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2014年8月19日 (火)

モーツァルト 歌劇「イドメネオ」K.366 名盤

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3月にスタートしたモーツァルト特集ですが、気が付けばもう半年になっていました。そこでそろそろ最後はオペラで締めくくろうかと思います。

同じウイーン古典派の大音楽家でもハイドン、ベートーヴェンは交響曲と弦楽四重奏曲、それにピアノ・ソナタが作品の中核でしたが、モーツァルトはそれとは異なり協奏曲とオペラが最も重要だと思います。

モーツァルトのオペラといえば「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「魔笛」が俗に”三大オペラ”と称されますが、これに「コジ・ファン・トゥッテ」を加えて”四大オペラ”と呼ばれることも有ります。ここまではやはり堅いところです。

それ以外のオペラ作品で自分が好むのは、まず歌劇「イドメネオ」K366です。これは、モーツァルトが24歳のときにジャンバッティスタ・ヴァレスコの台本をもとに書いたクレタ島を舞台にしたオペラ・セリアですが、正式なタイトルは「クレタの王イドメネオ、またはイリアとイダマンテ」という長いものです。

ザルツブルク時代最後のオペラ「イドメネオ」は、モーツァルトのオペラとしては特別に高い位置づけではありませんが、この作品は18世紀初めから興隆してきたオペラ・セリアが最後の輝きを放った傑作としての価値は非常に高いと思います。もちろんモーツァルトの良さは、オペラ・ブッファのようなコメディやジングシュピールのような歌芝居のほうが、彼の生来の天真爛漫さを自由に生かせるとは思います。けれども、ギリシア神話やローマ時代の実話から題材が使われるオペラ・セリア(正歌劇=真面目なオペラ)においても、堂々とした直球勝負が可能なのです。

「イドメネオ」の音楽は台本の内容に寄り添う形で、すこぶる劇的ですが、同時に高貴さや美しさも湛えています。このオペラはミュンヘンの宮廷から依頼されて書かれたものですが、リハーサルを見学したテオドール選帝侯も作品をすっかり気に入り、会う人ごとにモーツァルトの音楽の素晴らしさを説いて回ったそうです。もっとも、第3幕の台本が長過ぎることをモーツァルトは不満に思っていたので、何度も台本の改定を要求したり、自分でも幾つかのアリアをカットしています。ですのでこの作品にはミュンヘンでの初演時や、ウイーンでの再演時に幾つかの版が生まれています。大きな違いの一つにイダマンテ役のパートがあります。初演稿ではカストラート(男性ソプラノ)により歌われましたが、現在ではメゾ・ソプラノが歌います。一方ウイーン稿ではテノールが歌います。イダマンテは怪物を退治するような英雄なのですから、やはり男らしいテノールが歌う方が自然に感じられます。

「イドメネオ」のあらすじ

第一幕

ギリシア連合国であるクレタの王イドメネオは、トロイとの長い戦いに勝利して、艦隊を率いて帰路につく。国元には幼い時に残してきた王子イダマンテが居る。一方、クレタで捕虜となっているトロイの王女イリアは、密かにイダマンテに恋をしている。

艦隊が帰路の途中、嵐で難破したため、イドメネオは海神に「もしも無事に帰還することが出来たら、陸で最初に出会う人間を生贄に捧げる」という約束をする。おかげで艦隊は難破を免れて無事に戻ることが出来た。
ところが陸に上がって、イドメネオが最初に出会ったのは顔を憶えていないイダマンテであった。会話をするうちに、お互いに親子であることが分かる。イドメネオは慌ててイダマンテを突き放して立ち去るが、訳を知らないイダマンテはそれを思い悩んでしまう。

第二幕

困ったイドメネオは腹心と相談して、イダマンテを直ぐに他の国に避難させようとする。イダマンテが港から船に乗ろうとすると、急に嵐になり、海から怪物が姿を現す。海神がイドメネオの約束違反に怒り狂っているためである。

第三幕

イダマンテは、死を覚悟で怪物と戦うことを決心する。彼を愛するイリアは「死なないで」とその想いをイダマンテに告げる。
一方イドメネオは神官に促されて、仕方なくイダマンテを生贄に捧げることに同意をする。
海神の祭壇に向かって生贄を捧げる準備をしていると、イダマンテが怪物と戦って倒したという知らせが入ってくる。だが、生贄を変えることは出来ない。
覚悟を決めたイダマンテが生贄になるために祭壇にやって来ると、イドメネオは刀を持って息子の首をはねようとする。そこへイリアが飛び出してきて、刀の下に身を投げ出して、イダマンテの身代わりになろうとする。
すると突然、地面が揺れて海神の像から声が聞こてくる。「イリアの崇高な愛に免じてイダマンテを赦す。イドメネオは退位して王位をイダマンテに譲れ。」
そうして人々は喜び合う。

それでは愛聴盤のご紹介です。

51605gzdfl__aa300_カール・ベーム指揮ドレスデン国立管弦楽団/ライプツィヒ放送合唱団
ヴィエスワフ・オフマン(T)
ペーター・シュライヤー(T)
エディット・マティス(S)
ユリア・ヴァラディ(S)他
録音場所:ドレスデン、ルカ教会
(1977年録音/グラモフォン盤)

モーツァルトのオペラを万遍なくこなすという点でカール・ベームの右に出る指揮者は居なかったと思います。カラヤンは?ムーティは?もちろん挙げるファンは居るでしょうが、ベームの指揮の立派さや品格の高さはちょっと真似が出来ません。ベームのイメージからすればオペラ・セリアが最も適していそうですが、実際にはオペラ・ブッファやジングシュピールも実に素晴らしいのです。

この録音はドレスデンのルカ教会でセッション録音されたものですが、ドレスデン国立管の古雅な音色と立派さは正にオペラ・セリアにピッタリです。歌手陣も非常に優れていて誰一人として疵が感じられず、ベームの指揮の元で理想的な歌唱を次々と聴かせてくれます。イダマンテをテノールで、それもシュライヤーが歌うのも嬉しいです。

元々、録音の数が少ないオペラですので現在所有しているのはベーム/ドレスデン国立管盤のみですが、他に機会あれば聴いてみたいと思っているのは、名匠ハンス・シュミット=イッセルシュテットが同じドレスデン国立管と録音した演奏と、ジョン・プリッチャード/ウイーン・フィル盤あたりでしょうか。

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コメント

ハルくんさん、こんばんは。
モーツァルト・シリーズも いよいよオペラですね。
 
モーツァルト自身、一番チカラを入れて 作曲に取り組んでいるのが やはり オペラだったように思います。傑作の宝庫ですね。
「イドメネオ」は バロック・オペラの流れを汲む オペラセリアで、二枚目役の"王子イダマンテ"が 元々 カストラートのために書かれているので、現在では メゾソプラノで歌われる事が多いのですが、(ウィーン版ではテノール)もしかすると それが 人気にならない一因なのかもしれませんね……。
(でも メゾソプラノの"王子様"も 宝塚の男役みたいで けっこう良いと思いますが……(笑))
愛聴盤ですが、ウィーン版のベーム盤も良いですが、通常版の プリッチャード/ウィーン・フィル盤 が 私のお気に入りです。

投稿: ヨシツグカ | 2014年8月20日 (水) 19時32分

ヨシツグカさん、こんばんは。

イダマンテをどの声で歌わせるかというのは課題ですが、怪物と戦って倒してしまう英雄キャラからすると、どうもテノールが一番しっくりするように思います。その点では、ベーム盤のシュライヤーはイイのですよねぇ。
プリッチャード盤は聴いてみたいですね。

投稿: ハルくん | 2014年8月20日 (水) 22時00分

序曲だけ演奏会で取り上げたことがあります。R.シュトラウスのドン・ファンとシューベルトのグレイト、というウインナ・プロでした。渋い序曲でした。

投稿: かげっち | 2014年8月21日 (木) 12時56分

かげっちさん、
こちらへもありがとうございます。

この序曲は渋いですね。さすがオペラセリアだけあります。
なんだか協奏曲でも始まる前のイントロみたいなのが延々と続く感じですものね。

投稿: ハルくん | 2014年8月21日 (木) 13時47分

ハルくんさま
御関心お持ちのS・イッセルシュテット盤、これはお薦めですね。
手持ちの盤はCMS-7639902と言う番号の3枚組ですが、少し前にタワレコ神戸店で、ドイツ・エレクトローラ・コレクションなるシリーズの入荷があった際に、LPと同一デザインで見かけました。

投稿: リゴレットさん | 2018年6月23日 (土) 08時26分

リゴレットさん

S・イッセルシュテット盤は聴いてみたいのですが中々良いディスクに出会えないうちに後回しにしてしまっています。
いつかチャンスが巡ってくると良いです。

投稿: ハルくん | 2018年6月25日 (月) 13時16分

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