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2014年4月18日 (金)

モーツァルト 交響曲第29番イ長調K.201 名盤

モーツァルトの全交響曲のうち、第34番まではウイーンに移る前のザルツブルク時代に書かれました。そのうち第31番以降になると管弦楽的にも充実して来ますし、明るく華麗な曲想がモーツァルトのファンの心を捉えることと思います。ただ、その割には天才的な”閃き”や”霊感”といったものは余り感じさせません。むしろ、それより前の第25番ト短調K183や第29番イ長調K201の方にずっと閃きが感じられますし、個人的には終楽章がとてもチャーミングな第28番ハ長調K200にも惹かれます。

交響曲第29番は第25番の翌年、モーツァルトが18歳のときに書かれました。この曲はオーボエ2、ホルン2、それに弦楽だけという、ほとんど室内合奏曲の構成です。曲全体がとても落ち着きのある典雅な趣で覆われているので、いつまでもこの曲の雰囲気に浸っていたくなります。疾風怒濤の第25番が”風雲!真田雪村”だとすれば、第29番はさしずめ”徳川天下太平”といったところで、非常に好対照の曲想です。この2曲はどちらも人気が高いですし、ディスクに組み合わされることがとても多いです。

それでは愛聴盤のご紹介です。

51v9fr97jxl ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1954年録音/CBS盤) モノラル録音ですが、ワルターは第29番をステレオ録音で残していませんので、その点では貴重です。割に速めのテンポで生命力に溢れていますし、チャーミングな表情を多く感じさせるのは流石にワルターです。但し、ステレオ時代のCBS録音に聴かれるような、まるでヨーロッパのオーケストラのような音の柔らかさはいま一つ出し切れていません。ワルター向きと思えるこの曲にはステレオによる再録音を残して欲しかったです。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1968年録音/グラモフォン盤) ベームの交響曲全集に収録されています。ゆったりとしたテンポによる造形のしっかりとした演奏ですが、躍動感も充分感じられます。ベルリン・フィルのくすんだ響きはいかにもドイツ風ですし、弦の十六分音符の刻みは厳格そのものです。ワルターのような微笑みかけるモーツァルトではありませんが、決して厳めしく感じられることは無く、ベームのモーツァルトの音楽への敬愛の念を感じずにはいられません。ベームの第29番というとウイーン・フィル盤が語られることが多いですが、ベルリン・フィル盤も実に素晴らしい演奏です。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1960年録音/Berlin Classics盤) スウィトナーはSKドレスデンと1960年から1975年までの間に第28番以降の全交響曲を録音しましたが、これはその最初の録音です。通常は、相当速いテンポを基調とするスイトナーのモーツァルトですが、この曲では意外にゆったりとしています。ウイーン・フィルほど柔らかくは無く、ベルリン・フィルほど暗さの無い、SKドレスデンの典雅な響きが魅力的です。スウィトナーのモーツァルトは本当にどれも素晴らしかったです。

064 カール・ベーム指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1972年録音/オルフェオ盤) ザルツブルク音楽祭のライブ録音です。テンポ設定や解釈は4年前のベルリン・フィル盤と極似していますが、実演だけあって、各楽器の表情には豊かさが増していますし、自由さも感じられます。中低弦が物を言うのは流石にSKドレスデンですし、終楽章の躍動感もベルリン・フィル盤以上です。もちろん典雅で滋味あふれるオーケストラの音色は健在で、録音もそれをほぼ忠実に捉えてくれています。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1973年録音/DECCA盤) 第21番以降の交響曲選集に含まれています。ウイーン生まれのクリップスは本当にヨーロッパの伝統を持った指揮者だったと思います。大戦中ナチスに非協力的だったためにベオグラードに追いやられて、指揮業の傍らに食品工場で働く時期もあったそうです。そんな苦労人の演奏は、戦前の大指揮者達の個性的なそれとは異なって、過不足の無い中庸の音楽美を感じさせます。そんなスタイルがコンセルトへボウの美しい響きと組み合わさって、この曲にぴったりです。

2531335カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1980年録音/グラモフォン盤) ベームはこの曲を壮年期でもゆっくり目のテンポで振りましたが、最晩年のスタジオ録音ともなると更にゆったりとしていて、人によっては付いていけないかもしれません。けれども、ウイーン・フィルのレガート気味な柔らかい弾き方による美しく優雅な響きに身を浸していると、テンポの感覚が徐々に失われてゆくほどです。自分にはこの曲を非常に愛したベームの辞世の歌とも呼ぶべき感動的な演奏に感じられます。録音はベームの中では最上です。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 同じウイーン・フィルを振ってもベームに比べると、ずっと現世的な喜び溢れる演奏に聞こえます。このシンフォニーから引き出される音楽の奥深さという点では、ベームに一日の長が有りそうですが、こちらは素晴らしく美しい音で、こぼれるほどにチャーミングな演奏ですので、バーンスタインの演奏の方を好まれる人もきっと多いと思います。

この曲については、やはりベームの演奏に格の違いを感じます。ベルリン、ドレスデン、ウイーンのどの演奏にも惹かれてしまい、絞り込むのは中々に困難です。

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コメント

ハルくんさん、こんにちは。
第31番から34番までの作品には 「華麗で典雅なものを作ってやろう」といった"念"のようなものを感じます。
もしかしたら、それが"閃き"を鈍らせたのかも知れませんね。
対して 第25、28、29番は もっと自由に書いているように感じるので、魅力的な作品になったのではないでしょうか。
第29番の私の愛聴盤は、やはり ベームのライブ盤です。もちろん、'72年のSKD盤は最高ですが、'77年にウィーン・フィルと演奏した 東京ライブ盤も なかなか美しいです。

投稿: ヨシツグカ | 2014年4月19日 (土) 10時26分

ヨシツグカさん、こんにちは。
いつもコメントをありがとうございます。

第31番から34番までの作品にはパリ趣味が濃く出ているのでしょうね。コンチェルトなどではそれが魅力になっている場合も有りますが、シンフォニーの場合は余り感じることが出来ません。好みが変わることも有るのかもしれませんが。

ベームの東京ライブ盤はちょうどドレスデン盤とウイーンPOのDG盤との中間的なように感じます。ウイーンPO同士で比べれば、DG盤よりも良い部分も多いですが、自分は録音も含めてDG盤を聴いています。それにしてもベームはこの曲の演奏はどれも素晴らしいですね。

投稿: ハルくん | 2014年4月19日 (土) 12時16分

カール・ベーム指揮シュターツカペレ・ドレスデンの録音は私のお気に入りのCDなので、紹介して下さって、本当に感謝です。
ベームと言えばウィーンフィルとの関係が有名ですが、最近、シュターツカペレ・ドレスデンとの組み合わせも最高だったのではと思っています。
この組み合わせで日本公演が実現しなかったのは、本当に残念です。

投稿: オペラファン | 2014年5月 1日 (木) 11時51分

オペラファンさん

ベーム/ドレスデン盤がお気に入りなのですね。本当に素晴らしいですからね。

ベームはドレスデンとはウイーンPO以上に色々とオペラ録音を残していますよね。確かに何故か余り話題に上りませんが、素晴らしいものが多いと思います。今年はモーツァルトのオペラを記事にしたいと思っていますので、そこで是非取り上げたいです。

投稿: ハルくん | 2014年5月 1日 (木) 13時44分

こんにちは。

ベーム&ウィーン・フィルのDG盤良いですね。
テンポは遅いですが、それがツボにはまっています。
聴いていて幸せな気分になれる演奏です。

投稿: 影の王子 | 2014年5月 6日 (火) 10時06分

影の王子さん、こんにちは。
こちらへもコメントありがとうございます。

ベーム/VPO素晴らしいですね。
そうなんです。あのゆったりとしたテンポ感が何とも言えないのですね。
個人的にはやはりこの演奏が一番好きかもしれません。

投稿: ハルくん | 2014年5月 6日 (火) 11時42分

投稿: 影の王子 | 2016年12月13日 (火) 18時54分

影の王子さん、こんにちは。

米国では街のレコード売り場のクラシック比率は非常に低いですからね。
ポップスがダウンロードに移行した分、CDの中ではクラシックの比率が上がったということですか。なるほど。
でも素晴らしいことですね!
それにしてもさすがモーツァルト!何でもモーツァルトの曲にもし著作権が残っていたら小さな国が買えるそうです。

投稿: ハルくん | 2016年12月15日 (木) 23時34分

こんばんは。

やはり、モーツァルト強し!

http://www.hmv.co.jp/fl/12/1334/1/

しかし、現役アーティストの新譜がまったく売れない証拠
でもあり、そら寒くなります・・・

投稿: 影の王子 | 2016年12月23日 (金) 18時50分

影の王子さん、こんにちは。

200枚組ですか!百科事典並みですね。
百科事典は家に置いてあってほとんど部分的にしか目を通されないのが普通でしょう。
BOXセットが割り安で良く売れるのは良いですが、その為に現役演奏家の新盤が売れないのは考えものですね。
現役世代を救済しないと、いずれは全体が滅びてしまうのは人間社会と同じですね。

投稿: ハルくん | 2016年12月23日 (金) 23時29分

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