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2015年4月15日 (水)

フォーレ ヴァイオリン・ソナタ第1番&第2番 名盤 ~陰影(ニュアンス)を!~

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     画:アンリ・ル・シダネル(Le Sidaner, Henri)

ガブリエル・フォーレのおそらく最も人気の高い作品は「レクイエム」でしょうが、この人の音楽の魅力は総じて大作よりも小規模な作品に生かされています。管弦楽曲もそこそこ書いてはいますが、中核となるのはやはり室内楽曲やピアノ曲、歌曲の作品などです。

なぜなら、ぼくらはさらに”陰影”(ニュアンス)を望んでいるから
”色彩ではない” ただひとつ ”陰影”を!
おお! ”陰影”のみが 夢を夢に 
フルートを角笛にめあわせる!

    ヴェルレーヌ(訳:橋本一明)より

フォーレの音楽を表現するのに、大編成の管弦楽による”色彩”は不要でした。ピアノ、それに幾つかの弦楽器、声楽というごく限られたパートが有りさえすれば”陰影”を表現するのには充分だったのです。

大勢の人々に聞こえるような大声を出す必要も無く、傍らに佇む相手への静かなる語りかけ、あるいは自分自身へのモノローグ、ただそれで良かったのです。

それにしても、室内楽はフォーレの熟達した音楽語法を最高に生かすジャンルとなっています。小品を除けば10曲の作品を残しましたが、それらは古典的な各編成による作品を網羅していて、その10曲全てが傑作だと言えます。つまり、ハイドンやモーツァルト、シューベルトのように弦楽四重奏曲を主体に書いた作曲家たちとは異なり、様々な編成による傑作を残したブラームスに良く似ています。そうです、ブラームスとフォーレの二人こそが”ロマン派時代の室内楽の巨人”なのです。けれどもフォーレの作品群そのものが音楽の歴史の上にあって派手な輝きを放っているわけでも無く、うっかりすると見逃されてしまうような、ひっそりとした淡い光を放っているのです。それこそがヴェルレーヌの詠った”陰影”なのでしょう。

ということで、しばらくフォーレの室内楽作品を聴いてゆきますが、必ずしも作曲年代順ではなく、同じ楽器編成曲ごとに記事にすることにしました。そこで今回は2曲のヴァイオリン・ソナタです。

ヴァイオリンン・ソナタ第1番イ長調作品13

フォーレの室内楽曲の中では最も若い31歳のときに書かれました。意外ですが、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番よりも2年早い1875年の作品です。若々しくも、いじらしく控え目な抒情性が何とも魅力的ですね。頬を撫でる微風のような滋味溢れる旋律が非常に美しく魅力的です。
曲は4楽章構成ですが、どの楽章においても、淡い光と陰のニュアンスの変化が素晴らしいです。

ヴァイオリンン・ソナタ第2番ホ短調作品108

第2番は、第1番から実に41年ぶりに作曲されました。曲は3楽章構成ですが、とても親しみ易かった第1番と比べると、半音階法などの作曲技法が進化したぶん、最初はとっつき難さが感じられます。けれども精緻な楽想と溢れる詩情は少しも変わらないフォーレそのものです。晩年の達観した悟りの雰囲気も感じられて、音の”陰影”これに極まりです。

それでは、愛聴しているCDをご紹介します。
フォーレの室内楽に関しては、やはりフランスの演奏家で聴きたいと思ってしまうので、ヴァイオリンもピアノも全てフランスの奏者です。

Doukan122 ピエール・ドゥーカン(Vn)、テレーズ・コシェ(Pf)(1957年頃録音/エラート盤) 自分世代のオールド・ファンにはとても懐かしい演奏だと思います。長いことアナログ盤で愛聴してきたのをCDに買い換えました。なんと清楚で美しい音なのでしょうか。モノラル録音のせいもあるでしょうが、色彩は淡く、セピア色のように感じられます。表情づけにも誇張などは少しも無く、禁欲的とも言えるほどで、それがフォーレの音楽に実に合います。第1番も第2番も、しっとりとした詩情に満ち溢れていて、これこそが自分のフォーレ室内楽の原点です。尚、所有しているのはライセンス販売によるタワーレコードの3枚組セットです。

Ferras8c クリスティアン・フェラス(Vn)、ピエール・バルビエ(Pf)(1964年録音/EMI盤) フェラスは大好きなヴァイオリニストですし、モノラル時代の録音のモーツァルトのコンチェルトなどはとても愛聴しました。フォーレのソナタは1964年に2曲を録音しましたが、美音を駆使した小粋な演奏でやはり素晴らしいです。但し、これ以前にも第1番のみを1957年に録音していて、それは更に端正でフォーレらしい純粋さに溢れる演奏です。所有しているボックス・セットにはどちらも収められていますので、聴き比べてみると愉しいと思います。

Erart_faure2 レイモン・ガロワ=モンブラン(Vn)、ジャン・ユボー(Pf)(1970年録音/エラート盤) おそらくオールド・ファンには一番懐かしい演奏では無いでしょうか。これぞ小粋なフランスそのものであり、あのアンリ・ル・シダネルの絵のような美しさです。色彩はあくまでも地味で、淡い陰影を感じさせます。ガロワ=モンブランのヴァイオリンもユボーのピアノもなんと深い詩情に溢れていることでしょうか。エラートの録音も優れていますし、およそ文句の付けようの無い演奏です。正真正銘フランス的な演奏として、これ以上いったい何を望むことがあるでしょう。

Faure128946 オーギュスタン・デュメイ、ジャン=フィリップ・コラール(1976‐77年録音/EMI盤) 同じフランス生まれの演奏家でも、70年代に入ると少しづつ演奏スタイルに変化が出てきます。それまでの禁欲的な雰囲気のフォーレから、表現意欲の有るそれにです。同じフランスでもラテン系としての血が強まった印象です。リリース当時は非常に新鮮だと絶賛されましたが、現在の評価は果たしてどうなのでしょうか。個人的には、なんとなくラヴェルのように聞こえてしまい、余り好みではありません。フォーレにしては幾らか雑に感じられなくもありません。それは特に第1番について言えます。第2番のほうは音楽に奥行きが感じられて、これはこれで良いと思います。

Faure_374 ルノー・カプソン(Vn)、ニコラ・アンゲリッシュ(Pf)(2010年録音/EMI盤) 新世代のフランス演奏家デュオだけあって、とても新鮮さを感じます。カプソンのヴァイオリンは、ラテンの血を強く感じさせるデュメイとはまた異なり、粋なパリジャンという印象を受けます。アンゲリッシュのピアノともども弾き方が丁寧で、音も美しいです。テンポはゆったり目で落ち着きが有り、表情も大きいのですが、重たくなることもなく、どこまでもフランスの香りを失いません。ここではEMIのオフ・マイク的な録音もマイナスには成りません。フォーレの室内楽ボックス・セットに収められています。

というわけで、どれか一つ選ぶとすれば迷わずに、ガロワ=モンブラン/ユボー盤を選びます。それ以外では、どうしても捨て難いのがドゥーカン/コシェ盤ですが、新しいところではカプソン/アンゲリッシュ盤も傍らに置いておきたいです。

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フォーレ(室内楽)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん

おはようございます!

朝起きてブログを見たら、フォーレのヴァイオリンソナタがアップされているではないですか!

素敵なプレゼントありがとうございます。(^o^)

今日も1日頑張ります。

投稿: よーちゃん | 2015年4月15日 (水) 05時59分

よーちゃんさん、こんばんは。

フランス音楽がお好きですものね。
前々から計画していたフォーレの室内楽特集でしたが、ようやくスタート出来ました。
毎回のコメントを楽しみにお待ちしていますね!

投稿: ハルくん | 2015年4月15日 (水) 21時59分

いよいよフォーレ特集スタートですね。
バイオリンソナタなら、LP時代からのガロア、ユボー盤は刷り込みです。
でもカプソン/アンゲリッシュ盤が含まれるボックスは手元おいて酒のお供にしています。
チェロソナタも併せて聴いてしまいます。

投稿: リベルテ | 2015年4月16日 (木) 18時47分

ハルくんさん、こんばんは。
「レクイエム」で有名なフォーレですが、より小規模な「小ミサ曲」に さらなる魅力を感じるので、やはり、この人は"室内楽の人"だなぁと思います。
ロマン派のこの分野では ブラームスと共に"抜けた"存在でしょうね。
(個人的には フランク も推したいのですが、それは また別の機会に……(笑))
 
時が経ち、セピア色に変わってしまった古い写真(ブラームス)
薄い墨の濃淡だけで描いた水墨画(フォーレ)
 
こんなイメージでしょうか‥‥。
どちらも"大人"な感じがします。
ヴァイオリン・ソナタは どちらがと言えば 第2番の方が好きですが、第1番も"素敵"な曲ですね。
CDは やはり ガロワ・モンブラン/ユボー盤が最高で、「これさえあれば‥‥」と思わさせてくれます。

投稿: ヨシツグカ | 2015年4月16日 (木) 19時17分

こんにちは。

フォーレのヴァイオリンソナタ1番で思い出に残っているのはグリュミオー/クロスリーです。美音で誰からも好かれる名演だと思います。2番は一筋縄ではいかない難解な印象を受けますが、計算されつくした循環形式で円熟しきった傑作ですね。

ユボー達には金字塔的な室内楽全集があるので、私もこれがあればあとはいいかなとか思ってしまうのですが、コラール達の全集も偉業だと思います。格調の高さを求めるならユボー、繊細な輝きを求めるならコラールというところでしょうか。

投稿: NY | 2015年4月16日 (木) 21時01分

リベルテさん、こんにちは。

ガロワ・モンブラン/ユボー盤は”不滅の定盤”といったところですね。
でも、カプソン/アンゲリッシュ盤も新鮮で良いですよね。
どちらも手元から離せないディスクです。

投稿: ハルくん | 2015年4月16日 (木) 23時59分

ヨシツグカさん、こんにちは。

もちろんフォーレのピアノ曲や歌曲も大変魅力的なのですが、一連の室内楽曲の深さ、素晴らしさは半端ないですよね。やはりブラームスに並んで好きですね。

1番と2番は作曲年代が離れていて魅力は異なりますが、どちらもやはり大好きです。
ガロワ・モンブラン/ユボー盤が最高。同感です。

投稿: ハルくん | 2015年4月17日 (金) 00時05分

NYさん、こんにちは。

グリュミオーはベルギー生まれですし、クロスリーもイギリス生まれですがフランス音楽が一番得意ですね。
実は彼らのフォーレのソナタのCDも持っていますが、記事中で「オールフレンチにこだわる」と書いてしまった手前、あえて外してしまいました。(汗)
彼らの演奏では特に2番が好きです。聴いていると曲が物凄い傑作に感じられますね。

ユボー達の全集は本当にフォーレ演奏の「金字塔」ですね。コラール達のもアンゲリッシュ達のも素晴らしいとは思いますが。

投稿: ハルくん | 2015年4月17日 (金) 00時30分

ハルくんさん

ドゥーカン盤には思い入れがあります。
この仏エラート盤を初めて聴いたとき2楽章のあまりの美しさに茫然自失!
それ以来フランスかぶれになってしまいました。(笑)
1957年という時代 戦前のロマンの残り香、エロスを感じさせる演奏、モノラル録音の最熟期、内容を表したジャケットデザイン!

レコードが芸術として作られていた素晴らしい時代だと思います。


その他だと現役のジェラール・プーレ、仏arion盤
実演はレジス・バスキエが良かったです。

投稿: よーちゃん | 2015年4月17日 (金) 16時37分

よーちゃんさん、こんにちは。

僕にとってもドゥーカン盤は最初に買ったLPですので、この曲の原点でもあり思い入れが大いに有ります。あの禁欲的なまでの詩情に溢れる演奏はちょっと他に無いですものね。
ジェラール・プーレ盤は聴いてみたいですね。
ご紹介ありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2015年4月20日 (月) 00時32分

ちょうどこの曲を改めて聴きたかったところだったので、レビューありがとうございます!参考にさせていただきます。

ハルさんは、ヴァイオリンソナタはどれが一番好きですか?(^^)

投稿: Mai Y | 2015年4月20日 (月) 01時38分

Mai Yさん、ありがとうございます。

ボクだけでなく、皆さんのコメントも含めると結構良い参考になるのではないでしょうか?

「好きなヴァイオリンソナタ」というのは作曲家問わずですか?
となると、モーツァルトのK304、K378、ベートーヴェンの「クロイツェル」「スプリング」、シューマンの2番、ブラームスの特に2番、フランク、フォーレという辺りかなぁ。
もちろんプーランクもラベルもドヴュッシーも好きですよ。

投稿: ハルくん | 2015年4月20日 (月) 22時08分

こんにちは。

エベーヌ四重奏団のフォーレ全集を購入しようかと思うのですが、もしかするとカプソンのご紹介で触れられている室内楽ボックスに入っているのでしょうか。最近、動画でピアノ五重奏曲2番を聴きました。コクがあり、香り高い演奏だと思います。若手中心のメンバーで構成されているようなので今後も楽しみです。

投稿: NY | 2015年6月 2日 (火) 01時02分

NYさん、こんばんは。

エベーヌ四重奏団のフォーレですが、
仰られるとおり、カプソンたちのEMI室内楽ボックスに入っています。
弦楽四重奏曲とピアノ五重奏曲集を演奏していますね。そのうちの第2番は本当に「これぞフォーレ」というような素晴らしい演奏ですね。

投稿: ハルくん | 2015年6月 2日 (火) 22時33分

ハルくん様
好きな第1ヴァイオリン・ソナタですが、以前東芝音工のGRシリーズで発売されていた、ティボー&コルトーはさすがにもう殿堂入りと言う事でしょうか。確かに第1楽章のピアノ伴奏部を聴いても、オーディオ的な面での古めかしさは否定できませんものね。

投稿: リゴレットさん | 2018年3月 4日 (日) 11時38分

リゴレットさん

ティボー&コルトー盤ありますね。
CDも持っていたと思うのですが、何故記事に載せなかったのかは忘れてしまいました。
時間のある時に探してみます。

投稿: ハルくん | 2018年3月 5日 (月) 11時27分

フランスERATO原盤の、フォーレ室内楽全集。かつての日本クラシック評論界では、聖典扱いでしたね(笑)。愚生も、日本コロムビアOS2478~82と言う番号の、アナログLPで、所持しております。
でも、例えばマーラー演奏のディスクにおきまして、いつまでもワルターやクレンペラーにバーンスタイン…とばかり申しているのも些か寂しい気がしますのと同様、現役の第一線の演奏家の皆様や、今後の活躍の期待できる面々にも、目を向けたく思っております。

投稿: リゴレットさん | 2018年3月 9日 (金) 10時46分

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