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2014年4月30日 (水)

モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調K.219「トルコ風」 名盤

Mozart5

モーツァルトが20歳になる一か月前に書き上げたヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」K.219は、彼の最後のヴァイオリン協奏曲です。第3番や第4番も素晴らしい作品でしたが、第5番は音楽の充実度において更に進化を遂げた”最高傑作”と呼んで良いと思います。この曲の副題が「トルコ風」というのは、第3楽章にトルコ行進曲風のリズムが現れるからです。

もちろんこの曲でもフランス的なギャラント趣味は失われていませんが、第4番以上にドイツ・オーストリア的な曲想から成っています。

第1楽章アレグロ・アぺルト オーケストラによる提示部に心が涌きたてられた後、ヴァイオリンの序奏から主題に移ってゆく音楽の流れの素晴らしさにはほとほと感心します。主部では躍動感とチャーミングさが絶妙に融け合っているのが最高です。

第2楽章アダージョ 何という魅力的なアダージョなのでしょうか。ためらいがちに登場するヴァイオリン独奏のいじらしさには心が震える思いです。

第3楽章ロンド、テンポ・ディ・メヌエット 主部は素晴らしく優雅なメヌエットですが、中間部でアレグロに変り「トルコ行進曲」が登場します。トルコの軍隊が行進するときの太鼓を表すのに、この曲では打楽器が使われていません。モーツァルトはその代わりに弦楽器に”コル・レーニョ”という弓の裏側の木の部分を使って弦をビシビシと叩く演奏法を取り入れることによって、太鼓を表現しているのです。このコル・レーニョ奏法は、ベルリオーズの「幻想交響曲」やマーラーの幾つかの交響曲などで使われていますが、有名な作品に使われた例としてはこの曲が最初ではないでしょうか。もしかしたらモーツァルトの発案なのかもしれませんが、そこのところは良く分りません。
優雅なメヌエットとダイナミックなトルコ行進曲の対比が抜群のこの楽章は本当に愉しさ一杯です。

それでは、この曲の愛聴盤のご紹介です。

Ferras8c_2 クリスチャン・フェラス独奏、アンドレ・ヴァンデルノート指揮パリ音楽院管(1960年録音/EMI盤) フェラスのヴァイオリンの音はギャラント風のモーァルトとしては最上の一つだと思います。軽いリズム感と切れの良さは大切な要素なのですが、余りに過ぎた”小股の切れ上がり”も自分の好みから外れてしまいます。相変わらず装飾音のセンスの良さには溜息が出ますが、それが少しもしつこさを感じさせません。常に青春の瑞々しさを失わないのです。但し2楽章に陶酔感が幾らか不足しているようには感じられます。

61rtc442gfl アルトゥール・グリュミオー独奏、コリン・デイヴィス指揮ロンドン響(1961年録音/フィリップス盤) グリュミオーもギャラント風のモーァルトとして最上のものです。初々しさにおいてはフェラスの方が上ですが、逆にグリュミオーは歌い回しの素晴らしさだけでなく表情に艶っぽさが増していて、これもまた非常に魅力的です。1、3楽章での切れの良さはもちろんですが、2楽章の甘い陶酔感もフェラスを遥かに凌駕しています。デイヴィスの伴奏するロンドン響も、表情づけと躍動感が非常に素晴らしいです。フィリップスの柔らかい録音も優秀です。

41wcfg0pb0l ヴォルフガング・シュナイダーハン独奏、指揮ベルリン・フィル(1967年録音/グラモフォン盤) フェラス、グリュミオーとギャラント風の演奏を聴いた後だと、シュナイダーハンの落ち着いたウイーン・スタイルの魅力を改めて感じます。それは決して躍動感が損なわれているわけでは無く、歌い回しに常にゆとりが有るからです。2楽章もゆっくりとしたテンポで柔らかく歌い、しっとりとした情緒が一杯にこぼれますが、妙にベタベタすることはありません。こうした味わいは、やはりウイーンの音楽家ならではです。

685 ダヴィド・オイストラフ独奏、エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1956年録音/オルフェオ盤) ロシア演奏家がウイーンに乗り込んでのライブ録音です。オイストラフは”ロシア風”ということではありませんが、初々しさからは遠い演奏です。歌い回しに、どうしてもくどさや粘り気を感じてしまいます。レニングラード・フィルも部分的にリズムがコケていたりして、この曲の伴奏は余り経験をしていないように感じられます。非常に興味をそそられた組み合わせの割には聴後の感動は薄かったです。モノラル録音ですが音質は水準以上です。

Menuhin_violin_con_02 ユーディ・メニューイン独奏、指揮バース祝祭室内管(1961年録音/EMI盤) 晩年のメニューインはテクニック的には聴き劣りしますし、豊麗な音色を持っているわけでも有りません。けれでも落ち着いたテンポで常に音楽にゆとりを感じさせます。”小股の切れ上がった”演奏からは程遠い存在ですが、どの部分でもじっくりと弾き込んでいて、フレージングの端々から慈愛を一杯に感じさせてくれます。オーケストラは超一流とは言い難いですが、指揮振りですので、アンサンブルの呼吸はピタリと合っています。

51fi6elzyl モニカ・ハジェット独奏、指揮エイジ・オブ・インライトゥメント管(1993年録音/ヴァージン盤) ハジェットのモーツァルトとしても最高の出来栄えですが、なによりもハジェットの大胆な歌い回しによる豊かな表現力に脱帽します。それでいて、わざとらしいあざとさが全く感じられない自然さが凄いです。モーツァルトの演奏はどちらか言えば現代楽器の豊かな音を好みますが、この演奏の持つオーケストラも含めて古雅で美しい響きに心から魅了されてしまいます。3楽章のコル・レーニョが凄まじい叩き方で驚かされますが、メンバーの弓を心配してしまいます。(笑)

ということで、この曲のマイ・フェイヴァリットとしては、アルトゥール・グリュミオー盤、ヴォルフガング・シュナイダーハン盤、そしてモニカ・ハジェット盤の3つです。

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モーツァルト(協奏曲:ヴァイオリン)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんにちは。
モーツァルトのヴァイオリンを伴う協奏曲には ほかに、K,364の協奏交響曲がありますが、(あと、疑作の第7番も…)
この「第5番」は確かに充実した作品ですね。
第一楽章の序奏が始まると、 ワクワクして 一気に最後まで聴いてしまいます。(俗に言う"持って行かれる"と言う事でしょうね)
私も大好きです。
CDは グリュミオー盤の他に ティボーのSP復刻盤を持っていますが、音が非常に「残念」なので、グリュミオー盤ばかり聴いています。 本当に素晴らしい全集ですよね。
 
(シュナイダーハンの全集盤を 注文してしまいました。(笑)
到着が楽しみです。)

投稿: ヨシツグカ | 2014年5月 1日 (木) 13時03分

ヨシツグカさん、こんにちは。

K364の協奏交響曲は間違いなく傑作ですが、個人的にはやはり「第5番」が一番好きですねぇ。

グリュミオーの全集は「これさえあれば」盤だと思いますが、シュナイダーハンもホント良いですよ。フランス風とドイツ・オーストリア風を聴き比べて楽しむには、この二組は最高だと思います。
ヨシツグカさんのご感想がとても楽しみです。

投稿: ハルくん | 2014年5月 1日 (木) 13時54分

こんばんは。

ムターが指揮も兼ねた(ロンドン・フィル)全集盤(DG)は
「濃厚すぎる」と評判が良くないようですが
僕には「アリ」でした。
録音の良さも含め、ハイ・グレードです。
とにかくヴァイオリンの音色を堪能させてくれるのですが
それがモーツァルトの音楽を損なっていないと僕は思いました。

投稿: 影の王子 | 2015年11月 3日 (火) 23時03分

影の王子さん、こんばんは。

ムターの近年の演奏は好みが分かれるのでしょうね。モーツァルトに限らず、結局は自分の耳と心次第になるわけですから。
それに世評ほど当てにならないものもありません。
「世評」に振り回されるのではなく、「世評」を読み解くことが大切ですね。それは音楽以外のことでも同じですね。

投稿: ハルくん | 2015年11月 6日 (金) 00時00分

こんばんは。

ヒラリー・ハーン&パーヴォ・ヤルヴィのDG盤、今一つです。
しかし、併録のヴュータンのヴァイオリン協奏曲第4番がすばらしい。
ヴァイオリンは本当に美音だし、オケともども音楽が実にイキイキ。
録音もかなり良好。
これはヴァイオリンの魅力をたっぷりと堪能させてくれる名演です。
毎日聴いて飽きません。

投稿: 影の王子 | 2018年5月24日 (木) 20時45分

影の王子さん

ヒラリー・ハーンは今のところピンと来たことが有りません。といってもほとんどCDを購入はしていないのですが。
最初に購入したシベリウスが期待外れだったのが原因です。ヴュータンなんかは向いているのかもしれませんね。
ご紹介ありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2018年5月25日 (金) 11時36分

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