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2015年1月

2015年1月31日 (土)

J.S.バッハ ゴルトベルク変奏曲BWV988 名盤 ~眠れぬ夜~

♪眠れない夜と雨の日には 
 忘れかけてた 愛が蘇る♪

 (小田和正「眠れぬ夜」)

「眠れぬ夜」は小田和正がオフコース時代の初期にヒットさせた曲です。元々はバラードとして書かれただけあってメロディラインの綺麗な素敵な名曲ですね。

という話はひとまず置いておき、バッハのゴルトベルク変奏曲に纏わる逸話は、バッハの良き理解者であったロシア公使のカイザーリンク伯爵が不眠症にかかり、眠れぬ夜の慰安のためにバッハに変奏曲を書いてくれるように依頼をしたというものです。
伯爵お抱えの音楽家でバッハの弟子でもあったヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルクがこの曲を弾いて伯爵に聴かせたことから「ゴルトベルク(もしくはゴールドベルク)変奏曲」という呼び名が生まれました。但し、このタイトルは俗称で、正しくは「二段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏」であり、「クラヴィーア練習曲集第4巻」として出版されたものです。

この曲はバッハの鍵盤楽器曲の中でも特に人気の高い晩年の大傑作ですが、演奏には高度な技術が必要であり、ゴルトベルクが当時まだ14歳の少年であったことから、その逸話の信憑性は少々疑われています。

どちらにしても、眠れない夜にバッハを聴きながら、忘れかけていた愛を思い出す・・・それもまた味わい深い夜の過ごし方ですね。

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曲は主題のアリアが最初と最後に置かれ、その間にアリアの30の変奏曲が展開されて全部で32曲から構成されます。3/4拍子のアリアは『アンナ・マクダレーナのためのクラヴィーア小曲集』第2巻の中に書かれていたフランス風サラバンドですが、変奏のベースとなるのは美しい旋律では無く、低音部の方です。曲全体は幾つもの秩序の元に構成されていますが、変奏曲は前半と後半に分かれていて、ちょうど真ん中に位置する第16変奏がフランス風の「序曲」と題されていて、後半の開始を示します。

二段チェンバロを使用する目的としては、音色や音量に変化を与える為ですのでバッハは変奏曲ごとに使用する鍵盤を一段か二段かの指示をしています。

チェンバロがクラヴィーアに鍵盤楽器の主役の座を奪われる時代になってからは、この曲が演奏される機会は無くなりました。けれどもワンダ・ランドフスカが自ら考案したモダン・チェンバロを使用してレコード録音を行い、更にはグレン・グールドがレコード会社に反対されながらもデビュー盤としてこの曲をリリースすると世界的な大ヒットとなりました。この曲が広く愛好されているのは、二人の功績が大きいです。

この曲はグールドのピアノ演奏で広く知られたことから、ピアノによる演奏が注目されがちですが、忘れてならないのはこの曲がチェンバロの為に書かれた曲であることです。同じ鍵盤楽器と言っても、チェンバロとピアノでは構造が全く異なりますし、ピアノで演奏を行うということは、例えてみれば同じ管楽器だからと言ってオーボエの曲をフルートで演奏することに等しいのです。

ということから、自分はこの曲はチェンバロで演奏するのが正道だと思っています。ただ、必ずしもピリオド・チェンバロに固執はしません。モダン・チェンバロの音の豊かさも中々に捨て難いからです。更に、ピアノも楽器としての表現能力に格段の広がりを持ちますので、ピアノによる演奏も否定しません。むしろ大いに楽しんで聴いています。

ということで愛聴盤のご紹介です。まずはチェンバロからです。

Goldberg876ヘルムート・ヴァルヒャ(Cemb)(1961年録音/EMI盤) ヴァルヒャはアンマー・チェンバロを使っていますが、この楽器は一般的なモダン・チェンバロの中では弦の張力が弱いので、なめらかな音質と余韻の美しさを持つのが特徴です。確かに低音域の音などは明らかに「弦楽器」に聞こえて魅力的です。EMIの柔らかい音の録音もプラスに働いています。ヴァルヒャの演奏は質実剛健そのもので古き良きドイツを想わせます。それは”チェンバロのバックハウス”とでも言えるでしょうか。”音楽に真摯に向き合うこと以外は何も考えない”という孤高の姿勢にはつくづく胸を打たれます。

Goldberg3552カール・リヒター(Cemb)(1970年録音/アルヒーフ盤) ピリオド楽器が主流となった現在では、華やかな音色のモダン・チェンバロを使用したリヒター盤は”時代遅れ”かもしれません。しかしそれならば、彼の偉大な宗教曲の録音も同じことです。元々この人はトーマスカントルへの招きを断って、アマチュアのミュンヘンバッハ合唱団に人生を捧げたような人ですから、権威とか楽器の学究的な事に執着するようなことは無かったように思います。ここで聴かれるのは、間違っても”気軽に聴くバロック音楽”なんかでは無く、あの偉大な受難曲を書き上げた大バッハの魂です。中低音域はパイプオルガンの様に響きますし、この曲がこれほどまでに壮大に、まるで大伽藍のように感じられる演奏が一体他に有るのでしょうか。

Goldberg_2グスタフ・レオンハルト(Cemb)(1976年録音/Harmonia mundi:RCA盤) 現在のピリオド・チェンバロの普及にレオンハルトの貢献は欠かせません。この録音は、ゆったりとしたテンポでありながら楽譜の反復を全て省略しているので50分弱の演奏時間ですし、演奏も硬直したリズムでは無く、呼吸の自然な変化が感じられるので退屈することが有りません。音楽にいかに呼吸が大切かを感じさせてくれます。それはバロック音楽に於いても同じなのですね。正に声楽曲の分野においても偉大な足跡を残したレオンハルトならではの演奏だと思います。舞曲風の変奏ではリズム感が強く表れますし、曲によっては非常に壮麗さを感じさせます。最新の録音ではありませんが音はとても明瞭です。

Goldberg51fzmdbhnqlスコット・ロス(Cemb)(1985年録音/ERATO盤) 38歳でエイズの為に他界したロスの「ゴルトベルク」の録音には3年後のEMI録音も有りますが未聴です。こちらはカナダのオタワ大学でのライブ録音です。全ての反復を行なって演奏時間が70分以下という超快速の演奏ですが、音楽に不自然さが少しも感じられないのは正に天才の証です。持てるテクニックの素晴らしさだけでなく、「演奏には常に霊感を追求している」と生前に語っていたロスならではの必聴の凄演です。録音も優れています。それにしても若くして命を落とす芸術家に天才が多いのは何故でしょうか。

Goldberg_asperen_9109162c988ボブ・ファン・アスぺレン(Cemb)(1990年録音/Virgin盤) 今回新たに入手して聴いた演奏でしたが、これは凄かった。古楽オケを率いて指揮もするアスぺレンですが、この壮大なスケールの音楽は明らかに鍵盤楽器の枠を大きく超えています。そういう点ではリヒターの印象に近いところが有ります。但しリヒターがあくまで求道的な大きさを感じさせるのに対して、アスぺレンは指揮者として大オーケストラを率いるかのような印象なのです。ある意味、効果を狙う表現意欲を強く感じます。鮮やかなテクニックも凄いですが、テンポの緩急やダイナミクスの巾が非常に大きく、チェンバロの音色が虹色のような変幻自在さを聞かせるのに驚かされます。ピアノも顔色を失う古楽チェンバロの演奏というところでしょうか。

続いてはピアノによる演奏です。

Goldberg__sl500_aa300_グレン・グールド(Pf)(1955年録音/SONY盤) この曲を世に大きく広めた歴史的な価値は絶対に否定できるものでは無く、そういう意味でも必聴の名盤だと言えます。変奏の大半を速いスピードで弾き切る演奏は当時は極めて新鮮で衝撃的だったと思います。反面、テンポが速過ぎて舞曲的な曲にリズム感が得られないマイナスが生じてはいます。音質も録音年にしては優れ、グールド特有のノン・レガートのタッチが良く捉えられています。

Goldberg14_largeグレン・グールド(Pf)(1981録音/SONY盤) グールドの新盤も世に定評のある名盤ですが、ダイナミクスの変化を駆使した極めてピアノ的な演奏です。演奏テンポが旧盤に比べてかなり緩やかに変化していますが、元々この人は同じ曲をどのようなテンポでも演奏できるという性格を持ちますし、これは恐らく円熟による自然な変化では無く、旧盤とは別の解釈を行いたいというグールドの意思の表れではないかと思います。特に後半へ入ってからの音楽の深さは尋常でありません。グールドの新旧盤どちらか一つだけ選ぶとすれば、音質も優れ、スリリングさと余裕とのバランスの絶妙な新盤を取ります。

Goldberg415hnbfcjvl__sy300_マレイ・ペライア(Pf)(2000年録音/SONY盤) グールドのようなバロック音楽の枠をはみ出した衝撃性は有りません。美しいピアノタッチからつぐみ出される、限りない優しさに溢れた演奏です。しかめっ面のバッハでは無く微笑みを一杯に湛えたバッハです。現在もカイザーリンク伯爵が生きていたら、こういう演奏で聴きたがるのではないでしょうか。何の抵抗も無く音楽に親しむことが出来るので最初に聴くのには一番良いかもしれません。

今回所有ディスクを改めて聴き直してみて、マイ・フェイヴァリット盤を上げてみると、チェンバロでは古い奴だとお思いでしょうが、ヴァルヒャとリヒターの両モダン・チェンバロ演奏に強く惹かれます。けれどもどれかたった一つを選ぶとすれば、ずばりスコット・ロス盤です。
新たに聴いたボブ・ファン・アスぺレン盤は驚きですが、個人的な好みではまだ琴線に触れてまではいません。

ピアノではやはりグールドの新盤。これで決まりですが、ピアノには聴いていない録音が沢山有りますので、気に入る演奏がまだまだ隠れて居そうです。皆さんのお気に入りのディスクを教えて頂けると有り難いです。

<追記>
ボブ・ファン・アスぺレン盤を後から加筆しました。

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2015年1月25日 (日)

伊藤悠貴チェロ・コンサート at シェア奥沢

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若手チェリスト伊藤悠貴君のミニ・コンサートが昨日シェア奥沢で開かれたので聴きに行きました。伊藤君は世田谷区奥沢の出身なので、これは地元の方の為に特別に開いたコンサートです。

伊藤君の経歴をご紹介してみます。

15歳よりロンドン在住。21歳でブラームス国際コンクールおよび英国の最高峰、ウィンザー祝祭国際弦楽コンクールにて優勝、名門フィルハーモニア管と協演しデビュー。ロンドン、パリ、ローマほか欧州主要都市、韓国、国内の著名なホール・劇場・宮殿でのソロリサイタルは絶賛を博す。初録音『ラフマニノフ・チェロ全曲集』は世界的音楽誌「ストラッド」特薦盤に選ばれたほか、欧州、米国、国内でも高い評価を受けている。2012年YCAアーティスト、2014年CHANEL Pygmalion Daysアーティスト。倉田澄子、A.ボヤルスキー各氏に師事。英王立音大AD在学中。

ということで、一応まだ学生さんながらもロンドンを中心にリサイタルやコンサートを多く開いていて、時々日本でも活動を行っています。今年の秋には大友直人指揮東京交響楽団とドヴォルザークの協奏曲の演奏が予定されているそうです。

昨日のコンサートでは、ピアノ伴奏を植木園子さんが勤めました。やはり地元出身で、伊藤君を幼少の頃から知っているそうです。

演奏された曲目は下記の通りです。

JSバッハ 無伴奏チェロ組曲第6番から
       プレリュード、サラバンド
ピアッティ カプリース第8番
エルガー 愛の挨拶
ブラームス(ゲリンガス編曲) 
       「6つの歌op86」から第2曲「野の寂しさ」
       「5つの歌op.105」から第1曲「歌の調べのように」
ラフマニノフ プレリュードop.23-10
         ヴォカリーズop.34-14
ポッパー ハンガリー狂詩曲
(アンコール)
サン=サーンス 「白鳥」

経歴に恥じない素晴らしい演奏でした。コンサートホールでの堅苦しい演奏会では無く、リラックスして聴けるサロンコンサートだったのですが、演奏に固唾を飲んで聴き入ってしまいました。他の皆さんも同じだったと思います。
まず、チェロの音がとっても美しく響いています。シェア奥沢は木造家屋なので自然な響きが特徴ですが、残響が長い訳ではありません。しかも僕は一番近くの席で聴いたので直接音がはっきりと届きます。にもかかわらず音に柔らかさが感じられますし、倍音の響きがとっても良く聞えるのですね。楽器を無理なく自然に鳴らしている印象を受けます。
それになによりも素晴らしい「歌心」を持っています。これはもう練習で得られるものでは無く生まれつきのものだと思います。演奏会終了後にご本人から直接聞いた話では、「後期ロマン派の音楽が一番好き」なのだそうですが、どうりでと合点の行く演奏でした。チェリストはやはり「歌心」が一番大事ですよね(もちろんどの弦楽器も同じではあるのですが)。
ですのであの「ヴォカリーズ」の深く静かな演奏からは、正に伊藤君の名前の通り「果てのない悠久の歌の貴さ」というようなものが確かに感じられたのです。

伊藤君は指揮の勉強もしていて、ロンドン、日本で比較的小規模なオケを指揮したそうです。いずれはラフマニノフやマーラーの指揮もしたいということですから、器楽曲の枠に留まらない大きな音楽全体を見渡そうとする感覚をお持ちなのでしょう。まだ25歳の伊藤君ですが、行く行くは大チェリスト=大指揮者=大音楽家であったカザルスやロストロポーヴィチのようになってくれると良いですね。

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   演奏会後の交流会にて歓談する伊藤君と私

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2015年1月18日 (日)

たかこ・やぎりんバンド♪ コンサート Sound For Life第5回〜第6回

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昨日は阪神淡路大震災からちょうど20年目の日でしたが、スコットランド民謡「The Water Is Wide」の日本語訳詩曲「広い河の岸辺」がクミコさんの歌でヒットしてすっかり有名となったケーナ奏者の八木倫明さん(通称”やぎりん”)とアルパ(ハープ)奏者の藤枝貴子さんのデュオ・コンサートが、初台のオペラシティ3Fの近江楽堂で開かれたので聴きに行きました。

出演者は下記の通りです。

藤枝貴子(アルパ)
八木倫明(ケーナとナイ)
小川真弓(歌:ソプラノ)
勝田麻吏江(朗読)

―当日の演奏曲目―(チラシとは若干異なります)

1.映画『ライムライト』からテリーのテーマ/C.チャップリン
2.「四季」の「冬」から第2楽章/ヴィヴァルディ
3.コンドルは飛んで行く/D.A.ロブレス
4.黄色い村の門/アイルランド民謡
5.ラ・サンドウンガ/メキシコ民謡
6.映画「ミッション」からガブリエルのオーボエ/E.モリコーネ
7.『銀河鉄道の夜』から白鳥の停車場/藤平慎太郎
8.ラ・ゴンドリーナ(つばめ)/N.S.セージャ
    (休憩)
9.カスカーダ[滝]/D.ガルシア(アルパ独奏)
10.大切なあなたへ/渡辺俊幸(アルパ独奏)
11.いのち/古木涼子作詞作曲
12.僕の森/遊佐未森作曲、工藤順子作詞
13.引き潮/R.マックスウェル
14.アマポーラ/J.M.ラカーリュ
15.思い出のサリーガーデン/アイルランド民謡
16.広い河の岸辺/スコットランド民謡
(アンコール)
1.コーヒールンバ
2.広い河の岸辺(観客による合唱)

使用楽器が南米アンデスの笛ケーナとパラグアイのハープ、アルパなので、お聴きになられたことが無い方には「中南米風のサウンドなのかな」と思われそうですが、ジャンルの垣根の無い演奏曲目の通り、サウンドも決して中南米風なだけでは有りません。アイルランドやスコットランド民謡、あるいは日本の歌や映画音楽も多く取り上げられ、それぞれの曲に合わせたサウンドを楽しませて貰えます。そして何にも増して感じられるのが「癒し」であり「優しさ」です。
たかこ・やぎりんバンドのお二人の演奏はもちろんのことですが、数曲を歌ってその澄んだ歌声で観客を魅了したソプラノ歌手の小川真弓さん、そして朗読を担当した勝田麻吏江さんと、出演者の誰もが「癒し」や「優しさ」そして「愛」を一杯に感じさせてくれました。更には、裏方のスタッフの皆さんが同じように「愛情」を感じさせてくれます。ですので、聴きに来られた観客の皆さん全員がそれらの「愛情」を感じていたのは間違いありません。

「いのち」の歌も感動的でしたが、「広い河の岸辺」の小川さんの歌、そしてアンコールの合唱では本当に大きな感動に包まれました。
昨日はまた、八木さんのお誕生日でもありましたが、生きる喜び、生かされる喜び、仲間と一緒に支え合う喜び、そんな様々な喜びに満ち溢れていたコンサートだったと思います。正にコンサートのタイトル「Sound For Life」=「命の歌」、「人生の歌」です。八木さんの今日のコンサートに込めた願いや思いが充分過ぎるほど伝わって来ました。

僕が聴いた昼の部には、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」の大沢悠里さんが聴きにいらしていました。過去に八木さんが放送に出演されたことがあるそうです。忙しい中を時間を割いて聴きに来てくれる大沢さん、素敵ですねぇ。
帰りに会場の出口で大沢さんをお見かけしたのでお声を掛けさせて頂くと握手をしてくれて、隣にいらしたアナウンサーの西村知江子さんをご紹介してくれました。いやぁ、西村さん僕よりも年上なのにとってもお綺麗だった!(ドキドキ)♡

本当に心の温まるコンサートでした。

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2015年1月15日 (木)

J.S.バッハ カンタータ 第147番「心と口と行いと生活で」BWV147 名盤 ~主よ人の望みの喜びよ~

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「G線上のアリア」や「トッカータとフーガニ短調」などと並ぶバッハの最もポピュラーな曲の一つが「主よ人の望みの喜びよ」です。このコラールはカンタータ 第147番「心と口と行いと生活で」に含まれていることから、このカンタータ自体もバッハの200曲以上残存するカンタータの中で最も親しまれています。もっとも「主よ人の望みの喜びよ」というタイトルは、ピアニストのマイラ・ヘスがピアノ独奏曲に編曲した際に付けられたものです。

このカンタータはバッハがライプチッヒのトーマス・カントルに就任した1723年の「マリアの訪問の祝日」(毎年7月2日)のために書かれましたが、原曲はそれより先に待降節(クリスマスを待つ時期)の為に書かれた未完のカンタータであり、それに更に曲を加え改作を行い完成をさせました。有名なコラールもこの時に新たに作曲されたものです。

曲は、処女のままイエスを身ごもったマリアが老女エリサベト(洗礼者ヨハネの母)を訪れ、その祝福を受けて神を讃える歌「マニフィカト」を歌うというのがその内容です。全体は第1部と第2部に分かれ、合計10曲から構成されるというカンタータとしてはかなり規模の大きなものです。

第1部
1、合唱「心と口と行いと生活で」
2、レチタティーヴォ(テノール)「幸せな口よ!」
3、アリア(アルト)「おお魂よ、臆することは無い」
4、レチタティーヴォ(バス)「頑(かたく)な心は、強き者をも盲目にする」
5、アリア(ソプラノ)「イエスよ、道を開いてください」
6、コラール(合唱)「私がイエスを持つことのなんという幸せ」(「主よ人の望みの喜びよ」)

第2部
7、アリア(テノール)「イエスよ、助けたまえ」
8、レチタティーヴォ(アルト)「至高の全能者の不思議な御手は」
9、アリア(バス)「私はイエスの奇跡を歌う」
10、コラール(合唱)「イエスは変わりなきわが喜び」

もちろん最も知られているのは第1部最後のコラールですが、第2部最後のコラールにも同じ旋律が使われています。まずは、この2曲のコラールがこのカンタータの核心と言って良いでしょう。けれども、トランペットが祝祭的に活躍する第1曲の合唱と第9曲のバスのアリアも非常に輝かしく印象的ですし、第3曲のオーボエ伴奏によるアルトのアリアと、第5曲のヴァイオリンを伴うソプラノのアリアは、しみじみと深く心に訴えかけて実に素晴らしいです。
聴きどころの多さでは、僕の最も好きなカンタータ第140番「目覚めよと呼ばわる声あり」と、がっぷり四つというところです。どすこい!

それでは、僕の愛聴盤に参りましょう。

Bach_richter__sx425_カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合唱団/管弦樂団(1961年録音/アルヒーフ盤) リヒターはカンタータの全集は未完に終わりましたが多くの録音を残しました。これはその選集からです。ピリオド演奏派の少人数による洗練された合唱と比べると大人数のそれには幾らか古さを感じますが、神の頂きに少しでも近づきたいという精神の強さが感じられるのはむしろこちらの方です。ゆったりと大河の流れの如く歌われる二つのコラールの何と感動的なことでしょうか。バッハはやはり”小川”では無く”大海”です。アルトのテッパーやソプラノのブッケルの歌も器楽独奏と相まって素晴らしく感動的です。録音は僅かに古さが感じられます。

Bach022ヘルムート・ヴィンシャーマン指揮オランダ声楽アンサンブル/ドイツ・バッハゾリスデン(1972年録音/フィリップス盤) これもリヒターと同様に遅めのテンポでスタイルの古さを幾らか感じます。リヒター盤よりも合唱の規模は小さそうですが、ピリオド派の極少人数よりも多く、このカンタータの場合はこれぐらいが好きです。独唱陣にはコトルバス、ハマリといったかつての名歌手が揃っています。二つのコラールはリヒターと同じようにゆったりとした大河の流れを想わせますが、美しさに於いては随一だと思います。

51zb5vcyvll__sl500_aa300_ヘルムート・リリング指揮ゲヒンゲン聖歌隊/シュトゥットガルト・バッハ合奏団(1983‐4年録音/ヘンスラー盤) これは全集盤からの演奏です。リヒターと比べれば幾らか速めのテンポによる演奏ですが、ピリオド楽器派ほどの先鋭性は持ちません。けれども独唱、合唱、器楽全ての出来映えは優れていますし、音楽を落ち着いて味わえる中庸かつ極めてオーソドックスな演奏です。全体に”厳しさ”よりは”穏やかさ”の印象を強く受けます。やや微温的ですし、際立つ個性は感じられませんが、コラール全集の中の1曲として聴くには最適だと思われます。

Bach_519a2cg4dblニコラウス・アーノンクール指揮テルツ少年合唱団/ウイーン・コンツェントゥス・ムジクス(1984年録音/テルデック盤) アーノンクールがレオンハルトと完成させたカンタータ全集からの単売です。最大の特徴は合唱にテルツ少年合唱団を使い、ソプラノ、アルト・パートを合唱団のメンバーが歌っていることです。大人のプロの団体と比べれば”つたなさ”が感じられますが、反面彼らの持つ清純さはかけがえのないものです。トーマス教会合唱団の理想的な録音が無い以上、大きな存在感を示しています。アーノンクールにしてはことさらに癖のある演奏をしているわけでは有りませんが、トランペットの音色が古色蒼然としていたり、独奏楽器を情緒的に奏させたりと楽しませてくれます。但し、二つのコラールは合唱の強弱の付け方が大胆で、作為的に感じられます。

Bach_516srtg7x8lジョン・エリオット・ガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ(1990年録音/アルヒーフ盤) ガーディナーはピリオド楽器派にしては穏健な部類なので演奏に自然に溶け込めます。極端に小さ過ぎない編成も好ましく、楽器の古雅な響きが美しくとても心地良いです。合唱、独唱ともプロの大人ですので、同じ古楽派でもアーノンクールとは全く異なる味わいが有り、これはちょっと好みでも甲乙が付けられません。二つのコラールはリズムが軽く弾む様ですが、ドラマティックに過ぎることなくイエスを讃える喜びが自然と湧き上がります。バッハが”大海”では無く”小川のせせらぎ”に感じられますが、これもまた悪くありません。

さすがに名曲ですので良い演奏は多いのですが、残念ながら自分にとっての決定盤にまでは到達していないというのが正直なところです。強いて言えばリヒターかアーノンクールになるのですが、もしも歴代のトーマス・カントルのクルト・トーマス、マウエルスベルガー、あるいはロッチェが聖トーマス教会合唱団と録音を残してくれていれば自分にとっての理想的な演奏に成ったのかもしれません。

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2015年1月10日 (土)

”やぎりん”こと八木倫明さんの朝日新聞記事

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          (クリックで拡大します)
          

昨日1/9の朝日新聞朝刊の「ひと」欄に”やぎりん”こと八木倫明さんの紹介記事が掲載されました。これまでもTBSラジオやNHKテレビなどで何度か紹介されていることから八木さんをご存知の方も多いと思いますが、簡潔明瞭ながらも八木さんの人となりが自然に伝わってくるような素晴らしい記事だと思います。

<関連記事>
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木星音楽団のコンサート
スコットランド民謡「広い河の岸辺(The Water Is Wide)」

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2015年1月 1日 (木)

2015 新年おめでとうございます!

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皆様、新年おめでとうございます!

大晦日はどのように過ごされましたか?私は日頃の怠惰のツケがたまり、朝から車の洗車、家じゅうの窓拭き、照明拭き、部屋の掃除と夕方まで仕事をしていました(汗汗)。
ようやく夜には落ち着き、食事をしながらTVでNHK紅白歌合戦を観ました。この番組、なんだかんだ言いながらも、歌謡界や世の中の流行にダイジェストで触れられるという点で重宝しますし、色々な歌も結構楽しめています。中には少しも良さの分からない歌が出てきたり、逆に良い歌をじっくりと聴きたいのに、背後にわけの分からない演出が加わって歌の邪魔をするとか、不満は色々と有ります。「ダメよ~ダメダメ」と言いたいところですが、まぁ「いいじゃないか~」としておきます。

夜中に「年の初めはさだまさし」を観ていたおかげで、今朝起きたのは8時半でした。初日の出は拝めませんでしたが、青空のお日様がまぶしかったです。ところが、午後になると雲が出て、いつのまにか雪が降って来ました。恐らく積りはしないでしょうが、元日から雪とは神奈川では驚きです。

ところで、私はメリーちゃん年生まれなので、今年は「年男」になるのです。
同時に一昔前なら仕事から引退する大きな節目の年です。でも今はそういうことはありませんね。引退しても年金は貰えませんから、頑張って働きます。

さて、今年のブログの目標を考えてみました。
昨年は、実に12カ月のうち8カ月をモーツァルトに費やした「モーツァルト・イヤー」でしたが、今年特集したいと思うのは、次の通りです。

1、フォーレの室内楽
2、シューベルトの三大歌曲集
3、ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニなどのオペラ
4、バッハも含めたバロック音楽の名曲
5、国と時代にこだわらない名曲

こんな感じです。特に5にはまだ記事にしていない名曲が多く有るのですね。最たる例はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ですが、他にも色々と有るはずです。
もちろん恒例の「秋の終わりはブラームス」(?)などの特集も混ぜてゆきます。

それでは皆様、今年もどうぞよろしくお願い致します。

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