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2014年7月26日 (土)

モーツァルト フルート四重奏曲集 名盤

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昔からとても好きで、良く聴いた曲がモーツァルトの4曲のフルート四重奏曲です。フルート四重奏といってもフルート4本で演奏するわけでは無く、フルートとヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという編成です。

4曲とは具体的に次の通りです。

第1番ニ長調K285
第2番ト長調K285a
第3番ハ長調K285b
第4番イ長調K298

この四重奏曲も、モーツァルトが1777年にマンハイム=パリ旅行中に知り合った、外科医で裕福な音楽愛好家のドジャンから、2曲のフルート協奏曲と一緒に注文を受けたために作曲されました。但し、ドジャンのために書いたのは、K285、K285a、K285bの3曲で、最後のK298だけは10年近く後に書かれた曲です。ということにおおよそされてはいますが、作曲の経緯には幾らか不明な点が残されているようです。しかし、ムズカシイところが無く、理屈抜きで楽しめる(モーツァルトの音楽は元々そうなのですが)という点では最右翼の曲集の一つです。4曲では第1番ニ長調K285が抜きんでた傑作だと思いますが、とりわけ第3楽章ロンドの愉悦感と言ったらありません。僕がこの曲から連想するのはピアノ協奏曲の第23番K488の終楽章なのですが、両曲には”愉悦感”で相通じるものが有るように思います。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

Mo952ウィリアム・ベネット(Fl)、グリュミオー・トリオ(1969年録音/フィリップス盤) イギリスの名フルート奏者ベネットがグリュミオー・トリオと共演した演奏です。アンサンブルは優れていますし、良い演奏だと思います。ただ、ベネットもグリュミオーも少々真面目過ぎる印象です。特にグリュミオーは協奏曲やソナタでの素晴らしさを期待すると少々物足り無く感じるかもしれません。小粒ながらもモーツァルトの音楽の素晴らしさをそれなりに出してはいるのですが・・・。

Mo1010234ヨハネス・ワルター(Fl)、ドレスデン・カンマー・ゾリスデン(1971年録音/オイロディスク盤) ワルター以下、全員がシュターツカペレ・ドレスデンの団員ですが、当時のオケのいぶし銀の音そのままの演奏です。ワルターの名人ぶりは流石ですが、ソリスト的に目立つような派手さは全く有りません。弦楽器の技術水準は室内楽としてはまずまずですが、アンサンブルとしての調和度が何しろ秀逸です。典雅さを絵にかいたような演奏で、例えてみれば、宮廷で演奏されるのに一番相応しいように思います。ルカ教会の録音なので、残響が多くオフ気味に聞こえるのが余計にそう感じさせます。

Mo12291459_4efc01d30ec40ウェルナー・トリップ(Fl)、ウイーン室内合奏団(1971年録音/ヴィーナスレコード盤) 第1番と第4番の2曲のみの録音ですが、これは執筆でもご活躍されているプロデューサーの中野雄さんがトリオ・レコード時代に制作されたウイーン・フィル団員による名録音のうちの一つです。あの頃に日本であの素晴らしい演奏が残されたこと自体が驚きですが、当時はLP盤で愛聴しました。現在ではCDが少々マイナー扱いなのが残念ですが、ウイーンの香りが一杯に漂う名演奏を聴くことが出来ます。この2曲では第1ヴァイオリンをゲルハルト・ヘッツェルが弾いています。

Mo_0562_thumbnailペーター・ルーカス・グラーフ(Fl)、ラウアー(Vn)、ヒルシュフェルト(Va)、ニッフェネッガー(Vc)(1970年代録音/クラーヴェス盤) グラーフの太い音は好きで、曲によっては同じスイスのニコレよりも好みました。この録音もLP盤で愛聴しました。弦楽はチューリッヒ・トーンハレ管の団員を中心に構成されていて、技術的な力量は多少劣りますが、全体にゆったり目の演奏で中々に温かく良い雰囲気を醸し出していて悪くありません。この曲の原点とも言える、素朴さや優しさを感じさせてくれる得難い魅力が有ります。

4191y4c4r8l_ac_ オーレル・ニコレ(Fl)、カントロフ(Vn)、メンデルスゾーン(Va)、藤原真理(Vc)(1983年録音/DENON盤) 二コレの峻厳なバッハは大好きですが、モーツァルトは幾らか真面目過ぎないかという気もします。しかし惚れ惚れする上手さと美しい音で奏でる虚飾の無い演奏はこれはこれで魅力です。そんな二コレを誠実にサポートする名手たちも素敵です。中音部を担当するメンデルスゾーンさんは来日時に生演奏を聴きましたが、あの大作曲家の末裔だそうで、さすがに素晴らしかったです。

Mo521ジャン・ピエール・ランパル(Fl)、スターン(Vn)、アッカルド(Va)、ロストロポーヴィチ(VC)(1986年録音/ソニー盤) 夢のようなメンバーですが、何もここまで豪華で無くてもと思ってしまいます。けれでも演奏は流石に凄いです。ランパルのフルートはやはり王様の貫禄ですし、他のメンバーも凄いです。但し、スターンのヴァイオリンだけがモーツァルトの音楽にはそぐわない感じがします。何となく腕が余って逆に雑に弾いているような気がしてなりません。それが無ければ、もろ手を挙げて推薦盤にしたいのですが、演奏というのは難しいものです。

Mo754ペーター・ルーカス・グラーフ(Fl)、カルミナ四重奏団員(1988年録音/クラーヴェス盤) グラーフの二度目の録音は、カルミナSQとの共演となりました。旧盤よりもテンポは速くなっていますが、忙しなさは無く安定感が有ります。グラーフの名人芸は増々冴えていますが、それ以上にカルミナの上手さに唖然とします。アンサンブルが完璧で調和が取れていて、そのうえで各自が洒落っ気やセンスの良さに満ち溢れています。ここにはウイーンの甘さやパリの華やかさは見られませんが、モーツァルトの曲が持つ愉悦感を純音楽的に最上の形で表現し尽しています。

71f9zgtfgpl_ac_sl1058_ エマニュエル・パユ(Fl)、ケルビーニ四重奏団員(1999年録音/EMI盤) 若くしてベルリン・フィルの首席となった大人気フルート奏者のパユですが、モーツァルトの四重奏曲は30歳になるまでにCDにしたかったらしく、29歳の時の録音です。確かにフルートは若々しく弾むような躍動感が有って大変魅力的です。ケルビーニ四重奏団はヴァイオリンのポッペン、チェロのケラスと名手が揃っていますが、ヴィブラートも控え目で、パユを見事に引き立てていて素晴らしいです。但し大聖堂で録音したような残響の多さは余り好みでは無いのですが。

ということで、どの演奏にも特徴と魅力が有りますが、どれか一つと言われれば、僕はグラーフ/カルミナSQ盤に一番惹かれています。もっとも、トリップ/ウイーン室内合奏団の魅力はそれ以上で、もしも全曲録音してくれていたら、それをベストに上げることと思います。

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コメント

手持ちのCDをみてみましたが、ワルター/ドレスデン、ランパル/スターン、アッカルド組、有田正弘/ボッケリーニQの3組しかありませんでした。ワルター盤は典雅な響きで、心が洗われるような演奏です。気持ちを清らかにしたい時?、聴きます。有田盤は古楽器の響きで、これも鄙びた趣があります。大体、第1番を聴いて終わってしまうことが多いので、今度第4番までじっくり聴いてみようと思います。
今回のフルート四重奏曲とは関係ないのですが、例の「ドヴォルザーク」、先日、交響曲・協奏曲全集を入手しました。チェロ協奏曲も聴きました。ワイラースタイン、良いですね。メロディラインをくっきりと演奏し、新時代のドヴォルザークを感じさせました。そして、このビエロフラヴェク/チェコ・フィルの上手さ、びっくりしました。チェコ・フィルはウィーン・フィルやベルリン・フィルに匹敵する、いや、それ以上の実力を持ったオーケストラですね。弦はもとより、管が素晴らしい美しさです。そして、この6枚組の力のこもった全集を5千円くらいで入手できる幸せ、本当に嬉しくなりました。これから他の曲もじっくり聴いていきます。
フルート四重奏曲のコメントなのに、脱線してしまい、真に申し訳ありませんでした。

投稿: クレモナ | 2014年7月26日 (土) 18時56分

ハルくんさん、こんばんは。
フルート四重奏曲は フランスの ギャラント的な演奏で聴きたいと思っているのですが、なかなか そんなCDが無いですよね……。
ランパルの若い頃の演奏は 残ってないのでしょうか?
現在の私の愛聴盤は、レーデルがミュンヘンの仲間達と演奏したCDです。
ドイツ的なかっちりした演奏ですが、これは これで悪くはありませんよ。

投稿: ヨシツグカ | 2014年7月26日 (土) 20時33分

クレモナさん

フルート四重奏ではやはり第1番が最も魅力的だとは思いますが、他の曲も中々良いですよ。個人的には3番なんかもとても好きです。
言われてみれば、古楽器の演奏は持っていませんが一つぐらい欲しいですね。ありがとうございます。

チェコ・フィルは良いですよね。オールラウンドな上手さではベルリンフィルに敵わないでしょうが、ことチェコものになったら魅力の点で大きく凌駕すると思います。
この全集はまだ未購入ですが、いずれ入手したいと思っています。

投稿: ハルくん | 2014年7月26日 (土) 21時00分

ヨシツグカさん、こんばんは。

ランパルはパスキエ・トリオと若い頃のスタジオ録音が二種類、それに割と後年のライブが一種類と、合計3つ有るようです。ヨシツグカさんの希望にピタリ合う演奏かもしれませんね。
いずれも入手性が悪いので未購入ですが、いずれ聴いてみたいですね。

レーデル盤は残念ながら聴いたことがありません。

投稿: ハルくん | 2014年7月26日 (土) 21時04分

ハルくんさん、こんばんは

ウィーン・フィルのメンバーだったハンス・レズニチェック(フルート)が、カンパー達ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のメンバーとK.285だけ録音を残しています。1949年録音ですが、これがウィーン・スタイルの演奏なのだろうと思わせる響きを聴くことが出来ます。
アンドレアス・ブラウとアマデウス弦楽四重奏団のメンバーによる全4曲の1977年録音も、演奏会でも聴いたブラウのフルートの音色が私の好みであることもあって、よく聴いています。弦の響きもよく録れています。

投稿: HABABI | 2014年7月26日 (土) 23時32分

HABABIさん、おはようございます。

ウイーンフィルのメンバーの演奏を聴くと、やはりそれが一番好きかなと思えてしまいます。
Wコンツェルトハウスの録音は聴いたことがありませんが、彼らなら間違いなく素晴らしいでしょうね。ただ録音がK285一曲のみというのは残念です。

ブラウ/アマデウス盤は未聴ですが、一度は聴いてみたいですね。ありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2014年7月27日 (日) 09時34分

ハルくんさん ヨシツグカさん こんにちは!

フルート四重奏良いですよね。

ランパル、パスキエトリオ、まさにギャラントでフランス風です。
颯爽としてウキウキ楽しくなる演奏。
よく冷えた白ワインの様で今の時期に聴きたいですね。(^.^)

投稿: よーちゃん | 2014年7月27日 (日) 10時09分

よーちゃんさん、こんにちは。

ランパル/パスキエ・トリオの演奏お持ちですか。予想通り素晴らしそうですね。
これは是非とも聴いてみたくなりました。
どうもありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2014年7月27日 (日) 10時56分

ハルくんさん、こんばんは。
ランパル/パスキエ・トリオ盤を幸運にも入手出来ました。
モノラルなので 第1回目の録音だと思います。(普段の音で聴くと違和感があるので調整が必要ですが,うまくハマれば かなり美しいです……。)
演奏は、よーちゃんさんの仰るように、フランス風のギャラントなもので、私のイメージに"ぴったり"です。
ランパルのフルートは 後年のソニー盤よりフレッシュで、この曲集に合っている感じがします。パスキエ・トリオも さすがに良い雰囲気です。
私の大好きな 第2番と4番が 名演なので かなり嬉しいです。
これからは このCDが 私の愛聴盤になりそうです。

投稿: ヨシツグカ | 2014年7月30日 (水) 01時23分

ヨシツグカさん、こんにちは。

ランパル/パスキエ・トリオ盤を入手出来ましたか!
ギャラントスタイルの名演としてはやはり理想的なのでしょうね。と言いながらも自分はまだ聴けていませんが。(笑)
ともかく大変お気に入られた様子でとても良かったですね。

投稿: ハルくん | 2014年7月30日 (水) 09時45分

ヨシツグカさん こんばんは!

気に入って貰ってよかったです。(^.^)

投稿: よーちゃん | 2014年7月31日 (木) 19時57分

よーちゃんさん。
良い情報をありがとうございました!
まさに、私のこの曲集に対するイメージ通りの演奏でした。

投稿: ヨシツグカ | 2014年7月31日 (木) 23時05分

ごぶさたしています、他の曲の練習が忙しいもので(謎)

この曲の録音持っていないのですが、いろいろ名演がありそうですね。実は1番の1楽章を木管五重奏でやったことがあります。弦3人のパートをOb/Cl/Cl/Fgの4人で分けて吹きました(Flはオリジナルパート)。高2のスプリングコンサートだったかな。楽しかったです。こういう遊びも許容されるのがモーツァルトのよいところだと思います。

投稿: かげっち | 2014年8月 1日 (金) 12時32分

かげっちさん、お久しぶりです。
でもお元気そうで何よりです。

木管五重奏ですか。楽しそうですね。
原曲が楽しいと、編曲して演奏してもやはり楽しいでしょうね。
それはともかくクラには何と言ってもあのクラ5が有りますからね。今手持ちのディスクを一生懸命聴き直しているところです。もちろん、かげっちさんにご紹介いただいたボスコフスキー盤もです。

投稿: ハルくん | 2014年8月 1日 (金) 23時46分

こんばんは。

モーツァルトは「フルートは不安定な楽器」
と述べていたと思いますが
この四重奏曲に、協奏曲と名作を残しているのが「匠」ですよね。
パユ盤もなかなか良いと思います。

フルートの名曲といえば、プロコフィエフの「フルート・ソナタ」
も好きです。ゴールウェイかパユで是非!

投稿: 影の王子 | 2017年3月23日 (木) 23時37分

影の王子さん、お返事遅くなりすみません。

そうなんです!
「音が嫌いだ」と言っていたフルート向けにこれほどの名作を書いてしまうのですからね。正に匠の技、天才の業ですよね!
パユ盤は聴いていませんが良いでしょうね。
共演がポッペン達というのも魅力ですし次に聴きたい有力候補です。

プロコフィエフの「フルート・ソナタ」は名作ですね。改作されたヴァイオリンソナタ2番も良いですが、やはりオリジナル版には良さが有りますね。ゴールウェイかパユ。定番中の定番ですね!

投稿: ハルくん | 2017年3月27日 (月) 11時39分

お早うございます。

ランパル/シュナイダー/スターン/ローズという組み合わせのものを入手。ローズ、ヴィオラ:シュナイダーに魅かれたのです。

同じくK.285が好きで、総じて颯爽と進んでいくこの録音では特に第2楽章のフルート独奏がテンポを少し落としているからかナンとも言えない浮遊感です。

でも、スターンのVnがボクには引っ掛からない、入ってこない苦笑。シュナイダーだったら...。

投稿: source man | 2017年6月11日 (日) 07時45分

source manさん、こんにちは。

お聴きになったランパル盤、確かに良いのですが、スターンのヴァイオリンがどうもモーツァルトには音色が乾いた感じがしてしまいますね。本当にシュナイダーが弾いてくれた方が良かったですね。
スターンはブラームスとかは最高なのですが・・・。

投稿: ハルくん | 2017年6月11日 (日) 10時57分

愚生が愛でて止まない盤は、ガッゼローニ(fl)、アッカルド(vn)、アシオラ(va)、ストラーノ(vc)と、オール・イタリア勢の、BMG・ジャパンからBVCC-38401の番号で出ておりました物です。ヴィオラはキャリア終盤のイタリアSQのパートを勤められたお方、チェロはイムジチの団員と言う万全の合奏パートナーに恵まれ、アッカルドが時にソロイスティック、またある時は巧みにアンサンブルに溶け込み、ガッゼローニが音色の美しさと技巧の上質さを、決して枠からはみ出さず披露して下さるのですから、堪りません。オペラ・ブッファに垣間見える、モーツァルトのイタリア的なる物への同質性も、感じさせて貰えます。

投稿: リゴレットさん | 2021年3月 2日 (火) 17時33分

リゴレットさん

いつも古い記事への書き込みをありがとうございます。

実はこの曲も二コレとパユのディスクを買いながらそのままにしていたので、今回良い機会だと記事に加筆しました。(笑)

モーツァルトはどうしてもウイーン、(旧)東独、あとは一部フランス勢の演奏が好みでして、イタリア勢はついノーマークとなります。
ですが、たまには良いかもしれませんね。
ご紹介ありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2021年3月 4日 (木) 17時51分

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