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2014年3月26日 (水)

モーツァルト ミサ曲ハ長調「戴冠式ミサ」 K.317 名盤

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     レオポルド2世(左)とヨーゼフ2世(右)

モーツァルトの宗教曲は、さすがにバッハほど多くないとは言え、かなりの曲数が書かれています。特にザルツブルク時代には、「教会音楽家」が仕事でしたので、好むと好まざるとにかかわらず、儀式のために曲を書かなければならなかったわけです。但し、コロレード大司教が長時間のミサを嫌ったために、時間制限から、ほぼ例外無く音楽部分を30分程度に収めなければなりませんでした。モーツァルトはそれをかなり欲求不満に感じていたようですが、書かれた曲はどれも皆、素晴らしい作品でした。

それらザルツブルク時代の宗教曲の傑作中の傑作が、ミサ曲ハ長調「戴冠式ミサ」K317です。非常に人気が高いのは、華やかな名称が付いているせいもあるでしょうが、タイトルに負けない素晴らしい内容の曲です。
この曲は、元々は復活祭のために作曲されたもので、ザルツブルク大聖堂で初演されました。のちにヨーゼフ2世(音楽の擁護者としても有名。映画「アマデウス」には絵の顔とそっくりな俳優さんが出ていましたね。)の後を継いだ弟のレオポルド2世の戴冠式の祝賀ミサに各地で演奏されたために、この名称が付いたと言われています。

モーツァルトの宗教曲の最高峰は「レクイエム」K626であり、それに次ぐのは「ミサ曲ハ短調」K427ですが、どちらもウイーン時代の未完成作品でした。完成作品としての最高峰は、この「戴冠式ミサ」K317だと言えるでしょう。

曲の構成は以下の通りです。
 1.キリエ 
 2.グローリア
 3.クレド
 4.サンクトゥス
 5.ベネディクトゥス
 6.アニュス・デイ

この曲は人気曲ですのでCDも多く出ていますが、好みの演奏としては、まず合唱に少年合唱団が使われていることです。さらにはソプラノとアルトの独唱も大人の女性歌手ではなく少年が理想的です。特に、「キリエ」のソプラノ独唱と、「アニュス・デイ」のアルト独唱はどうしてもボーイ・ソプラノで聴きたいと思います。歌唱が上手いか下手かと専門的に比較する以前に、この曲においては若々しく清純な雰囲気が感じられるのが何物にも代えがたいからです。そのことは宇野功芳先生も、昔から書かれていますが、全くもって同感です。どんなに美しい女性歌手(声がですョ)が歌ったところで、三十路を過ぎればやはりオバさまの声になります。少年の声の清純さにはどうしたって敵いません。

という点が自分の評価に大きく影響するのをお知り頂いたところで、愛聴盤をご紹介します。

Mozart40894 フェルディナント・グロスマン/ウイーン寺院管、ウイーン少年合唱団(1963年録音/フィリップス盤) 昔、宇野先生の推薦でLP盤を買ってさんざん愛聴しましたが、現在はCDで聴いています。この演奏は本当に輝かしい生命力と躍動感に溢れています。オケやコーラスに幾らか雑なところも有りますが、大らかさの感じられるウイーン少年合唱団の伸びやかな歌声は、この曲に於いてはドイツの厳格なそれよりも魅力的に感じられます。もちろん独唱も大人の女性歌手では無くボーイ・ソプラノが歌っていますが、歌唱は(少年としては)とても上手く魅力的です。「ベネディクトゥス」や「アニュス・デイ」での素朴な美しさは格別です。フィリップスによる録音も優秀で、響きがとても厚く柔らかく感じられて心地良いです。

Mozarti00023 ハンス・ギレスベルガー/ウイーン宮廷音楽教会管、ウイーン少年合唱団(1978年録音/SEON原盤、タワーレコード盤) この翌年の録音の「レクイエム」はウイーンの教会音楽の底力を見せつけた最高の演奏でしたが、それに比べると出来栄えは幾らか劣るように思います。それでも前述のグロスマン盤に肩を並べる名演です。オケ、コーラスの完成度はグロスマンを凌ぎますし、ボーイ・ソプラノによる独唱はほぼ互角です。歓喜の高揚感ではグロスマンに分が有りますが、ギレスベルガーには強い統率力によるまとまりの良さが有ります。全体的な魅力の点で、グロスマン盤と五分と五分というところです。SEONによる録音も非常に優れています。

Mozart61y7 ウーヴェ・クリスティアン・ハラー/ウイーン響、ウイーン少年合唱団(1983年録音/フィリプス盤) これもウイーン少年合唱団による演奏ですが、合唱が後ろに引っ込み過ぎた録音であるのがマイナスです。残響が多く柔らかい録音は教会的だと言えばそうなのですが、グロスマン盤やギレスベルガー盤に比べて録音バランスに悪さを感じます。演奏全体としては中々に素晴らしいと思いますが、問題はアルト・パートのボーイ・ソプラノ独唱が劣ることです。そのために、あの絶美の「アニュス・デイ」の魅力がいま一つ感じられないのが残念です。

Mozartkronungsmessedgcduccg4503 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウイーン・フィル、ウイーン楽友協会合唱団(1985年録音/グラモフォン盤) 実際にヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂で教皇ヨハネ・パウル二世により挙行された荘厳ミサ典礼の音楽として演奏された歴史的な録音です。カラヤンがウイーン・フイルを指揮して独唱にバトルやフルラネットの大オペラ歌手を使うといういかにもカラヤン好みの豪華な配役ですが、この演奏は余り好みません。「キリエ」などは非常に遅いテンポで引きずるようですし、全体的に重過ぎます。”壮麗で良い”という評価も見受けられますが、モーツァルトの演奏としては不似合いです。ですので、これは荘厳な大聖堂のミサの様子が見られるDVD版のほうを鑑賞しています。

Mozart_sacredmusicニクラス・アーノンクール指揮ウイーン・コンツェントゥス・ムジクス、アーノルド・シェーンベルク合唱団(1986年録音/テルデック盤) アーノンクールのモーツァルト宗教曲全集に収録されています。いつものアーノンクールの強調されたスタッカートやダイナミクスの変化が見られますが極端では無く、ほとんど抵抗感は有りません。管弦楽のアンサンブルは精緻で合唱も優秀ですが、良い意味での緩さというか柔らかさがもう少し欲しい気もします。女性歌手による独唱は端正で禁欲的な美しさが感じられて大人の歌唱としてはとても良いと思います。

Cci00036 ペーター・ノイマン指揮コレギウム・カルトゥジアヌム、ケルン室内合唱団(1990年/ヴァージン盤) ペーター・ノイマンのモーツァルト宗教曲選集に収録されています。ノイマンの演奏を好むのは、ことさら古楽器を意識して刺激的なスタイルにしようとしないことです。テンポにはゆとりが有りますし、打楽器に過剰なアクセントを付けるようなこともありません。それでいてモーツァルトの音楽の魅力を充分に味合わせてくれます。強いて言えば純ドイツ風なので、ウイーン風の柔らかさは有りませんが、これはスタイルの問題です。これも女性歌手による独唱ですが、端正で純粋な美しさが有って抵抗を感じません。独唱陣、合唱ともとても優れています。

ということで、自分のベストはグロスマン盤、そして次点がギレスベルガー盤になりますが、どちらも廃盤というのはまったくもって信じられません。

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モーツァルト(声楽曲)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんばんは。
ザルツブルク時代の「お仕事」だった "教会音楽"は(11才でオペラを書いてしまった)モーツァルトにとって、"退屈"な作業だったのかも知れませんね。
でも、この頃に書いている「ミサ・プレヴィズ」の なんと美しい事! まるで モーツァルトが天使たちと遊んでいるかのようですね。
この「戴冠式ミサ曲」も その流れを汲む、聴き手にとっては、"幸せ"な名作だと思います。
こういった宗教音楽を聴く時、少年合唱団の演奏にハマったら最後、もう 普通の演奏には戻れません……。(笑)
この曲のCDですが、ハルくんさんが以前、「小ミサ曲集」の記事に書かれていた カムラーとアウグスブルク大聖堂少年合唱団聖歌隊の録音がないのは 非常に残念ですね。
私の愛聴盤も やはり(笑) グロスマン盤とハラー盤です。
 
 
ちなみに、私事ですが、今年に入ってすぐに、念願だった ヘッドホンアンプの LUXMAN P-1uを遂に導入してしまいました。 まだエージング中ですが、今までとは次元の違う"音"に 悦に入っています……。(笑)

投稿: ヨシツグカ | 2014年3月27日 (木) 20時53分

ヨシツグカさん、こんばんは。

ミサの時間制限が無ければ、更に自由に良い曲が書けたのではないかと思います。
それでもミサ・プレヴィスといいその他宗教曲は充分に素晴らしいですね。

少年合唱を稚拙だと言う評も有りますが、こういう清純な音楽を聖歌隊で聴く良さはちょっと大人のコーラスでは味わえませんね。同感です。
この曲のグロスマン盤は本当に素晴らしいですよね。最高です。

ヨシツグカさんはヘッドフォン派でしたね。それは良かったですね。

投稿: ハルくん | 2014年3月27日 (木) 23時05分

ハルくん様
このミサ曲、生前の宇野功芳さんが共同通信社刊の、FMfan季刊特別号で各種ディスクを聴き比べて、グロスマン以外はメッタ斬りでしたね(笑)。
でも、必ずしも文筆業者のお耳を盲信しなくなった今の愛聴盤はEurodisc原盤の、若き日のケルテスの棒によるCD…コロムビアCOCQ-84440…で、あります。
最近タワレコに入荷していた、VOXの2CDシリーズで買ったホーレンシュタイン指揮の盤も、案外拾い物でした。

投稿: リゴレットさん | 2018年5月19日 (土) 10時28分

リゴレットさん

宇野功芳氏が聴き比べたディスクの中ではグロスマン以外はメッタ切りだったのは分ります。但しもしもギレスベルガー盤が入っていれば果たして何と書いたかな、と興味が湧きます。

投稿: ハルくん | 2018年5月21日 (月) 12時43分

ハルくん様
そのギレスベルガー盤、本日16時頃にりずむぼっくす元町店にて発見、¥500でしたので、欣喜雀躍して買い求めました。
夜勤の出勤途中にふらりと立ち寄ったのが、幸いでした。翌朝徹夜明けでも眠らず、聴く所存です。

投稿: リゴレットさん | 2018年6月 1日 (金) 19時54分

ハルくんさま
このギレスベルガー盤、ソプラノ・ソロパートが少年のボーイ・ソプラノに歌われていて、その清楚さでも一驚に値します。
指揮は時々ヴィヴァルディのグローリアを思わせるような感じもあるのですが、このミサに関しては手練れのコンサート指揮者の棒では、厚化粧の肥大した音楽になってしまうことに思いを巡らせると、正解なアプローチでしょう。わた
メイン収録のK.626もこのような解釈なら、あまりいたたまれない思いに襲われず、聴き通せました。気の早い傾向のある人なら、ベームやカラヤンのモダン楽器の編成のモーツァルトは、過去の頁に繰り込まれた録音だと、申されるかも知れません。

投稿: リゴレットさん | 2018年6月 2日 (土) 12時53分

リゴレットさん

それはまたまた良いものを入手されました。
このCDは全く話題にならなかったので日本に出回った枚数もかなり少ないことと思われます。お気に入られて嬉しいです。

今から思えば昔から”厚化粧の肥大化した音楽”では無くグロスマン盤を推していた宇野先生は大したものだと思います。
ベームの「レクイエム」は大好きですが、宗教音楽はやはりコンサート会場で演奏されるようなスタイルではなく教会や大聖堂で演奏されるスタイルのものが好きです。現在では決して”気の早い方”でなくても同じような聴き手は多いと思うのですが。

投稿: ハルくん | 2018年6月 3日 (日) 02時03分

ハルくん様
確かに19世紀生まれの巨匠による、弦楽部がフル・プルトの豊満な響きのモーツァルト演奏は、今はあまり高く評価され得なくなってしまったとは、言えるでしょう。音楽学界の研究と考証が、それに追い討ちをかけたことも事実ですね。
でも、ワルター指揮NYフィルのモツ・レクや、ウィーン・フィルとのジュピターや、アイネ・クライネが全く手に取られる事もなく、聴かれずじまいと言うのも、少なからず損失である気もするのですね。

投稿: リゴレットさん | 2018年6月 3日 (日) 04時23分

リゴレットさん

ワルターのモツレクや、アイネ・クライネが全く聴かれなくなるのも寂しいですが、かなり際どいところまで来ているようには思います。
カラヤン/ベルリンフィルの来日公演でブランデンブルク協奏曲を大ホールで演奏するなども今ではまず有り得ませんね。

投稿: ハルくん | 2018年6月 5日 (火) 11時17分

ハルくん様
SMEも老ワルターの音源は、消費税5%の時分にSRCR2300番台で¥1995にて、コロンビア交響楽団のステレオを出した後、全く顧みていませんから。ニューヨーク・フィルとのモノーラル録音も、殆ど国内カタログからは消えちゃってますものね。
LPレコード時代に、ワルター大全集やベスト・クラシック100選で、頻繁に再発売していたのは、今は昔の物語…ですか。

投稿: リゴレットさん | 2018年6月 6日 (水) 08時57分

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