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2015年2月26日 (木)

ハインリッヒ・ビーバー 「ロザリオのソナタ集(Rosenkranz‐Sonaten)」 ~聖母マリアの15の秘跡~

Heinrich_biber
バロック時代の作曲家ハインリッヒ・イグナツ・フランス・フォン・ビーバーは1644年にボヘミアで生まれましたが、両親はドイツ系です。ヴァイオリニストとして働いたのちにザルツブルクへ移り、宮廷楽団の奏者を経て1684年に同楽団の宮廷楽長となりました。それは、この地でモーツァルトが生まれる72年も前のことです。

ビーバーは宗教作品も書いていますが、ヴァイオリンの演奏技術に優れていましたので、ヴァイオリン作品に当時としては非常に高度な技術を必要とする曲を多く残しています。特に”スコルダトゥーラ”と呼ばれる調弦を通常の音と変えて演奏する技法を多用しました。この変則チューニングはバロック時代には珍しく無かったようですが、古典派以降ではパガニーニ(ヴァイオリン協奏曲第1番)やマーラー(交響曲第4番の第2楽章)の作品などで使用はされますが、かなり珍しくなりました。むしろポピュラー音楽の世界でクロスビー・スティルス&ナッシュ(青い目のジュディ)やローリング・ストーンズ(ホンキー・トンク・ウイメン)に代表されるように馴染のある奏法のように感じられます。

Biber_91vakwksxxl__sl1425_ジョン・ホロウェイ(ヴァイオリン)、ダヴィット・モロニー(Cemb/Organ)他(1989年録音/Virgin盤)

ビーバーの代表作に『ロザリオのソナタ集(Rosenkranz‐Sonaten)』がありますが、この曲集は全16曲のうち最初の第1番と最後の第16番を除く14曲でスコルダトゥーラが用いられています。しかもそれらの調弦が全て異なるという驚くほど凝りに凝った作曲が施されています。当然、曲によって様々な響きが聞こえてきますが、あるときはホーンパイプみたいであったり、中には”壊れたバグパイプ”のような摩訶不思議な音も登場します。
この曲は器楽曲ですが、聖母マリアの15の秘跡を題材にした16曲のヴァイオリン・ソナタ集で、別名「ミステリー・ソナタ」とも呼ばれています。そういう意味では明らかに標題的であると言えます。
15の秘跡はそれぞれ5曲ごとの「キリストの誕生」「受難」「復活」の三部に分かれていて、その後に終曲の「パッサカリア」が置かれます。

『ロザリオのソナタ集(Rosenkranz‐Sonaten)』
「キリストの誕生」(喜びの秘跡)

第1番  お告げ
第2番  訪問
第3番  降誕
第4番  キリストの神殿への拝謁
第5番  神殿における12歳のイエス

「受難」(哀しみの秘跡)
第6番  オリーヴ山での苦しみ
第7番  むち打ち
第8番  いばらの冠
第9番  十字架を背負うイエス
第10番 イエスのはりつけと死

「復活」(栄光の秘跡)
第11番 復活
第12番 昇天
第13番 聖霊降臨
第14番 聖母マリアの被昇天
第15番 聖母マリアの戴冠

終曲   パッサカリア ト短調

三部はテーマが明確ですので、曲想もそれに相応しい雰囲気を持っています。すなわち「キリストの誕生」⇒厳かな喜び、「受難」⇒悲哀、「復活」⇒輝かしい喜び、という具合です。
この曲集を聴いていて感じられるのは、これらが決して奇をてらった効果を狙ったり、技法を誇示するために書かれた印象は受けず、一貫してマリアの奇跡への畏怖の念が限りなく美しく、崇高な感動を持って与えられることです。そしてそれが最高潮に達するのが、1曲で10分近くにも及ぶ長大な終曲の「パッサカリア 」です。無伴奏のヴァイオリンにより、グレゴリア聖歌から引用した4つの音をベースに旋律を積み重ねてゆく手法は、正に大バッハのあの「シャコンヌ」の先駆けの印象を受けます。

この曲集のCDは幾つも出ていますが、僕が愛聴しているのは上部に表示したジャケット写真のジョン・ホロウェイの演奏です。イギリスのタヴァナー・コンソート&プレイヤーズの首席を務めるバロック・ヴァイオリンの名人だけあって技巧的にも安心して聴いていられますし、低音楽器をチェンバロ、オルガン、リュート、ガンバ、ハープなど様々に使い分けているのが変化を与えてくれて少しも飽きさせません。そして、それより何よりも重要な点は、この曲集の持つミステリアスな雰囲気に演奏全体が包まれていることです。この曲集の演奏にそれは絶対に欠かせない要素だと思います。
1989年にセント・マーティン教会で録音されたもので最新のものではありませんが、教会の深い残響が朝もやの向こうから聞こえてくるような神秘的な雰囲気で一杯です。

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ドイツ、オーストリアのバロック音楽(パッヘルベル、ビーバー、シュッツ他)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんばんは。
バロック音楽と言うと、まず イタリアから始まって、フランス、ドイツ、イギリスの作曲家がならぶという感じで、オーストリアで活躍したビーバーは かなり珍しい存在ですね。
私は かなりマニアックな曲も聴いている方だと思いますが、ビーバーの作品は この「ロザリオのソナタ」しか持っていません。
しかし、この曲集の不思議な美しさは 一度聴いてしまうと忘れられませんね。
まさに、教会のステンドグラスから洩れる光のようです。
CDは 私も ホロウェイ盤しか持っていませんが、これだけで十分と思わせる演奏、録音です。

投稿: ヨシツグカ | 2015年2月26日 (木) 22時37分

ヨシツグカさん、こんばんは。

ビーバーはボヘミアの出身ですからね。幾ら家系がドイツ系だと言っても珍しいですよね。
この「ロザリオのソナタ」は不思議な魅力があります。ホントに良い曲集ですね。
僕も他にそれほど聴いていませんが、「レクイエム」が短めながらとても魅力に溢れています。ですので次回はそれを取り上げようと思っています。

投稿: ハルくん | 2015年2月26日 (木) 23時18分

お早うございます。

世評が高いのもあり、ラウテンバッハーを聴いてみました。ブラームス協奏曲でもそうでしたが、流麗で荒れない音色。シェリングに師事しただけあります。

乾きめの録音、ミステリアスさは感じませんが、同じ女性だからかマルツィを重ねてしまう音色は魅力で自然に入ってきます。

聴いたからこそ、残響を含めた録音、ご指摘の通り何よりミステリアスな雰囲気がホロウェイ最大の魅力と判ります。

ホロウェイを聴いてしまっているので、ラウテンバッハーはバロックというよりバッハを感じてしまうのですが、どちらも座右です。聴き比べの面白さ、大事さを改めて実感しました。

投稿: source man | 2017年6月12日 (月) 08時29分

source manさん、こんにちは。

ラウテンバッハー盤は聴いていません。楽器はモダン楽器ですか?

この曲に関してはミステリアスな雰囲気を持ち合わせて貰いたいとは思いますが、機会あれば聴いてみたいですね。

投稿: ハルくん | 2017年6月12日 (月) 23時47分

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