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2015年3月 5日 (木)

ハインリッヒ・ビーバー 「レクイエム」 名盤

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             ザルツブルク大聖堂

2006年の秋のこと、ザルツブルクを訪れる機会が有ったので大聖堂に立ち寄り、ここで起きたいにしえの様々なシーンを想像しては感慨に浸りました(上の写真はその際に撮影したものです)。

モーツァルトが1756年にザルツブルクで誕生して洗礼を受けたのもこの大聖堂ですので、ちょうどその250年目だったのですね。

そして、モーツァルトが生まれる約70年前の1687年、ここで初演が行われたのがビーバーの「レクイエム」です。故郷のボヘミアからザルツブルクへ移り住み、宮廷楽長となったハインリッヒ・ビーバーでしたが、仕えていた大司教マクシミリアン・ガンドルフ・フォン・キューンブルクが亡くなった時に追悼ミサの為に演奏されました。マクシミリアンが突然亡くなったのが5月3日、ミサはその6日後の5月9日に行われたことから、この曲は生前から既に用意されていたものと考えられます。宮廷音楽家の仕事というのは、そういうものなのでしょうね。

この曲は演奏時間としてはおよそ25分ほどですが、構成は以下のように5部からなります。

Ⅰ.入祭唱(Introitus)-キリエ(Kyrie eleison)
Ⅱ.続唱(Sequentia)-怒りの日(Dies iræ)
Ⅲ.奉献唱(Offertorium)
Ⅳ.サンクトゥス(Sanctus)-ベネディクトゥス(Benedictus)
Ⅴ.アニュスデイ(Agnus Dei)-聖体拝領唱(Communio)

初演時には下記の図のように合奏隊が中央だけでは無く、左右の上部に2隊づつ置かれ、全部で5隊に分かれて演奏が行われたそうです。

Biber_requiem_first_consert       ビーバー「レクイエム」初演時の楽隊の配置

ビーバーというと、どうしても名曲「ロザリオのソナタ」を始めとしたヴァイオリン楽曲のイメージが強いのですが、宮廷音楽家として宗教曲も多く書き上げています。後年この地で同じ宮廷音楽家を務めたモーツァルトが書いた「レクイエム」はウイーンに移ってからの作曲ですので、ザルツブルクの「レクイエム」といえば、やはりビーバーの作品となるでしょう。

モーツァルトの「レクイエム」は未完ながら相当な大作で、音楽には強い哀しみや激しさ、あるいは荘厳さを感じさせますが、ビーバーのこの曲には深刻さは感じられず、大きな起伏が見られない淡々とした音楽となっています。人の死が「悲劇」では無く、「安らかな天国への旅立ち」なのだという宗教観に忠実に基づいているのでしょう。幸福感や慈愛を感じさせる落ち着いた曲想です。
それでも、弦楽による伴奏などは音楽の端々で極めて効果的に生かされていて、さすがはビーバーという印象を受けます。この曲は一度聴いただけではそれほど強い印象は受けませんが、何度も繰り返して聴き込むうちに、心にじわじわと浸透してくる不思議な魅力を持ちます。やはり愛すべき名作です。

愛聴盤は二つだけですが、どちらも特筆大書すべきディスクです。

Biber_requiem001ジョルディ・サバール指揮ラ・カペラ・レイアル&コンセール・デ・ナシオン(1999年録音/ALIAVOX盤)

何といっても、ザルツブルク音楽祭で初演場所である大聖堂で行われたライヴ録音です。しかもこの時には初演時の再現が試みられ、5つの合奏隊を立体的に配置しています。残念ながら録音では視覚的な確認は出来ませんが、立体的な音響効果からある程度想像が出来ます。「レクイエム」に先立ち、器楽合奏のみの「葬送行進曲(Marcia Funebre)」が演奏されますが、これも初演時の再現なのでしょうか。演奏についてはビーバーの楽譜には書かれていないトランペットとティンパニが加えられている為に、非常に壮麗な印象を受けます。但しライブ録音ですので、古楽器の演奏に幾らか安定感を欠く面が見られるのと、ヴァイオリンの音が埋もれて聞こえる点がマイナスです。一方で深く豊かな残響の中から浮かび上がる透明なコーラスは神秘感を漂わせて素晴らしいのですが、それは飽くまでも”純音楽的”なそれであり、必ずしも”宗教的な敬虔さ”を感じさせるものでは有りません。初演時の演奏がどのようなものであったか”学究的に”追及した演奏であることは間違いありませんが、この演奏が真に感動的に感じられるかどうかは、結局は聴き手の心と耳に負うところが大きいと思います。

Biber_519uzgvzabl__sy300_ハンス・ギレスベルガー指揮ウイーン少年合唱団&ウイーン・コンツェントゥス・ムジクス(1968年録音/TELDEC盤)

モーツァルトの「レクイエム」で奇跡的な名演奏を聴かせてくれたギレスベルガーですが(下記:関連記事参照)、ビーバーの曲でも素晴らしい名演奏を残しています。但し、このディスクではアーノンクールが演奏する他の曲が表に立っていて、うっかりするとギレスベルガーの名前を見逃します(というかジャケット表面には書かれていない!)。ウイーン少年合唱団の純真な歌声はこれこそ正に宗教曲だという印象を受けます。独唱にもボーイ・ソプラノとアルトが使われていて、当然ながら歌唱は完璧では有りません。けれども宗教曲において完璧性を第一優先したいわけでは有りませんので、気になりません。それよりも素朴で地味な歌声はレクイエムというよりも、むしろモーツァルトのミサ・プレヴィスでも聴いているような印象です。サバール盤がどんなに初演に忠実であろうとなかろうと、自分が聴いていて感銘を受けるのはギレスベルガーの方なのです。何という美しい音楽なのだろうかと感じずにはいられません。またスタジオ録音ですので、ビーバー得意のヴァイオリンの音のソノリティの明確さも大きな魅力です。それでいてコーラスは残響豊かな教会で歌っているように聞こえて素晴らしいです。ちなみにこのCDは現在はapexから廉価盤が出ていますので入手し易いはずです。

<関連記事>
モーツァルト 「レクイエム」 名盤

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ドイツ、オーストリアのバロック音楽(パッヘルベル、ビーバー、シュッツ他)」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
ホロウェイのロザリオがつべに上がっていて、即リピートでした。

レクイエムも同時に出てきて、ギレスベルガーだったので、紹介盤と予測して聴きました笑。

タリス・スコラーズ1980年録音のアレグリ/ミサに続く、この時代の愛聴盤確実ッ!なので、今日出先ついでに中古屋回ったのですが、ビーバー自体1枚も在りませんでした...。○| ̄|_

投稿: source man | 2015年3月 5日 (木) 17時39分

source manさん、こんばんは。

ホロウェイの「ロザリオ」がTubeに有りましたか。それは良かったです。

しかし「レクイエム」でギレスベルガー盤と読まれるとは流石ですね(笑)。
ビーバーは同時代においても革新性が凄いと思います。もっともっと広く聴かれるべきですね。
でも、ビーバーと聞けば、若い人ならジャスティン・ビーバーでしょうし、年配者なら・・・モコ・ビーバー・オリーブ、かな、かな??

投稿: ハルくん | 2015年3月 5日 (木) 22時37分

ハルくんさん、こんばんは。
この前のコメントで仰っていた、ビーバーのレクイエムを聴いてみたくなり サバール盤を入手、現在、聴き込み中です。
確かに 美しいのですが なんとなく 違和感が……。
そういうことでしたか!
トランペットとティンパニは追加だったのですね。
確かに壮麗な音楽になっていますが、ビーバーと言うより、モンテヴェルディでも聴いているように感じるのは私だけでしょうね。……(笑)
ギレスベルガー盤については、アーノンクールの演奏かと思ってしまい、スルーしてしまいました。
それなら、こちらが本命ですね。
是非、入手しようと思います。

投稿: ヨシツグカ | 2015年3月 5日 (木) 22時51分

ヨシツグカさん、こんばんは。

サバールの演奏の評価は非常に難しいですね。
記事中で随分と回りくどい書き方をしたのも、美演ですし面白いのですが、どうも素直に感動出来ないからです。

>ビーバーと言うより、モンテヴェルディでも聴いているように感じるのは私だけでしょうね。

いえいえ、ボクも全く同感です。ぜひギレスベルガーの演奏で聴いてみて下さい。別の曲に感じますし感動できると思います。

投稿: ハルくん | 2015年3月 5日 (木) 23時24分

ハルくんさん、こんばんは。
早速、ギレスベルガー盤を注文すると 翌日届いたので、今日は じっくり聴いてみました。
サバール盤とは明らかに違う演奏に「ああ……これだ…。」と思ってしまいました。
その、深く 優しい音楽は 「ロザリオのソナタ」に通じるものがあり、感動的です。
ハルくんさんは「モーツァルトの小ミサ曲のよう」と仰っておられましたが、私は、シュッツの「葬送の音楽(ドイツ・レクイエム)」にモーツァルトの"ミューズ"を浸透させたような音楽に感じました。
 
こういう音楽を聴ける事は なんと幸せなことなのでしょう……。

投稿: ヨシツグカ | 2015年3月 7日 (土) 21時31分

ヨシツグカさん、こんばんは。

Amazon恐るべしですね!(笑) でも”お急ぎ便”とかを使えば翌日には届いてしまうのかな?

>サバール盤とは明らかに違う演奏に「ああ……これだ…。」と思ってしまいました。

やはりそうでしたか。全く同じ感想を持っていました。これこそオーストリアバロックですよね。
確かにシュッツ的にも感じられますが、”モーツァルト”を感じるのは、モーツァルトがザルツブルク宮廷の先輩の音楽を吸収したからなのでしょうね。影響を全く受けないなんてことは有り得ません。

投稿: ハルくん | 2015年3月 7日 (土) 23時28分

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