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2014年5月10日 (土)

モーツァルト フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299 名盤

Mozart_harp_flute_2

モーツァルトが3度目のパリ旅行の時に父レオポルドに宛てた手紙の中で、交友を持ったフランスの公爵について、このように記しています。

「ド・ギーヌ公はフルートをとても良く吹きます。その令嬢には作曲を教えていますが、彼女もハープをとても上手く奏します。」

ド・ギーヌ公とはフランスの外交官で音楽の愛好家でした。モーツァルトは公爵の娘の家庭教師を務めていました。アマチュアながら名フルート奏者であったド・ギーヌ公が、ハープを弾く娘と共演できるような作品を望んだことがきっかけで、この「フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299」が作曲されました。

独奏楽器のフルートと、通常は伴奏の役割が多いハープとの二つの楽器が独奏をするというコンチェルトは非常に珍しい構成ですが、素晴らしい名曲に仕上げてしまうあたり、さすがは天才モーツァルトです。但し楽器の特性上から、どうしてもフルートが目立ちがちとなり、ハープはさしずめ”夫を立てる控え目な奥様”という風に聞こえるのは仕方の無いことでしょう。けれどもこの奥様、いざという時にははっきりと物を言えるしっかり者でもあります。男性にとっては理想の奥様ですね。

ともかく、この曲は本当に素晴らしい傑作です。第1楽章アレグロも美しいですが、第2楽章アンダンティーノのこの世のものとは思えない美しさと第3楽章ロンド・アレグロのほとばしる愉悦感は言葉にできません。モーツァルトの管楽器を伴う協奏曲では、クラリネット協奏曲が最高ですが、それに並ぶ存在がこの「フルートとハープのための協奏曲」です。

それでは僕の愛聴盤です。

5b ウェルナー・トリップ(Fl)、フーベルト・イェリネク(Harp)、カール・ミュンヒンガー/ウイーン・フィル(1962年録音/DECCA盤) 恐らくこの曲の定番でしょうが、パリのギャラント風スタイルでは無く、ウイーン風の演奏です。ミュンヒンガーの遅くかっちりしたテンポはドイツ風ですが、録音当時のウイーン・フィルの持つ甘く柔らかい音色がそれを補って余りあります。トリップとイェリネクのソロは、自分が前面に出るという感じでは無く、オーケストラと素晴らしく溶け合っています。結果として、この曲の天国的な美しさが最も良く出ている点では随一だと思います。

9_2 ジャン=ピエール・ランパル(Fl)、リリー・ラスキーヌ(Harp)、ジャン=フランソワ・パイヤール/パイヤール室内管(1964年録音/エラート盤) これはミュンヒンガ-盤以上に定番かもしれません。こちらはパリのギャラント風のスタイルですが、決して華やか過ぎることはありませんし、テンポも中庸で落ち着きが有ります。時には上手さが鼻につくことがあるランパルも、正に”フランス公爵”のような気品と風格が素晴らしいですし、ラスキーヌもまた”公爵夫人”といった貫禄を感じさせます。二人とも半端で無く上手いのですが、それが全て音楽表現に生かされています。録音は多少古めに感じるかもしれませんが、鑑賞に支障は有りません。

4191vr749vl__sl500_aa300_ ヨハネス・ワルター(Fl)、ユッタ・ツォフ(Harp)、オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ドレスデン(1975年録音/シャルプラッテン盤) 当時のSKドレスデンの首席のヨハネス・ワルターのフルートは大好きでした。歌劇「魔笛」などでの演奏が忘れられません。旧東ドイツ製の楽器らしいですが、ピリオド楽器でないのに、まるで木製のような音色が魅力的です。大きなビブラートが特徴ですが、それが派手さにつながることもありません。ツォフのハープは堅実で不満は有りません。スウィトナーのテンポは速めで躍動感が有りますが、もちろんアンダンティーノでは美しく歌わせてくれています。

1197081051 ヴォルフガング・シュルツ(Fl)、ニカノール・サバレタ(Harp)、カール・ベーム/ウイーン・フィル(1979年録音/グラモフォン盤) ウイーンの演奏ということで、当然ミュンヒンガー盤との比較になります。ベームのテンポ感はミュンヒンガーと大きな差は有りませんが、立派さではやはりベームが上です。シュルツのフルートは、表現の深さが感じられて素晴らしいです。一方、奥様役のハープはサバレタですが、この奥様は少々出しゃばる傾向が有り、うるさく感じられることがあります。控え目で夫にピタリと寄り添うようなミュンヒンガー盤のイェリネクの方が好感が持てます。厳しい祖父役のベームの存在感は無視できませんが、やはり独奏者に”夫婦円満度”の高いミュンヒンガー盤を個人的には上位に置きたいと思います。

ということで、マイ・フェイヴァリットは余りにオーソドックスな選択なのですが、古き良きウイーンの香りを漂わせたトリップ/イェリネク/ミュンヒンガー盤、それにパリの香りを漂わせるランパル/ラスキーヌ/パイヤール盤、この二つです。

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モーツァルト(協奏曲:管楽器)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんばんは。
フルートとハープ……。なんと雅な取り合わせなのでしょう!この協奏曲を聴いていると、あだかもヨーロッパの宮殿に居るかの様に思えてきます。
本当に名曲ですよね。
嗚呼、モーツァルトは素晴らしい!
私の愛聴盤も ハルくんさんと同じ4枚です。フランス、ウィーン、ドレスデン、それぞれの"雅"が ここにはあります。
 
(ちなみに、パイヤール盤の音質についてですが、輸入盤CDが アナログ盤に近く、さらに美しいです。)

投稿: ヨシツグカ | 2014年5月10日 (土) 21時04分

こんばんは。

スウィトナー盤で聴いています。

個人的にはモーツァルトの「最高傑作」!

モーツァルトの作品にしばしば顔を出す
厭世観が皆無で、無邪気極まりなく
しかも究極の美に達していると思うからです。

こうした特殊な楽器編成で名曲を産み出す
モーツァルトはやはり凄いですね。
ベートーヴェンとは違う意味での職人技です。

投稿: 影の王子 | 2014年5月10日 (土) 23時28分

ヨシツグカさん、こんにちは。

全く同じ愛聴盤でしたか!
オーソドックスな定番ばかりですからね。もちろん個人の好みは色々有るでしょうが、やはり「定番」というのは非常に重みが有りますね。

自分のパイヤール盤は古いリマスターなので、新しいものと買い替えをしたいですね。ありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2014年5月11日 (日) 08時38分

影の王子さん、こんにちは。

”モーツァルトの「最高傑作」”というのもあながち的外れではありませんね。
これほどまでに美しく優しさに溢れた曲も無いですからね。この曲を聴いているとどっぷりと幸福感に浸ってしまいます。
本当に素晴らしい名曲です。

投稿: ハルくん | 2014年5月11日 (日) 08時43分

ハルくん様 初めまして。
膨大な曲に対し独自の見識を披露され、いつも楽しみに拝読しております。

さて、本当はコメントではないメッセージを送りたかったのですが、方法がわからずご容赦くださいませ。

フルートとハープのための協奏曲は大好きな曲で、名盤紹介を拝見したところ、ご指摘点がありましたので申し上げます。

ベーム指揮VPO盤のフルートがトリップとお書きになっておられますが、先頃逝去したウォルグガング・シュルツが正しいと思われます。本サイトで紹介のCDではトリップ演奏のフルート協奏曲1番とカップリングされているため、混同されたものと推察致します。

ちなみに私の手持ちCDでは、本サイトでも名演とご紹介の、プリンツによるクラリネット協奏曲とのカップリングです。25年以上前、高校1年生だった私が初めて買ってもらったクラシックのCDであり、両曲とも数えきれないほど愛聴してきました。ウィーン・フィルの絶美の響きに今も癒されます。

以上ぶしつけな乱文失礼しました。本サイトのますますのご発展を祈念致します。

投稿: スカイ | 2015年1月15日 (木) 18時38分

スカイさん、はじめまして。

御指摘を頂いた点ですが、正にご推察の通りなのです。CDジャケットの裏を見間違えてしまいました。
さっそく記事を修正しました。どうも有難うございます。
御指摘にご配慮を頂いたようですが、ご心配は無用です。これまでにも何度も誤りのご指摘を頂いています。(汗) ぶしつけなどとは少しも思いませんので、どうぞご安心ください。

ウイーン・フィルのモーツァルトは本当に魅力的ですね。ベームが振るとそこに風格が加わるので最高ですね。

これからもどうぞお気軽に何でもコメントを下さい。楽しみにお待ちします。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。

投稿: ハルくん | 2015年1月15日 (木) 21時25分

ミュンヒンガー盤も実にすばらしいですね!!
ソロ、オケ、録音と完璧です。
音による極楽浄土‼
これ以上の言葉を重ねる方が失礼かもしれません。

この演奏を聴きながら、モーツァルトの時代は
貴族たちだけが(生演奏だけを)聴くことができたのに対し
現代の我々は様々なメディアで自由自在にほとんど廉価で
あらゆる音楽を聴けるありがたさをあらためて感じました。

それくらいすばらしい演奏ですね。

投稿: 影の王子 | 2016年10月19日 (水) 22時11分

影の王子さん、こんにちは。

ミュンヒンガー盤は本当に素晴らしいですよね。
どの評論家が推薦したとかしないとかは関係なく正に不滅の名盤です。このような演奏を好きな時に聴いて楽しめるというのは何と幸せなことでしょう!

投稿: ハルくん | 2016年10月20日 (木) 12時01分

謹賀新年 ←ご挨拶が大変遅くなりました。

昨夜、ランパル/パイヤール→トリップ/ミュンヒンガーと続けて聴きました。

前者は冒頭から(イメージでしかないのですが)フランスの街を感じさせてくれます。行ったコト無いですけど苦笑。後者は全体を一定の暗さが覆っています。

モーツァルトがフランスで書いたというコトでは前者で納得なのですが、目的だった仕事探しは上手くいかず、神童として好待遇だった1度目とは違う状況の中で書かれた点でいえば後者にこそ本質が在るのではと感じます。

聴き比べの醍醐味を感じさせてくれた夜でした。

投稿: source man | 2017年2月14日 (火) 10時05分

source manさん、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします!

パイヤール盤とミュンヒンガー盤の聴き比べでしたか。どちらも個性がはっきりしていて、それでいて甲乙の全く付けがたい素晴らしさですね。もちろん名曲ですので他にも名演奏は有るのでしょうが、正に「双璧」という言葉がふさわしい両盤だと思います。

それにしてもウォルフィーくんは何と美しい名曲を書いたことでしょう!

投稿: ハルくん | 2017年2月14日 (火) 12時43分

ハルくん様
カール・ミュンヒンガー。戦後、シュツットガルト室内楽団を率いて、イタリアのイ・ムジチとロマン派風に歪められたバロック音楽を、清新なあるべき姿に復興すべく、覇を競ったお方でしたね。
ただ、昨今はDecca社もこのお方の音源のセールスに余り力を入れておられず、寂しいですね。昨今のオリジナル楽器団体の隆盛の前に、過去の人と見なされているのかも、知れません。
でも、このアルバムはかの宇野功芳さんも筆を極めて御賞賛しておられましたし、今後とも聴かれ続けられるでしょう。

投稿: リゴレットさん | 2018年4月23日 (月) 06時49分

リゴレットさん

宇野先生絶賛のこのミュンヒンガー盤はずっと聴き続けられて欲しいですよね。
いつ聴いても本当に素晴らしいです。

投稿: ハルくん | 2018年4月23日 (月) 16時15分

ハルくん様
旧ソ連の衛星国だった、共産主義諸国家は政治体制は胡散臭いイメージもございましたが、こと文化面に関しては商業主義に毒されない美しさも、あったと言う事でしょうね。
国家上層部が情報統制し、その国の音楽愛好家は商業主義の下に西側を席巻するスター演奏家の名は知らない。ある意味では、健全だったかも(笑)。

投稿: リゴレットさん | 2018年4月29日 (日) 11時20分

こんばんは。

大阪地震のショックで音楽を聴く気も萎えていましたが
古楽器のインマゼール盤を聴いて気持ち良くなりました
(その後余震が来ましたが)。
幸いケガも被害もありませんでしたが
阪神淡路は宝塚で体験しており・・・

地震その他災害だけでなく「自分の命には限りがある」
という事をあらためて認識して「音楽を聴く」となると
「新しい音楽を追求する」のは辞めて「既存の名曲名盤に固執する」
方が賢明な気がしてきましたが、どう思われますか?

投稿: 影の王子 | 2018年6月24日 (日) 20時53分

影の王子さん

ご無事でなによりです。
でも大阪はまだまだ大変ですね。
早く元に戻る・・というか改めて安全対策をしっかりとやって貰いたいですね。

確かに人生には限りがありますからね。
ひと通り知られた名曲、名盤を聴いてしまうと、新たに聴いて「良かった!」と思える確率はかなり低くなってきますので、むしろ既存の名曲を聴き直したいという気持ちが時々首をもたげています。
モーツァルトやベートーヴェンのシンフォニーなども最近ちっとも聴いていないのが寂しく思えます。じゃ聴けば良いのでしょうが、それが中々時間が無いのですよね。

投稿: ハルくん | 2018年6月25日 (月) 13時31分

私は、交響曲全部聞くことは殆どなくなりました。
好きな楽章や気になる楽章、それも途中から何度も聞き直したり。
これは自分の今のテンションとは違う音楽だと感じたら途中でもバッサリ聞くのを止めます。
これから盛り上がろうとする音楽を急に止める。
マーラー音楽的聞き方ですね 笑
これは、現代人的音楽の聞き方です。
あるリズムで聞いてた音楽が電話などで中断され、まったく違うリズムの音楽を聞く。
ブルックナー9番1楽章を聞いた直後に倉木麻衣の初期小規模ライブを聞いて神々しいと思うなどです。

投稿: pp | 2018年6月26日 (火) 07時55分

ppさん

聴き方は人により様々ですね。
僕はどちらかいうと聴くときには全曲を通して聴きたいタイプです。ですのでその時の時間的な都合と気分に合わせて曲を選びます。自宅で鑑賞するときも演奏会で聴くときのように1曲ごとに集中したいというのが理想です。といいながら実際には別の事をやりながら聴くことも多く、集中して聴けていないことが多々有るのが実情です。
中々理想通りには参りません(苦笑)

投稿: ハルくん | 2018年6月26日 (火) 12時47分

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