのための『使徒の愛餐』が収められています。

ティーレマンは押しも押されぬ当代随一の人気指揮者ですが、伝統的なドイツ音楽の継承者として他には考えられない存在です。この人は常に遅めのテンポでスケールの大きい音楽を創り出していて、現代流行りの速いテンポによる切れの良さを求めた演奏スタイルに背を向けたところが逆にファンに支持される理由なのでしょう。

ですのでこの人が最も得意とするのは当然後期ロマン派ですし、若いころからオペラハウスの現場で鍛えられたワーグナーが一番です。次いでリヒャルト・シュトラウスやアントン・ブルックナーが上げられます。ブラームスやベートーヴェンもやはりスケールが大きく素晴らしいものの、このような古典的造形性を持つ音楽ではテンポを不自然に変えてしまう悪い癖が時々現れてしまう為に手放しでは称賛出来ません。

ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンはこの演奏会の直ぐ後に行われた日本ツアーでも第7番を演奏していて、僕は残念ながら聴いていませんが評判は凄く良かったようです。

このCDの音質については、柔らかく美しいもののホールトーンの成分がやや過多に感じられて細部の分離に幾らか不満を感じます。編集段階で多少残響を付加しているのかもしれませんね。ただ、その代わり何気なく聞いている分には会場で生で聴いているような心地良さが感じられます。強音には僅かに歪み成分が混じるようですが気にするほどではありません。

肝心の演奏の基本テンポは遅めですし、呼吸の深さも妥当です。チェリビダッケのような極度に遅いテンポでは呼吸困難に陥る自分には丁度良いレベルです。

オーケストラについてはさしものシュターツカペレ・ドレスデンといえどもライブでは完璧とは言えません。しかしこれもCDではなく会場で聴いていれば果たして気になるかどうかという程度ですし、ライブでこれだけの演奏が可能なのはやはり凄いことです。これを名だたるセッション録音の名盤と比べたら瑕だらけ、ライブ盤として割り切って聴けば文句なし、そんなところでしょうか。

何だか褒めているようなケチを付けているような分かりにくい感想ですみません。自分としても良く分からないまま何度も繰り返して聴いています。それで最後まで聞き通せるのですから結局は気に入っているのでしょうね。特に終楽章は集結部に向かってじっくりと腰を落して立派に構えていて、壮麗な金管も少しもうるささを感じずに充実した音楽を味わえる稀有な名演奏だと思います。

『使徒の愛餐』は、「男性合唱と大オーケストラのための聖書の情景」と副題が付いていて、ワーグナーがドレスデンの音楽監督となった頃に書かれた作品で、1843年にワーグナーの指揮により100人のオーケストラと1200人の合唱によりフラウエン(聖母)教会で初演された記録が残っているそうです。

曲は聖霊降臨の場面に基づいた内容で、前半はアカペラによって壮麗に歌われ、後半ではオーケストラが加わって「パルジファル」の世界を想わせます。元々この曲はCDが少ないので、ワーグナー記念の年に初演の場所で行われた演奏会録音は貴重ですね。

【収録情報】
Disc1 [69:58]
ブルックナー:交響曲第7番ホ長調 WAB107 (1944年、ハース版)
 録音時期:2012年9月2日
 録音場所:ドレスデン、ゼンパーオーパー

Disc2 [29:47]
ワーグナー:使徒の愛餐 WWV69
 録音時期:2013年5月18日
 録音場所:ドレスデン、聖母教会

 ドレスデン国立歌劇場合唱団 (Disc2)
 チェコ国立ブルノ・フィルハーモニー合唱団 (Disc2)
 ライプツィヒMDR放送合唱団 (Disc2)
 ドレスデン・フィルハーモニー合唱団 (Disc2)
 ドレスデン室内合唱団 (Disc2)

 シュターツカペレ・ドレスデン(演奏)
 クリスティアン・ティーレマン(指揮)

<関連記事>
ブルックナー 交響曲第7番 名盤

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年12月23日 (金)

シベリウス 交響曲全集 オッコ・カム/ラハティ交響楽団 ~今年聴いたCDから~

Sibelius444

今年聴いたCD第二弾はシベリウスの交響曲全集ですが、これはオッコ・カム/ラハティ交響楽団の昨年秋の日本ツアーに合わせてBISレーベルからリリースされたものです。ちなみにSACDハイブリッド仕様です。

初台のオペラシティで開かれた交響曲チクルスには後期の第5、第6、第7のアーベントを聴きに行きました。その感動の内容についてはこちらのブログ記事をご参照ください。

カムのシベリウスといえばデビュー時にグラモフォンに録音した第1から第3番の名演奏が有りますし、1982年のヘルシンキ・フィルの日本ツアーで渡辺暁雄とシェアしたチクルスの素晴らしい演奏がTDKによって記録されてCD化されています。

その後の檜舞台から少々離たカムの活動には欲求不満に陥っていましたが、それが一気に晴らされたのがラハティ響との日本ツアーであり、この交響曲全集でした。

コンサートの記事で書いたエピソードのように、カムは演奏直前にカメラ片手にホールの周辺をフラフラと歩き回るほどおおらかな人なので、それは音楽にも表れているように思えてなりません。人によってはオスモ・ヴァンスカが厳しく鍛え上げたラハティ響を”ユルめた”と批評する意見も見受けられますが、自分のように逆にヴァンスカ時代の演奏は幾らか”過剰”と感じられる者にとっては、カムのおおらかさが、とても心地良く感じられるのです。

来日時のラハティ響の編成は大編成では無く、幾らか小規模の編成でした。このCDの録音でもそれは感じられます。ですので通常大編成の音に慣れている第1、第2、第5ではやや音の薄さが感じられなくもありません。それはベルグルンドの三度目の全集に使っていたヨーロッパ室内管ほどではありませんが、共通した要素となっています。しかしこれはベルグルンドが目指した、シベリウス時代に実際に用いられていた小編成の管弦楽による演奏の再現に通じるものが有ると思います。

また重要なポイントとして、ロシア風のダイナミックな曲想を持ち合わせ、ともすると管楽器が咆哮しかねない第1、第2の二曲に対して非常に抑制を効かせていることです。あくまでも主役が弦楽器の印象を受けますし、そのソノリティの高さにはとても感心します。

第2では第3以降の深いシベリウスの世界にだいぶ近く感じられるのです。かといって終楽章など高揚感が不足するわけでは決してありません。それは外面的ではなく内面的な感動で勝負をしているからです。うごめくように始まりフィナーレに向かい延々と続く伴奏音型の上に奏でられる旋律は心に深く深く迫ります。

第5に関しても、近代管弦楽とばかりに金管を輝かしく鳴らすのではなく、やはり弦楽がサウンドの主体となります。第2楽章のように民謡的な旋律のいじらしい歌い方は独壇場で、こういう部分はカムは昔から本当に上手いです。終楽章はさすがに立派に金管を鳴らしていますが、それが過剰に感じられることは一切ありません。

ですので第3、第4、第6、第7のような室内楽的な要素に強く支配される曲ともなると、小規模ゆえの長所が増々生かされてきます。本来『寡黙な』シベリウスの音楽に何と合うことでしょうか。特有の”神秘感”も非常に良く感じられて素晴らしいです。

若いころのカムがそうであったように、ロマンティシズムを感じさせる特徴は少しも変わりません。それでいてシベリウスの音楽の本質を他の誰と比べても劣らないほどに掴んでいます。

その音造りの方法論として、オーケストラを厳しく締め付けるのではなく、自発性を尊重していることは、カム自身の口からも楽団員のコメントからも確かに伺えます。

シベリウスを得意とする指揮者の中でも、激しさを持つヴァンスカやセーゲルスタムとは遠く異なり、またストイックなまでに透徹したパーヴォ・ベルグルンドとも異なり、おおらかな自然体の印象を与えるネーメ・ヤルヴィや渡邉暁雄に近いスタイルです。

もちろん彼らのシベリウスはどれもみな素晴らしいので、全集盤に優劣など付けるのは無意味です。しかしあえて自分の好みを言えば、ベルグルンド(二度目のヘルシンキ・フィルとのEMI盤)と並んで、このカムの新盤が目下ツートップの存在です。

あとはネーメ・ヤルヴィの新盤(グラモフォン)にも強く惹かれますが、むしろセーゲルスタム(二度目のヘルシンキ・フィルとのONDINE盤)のセットには、ペッカ・クーシストが独奏するヴァイオリン協奏曲とフィンランドの男性合唱団が感動的な歌を聞かせる「フィンランディア」という二つの最高の演奏が含まれているので、他人にはむしろこちらを勧めたいところです。

いずれにしても、オッコ・カムのシベリウスは自分には最も肌に合う演奏なのは間違いありません。オペラシティでバッタリ出会って会話ができたのも偶然とは思えない余りに得難い体験でした。

<関連記事>
シベリウス 交響曲全集 名盤
ネーメ・ヤルヴィのシベリウス 交響曲全集 新盤

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年12月20日 (火)

ドヴォルザーク 交響曲全集 イルジー・ビエロフラーヴェク/チェコ・フィル ~今年聴いたCDから~

717tis6tkyl__sl1200_

今年もあと二週間となりました。そこで今年聴いたCDでご紹介していないものの中から、これはというものを拾い出してみます。まずはイルジー・ビエロフラーヴェク/チェコ・フィルのドヴォルザークの「交響曲全集」です。

この全集は一昨年2014年のリリースですが、購入したのは今年です。というのもリリースの前年にこのコンビの来日公演で素晴らしいドヴォルザークを聴きましたが、正直交響曲全集はヴァーツラフ・ノイマンの新旧二種があれば充分かなと思っていました。特に二度目のノイマンのスプラフォンへの全集録音は決定盤だと思っていたからです。

ビエロフラーヴェクは、かつて在京オケへ何度も客演しましたが、特別な閃きを持つ指揮者ではないと感じていました。数年前のチェコ・フィル公演でもその印象は変わらず、オーソドックスですが新鮮味には乏しい指揮者という感じを受けました。もっともチェコ・フィルのような伝統的な音を持つオケにとってはその方が有難いのです。下手に音をいじられる方がよほどまずいからです。

というのがこの全集を買い遅れた理由でしたが、聴いてみて考えがすっかり改められました。これは全く持って素晴らしい全集です。それに意外だったのはこの全集がスプラフォンではなく、DECCAによる録音だったことです。

まず、最大のポイントは音が非常に良いということです。ノイマンの二度目のデジタル録音も当時非常に優秀でしたが、この最新のDECCAでによる録音を聴いてみるとやはり機材の進化を感じます。音に歪み成分が少なくふわりと柔らかく広がっています。聴いていて本当に心地が良いです。特に中低域にアナログ的な厚みがあるので非常に重みが感じられて安定感が有ります。

但しノイマン盤とは明らかに金管の音の録り方が異なります。ノイマン盤では金管がかなり浮き上がっているので直接的な迫力が有りました。当時デジタル録音に移行したといえども伝統的なスプラフォンの音のバランスを保っていたようです。それに比べるとこのビエロフラーヴェク盤では金管が弦楽器と良くブレンドされているので、響きが美しい反面、聴きようによってはやや迫力不足に感じられるかもしれません。そもそもチェコ・フィルの金管群に関してはノイマン時代のほうが優れていたのも事実です。しかし現在でも優れていることに変わりは有りません。

演奏全体に関しては互角と言って構いません。少なくともドヴォルザークに関しては、ビエロフラーヴェクはついにノイマンの域に達したと思います。特に気に入ったのが「新世界より」で、インテンポを守るノイマンに対して、ビエロフラーべクはアゴーギクを微妙に加えていて曲想の変化をより感じさせることに成功しています。と言ってチェコ以外の国の指揮者が良く行うようなドラマティックでわざとらしい変化は少しも見せません。あくまでも自然な範囲です。

他の曲もすべて、全9曲とも出来不出来が一切無いこともノイマンの新盤に匹敵します。ということから現時点で全集として比較した場合にはビエロフラーヴェク盤に軍配を上げたいと思います。

またこの全集には、3曲の協奏曲が収録されているのも魅力です。特にアリサ・ワイラーシュタイン独奏のチェロ協奏曲はこの曲のベスト盤のひとつに上げられます。

ヴァイオリン協奏曲を独奏するフランツ・ペーター・ツィマーマンは単売のノイマン盤でのヨゼフ・スークには及びません。またピアノ協奏曲を独奏するのは懐かしいギャリック・オールソンで美しい演奏を聞かせていますが、こちらもビエロフラーヴェクの旧録音で独奏したチェコの巨匠イワン・モラヴィッツと比べると明らかな格の差を感じてしまいます。しかし、どちらもそれほどポピュラーな曲では有りませんし、交響曲全集に含まれているのは大変にお買い得です。

71tzcdqjjil__sl1202_

<関連記事>
ドヴォルザーク 交響曲全集 名盤 ~愛~
ドヴォルザーク 交響曲全集 ウラジミール・ヴァーレク/プラハ放送響盤

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年12月 5日 (月)

シューマン ピアノ協奏曲 続々・名盤 ~落穂ひろいに非ず~

シューマンのピアノ協奏曲イ短調はドイツ・ロマン派を代表するピアノ・コンチェルトの一つですので、このブログでもこれまでシューマン ピアノ協奏曲 名盤、さらに続・名盤と二度にわたり愛聴盤をご紹介しました。

録音状態を度外視して演奏だけで言えば、ディヌ・リパッティのアンセルメとのライブ盤がベストです。また録音やオーケストラを含めた総合点で言えば、リヒテルのムーティ/ウイーン・フィルとのライブ盤やグリモーのサロネン/SKドレスデンとのDG盤が挙げられます。

また個人的には僕の中学時代の同級生で僅か49歳でこの世を去ってしまった小池由紀子が生前ブルガリアのソフィアで演奏したライブ録音盤にも特別な想いが有ります。

それらはいずれも名演奏揃いなので、三度目ともなればともすると”落穂ひろい”になりかねません。ところがどっこい、まだまだ名盤が残っているものだと認識を新たにします。

それでは続々とご紹介してみます。

Schumann71h4pr6xkrl__sy355_アルトゥーロ・べネデッティ・ミケランジェリ独奏、ダニエル・バレンボイム指揮パリ管(1984年録音/グラモフォン盤) これはパリでのライブ録音から25年も経ってから突然発売されたCDです。その理由はミケランジェリが生前にリリースを許可しなかったからだそうです。確かにこの人にしては100%完璧だとは言えないのかもしれません。特に演奏開始後しばらくが演奏に乗り切れていないように感じられます。けれども第1楽章のあの美しい中間部に入る辺りから、がぜん演奏に感興が増してきます。それにつれてピアノの音もどんどん輝いて来るから不思議です。必ずしもがっちりとしたドイツ風の演奏ではありませんし、シューマンの音楽の持つ不健康さも余り感じません。どこまでもミケランジェリのピアノ美の様式で彩られた演奏です。そういう点ではホロヴィッツとこの人は正に双璧です。少しも粘ることなく、ロマンの香りを一杯に漂わせるのは流石はこの人です。幾らかゆったり目のテンポでじっくりと大人のロマンを味合わせてくれます。バレンボイムもミケランジェリと同質の音楽を感じさせて、雰囲気がピタリと合っています。

Scumann41jdvhzqgglホルヘ・ボレット独奏、リッカルド・シャイー指揮ベルリン放送響(1985年録音/DECCA盤) ボレットもまた大人好みの名人ピアニストだと思います。冒頭から非常にゆったりとしたテンポで、音楽に念を押しながら曲を進めて行っています。それが時にはもたれる印象を受けることも有りますが、この曲の場合には音楽に気宇の大きさを感じさせていて素晴らしいです。ピアノのタッチも神経質さからはかけ離れたおおらかな印象を受けます。かと言ってテクニックに劣ることは有りません。エンターテイナー的な印象を受けるのはルービンシュタインと似ています。とにかく演奏に温もりを感じさせていて、聴いている人を幸福感で包んでくれます。シャイーに関しては、部分部分でボレットの音楽に付いてゆけずに、やや軽さ、小ささを感じさせてしまうことが有るものの全体的にはさほど不満を感じさせることは有りません。

Shumann41gil0xlil__sl500__2仲道郁代独奏、クラウス・ペーター・フロール指揮フィルハーモニア管(1994年録音/BMGビクター盤) 仲道郁代はシューマンが最高だと思います。ショパンよりベートーヴェンよりです。もしそう言うのがおこがましければ、シューマンの演奏が一番好きです。その理由はピアノの音の、表情の「優しさ」「温かさ」に有ります。確かに「狂気」や「暗さ」には幾らか不足するかもしれませんが、とにかくシューマンの夢見るようなロマン性が自然にしかも充分に滲み出ているからです。その仲道さんの特性にピタリと合うのがピアノ協奏曲です。1楽章、2楽章と実にゆったりと穏やかにシューマネスクな世界に導かれます。3楽章は落ち着いたテンポが輝かしさに欠けるかも知れません。けれどもそれが味なのです。フロールの指揮は仲道さんの音楽の特徴と寸分の隙間も感じられずに素晴らしいサポートぶりですし、英国のオケからドイツロマン派の響きを引き出していて心地良いです。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2016年11月 | トップページ | 2017年1月 »