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2015年3月20日 (金)

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番 ラザール・ベルマンの名盤

51bwzmb6oalラザール・ベルマン(ピアノ)、クラウディオ・アバド/ロンドン響(1976年録音/SONY盤)

ラフマニノフの代表作は何と言ってもピアノ協奏曲第2番。けれども聴き応えの点では第3番も少しも劣りません。第3番をメインに演奏するヴィルトゥオーソ・ピアニストも多いぐらいです。

この曲の愛聴盤は幾つも有って、ホロヴィッツ、ガヴリーロフ、アルゲリッチ、中村紘子、それにラフマニノフ本人の録音です。それに今回加わるのがラザール・ベルマンがアバド指揮ロンドン響のサポートで1976年にセッション録音したディスクです。

ロシアには昔から「幻の演奏家」という触れ込みで紹介される人が多かったですね。かつてはリヒテルもそう、このベルマンもそうでした。現在もグリゴリー・ソコロフなど少なくとも我が国では未だに「幻」の状態です。

ラザール・ベルマンは風貌が「森の熊さん」(「マッサン」なら森野熊虎??)なので、それまでのクラシック演奏家の神経質なイメージとは随分異なって見受けられました。しかし神経質に見えないのは演奏にも共通していて、例えば”病的なまでのデリカシー”のようなものは感じませんでした。テンポも基本的にイン・テンポを崩さないので、案外と武骨な印象を持つほどです。ですので個人的にはそれほど興味を持っていたピアニストでは無かったのです。この演奏に関しては、”アバドのロシア物”というのもさほど興味が有りませんでした。アバド本人は昔からロシア物が大好きですが、僕は申し訳ないけれど正直言って”ニセモノ”という偏見の目で(耳で?)見ていました。今でも基本的には変わりません。

それがどうして今頃このCDを聴いたのかと言えば、たまたま聴いた試聴で気に入ってしまったからです。
『あれっ、これはイイじゃないか。自分の耳はロバの耳だったのか!ヒヒ~ン!』そんな驚きです。

第1楽章はゆったりとしたイン・テンポで特にルバートを効かせることも無く、淡々と進みます。一見「ベルマンは曲への思い入れが希薄なのでは」とでも思ってしまいそうです。けれどもそれは間違いで、一点一画を曖昧にしない演奏が徐々に大きな造形感を生み出し、圧倒的なスケール感を感じさせてゆきます。このあたり、”ピアニストのジュリーニ”という印象を受けます。ロンドン響は必ずしもロシア風の歌い回しが出来る訳では在りませんが、楽壇の持つ音色は渋く暗く、この曲にうってつけです。これがもしもベルリン・フィルであればずっと明るい音になってしまい、余り向いていなかったと思います。
ピアノの気迫や激しさではホロヴィッツ、ガヴリーロフ、アルゲリッチの敵ではありませんが、広大なロシアの大地を想わせるこの演奏には惹き付けられます。派手さや明るさが乏しい分、ハリウッド的な印象を受けないのはむしろ好ましい気がします。カデンツァ後ではいじらしいほどに情感を湛えていて本当に素晴らしいです。

第2楽章も同様ですが、アバドも後年のようなくどさが無く、管弦楽の響きはベルマンのピアノと静かに溶け合って、遠い夜のしじまの様に感じられます。しかしそれは徐々に盛り上がってゆき、やがては愛の調べとしてエクスタシーに到達します。うーん、「逢いびき」!(←意味不明??)

第3楽章でもせせこましさが無く、大地にしっかりと立つ様な堂々とした風格を感じます。いわゆる「情熱的な演奏」とは異なりますが、さりとて冷めている訳でも何でもなく、聴き終えた後には「素晴らしい音楽を聴いた」という充実し切った余韻を残してくれます。

ということで、今後はしばらく棚から第一に取り出したくなる愛聴盤の座を占めそうです。ちなみにこのCDは2枚組で1979年のカーネギーホール・リサイタルのライブ録音がメインとなっていますが、そちらも中々に素晴らしいものです。

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ラフマニノフ」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。

質実で良い演奏ですね。3番はアシュケナージが一番好きですが、演奏スタイルも似ている感じがしました。一楽章のカデンツァはこの版が重厚で断然いいです。作曲者本人も含めて微妙に違うものを弾く人が多いので。

ラフマニニフは渋面で不健康なイメージに反してなぜか行進曲が得意という一面もある不思議な作風ですね。終楽章のラストの輝きが見事です。

投稿: NY | 2015年3月21日 (土) 00時01分

NYさん、こんにちは。

このカデンツァは凄く良いですね。前後の流れにピタリハマっていると思います。
ラフマニノフはシンフォニーなんかも、不健康で情緒的な部分と健康的な活力の有る部分に落差が非常に大きく有るので面白いですね。

アシュケナージは3番が好きなようで、録音も5種類は出ているようですね。部分試聴のみですが、コンドラシンと録音した古いものが一番気に入りそうな気がしました。細かい表情づけはベルマンよりもやはり多彩ですね。

投稿: ハルくん | 2015年3月21日 (土) 09時33分

こんにちは、3番はアルゲリッチ、ポロヴィッツのようにピアノの技巧を堪能するための録音をまず取り出すのですが、ベルマンの演奏は曲を素直に味わうのには最適ですね。個人的にはサポート役のアバドの巧さも評価しています。

投稿: リベルテ | 2015年3月23日 (月) 11時03分

リベルテさん、こんにちは。

この曲はずっと、アルゲリッチ、ポロヴィッツ、あるいはガヴリーロフのようにヴィルトゥオーソタイプの演奏を好んでいましたが、ベルマンの演奏を聴いてからは好みが少々変わった気がします。アバドもとても良いですね。見直しました。

投稿: ハルくん | 2015年3月24日 (火) 00時00分

ハルくんさん、こんばんは。
ようやく このベルマン盤を聴くことが出来ました。
なるほど、ホロヴィッツ等と比べて 弾き飛ばしが無く、丁寧な演奏ですね。それでもロシアの"薫り"がするのは さすがです。
アバドの指揮ぶりも いつもの彼とは違い、ロシアの雰囲気を出していると思います。
彼のロシア物では ベストでしょう。
特に 第三楽章は素晴らしいと思いました。
また、愛聴盤が増えました。
 
ベルマンのラフマニノフには 他に、「楽興の時」と「コレッリ変奏曲」をメインにしたCDがありますが、それも 素晴らしいです。

投稿: ヨシツグカ | 2015年4月 3日 (金) 21時23分

ヨシツグカさん、こんばんは。

ベルマン盤聴かれたのですね。
決して「爆演」ではありませんが、聴いているうちにじわじわと味わい深さが感じ取れますね。
ベルマンの「楽興の時」「コレッリ変奏曲」は聴いた覚えがありませんが、良さそうですね。

アバドも普段よりずっと良いと思います。

投稿: ハルくん | 2015年4月 3日 (金) 22時43分

私もいろいろ聴いてきましたが、この演奏が一番好きです。最近ではラザール・ベルマンは少し忘れられてきているのが寂しいです。
伴奏のアバドもとてもいい感じです。
ヨシツグカさんお薦めのラフマニノフのソロ作品もとても好きです。私もお薦めします。

投稿: くま | 2015年4月26日 (日) 23時46分

くまさん、こんにちは。

”森の熊さん”ベルマンのラフマニノフ、いいですよね。
忘れてしまってはいけませんね。

この人の独奏曲もやはりお勧めなんですね。
ご紹介ありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2015年4月28日 (火) 12時27分

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