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2014年4月11日 (金)

モーツァルト 「レクイエム」 続々・名盤 ~個性的な演奏にゾクゾク~

モーツァルトの絶筆にして、彼の宗教音楽の最高峰「レクイエム」K626。たとえ未完成作品であろうが、ジュースマイヤーの補筆に不満を感じる人が居ようが居まいが、やはり素晴らしいものは素晴らしいです。

前回「レクイエム 続・名盤」を記事にしてから、まだ幾らも経っていないのですが、その後にも特記したいディスクに幾つか出会いましたので「続々・名盤」としてご紹介することにします。

1444765 フェルディナント・グロスマン指揮ウイーン・コンツェルトハウス管、ウイーン少年合唱団(1960年録音/PILZ盤) ウイーンの合唱指揮者グロスマンは「戴冠ミサ」の名盤で有名ですが、他にも「大ミサ曲ハ短調」の録音が有りました。そして「レクイエム」の録音も残していたことを最近知りました。一口で言って「大らか」な演奏です。「戴冠ミサ」「大ミサ」も、やはり大らかな演奏が魅力でしたが、それがグロスマンの良さです。ウイーン少年合唱団もギレスベルガー盤ではかなり精密なコーラスを聴かせてくれましたが、このグロスマン盤は、声楽の専門家にかかれば「稚拙」の烙印を押されるのは明らかです。ボーイ・ソプラノによる独唱も大人の歌手に比べればつたなさの極みです。ですが、近年の刺激的な古楽器派の演奏を多く聴いていると、この大らかさにはとても安らぎを感じます。地獄の淵をのぞき込むような深刻さとは無縁で、ごく親しい人の死に向き合うような慈愛の雰囲気に満ち溢れています。それはまた、1950年代の大指揮者達のロマンティックな前時代的な演奏とも異なります。いかにもオーストリアの本当の教会的な演奏だということで独特の個性を感じます。

Op30307 クリストファー・シュペリング指揮ノイエ・オーケストラ(2001年録音/仏OPUS盤) この演奏は恥ずかしながら、ブログお友達のヨシツグカさんに教えて貰うまで知りませんでした。このCDのユニークな点は、ジュスマイヤー版による演奏とは別に、モーツァルトが実際に書き残した草稿をそのままに演奏して録音していることです。それを耳にしてみると、書き残された部分がどれほど多かったことか愕然としてしまいます。ジュスマイヤーの補筆作業の偉業には改めて感心するばかりです。しかし、シュペリングのジュスマイヤー版の演奏にも驚かされます。まるで現代の古楽器派の演奏に対するアンチテーゼといった雰囲気です。緩急の巾が大きく、遅い部分は極めて遅く物々しいといったらありません。「イントロイトス」「キリエ」のレガートで遅く粘る演奏は、まるでイエスが十字架を背負って引き擦っているかのようです。それが「怒りの日」では超快速で駆け抜けます。「みいつの大王」も飛び跳ねるようです。最初は正直「なんだこれは」と唖然としました。ただ、シュペリングの演奏には嘘くささが無く、大真面目に表現しているように感じられるのが凄いです。とても単なる”古楽器派”のひとくくりには出来ない個性を感じます。

31m57g1m59l ヨス・ファン・フェルトホーフェン指揮オランダ・バッハ協会管弦楽団&合唱団(2001年録音/Channnel Classics盤)

ここで演奏されているのは、ジュースマイヤー版をオランダの学者フロトゥイスが改定を行った版に寄ります。それというのも1941年にエドゥアルト・ヴァン・ベイヌムがこの曲を演奏する際にフロトゥイスに助言を求めた為に、よりモーツァルトらしいものにするという考えで改訂作業を行ったそうです。従って、今後もこの版で演奏するのはオランダの演奏家のみではないでしょうか。”バロック的”とでも言えるような、比較的少人数による純度の高い演奏ですが、各声部が非常に明確に歌い(弾き)分けられていて感心します。全体にテンポは速めですが極端ではありません。贅肉の無い引締まった良いテンポです。最近の古楽器派のように、ことさら刺激的に聴かせようと意図しているわけでは無さそうなので、抵抗感は感じません。最も、少々端正な方向に傾き過ぎて劇的効果が少ないのが、好みの分かれ目だという気がします。自分としては、とても好意的に感じられます。少しも奇をてらったところの無い、これもまた個性的な美演だと思います。

ここでもう一度まとめてみますと、「モツレク」の現時点でのフェイヴァリット盤は、まず少年合唱の感動的なハンス・ギレスベルガー盤、現代楽器オーケストラ演奏からカール・ベーム/ウイーン・フィル盤、古楽器オーケストラ演奏は激戦で、ペーター・ノイマン盤、フランス・ブリュッヘン盤、ヨス・ファン・フェルトホーフェン盤の3つですが、別枠としてモーツァルトの自筆草稿によるクリストファー・シュペリング盤を加えたいと思います。

ここまで多種多用ですと、まるで異種格闘技状態ですが、それだけこの曲が一定の演奏スタイルの枠に捉われない懐の広さを持っているからでしょう。どれも個性的な演奏ですので、聴いていて本当にゾクゾクして来ます。

ということで、しばらくモーツァルトの宗教音楽を記事にしてきました。まだまだ素晴らしい曲が沢山有るので後ろ髪を引かれる思いですが、ここで一旦お休みをして、次回からは「モーツァルトの名曲三昧シリーズ」をスタートします。宗教音楽の続きは近いうちにまた。

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コメント

ハルくんさん、こんばんは。
シュペリング盤、聴かれたのですね。 お気に召したご様子なので、良かったです。
前回のコメントで ジュスマイヤー版の演奏について触れずにいましたが、理由としては "適切な表現が見つからなかった"為です。(笑)
まさに「なんだ これは…」ですね(笑)
でも、何度も聴いていると 真摯な態度で 作品と真正面から取り組んでいる事が良くわかります。
誤解を恐れずに "表現"するなら 「初めて フルトヴェングラーのベートーヴェンに接した時のような衝撃」 でしょうか…。(笑)
(う~ん…ちょっと違うか…?(笑))

投稿: ヨシツグカ | 2014年4月11日 (金) 19時03分

ヨシツグカさん、こんばんは。

シュペリング盤のご紹介を頂いて本当に良かったです。自筆草稿による演奏と大胆な解釈による演奏と”二重の衝撃”を受けました。記事内にも書きましたが、様々な演奏スタイルに対するこの曲の持っている許容範囲の広さというのは計り知れませんね。それだけモーツァルトの才能の凄さの証明ではないでしょうか。
それにしても、この作品がもしも本人の筆で完成されていたら、一体どんなことになっていたのでしょうね。

投稿: ハルくん | 2014年4月12日 (土) 00時39分

ハルさま、はじめまして。よろしくお願い致します。
モーツァルトに関連するものは大体読ませていただきました。
ここ最近私自身は、クリップスの演奏を好んで聴いています。それ以前に好きだった演奏は、セル、晩年のブリュッヘン、コープマン、ヴァルター、ベーム、オペラ・レクイエム限定でカラヤンです。
最近、そのクリップスのレクイエムを2種類聴くことができました。
https://www.youtube.com/watch?v=J9il-dnFPio
https://www.youtube.com/watch?v=ttiOuIaqsSw
私は、ハルさまと似ていて、後者のヴィーン少年合唱団が、合唱とソロをとる演奏が好きです。アンサンブルは前者を選びますが、怒りの日にしても、穏やかで、柔らかく芳醇な鳴らし方は一貫していてとても好きです。ハルさまの感想をお聞かせ下さい。また、フェルディナント・グロスマンとハンス・ギレスベルガーの指揮では、どちらがクリップスの演奏スタイルに近いでしょうか。

投稿: Kasshini | 2015年2月17日 (火) 09時47分

Kasshiniさん、はじめまして。
コメントを頂きまして誠にありがとうございます。こちらこそどうぞよろしくお願いします。

クリップスはとても好きな指揮者ですが、ウイーンの楽団を指揮した演奏は特に素晴らしいですね。
モツレクの演奏のご紹介をありがとうございました。どちらも好きですが、1955年の演奏の柔らかさとおおらかさは良いですね。元々ボーイソプラノとアルトが歌う演奏は好きですし。
グロスマンとギレスベルガーのどちらと似ているかと言われれば、世代のせいもありますが、間違いなくグロスマンです。
ただ、ギレスベルガーの厳しさは現代的な精緻な演奏とは全く異なり、やはりウイーンの伝統を継承した素晴らしい演奏ですので、どちらもお勧めとしか言えません。

いつでもまた何でもお気軽にコメント下さい。楽しみにお待ちしております。

投稿: ハルくん | 2015年2月17日 (火) 23時34分

ハルさん、お久しぶりです。
あれからギレスベルガー盤がAmazonにあったので、独盤を購入し、今聴いています。
クリップスと似ているなと思えるところは、怒りの日でも柔らかく優美に鳴ることでしょうか。フォーレのレクイエムに近接していていいなと思いました。
クリップスの指揮で、ヴィーン宮廷楽団、デンマーク放送合唱団のテノール、バス、ヴィーン少年合唱団、ソロを、声が綺麗なボーイ・ソプラノ、アルト、ペーター・シュライヤー、ヴァルター・ベリーで聴いて見たかったですね。
ジュスマイヤー版のため、ラクモリーサでアーメン・フーガなし、アイブラーらの補筆が反映されていないといった傷がありながら素敵な演奏でした。ブル9の補筆でお馴染みのSMPCがその点にトライしたらしいのでそちらにも興味ありですが、この演奏はもっと知られていいと思います。アヴェ・ヴェルム・コルプスも今まで聴いた中で最も良かったです。ありがとうございました。

投稿: Kasshini | 2015年3月22日 (日) 11時13分

Kasshiniさん、こんにちは。

ギレスベルガー盤は既に希少になっているので良かったですね。独盤というと独RCA盤なのでしょうか。僕のはタワーレコード盤なので「戴冠ミサ曲」との組み合わせですが、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」も素晴らしいとのこと。良かったです。

投稿: ハルくん | 2015年3月23日 (月) 23時38分

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