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2014年4月

2014年4月30日 (水)

モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調K.219「トルコ風」 名盤

Mozart5

モーツァルトが20歳になる一か月前に書き上げたヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」K.219は、彼の最後のヴァイオリン協奏曲です。第3番や第4番も素晴らしい作品でしたが、第5番は音楽の充実度において更に進化を遂げた”最高傑作”と呼んで良いと思います。この曲の副題が「トルコ風」というのは、第3楽章にトルコ行進曲風のリズムが現れるからです。

もちろんこの曲でもフランス的なギャラント趣味は失われていませんが、第4番以上にドイツ・オーストリア的な曲想から成っています。

第1楽章アレグロ・アぺルト オーケストラによる提示部に心が涌きたてられた後、ヴァイオリンの序奏から主題に移ってゆく音楽の流れの素晴らしさにはほとほと感心します。主部では躍動感とチャーミングさが絶妙に融け合っているのが最高です。

第2楽章アダージョ 何という魅力的なアダージョなのでしょうか。ためらいがちに登場するヴァイオリン独奏のいじらしさには心が震える思いです。

第3楽章ロンド、テンポ・ディ・メヌエット 主部は素晴らしく優雅なメヌエットですが、中間部でアレグロに変り「トルコ行進曲」が登場します。トルコの軍隊が行進するときの太鼓を表すのに、この曲では打楽器が使われていません。モーツァルトはその代わりに弦楽器に”コル・レーニョ”という弓の裏側の木の部分を使って弦をビシビシと叩く演奏法を取り入れることによって、太鼓を表現しているのです。このコル・レーニョ奏法は、ベルリオーズの「幻想交響曲」やマーラーの幾つかの交響曲などで使われていますが、有名な作品に使われた例としてはこの曲が最初ではないでしょうか。もしかしたらモーツァルトの発案なのかもしれませんが、そこのところは良く分りません。
優雅なメヌエットとダイナミックなトルコ行進曲の対比が抜群のこの楽章は本当に愉しさ一杯です。

それでは、この曲の愛聴盤のご紹介です。

Ferras8c_2 クリスチャン・フェラス独奏、アンドレ・ヴァンデルノート指揮パリ音楽院管(1960年録音/EMI盤) フェラスのヴァイオリンの音はギャラント風のモーァルトとしては最上の一つだと思います。軽いリズム感と切れの良さは大切な要素なのですが、余りに過ぎた”小股の切れ上がり”も自分の好みから外れてしまいます。相変わらず装飾音のセンスの良さには溜息が出ますが、それが少しもしつこさを感じさせません。常に青春の瑞々しさを失わないのです。但し2楽章に陶酔感が幾らか不足しているようには感じられます。

61rtc442gfl アルトゥール・グリュミオー独奏、コリン・デイヴィス指揮ロンドン響(1961年録音/フィリップス盤) グリュミオーもギャラント風のモーァルトとして最上のものです。初々しさにおいてはフェラスの方が上ですが、逆にグリュミオーは歌い回しの素晴らしさだけでなく表情に艶っぽさが増していて、これもまた非常に魅力的です。1、3楽章での切れの良さはもちろんですが、2楽章の甘い陶酔感もフェラスを遥かに凌駕しています。デイヴィスの伴奏するロンドン響も、表情づけと躍動感が非常に素晴らしいです。フィリップスの柔らかい録音も優秀です。

41wcfg0pb0l ヴォルフガング・シュナイダーハン独奏、指揮ベルリン・フィル(1967年録音/グラモフォン盤) フェラス、グリュミオーとギャラント風の演奏を聴いた後だと、シュナイダーハンの落ち着いたウイーン・スタイルの魅力を改めて感じます。それは決して躍動感が損なわれているわけでは無く、歌い回しに常にゆとりが有るからです。2楽章もゆっくりとしたテンポで柔らかく歌い、しっとりとした情緒が一杯にこぼれますが、妙にベタベタすることはありません。こうした味わいは、やはりウイーンの音楽家ならではです。

685 ダヴィド・オイストラフ独奏、エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1956年録音/オルフェオ盤) ロシア演奏家がウイーンに乗り込んでのライブ録音です。オイストラフは”ロシア風”ということではありませんが、初々しさからは遠い演奏です。歌い回しに、どうしてもくどさや粘り気を感じてしまいます。レニングラード・フィルも部分的にリズムがコケていたりして、この曲の伴奏は余り経験をしていないように感じられます。非常に興味をそそられた組み合わせの割には聴後の感動は薄かったです。モノラル録音ですが音質は水準以上です。

Menuhin_violin_con_02 ユーディ・メニューイン独奏、指揮バース祝祭室内管(1961年録音/EMI盤) 晩年のメニューインはテクニック的には聴き劣りしますし、豊麗な音色を持っているわけでも有りません。けれでも落ち着いたテンポで常に音楽にゆとりを感じさせます。”小股の切れ上がった”演奏からは程遠い存在ですが、どの部分でもじっくりと弾き込んでいて、フレージングの端々から慈愛を一杯に感じさせてくれます。オーケストラは超一流とは言い難いですが、指揮振りですので、アンサンブルの呼吸はピタリと合っています。

51fi6elzyl モニカ・ハジェット独奏、指揮エイジ・オブ・インライトゥメント管(1993年録音/ヴァージン盤) ハジェットのモーツァルトとしても最高の出来栄えですが、なによりもハジェットの大胆な歌い回しによる豊かな表現力に脱帽します。それでいて、わざとらしいあざとさが全く感じられない自然さが凄いです。モーツァルトの演奏はどちらか言えば現代楽器の豊かな音を好みますが、この演奏の持つオーケストラも含めて古雅で美しい響きに心から魅了されてしまいます。3楽章のコル・レーニョが凄まじい叩き方で驚かされますが、メンバーの弓を心配してしまいます。(笑)

ということで、この曲のマイ・フェイヴァリットとしては、アルトゥール・グリュミオー盤、ヴォルフガング・シュナイダーハン盤、そしてモニカ・ハジェット盤の3つです。

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2014年4月27日 (日)

モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調K.218 名盤

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番は、フランス的なギャラント・スタイルの第3番に続いて作曲されましたが、前作に比べると幾らかドイツ・オーストリア的な色彩が強くなりました。とは言え、やはり若きモーツァルトの作品だけあって、非常にチャーミングなことには変わり有りません。個人的には第3番と第5番が特に好きなのですが、第4番にもやはり惹かれます。この曲は第1楽章冒頭に登場する旋律から、よく「軍隊」の名で呼ばれます。

第1楽章アレグロ 冒頭の提示部の管弦楽による第1主題の勇壮な旋律が軍隊ラッパを想わせるのが、「軍隊」の呼び名の起こりです。但し、この主題が曲中で展開して使われることは無く、全体的には”軍隊”と言うには余りに華麗です。

第2楽章アンダンテ・カンタービレ ”セレナード”にでも使われそうな落ち着いた雰囲気のアンダンテですが、独奏ヴァイオリンは淡々としていながらも魅惑の極みです。

第3楽章ロンド 優雅さの有る軽やかなロンドですが、中間で出てくる変奏曲がとてもチャーミングで魅了されます。

それでは、愛聴盤をご紹介します。

Ferras8c_2 クリスチャン・フェラス独奏、アンドレ・ヴァンデルノート指揮パリ音楽院管(1960年録音/EMI盤) フェラスの弾くモーツァルトは本当に魅力的です。彼の清潔感の漂う美しい音は若く美しいパリジェンヌを連想させます。それは、まだ男性を手玉に取るような術を覚える前の初々しさを感じさせます。ヴァンデルノートの伴奏もまた、若く誠実な青年のようであり、”パリの散歩道”をピタリ寄り添ってエスコートしている雰囲気です。2楽章ではそんな二人が甘く恋を語らっているかのようであり、とても幸せな気持ちになってしまいます。いやぁ、若いっていいなぁ。これはEMIのボックスです。

61rtc442gfl アルトゥール・グリュミオー独奏、コリン・デイヴィス指揮ロンドン響(1962年録音/フィリップス盤) グリュミオーの弾くモーツァルトも実に魅力的です。やはり若い美人パリジェンヌを連想させますが、フェラスよりも艶っぽさがずっと増しています。この辺りは好みでしょうが、オトコとしては両方とも彼女にしたいところです。デイヴィスの伴奏は毅然とした立派なもので、正に青年将校のような風格が有り「軍隊」らしさが出ています。当時のフィリップスのアナログ録音は非常に柔らかく美しいです。

41wcfg0pb0l ヴォルフガング・シュナイダーハン独奏、指揮ベルリン・フィル(1965-7年録音/グラモフォン盤) ウイーン出身のシュナイダーハンとベルリン・フィルの組み合わせですと、パリの空気がすっかり消え去さって、ドイツ/オーストリア風に聞こえますが、こちらのほうがこの曲の本来の姿ではあるでしょう。特にシュナイダーハンのヴァイオリンがウイーン風に柔らかく奏でられていて素晴らしいです。2楽章などはさしずめ、”ウイーンの森での語らい”です。これだけのソロを聴かせられる人が果たしてその後のウイーンに現れたでしょうか。

51fi6elzyl モニカ・ハジェット独奏、指揮エイジ・オブ・インライトゥメント管(1993年録音/ヴァージン盤) ハジェットにしては表現が控え目で端正な演奏です。古楽器による演奏としては充分に満足できる出来栄えなのですが、彼女であれば更にモーツァルトらしい自由奔放さと愉悦感を期待してしまいます。2楽章の歌も余りに淡々とし過ぎていて食い足りなさを覚えます。但し、オーケストラの響きは古雅でとても美しく文句無しです。

ということで、この曲のマイ・フェイヴァリットとしては、”パリの散歩道”のクリスチャン・フェラス盤と”ウイーンの森”のヴォルフガング・シュナイダーハン盤、ズバリこの二つです。

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2014年4月25日 (金)

ヴァイオリンを愛奏したアインシュタイン

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ドイツの物理学者アルベルト・アインシュタインがモーツァルトの音楽を熱烈に愛好していたことは良く知られた話ですが、彼はピアニストであった母親から幼少時代に音楽の教育を受けました。アインシュタインの妹のマヤはピアノを習い、アインシュタインはヴァイオリンを6歳の頃から習いました。

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そうしてアインシュタインは音楽好きに成りましたが、好きな作曲家はモーツァルトの他には、バッハ、ヴィヴァルディ、シューベルトなどであり、ベートーヴェンの重く劇的な音楽はそれほど好きではなく、ブラームスやワーグナーは嫌いであったそうです。

アインシュタインはヴァイオリンを奏でるのが大好きでしたので、公の場でもしばしば演奏をしていました。日本を訪れた際にもヴァイオリンを持参して演奏会を開き「クロイツェル・ソナタ」を弾いたそうです。アマチュアとしては中々の腕前だったと言われています。

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もっとも、友人のピアニスト、アルトゥール・シュナーベルとアンサンブルを行った際に、何度も拍の勘定を間違えるため、シュナーベルから「君は数も数えられないのか」と呆れられたという話が有ります。自分も昔、ヴィオラを弾いてアンサンブルをしていた時には、拍の数え間違いがしょっちゅうでしたが、アインシュタイン並みかと思うと安心します。(笑)

そんな話を聞くにつけ、実際の演奏を聴いてみたいとかねがね思っていましたが、アインシュタインが演奏しているというモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第34番変ロ長調K.378の第2楽章がYouTubeに投稿されています。なんとも味わいのあるヴァイオリン演奏ですが、問題は投稿が偽物で、実際の演奏はカール・フレッシュであるとかユーディ・メニューインであるとかいう意見が寄せられているようです。確かに音楽センスが有り過ぎますし、私見では恐らく偽物かなとは思います。もっとも本物を聴いたことが無いので、本当のところは分かりませんが。

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2014年4月22日 (火)

モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調K.216 名盤

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モーツァルトのヴァイオリン協奏曲は全部で5曲有りますが、第1番が書かれた翌々年に残りの4曲がまとめて書かれました。ですので、ほぼ同時期に書かれたことになりますが、曲の充実度においては第3番以降の3曲が圧倒的に優れています。モーツァルトの熱烈な愛好家としても知られたアインシュタインは、作品評については結構辛口ですが、この3曲については「モーツァルトの精神が生きている」と賛辞の言葉を記しています。

そのうちの第4番と第5番にはドイツ的な要素も感じられるため、最もフランス的で純粋なギャラント・スタイルの傑作が第3番ということになります。本当にチャーミングで、心から愛さずにはいられない作品です。

第1楽章アレグロ 冒頭から飛び出す第1主題が非常に印象的で、ヴァイオリンが提示部の後に再び第1主題を奏でますが、それだけでこの曲のとりこに成ってしまいます。

第2楽章アダージョ フランスの影響を受けた甘く夢見るような音楽の魅力に溢れていて、モーツァルトを聴く喜びに浸り切れます。

第3楽章ロンド、アレグロ やはりフランス風ですが、中間部で登場するアンダンテとアレグレットのチャーミングなことといったらありません。

51cjgczl1jl クリスチャン・フェラス独奏、カール・ミュンヒンガ-指揮シュトゥトガルト室内管(1954年録音/テスタメント盤) 昔、海外デッカのアナログ盤で愛聴した演奏です。モノラル録音とは思えない豊麗な音に耳を疑いました。これは最近テスタメントがリマスターしたCDですが、音の魅力はほぼ再現されています。ゆったりしたミュンヒンガーの伴奏に乗って、フェラスがこぼれるような美しい音と若々しい表情で曲を堪能させてくれます。いまだに魅力を失わない全くもって素晴らしい演奏です。

Cdh7649042 ウイリー・ボスコフスキー独奏、カール・シューリヒト指揮ウイーン・フィル(1960年録音/EMI盤) これはザルツブルク音楽祭でのライブ録音です。シューリヒトのテンポは意外にゆっくりで、ボスコフスキーが更にのんびりとした甘いウイーン節を奏でています。確かに古き良き時代のウイーンを感じさせますが、反面ギャラント風の味わいが消えてしまっていて多少戸惑います。録音は当時のライブとしては水準以上ですが、音色がどうしてもモノトーンに感じられるのが弱点です。

61rtc442gfl アルトゥール・グリュミオー独奏、コリン・デイヴィス指揮ロンドン響(1961年録音/フィリップス盤) この録音当時のグリュミオーは最高でした。明るく美しい音色に加えて、ヴィブラートやトリルなどの装飾音のセンスの良さには溜息が出ます。デイヴィスの若々しく切れの良いオーケストラ伴奏に乗ってヴァイオリンが自由自在に駆け回っていて、若きモーツァルトの最良の姿と言えます。ギャラント風の演奏として最右翼の一つだと思います。フィリップスの柔らかい録音も素晴らしく、古さを全く感じさせません。

41wcfg0pb0l ヴォルフガング・シュナイダーハン独奏、指揮ベルリン・フィル(1965-7年録音/グラモフォン盤) シュナイダーハンもウイーン出身のヴァイオリニストですが、ボスコフスキーが生粋のウイーンっ子という感じなのに比べると、ややドイツ的に感じます。どうせギャラント風で無いのであれば、ウイーン風に徹し切って欲しかったところですが、さりとて、この3曲をまとめて録音したウイーンの人も思い当らないのでやはり貴重です。楽器の音も相変わらず美しいです。自作のカデンツァはベートーヴェン的で微妙ですが、まぁファン・サービスだと思いましょう。

189 フランク・ペーター・ツィンマーマン独奏、ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮ベルリン・フィル(1995年録音/EMI盤) オール・ドイツ演奏家キャストなので洒落っ気やユーモアには乏しいですが、ツィンマーマンの美しい音と端正な弾き方はモーツァルトに適しています。サヴァリッシュがベルリン・フィルをがっちりと引き締めていて少々厳し過ぎるようには感じますが、立派で上手い伴奏ではあります。個人的には、ギャラント風の味わいが欠けるのがやはり物足りないような気がします。

51fi6elzyl モニカ・ハジェット独奏、指揮エイジ・オブ・インライトゥメント管(1993年録音/ヴァージン盤) こちらはオール・イングランド演奏家キャストによる古楽器演奏ですが、自由奔放な表現がフランス的でギャラント・スタイルの味わいを感じさせます。ハジェットはバッハでも自由に演奏しますが、モーツァルトの音楽との相性は抜群です。洒落っ気やユーモアが一杯に溢れていて、モーツアァルト自身がヴァイオリンを弾いたらこんな感じではないかと思えるほどです。現代楽器、古楽器の領域を越えて非常に素晴らしい演奏だと思います。

ということで、マイ・フェイヴァリットとして、クリスチャン・フェラス盤、アルトゥール・グリュミオー盤、モニカ・ハジェット盤の3つを上げます。

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2014年4月18日 (金)

モーツァルト 交響曲第29番イ長調K.201 名盤

モーツァルトの全交響曲のうち、第34番まではウイーンに移る前のザルツブルク時代に書かれました。そのうち第31番以降になると管弦楽的にも充実して来ますし、明るく華麗な曲想がモーツァルトのファンの心を捉えることと思います。ただ、その割には天才的な”閃き”や”霊感”といったものは余り感じさせません。むしろ、それより前の第25番ト短調K183や第29番イ長調K201の方にずっと閃きが感じられますし、個人的には終楽章がとてもチャーミングな第28番ハ長調K200にも惹かれます。

交響曲第29番は第25番の翌年、モーツァルトが18歳のときに書かれました。この曲はオーボエ2、ホルン2、それに弦楽だけという、ほとんど室内合奏曲の構成です。曲全体がとても落ち着きのある典雅な趣で覆われているので、いつまでもこの曲の雰囲気に浸っていたくなります。疾風怒濤の第25番が”風雲!真田雪村”だとすれば、第29番はさしずめ”徳川天下太平”といったところで、非常に好対照の曲想です。この2曲はどちらも人気が高いですし、ディスクに組み合わされることがとても多いです。

それでは愛聴盤のご紹介です。

51v9fr97jxl ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1954年録音/CBS盤) モノラル録音ですが、ワルターは第29番をステレオ録音で残していませんので、その点では貴重です。割に速めのテンポで生命力に溢れていますし、チャーミングな表情を多く感じさせるのは流石にワルターです。但し、ステレオ時代のCBS録音に聴かれるような、まるでヨーロッパのオーケストラのような音の柔らかさはいま一つ出し切れていません。ワルター向きと思えるこの曲にはステレオによる再録音を残して欲しかったです。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1968年録音/グラモフォン盤) ベームの交響曲全集に収録されています。ゆったりとしたテンポによる造形のしっかりとした演奏ですが、躍動感も充分感じられます。ベルリン・フィルのくすんだ響きはいかにもドイツ風ですし、弦の十六分音符の刻みは厳格そのものです。ワルターのような微笑みかけるモーツァルトではありませんが、決して厳めしく感じられることは無く、ベームのモーツァルトの音楽への敬愛の念を感じずにはいられません。ベームの第29番というとウイーン・フィル盤が語られることが多いですが、ベルリン・フィル盤も実に素晴らしい演奏です。

435オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1960年録音/Berlin Classics盤) スウィトナーはSKドレスデンと1960年から1975年までの間に第28番以降の全交響曲を録音しましたが、これはその最初の録音です。通常は、相当速いテンポを基調とするスイトナーのモーツァルトですが、この曲では意外にゆったりとしています。ウイーン・フィルほど柔らかくは無く、ベルリン・フィルほど暗さの無い、SKドレスデンの典雅な響きが魅力的です。スウィトナーのモーツァルトは本当にどれも素晴らしかったです。

064 カール・ベーム指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1972年録音/オルフェオ盤) ザルツブルク音楽祭のライブ録音です。テンポ設定や解釈は4年前のベルリン・フィル盤と極似していますが、実演だけあって、各楽器の表情には豊かさが増していますし、自由さも感じられます。中低弦が物を言うのは流石にSKドレスデンですし、終楽章の躍動感もベルリン・フィル盤以上です。もちろん典雅で滋味あふれるオーケストラの音色は健在で、録音もそれをほぼ忠実に捉えてくれています。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1973年録音/DECCA盤) 第21番以降の交響曲選集に含まれています。ウイーン生まれのクリップスは本当にヨーロッパの伝統を持った指揮者だったと思います。大戦中ナチスに非協力的だったためにベオグラードに追いやられて、指揮業の傍らに食品工場で働く時期もあったそうです。そんな苦労人の演奏は、戦前の大指揮者達の個性的なそれとは異なって、過不足の無い中庸の音楽美を感じさせます。そんなスタイルがコンセルトへボウの美しい響きと組み合わさって、この曲にぴったりです。

2531335カール・ベーム指揮ウイーン・フィル(1980年録音/グラモフォン盤) ベームはこの曲を壮年期でもゆっくり目のテンポで振りましたが、最晩年のスタジオ録音ともなると更にゆったりとしていて、人によっては付いていけないかもしれません。けれども、ウイーン・フィルのレガート気味な柔らかい弾き方による美しく優雅な響きに身を浸していると、テンポの感覚が徐々に失われてゆくほどです。自分にはこの曲を非常に愛したベームの辞世の歌とも呼ぶべき感動的な演奏に感じられます。録音はベームの中では最上です。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) 同じウイーン・フィルを振ってもベームに比べると、ずっと現世的な喜び溢れる演奏に聞こえます。このシンフォニーから引き出される音楽の奥深さという点では、ベームに一日の長が有りそうですが、こちらは素晴らしく美しい音で、こぼれるほどにチャーミングな演奏ですので、バーンスタインの演奏の方を好まれる人もきっと多いと思います。

この曲については、やはりベームの演奏に格の違いを感じます。ベルリン、ドレスデン、ウイーンのどの演奏にも惹かれてしまい、絞り込むのは中々に困難です。

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2014年4月15日 (火)

モーツァルト 交響曲第25番ト短調K.183 名盤 ~シュトゥルム・ウント・ドラング~

モーツァルトのシンフォニーについては、2年前に6大交響曲を記事にしてから随分と間隔が空いてしまいました。久々の登場です。

モーツァルトの交響曲で聴き応えを感じるのは、第25番以降の作品ですが、その中でも、第40番ト短調に対して『小ト短調』と呼ばれる第25番の魅力はやはり格別です。第1楽章でいきなり開始される切り裂く様なシンコペーションは正に”シュトゥルム・ウント・ドラング(ドイツ語=疾風怒濤)”の典型的表現で、このような音楽を弱冠17歳で、モーツァルト以外の一体誰が書き得たでしょうか。初めてこの曲を聴いた時の印象は決して忘れられません。第40番の冒頭の旋律で受けた驚きにも劣らなかったような気がします。

モーツァルトの交響曲は、もちろんウイーンに移ってからの作品である第35番「ハフナー」から第41番「ジュピター」までの6大交響曲が格段に優れていることは言うまでもありませんが、それに匹敵する個性的な輝きを放っているのが、この第25番ト短調K183です。

曲についてはこの程度にしておいて、さっそく愛聴盤のご紹介に移ります。

51v9fr97jxl ブルーノ・ワルター指揮コロムビア響(1954年録音/CBS盤) 当然モノラル録音です。この”コロムビア響”というのは一説ではステレオ時代の西海岸のそれでは無く、ニュヨークPO主体の東海岸のオケらしいです。ワルターがこの曲から引き出す”疾風怒濤”の音楽は、昔からこの曲の一つのリファレンスになっていますが、おかげで世の中の並みの演奏が、何を聴いても物足りなく感じられるほどの影響を与えてしまいました。思えば罪作りな演奏です。

4104090365ブルーノ・ワルター指揮ウイーン・フィル(1956年録音/SONY盤) 余りにも有名な、ウイーンでの40番にカップリングされた録音です。こちらはザルツブルク音楽祭で「レクイエム」の前プロとして演奏されましたが、当日の組み合わせはオルフェオ盤から出ています。但し音質はSONY盤が上です。小編成による室内楽的な演奏ですが、白熱した各楽器パートの息詰まるようなからみ合いが圧巻です。この凄まじい緊迫感の前では、コロムビア響盤さえも”並みの”演奏に感じられてしまうほどです。

9528aad8eb5aa6add4cd619595c9df9fカール・ベーム指揮ベルリン・フィル(1968年録音/グラモフォン盤) ベームの交響曲全集からです。こじんまりとした室内楽的な演奏では無く、大編成のそれです。ドイツ的な厳格なリズムを基調とした、極めて構築性の強い引締まった演奏ですので、贅肉でふやけた印象は全く受けません。それよりも、立派で重厚な音楽を感じられて非常に聴き応えが有ります。当時のベルリン・フィルのほの暗い音色がこの曲に向いていて素晴らしいです。

858ヨーゼフ・クリップス指揮コンセルトへボウ管(1972年録音/DECCA盤) ウイーン出身のクリップスはウイーン・フィルと組むと、それ以上は望めないほどに柔らかい演奏をしますが、コンセルトへボウと組んだ場合には、そこにキリリと引き締まった感覚が加わります。極めて格調が高く、疾風怒濤のワルターとは全く異なる印象です。けれども、心を落ち着けてじっくりと味わえる小ト短調として決して悪くありません。

014レナード・バーンスタイン指揮ウイーン・フィル(1984年録音/グラモフォン盤) バーンスタインはウイーン・フィルと25番以降の主要な交響曲を録音してくれました。もちろんウイーン・フィルの演奏は素晴らしいのですが、後期の作品に関しては、どうも含蓄の乏しさが感じられてしまいました。その点、初期の曲ではそれが余り気にも成らず、若きモーツァルトの”感情の揺れ”がストレートに表れていて素晴らしいです。切迫感もしっかりと感じられますが、ワルターほどの怒涛ぶりは見せません。これはワルターの呪縛から自分を解き放してくれた名演奏でした。

ということで、ワルター/ウイーンPO盤は歴史的な凄演として絶対に外すことは出来ませんが、現在のフェイヴァリットはバーンスタイン/ウイーンPO盤です。

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2014年4月11日 (金)

モーツァルト 「レクイエム」 続々・名盤 ~個性的な演奏にゾクゾク~

モーツァルトの絶筆にして、彼の宗教音楽の最高峰「レクイエム」K626。たとえ未完成作品であろうが、ジュースマイヤーの補筆に不満を感じる人が居ようが居まいが、やはり素晴らしいものは素晴らしいです。

前回「レクイエム 続・名盤」を記事にしてから、まだ幾らも経っていないのですが、その後にも特記したいディスクに幾つか出会いましたので「続々・名盤」としてご紹介することにします。

1444765 フェルディナント・グロスマン指揮ウイーン・コンツェルトハウス管、ウイーン少年合唱団(1960年録音/PILZ盤) ウイーンの合唱指揮者グロスマンは「戴冠ミサ」の名盤で有名ですが、他にも「大ミサ曲ハ短調」の録音が有りました。そして「レクイエム」の録音も残していたことを最近知りました。一口で言って「大らか」な演奏です。「戴冠ミサ」「大ミサ」も、やはり大らかな演奏が魅力でしたが、それがグロスマンの良さです。ウイーン少年合唱団もギレスベルガー盤ではかなり精密なコーラスを聴かせてくれましたが、このグロスマン盤は、声楽の専門家にかかれば「稚拙」の烙印を押されるのは明らかです。ボーイ・ソプラノによる独唱も大人の歌手に比べればつたなさの極みです。ですが、近年の刺激的な古楽器派の演奏を多く聴いていると、この大らかさにはとても安らぎを感じます。地獄の淵をのぞき込むような深刻さとは無縁で、ごく親しい人の死に向き合うような慈愛の雰囲気に満ち溢れています。それはまた、1950年代の大指揮者達のロマンティックな前時代的な演奏とも異なります。いかにもオーストリアの本当の教会的な演奏だということで独特の個性を感じます。

Op30307 クリストファー・シュペリング指揮ノイエ・オーケストラ(2001年録音/仏OPUS盤) この演奏は恥ずかしながら、ブログお友達のヨシツグカさんに教えて貰うまで知りませんでした。このCDのユニークな点は、ジュスマイヤー版による演奏とは別に、モーツァルトが実際に書き残した草稿をそのままに演奏して録音していることです。それを耳にしてみると、書き残された部分がどれほど多かったことか愕然としてしまいます。ジュスマイヤーの補筆作業の偉業には改めて感心するばかりです。しかし、シュペリングのジュスマイヤー版の演奏にも驚かされます。まるで現代の古楽器派の演奏に対するアンチテーゼといった雰囲気です。緩急の巾が大きく、遅い部分は極めて遅く物々しいといったらありません。「イントロイトス」「キリエ」のレガートで遅く粘る演奏は、まるでイエスが十字架を背負って引き擦っているかのようです。それが「怒りの日」では超快速で駆け抜けます。「みいつの大王」も飛び跳ねるようです。最初は正直「なんだこれは」と唖然としました。ただ、シュペリングの演奏には嘘くささが無く、大真面目に表現しているように感じられるのが凄いです。とても単なる”古楽器派”のひとくくりには出来ない個性を感じます。

31m57g1m59l ヨス・ファン・フェルトホーフェン指揮オランダ・バッハ協会管弦楽団&合唱団(2001年録音/Channnel Classics盤)

ここで演奏されているのは、ジュースマイヤー版をオランダの学者フロトゥイスが改定を行った版に寄ります。それというのも1941年にエドゥアルト・ヴァン・ベイヌムがこの曲を演奏する際にフロトゥイスに助言を求めた為に、よりモーツァルトらしいものにするという考えで改訂作業を行ったそうです。従って、今後もこの版で演奏するのはオランダの演奏家のみではないでしょうか。”バロック的”とでも言えるような、比較的少人数による純度の高い演奏ですが、各声部が非常に明確に歌い(弾き)分けられていて感心します。全体にテンポは速めですが極端ではありません。贅肉の無い引締まった良いテンポです。最近の古楽器派のように、ことさら刺激的に聴かせようと意図しているわけでは無さそうなので、抵抗感は感じません。最も、少々端正な方向に傾き過ぎて劇的効果が少ないのが、好みの分かれ目だという気がします。自分としては、とても好意的に感じられます。少しも奇をてらったところの無い、これもまた個性的な美演だと思います。

ここでもう一度まとめてみますと、「モツレク」の現時点でのフェイヴァリット盤は、まず少年合唱の感動的なハンス・ギレスベルガー盤、現代楽器オーケストラ演奏からカール・ベーム/ウイーン・フィル盤、古楽器オーケストラ演奏は激戦で、ペーター・ノイマン盤、フランス・ブリュッヘン盤、ヨス・ファン・フェルトホーフェン盤の3つですが、別枠としてモーツァルトの自筆草稿によるクリストファー・シュペリング盤を加えたいと思います。

ここまで多種多用ですと、まるで異種格闘技状態ですが、それだけこの曲が一定の演奏スタイルの枠に捉われない懐の広さを持っているからでしょう。どれも個性的な演奏ですので、聴いていて本当にゾクゾクして来ます。

ということで、しばらくモーツァルトの宗教音楽を記事にしてきました。まだまだ素晴らしい曲が沢山有るので後ろ髪を引かれる思いですが、ここで一旦お休みをして、次回からは「モーツァルトの名曲三昧シリーズ」をスタートします。宗教音楽の続きは近いうちにまた。

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2014年4月 8日 (火)

モーツァルト モテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」 K.618 名盤

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『音楽は、より単純素朴で、かつ純粋な美しさを持っているものが、最終的には人を最も深く感動させるのではないか。音楽を聴く時、いつもそんなふうに思っている。』 渡邊學而氏が本の中でこのようにお書きになっていました。

自分が宗教音楽を聴くときに、往々にして技術的に優れた大人の合唱団よりも清純な歌声の少年合唱団を好むのも正に同じ理由からです。

もちろん曲についても全く同じことで、モーツァルトのモテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」K618などは、それがそのまま当てはまる典型ではないかと思います。

モーツァルトがウイーンに移った後に書いた宗教音楽は僅かに3曲ですが(もう1曲有るという説も有ります)、未完成に終わった大作「大ミサ曲」「レクイエム」がそのうちの2曲で、残る1曲が僅か46小節のモテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」K618です。これは、モーツァルトが亡くなる半年前にコンスタンツェの静養先であるバーデンを訪れたときに、当地の合唱指揮者アントン・シュトルに贈った曲です。

「アヴェ・ヴェルム・コルプス」

めでたし、処女マリアより生まれ
人々のために十字架にかかりて犠牲となり給えし御身よ
御わき腹は刺し貫かれ血と水を流し給えり
願わくば死の審判の時にあたり我らに御身を受けしめ給え

この曲はモーツァルト最晩年の死を前にした「彼岸の境地」を示しています。静寂に包まれた深い祈りが感動的です。それは澄み渡った青空を見上げたときに感じるあの気持ちと良く似ています。モーツァルトのファンであれば誰しもが、この曲にクラリネット協奏曲K622の第2楽章を想い重ねることだろうと思います。

それでは愛聴盤のご紹介です。

01333 ゲルハルト・シュミット=ガーデン指揮ヨーロッパ・バロック・ソロイスツ、テルツ少年合唱団(1990年録音/SONY盤) もちろん少年合唱は大好きですし、モーツァルトはウイーン風の柔らかい歌が合っていると思います。ただ、この彼岸の曲の場合には、ウイーン少年合唱団だと、ちょっと「声で歌われている」印象を受けてしまいます。その点で、テルツ少年合唱団の方が、この曲の雰囲気には適しているように思います。何とも美しい讃美歌です。

Cci00036 ペーター・ノイマン指揮コレギウム・カルトゥジアヌム、ケルン室内合唱団(1990年/ヴァージン盤) ペーター・ノイマンのモーツァルト宗教曲選集に収録されています。この曲の場合には、必ずしも少年合唱が向いているという気はしません。むしろ「人の歌声」から離れた、天に漂う澄んだ空気のような雰囲気こそがこの曲の核心では無いでしょうか。どこまでも静寂に包まれていて、演奏効果をこれっぽっちも感じさせないノイマンの素晴らしい演奏には称賛の言葉さえも白々しくなりそうで躊躇われるほどです。

51rfit8heml シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンド、オランダ室内合唱団(1985年録音/ドイツ・ハルモニア・ムンディ盤) バッハの演奏のイメージの強いクイケンも素晴らしいモーツァルトを聴かせてくれます。美しいコーラスはノイマン/ケルン室内合唱団と優劣を付けるのが難しいほどです。個人的には抑揚の少ないノイマン盤を好んでいますが、クイケン/オランダ室内合唱団の歌を好む方も多いかもしれません。

Mozart_sacredmusicニクラス・アーノンクール指揮ウイーン・コンツェントゥス・ムジクス、アーノルド・シェーンベルク合唱団(1986年録音/テルデック盤) アーノンクールのモーツァルト宗教曲全集に収録されています。優秀なアーノルド・シェーンベルク合唱団も素晴らしいと思います。ですが、ノイマンのケルン室内合唱団に比べると、やはり人間の声で歌われている印象を受けてしまいます。単純素朴な演奏で人を感動させることの難しさをつくづく感じます。

ということで、マイ・フェイヴァリットはペーター・ノイマン盤ですが、少年合唱で聴きたい場合にはシュミット=ガーデン盤です。

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2014年4月 4日 (金)

モーツァルト ヴェスペレ(荘厳晩課)ハ長調 K.339 名盤

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          ザルツブルク大聖堂

この曲こそがモーツァルトのザルツブルク時代の最後を飾る作品です。ということは有る意味モーツァルトの教会音楽の一つの集大成とも言えるかもしれません(ウイーンで宗教曲の大作は完成させていませんので)。ところが、この曲はお世辞にも人気作とは言えず、日常的に愛聴しているのは、まずモーツァルト愛好家だけでしょう。

そもそも「ミサ曲」ならいざしらず、「ヴェスペレ」って一体何だ?ということから始まりそうです。

ヴェスペレは「晩課」と訳されますが、 カトリックの8つ有る聖務日課の中で日没時に行われる7番目の祈りのことだそうです。 うっかりすると「晩歌」と間違えそうですが「晩課」です。

ヴェスペレは宗教音楽の上ではミサ曲に次ぐ重要なジャンルで、歌詞は聖書の中の”詩篇”からの5章と、ルカ伝の中の「我が魂は主を崇める」(マニフィカト)の合計6曲から成ります。と聞いてもカトリック教徒でも無ければ、ちんぷんかんぷんですよね。もしも自分がカトリック教徒でしたら、歌詞に大いに意味が感じられると思いますが、そうではないので、美しい音楽にひたすら耳を傾けるだけです。何しろ作曲をしたモーツァルトは、まるでオペラのような美しく華麗な音楽を書いていることですし。
それぐらい素晴らしい曲なので、ヨーロッパではとても人気が有るそうですが、日本で演奏されることは滅多に無さそうです。

曲の構成は下記の通りです。
 1.ディキシト・ドミヌス(主は言われる)
 2.コンフィテボール(心をつくして主に感謝する)
 3.ベアートゥス・ヴィール(喜ぶ人は幸いなるかな)
 4.ラウダーナ・プエリ(主のみ名を誉め讃えよ)
 5.ラウダーナ・ドミヌム(主を誉め讃えよ)
 6.マニフィカト(我が魂は主を崇める)

壮麗で美しい合唱曲が並びますが、ソプラノによる独唱が入る第5曲「ラウダーナ・ドミヌム」の静寂に覆われた敬虔な美しさは格別で、この一曲を聴くだけでもK339を聴く価値が有ると言えるのではないでしょうか。

CDの所有盤ですが、この曲は残念ながら一つしか有りません。

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ニクラス・アーノンクール指揮ウイーン・コンツェントゥス・ムジクス、アーノルド・シェーンベルク合唱団(1986年録音/テルデック盤) 

アーノンクールのモーツァルト宗教曲全集に収録されています。ウイーン的な柔らかい演奏の好きな自分には、アーノンクールのかっちりとした演奏は必ずしも好きなタイプではありませんし、アーノルド・シェーンベルク合唱団も非常に優秀なのですが、何となく《プロっぽさ》が鼻について感じられことがあります。
けれども、この全集盤は一人の指揮者がモーツァルトの全ての宗教曲を演奏している点で非常にかけがえの無いものです。

幸い、この「ヴェスペレ」K339でのアーノンクールの演奏は、ほとんど刺激的な表現の無い常識的なもので、コーラスの上手さが鼻につくことも有りません。その分、もっと過激な演奏を好む方もおられそうです。確かに天にも上るような高揚感はここには無いかもしれません。でもまぁ、これはサンセットの祈りですし、これぐらいの落ち着き具合で丁度良いのではないでしょうか。あんまりライジング・サンのような元気さでは、夜に眠れなくなってしまいますものね。

聴きものの「ラウダーナ・ドミヌム」のソプラノ・ソロを唱っているのはイギリスのジョアン・ロジャースですが、とても美しく、敬虔さが感じられる歌唱で素晴らしいです。

Joan_rodjers

ジョアンのちょっと可愛いらしいオバちゃん顔にも惹かれますよねぇ。いやー、本当に美しい曲、美しい声、美しい・・・

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2014年4月 1日 (火)

「蒼い炎」 羽生結弦

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フィギュアスケートの2013-3014シーズンが終わりましたね。今年はオリンピックの年でしたので、グランプリシリーズ、世界選手権と合わせて心から堪能することができました。日本選手の活躍も素晴らしかったです。
オリンピックで表彰台を逃したものの世界の感動を呼び、世界選手権では見事優勝を果たした浅田真央さんも素晴らしかったですが、正に”レジェンド”と呼べるほどの活躍を見せたのは羽生結弦君でしたね。

正直言って、一昨年辺りまでの羽生君は線の細さが感じられて、いま一つファンには成れなかったです。ところが昨年頃から、徐々に「美しさ」と同時に「強さ」が感じられるようになり、大進化を遂げたのが今シーズンでした。何しろグランプリファイナル、オリンピック、世界選手権の三大タイトルを同じシーズンに制覇したのは十何年ぶりのことだそうです。一発勝負の要素が高いフギュアスケートでこんなことを成し遂げることがどれだけ凄いことかは、ファンであれば良くお分かりだと思います。既に”レジェンド”です。

その羽生君が二年前の2012年4月に出した本が「蒼い炎」です。この本を読んだのは、恥ずかしながらオリンピックの後なのですが、東日本大震災で被災して避難所に入ったこと、定期的な練習場を失ってしまったこと、そこから再スタートを切って競技生活に戻った気持ちなどが、色々と書かれています。

彼は二年前の当時には、「大きな目標はオリンピックで金メダルを取ることです。もちろんソチではないですよ。ソチではまだ19歳ですから。男子で10代の金メダルは難しい。金メダルを考えているのはソチの次のオリンピックです。」と、こんなふうに語っていました。ソチには出場することだけでも大変なことだと考えていたようです。それが、どうでしょう。奇跡の進化ですね。

羽生君が2年前のポジションから見た自分の未来。そしてそこから現時点までの道のりと結果。それをいま読んでみると本当に興味深いです。

この本の印税が被災した仙台スケートリンクに寄付されるというのも、購入した一つの理由ですが、内容にも充分愉しめました。もっとも、この本、文章以上に羽生君のカラー写真が満載ですので、”ユズリスト”にとっては感涙ものでしょう。

羽生君、それにやはり今シーズン”大化け”した町田君の来シーズンが今から楽しみです。
女子の来シーズンはどうなるでしょうね。リプニツカヤが頑張ると良いし、期待の12歳、本田真凛ちゃんのシニアデビューが待ち遠しいです。
ところで、リプニツカヤちゃん、ちゃんと日本の桜を見ることが出来たのかな?とっても気になっています・・・・

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