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2014年5月31日 (土)

モーツァルト ピアノ協奏曲第21番&第12番 ラドゥ・ルプーの名盤

41ppgtg4xtl_2ラドゥ・ルプー独奏、ユリ・シーガル指揮イギリス室内管弦楽団(1974年録音/DECCA盤)

デビューした当時、”千人に一人のリリシスト”と称されたラドゥ・ルプーも、現在ではすっかり大家に成りましたが、この人は何しろ滅多にレコーディングを行なわず、来日する機会も極めて少ない有様なので、”千人”というよりも、まるで”仙人”のような演奏家です。

ルプーのレパートリーと言えばシューベルト、ブラームスのイメージが最も強く、次いではベートーヴェン、シューマンあたりでしょうか。モーツァルトでは往年の名奏者シモン・ゴールドベルクと組んだヴァイオリン・ソナタ集という大物が有りますが、それ以外は聴いた覚えが有りません。ですが、 ピアノ協奏曲に第21番と第12番を組み合わせたディスクが1枚だけ有りました。不覚にもこれまで聴き逃していましたが、聴いてみたところ本当に素晴らしかったのでご紹介します。

ルーマニア生まれのルプーは先輩のディヌ・リパッティと同門になりますが、モーツァルトを得意としたリパッティの弾き方に案外似ているように感じます。更に言えば、同じく同郷のクララ・ハスキルにも似ているかもしれません。3人の弾くモーツァルトの音からはそのような印象を受けます。

1970年代以降の優秀なピアニスト達に共通しているのは、大きなホールでも耐えるような輝かしい音色と音量を持つことですが、この3人の音を聴いていると、音質、音量から最適なのは中規模程度の広さのホールというように思えます。もちろんフォルテピアノの演奏家は当たり前としても、現代楽器のピアニストでこのように感じられる人は少数派だと思います。誤解が有るといけませんが、かつて大ホールで聴いたルプーは音量に不足することは有りませんでした。ただ、その音は非常に美しいのですが、金属的な響きの印象は全くせず、あくまで「木製の箱」であるピアノが鳴るような印象でした。

モーツァルトのピアノ協奏曲第21番K467は両端楽章でハ長調の堂々とした曲想を誇りますが、ルプーはフォルテを決して過剰に鳴らすことが無く、音に抑揚の有る美しさを感じさせます。もちろん演奏には若々しい情熱を感じさせますが、常に節度を保っています。もってまわった表情づけが見られないにもかかわらず、いじらしいほどの感受性が一杯に感じられます。ルプーは幾らかスタッカート気味で切れの良いタッチを持ちますが、リズムが前のめりになることも無く、音符を端折ることも有りません。現代のピアニストには、意外に古典派とロマン派の奏法の区別が無いように思える演奏家も少なくないように思いますが、ルプーは古典派的な演奏がしっかりと身についているように感じます。
この名曲の演奏では、これまでゲザ・アンダ/ウイーン響盤とフリードリッヒ・グルダ&アバド/ウイーンPO盤が好きでしたが、ことによるとルプー盤はそれ以上に気に入ったかもしれません。

第12番イ長調K414は地味な存在ですが、とても素晴らしい名曲です。ルプーとシーガルはこの曲に於いても抑揚を保ちつつ、それでいてこの曲の魅力を一杯に感じさせてくれます。バレンボイムのこの曲の演奏では更にロマンティックに感動を与えてくれますが、古典的な節度を保ちつつ同等かそれ以上の満足感を与えてくれるこのルプーの演奏も本当に素晴らしいです。

イスラエル出身のユリ・シーガルはかつて日本のオーケストラへも客演していましたが、ここでは元々優れたイギリス室内管の魅力を一層引き出しているように感じます。それにしても素晴らしい室内オケです。バレンボイム、内田光子、ペライアなど層々たるピアニストがこのオケとモーツァルトの ピアノ協奏曲全集を録音したことが良く分ります。
ルプーとシーガルの共演は、表面的では無い底光りをするような美しさと、立派な威容を感じさせる稀な演奏を生んでいます。

「このコンビでもっと録音を残してくれていれば」と思えて仕方がない出色のモーツァルトです。

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モーツァルト(協奏曲: ピアノ 第20~27番)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんにちは。
ルプーのCDでは シューベルトのソナタが素晴らしいですが、シューベルトが得意ならモーツァルトも良いはずですよね。
調べてみたら、このCDの以外には ペライアと組んだ協奏曲と2台のピアノ 4手のための作品集があるくらいです。
やはり演奏家にとって、モーツァルトは難しいのでしょうかねぇ……。

投稿: ヨシツグカ | 2014年5月31日 (土) 12時04分

こんにちは。

ルプーがもう70歳に近いとは驚きです。何といっても音がきれいですし、分厚い和音でも響きをちゃんと計算している感じですね。ブラームスが得意なピアニストは少ないので貴重な存在です。リパッティとかハスキルの系譜だったのですか。内にこもるタイプのピアニストは私好みです。いくつかのベートーヴェンのソナタは非常に上手いと思いますが、後期作品は見当たりませんでした。晦渋な作品よりも叙情的な音楽のほうが向いているのでしょうね。

投稿: NY | 2014年6月 1日 (日) 22時11分

ヨシツグカさん、こんにちは。

ルプーのシューベルト、良いですよね。
抒情的な曲が得意だと思われているようですが、古典的な造形性の有る曲も上手いと思いますよ。音の粒が揃って本当に綺麗ですし、モーツァルトなどにはうってつけだと思います。なにしろレパートリーを絞りに絞る人のようなので、色々と聴きたいファンにとってはじれったくなりますね。

投稿: ハルくん | 2014年6月 1日 (日) 22時24分

NYさん、こんばんは。

ルプーはリパッテイとは完全に同門ですが、ハスキルとは国が同じですが同門では無いと思います。
でも、ショパンやリストをバリバリと弾く様なヴィルティオーゾタイプでは無い点は一致していますね。
抒情性の有る曲や古典的な曲で良さが最も発揮されると思いますが、自分が生で聴けたブラームスの協奏曲の第1番はその点で最善のレパートリーでした。本当に驚くほど素晴らしかったです。

投稿: ハルくん | 2014年6月 1日 (日) 22時44分

こんばんは。
初めておじゃまするオスティナートと申します。
このモーツァルト、本当に素敵な演奏ですよね!
K467は、いまのところぼくの中でベストの演奏です。
堂々とした華やかな曲想の中にここまでデリケートで作為のないニュアンスを散りばめた演奏はほかにないのではないでしょうか。
第2楽章の弾きはじめなど意外なくらいの弱音で進めながらも、何というコクを感じさせるのだろうと、その美しさに切なささえ感じてしまいます。
このコンビでK453やK488などが聴けたらどんなに素敵だろうかと想像するばかりです。

投稿: ostinato | 2014年6月11日 (水) 22時23分

オスティナートさん、はじめまして。
コメントを頂きましてありがとうございます。
とても嬉しく思います。

ルプーのK467本当に素晴らしいですね。
虚飾が少しも無いにもかかわらず、曲の魅力を一杯に感じさせてくれますね。
第2楽章についてお書きのご感想も全く同感です。
僕にとってもこの演奏はベスト盤になりました。
本当に録音1枚だけで終わったのが残念で仕方の無いコンビです。

ルプーのK488の動画はご覧になりましたか?
指揮がヴェーグでウイーンPOというのが興味深いです。
1991年のライブですが、これもとても良いと思います
https://www.youtube.com/watch?v=w9y5Zko7XIs

また、いつでもお気軽にコメントください。
楽しみにお待ちしています。

投稿: ハルくん | 2014年6月12日 (木) 09時45分

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