« ベートーヴェン 交響曲全集 コリン・デイヴィス/シュターツカペレ・ドレスデン ~新年はベートーヴェン~ | トップページ | ヴァン・クライバーン 第1回チャイコフスキー国際コンクール・ライブ »

2014年1月11日 (土)

チャイコフスキー バレエ音楽「白鳥の湖」全曲 名盤

Swan_lake_500_auto
マリインスキー劇場のバレエ「白鳥の湖」

さて、年末年始にはベートーヴェンを聴いていたので中断してしまったロシア音楽特集に戻ります。おりしもソチ・オリンピックの開幕まで一か月を切ったところですので、この際改題して「ソチ・オリンピック記念 ロシア音楽特集」とします!

ということで、ロシア音楽といえばチャイコフスキー。その代表作の一つがバレエ音楽「白鳥の湖」ですね。このバレエは良く知られた曲以外にも、驚くほど多くの魅力的な名曲ばかりの大傑作です。

「白鳥の湖」のストーリーは有名ですので、ここでは詳細は省きます。ただし、演出によって結末が異なり、「悲劇的な結末」と「ハッピーエンド」の二通り存在します。

悪魔の魔法によって白鳥の姿に変えられてしまった美しい娘が、夜だけ人間の姿に戻った時に王子に見初められ、やがて王子が悪魔を打ち倒すのですが、原典版では、娘は人間の姿には戻れず、王子と二人で湖に身を投げるという悲劇的な結末になっています。
それに対して、後年改作されたのが、悪魔の魔法が解けて、娘と王子とは二人で幸せに暮らすというハッピーエンドです。どちらが良いかは、人それぞれの好みだと思います。バレエ公演の場合には全体的な演出や踊りの印象が強いので、自分は余り結末にはこだわりません。ましてやCDによる音楽鑑賞では結末の違いは関係ありません。

そもそも、この作品はチャイコフスキーの最初のバレエ音楽でしたが、初演当時、ダンサー、振付師、指揮者に恵まれなかったことから、良い評価を得られませんでした。しばらくは再演されていましたが、そのうちにお蔵入りとなり、楽譜はチャイコフスキーの書斎に埋もれていました。それが、プティパと弟子のイワノフによって復刻がなされ、チャイコフスキーが亡くなった2年後の1895年にマリインスキー劇場で蘇演されました。現在でも世界のバレエ公演では規範となる「プティパ=イワノフ版」です。ただし一般的な全曲盤レコーディングでは、チャイコフスキーの原譜に基づいて演奏されるので、曲の順番やカットの点で幾らか異なります。

自分自身はバレエを生の舞台で、しかもマリインスキー劇場の公演を観るのが何よりも好きなので、プティパ=イワノフ版のCDを聴いても何ら違和感は有りません。むしろスッキリとしていて聴き易いかもしれません。

「白鳥の湖」を聴く場合に「全曲盤は長過ぎる」と言う人が居ますが、僕はそうは思いません。全曲で無いと聴いた気がしないのです。確かに単なる繋ぎの曲が一つも無いとまでは言いませんが、素晴らしい名曲が次々と息つく間も無く続くのはおよそ奇跡です。従ってこの作品は絶対に全曲盤で聴くべきだと思います。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

Cci00039s
ゲンナジ・ ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送響(1969年録音メロディア盤) 
全盛期のロジェストヴェンスキー/モスクワ放送響のコンビの演奏だけあって最高です。耳をつんざくような金管の強奏と躍動感溢れる切れの良いリズムが快感ですが、一方で情緒溢れるメロディはたっぷりと歌わせてくれます。オーケストラの上手さも特筆ものです。そして、この演奏でどうしても語らなければならないのが、ミヒャエル・チェルニャコフスキーのヴァイオリン独奏です。それはもうコテコテのロシア節で土臭く弾いてくれていて味わいが最高です。元々、この曲の独奏パートはコンチェルトかと思うほどに技術的にも難しく、並みのバレエ楽団のコンマスでは手に負えないのですが、この人はオイストラフかと思うくらいに上手く弾いています。長い独奏部分は、すっかりヴァイオリン協奏曲を聴いているような錯覚に陥ります。こういう演奏を聴いてしまうと、この曲はロシアの楽団以外ではちょっと聴こうという気が起きなくなります。録音は明瞭なのですが、当時のメロディア・レーベル特有の音の固さが有ります。

Tchaikovsky-4988031334614
アナトール・フィストゥラーリ指揮オランダ放送フィル(1972-73年録音/DECCA盤)
この曲は昔、大学生の頃にカラヤンもアンセルメもいま一つに感じましたが、フィストラーリとコンセルトヘボウ管には魅入られました。フィストラーリはウクライナ出身で、あのディアギレフのバレエ・リュスの指揮者も務めたバレエの権威です。フィストラーリは「白鳥の湖」を3回録音しましたが、最初のロンドン響とのモノラル盤は全曲版ながらカットがかなり多く、2回目のコンセルトヘボウ管盤はハイライト盤でした。このオランダ放送管との3回目の録音がようやく完全全曲盤となりました。演奏は非常にドラマティック、旋律をたっぷりと濃厚に歌わせるロシアン・スタイルです。序奏からしてまるで「悲愴」でも始まるみたいです。ヴァイオリン・ソロを名手ルッジェーロ・リッチが弾いていて、技巧の高さと歌い回しの上手さには感嘆します。管弦楽はコンセルトヘボウ管と比べると残念ながら劣ります。録音は20チャンネルのマルチ・マイクの音を4トラックで録音して2チャンネルにするフェイズ4方式によりますが、現在はタワーレコードからリマスタリング盤として出ていて音質は明瞭です。

Tchaikovsky-830
アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン響(1976年録音/EMI盤)
プレヴィンがこの作品に向いていることはたとえファンで無くとも明らかでしょう。バレエの躍動感、旋律の歌わせ方、ロマンティックな情感の表出などの点において卒が有りません。個人的にはロシア風の濃厚な味わいを好むので、その点だけは物足りなさが残りますが、とはいえ元々ロシア音楽を得意としているプレヴィンのことでもあり一般的にはむしろ聴き易い演奏として好まれるのでは無いでしょうか。ロンドン響も響きがサヴァリッシュ盤のフィラデルフィア管のように明る過ぎないのは良いです。ヴァイオリンソロをあのイダ・ヘンデルが弾いているのも豪華で、非常に味わい深さを与えてくれていますが、技術的に難所の部分では少々苦労して聞こえます。録音に幾らか古さは感じられますが鑑賞においては何ら差支えありません。

517hhded9gl
エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立響(1988年録音/メロディア盤) 
スヴェトラーノフもロジェストヴェンスキーに負けず劣らず、というかそれ以上に濃密なロシア風の演奏です。ダイナミック・レンジの巾も微小なピアニシモから壮大なフォルテシモまで驚くほどの広がりが有ります。まるでシンフォニーのような演奏という点では随一だと思います。「くるみ割り人形」では少々極端過ぎるように感じた豪放極まりない音も、「白鳥の湖」では抵抗はありません。もちろんテンポの緩急の幅が非常に大きいので、これでバレエ・ダンサーが踊ることは不可能です。ヴァイオリン独奏は優れていてロシア的な味わいも有りますが、ロジェストヴェンスキー盤の魅力には及びません。収録曲数は多く、ほぼ完全な全曲盤と言えます。録音は比較的新しい年代ですのでメロディアレーベルとしては水準に達していて不満を感じることはありません。なお、自分は三大バレエのボックスセットで持っています。

Tchaikovsky-img_2065
マルク・エルムレル指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場管(1989年録音/BMG盤:CONIFER原盤)
エルムレルは、サンクトペテルブルク生まれのロシア人指揮者ですが、主にバレエとオペラを指揮したので日本では余りポピュラーでは有りません。1932年生まれで、ロジェストヴェンスキーより1歳若いです。ボリショイ劇場の指揮者を長く務めますが、ロンドンやパリ、ウィーンでも活躍して、1985年からはコヴェント・ガーデン歌劇場のバレエ指揮者も兼任しました。この歌劇場で録音を残したチャイコフスキーの三大バレエはエルムレルの代表盤と言えます。全体の基本テンポはゆったりとしてスケールが大きく、豊かに歌わせますが、速い曲ではかなり追い込みます。金管・打楽器の鳴らし方も激しくロシア風なので、英国の楽団のイメージではありません。非常にドラマティックでロシアの情緒も強く感じられるのは流石です。素晴らしい「白鳥の湖」です。録音も良好です。

91ruchlbwhl_ac_sl1500_
ヴィクトル・フェド―トフ指揮マリインスキー劇場管(1994年録音/Crassical Records盤) 
フェド―トフはバレエ指揮のスペシャリストで、名門マリインスキー劇場の監督も務めました。我が国の新国立劇場にも何度も客演して、レベルの向上に寄与しました。しかし管弦楽の録音が非常に少ないことから音楽ファンには余り知られません。この録音は当然プティパ=イワノフ版で演奏されていますが、素晴らしい演奏です。バレエ指揮者ですので、よく非バレエ指揮者が振るようなダンサーが踊れないような無理な指揮はしません。バレエファンにとっては心地が良く安心できる演奏です。しかしオーケストラは正しくロシアの名門劇場で、ゲルギエフが就任する前から素晴らしい演奏をしていたことが良く分かります。音楽による荒々しさと繊細さの切り替えが実に見事だと思います。ヴァイオリンのソロも上手いです。聴き慣れないレーベルですが、れっきとしたロシアレーベルで録音は優れています。

51qe0cmgel_ac_
ドミトリー・ヤブロンスキー指揮ロシア国立響(2001年録音/ナクソス盤) 
ヤブロンスキーは元々優れたチェロのソリストですが、指揮者としての活動がメインになっているようです。ナクソスレーベルには主にロシア作品のディスクが多数見られます。この主兵オケはかつてスヴェトラーノフが率いた楽団とは異なります。昔のロシアの楽団のようなゴリゴリと音を立てるような迫力は無く、ずっと洗練されて都会的です。ただしそれはロシア伝統の音の上の比較で、他のヨーロッパ諸国の楽団の音と比べれば、しっかりとロシア的な味わいを与えてくれます。ヤブロンスキーの指揮もオーソドックスでスマートです。比較的ゆったりとしたテンポで、これみよがしなハッタリは見られません。録音は優れていますし、余りに強いロシア臭さは嫌だという方には案外良い選択かも知れません。むろん全くロシアの香りがしない演奏では困りますので。

Hakuchouno
ワレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管(2006年録音/DECCA盤) 
これもプティパ=イワノフ版ですが、さすがはゲルギエフで素晴らしい演奏です。録音の優秀さもあって、オーケストラの響きが本当に美しいです。「白鳥の湖」で、これほどまでの美しさで詩情豊かな演奏というのは聴いた記憶が有りません。もちろんチャイコフスキーですので、荒々しいロシア的な音に欠ける訳ではありませんが、このいじらしいまでのデリカシーに溢れた演奏に接してしまうと、これは絶対に外すことが出来ません。但し、全体的にテンポ設定が速いので、不満と言うほどでは無いのですが、幾らかせわしなさを感じてしまう部分も有ります。ヴァイオリン独奏も上手いのですが、その割に平凡な印象で、特にロジェストヴェンスキー盤の素晴らしさには及びません。

以上の8種類はプレヴィン盤以外は全てロシアもしくはウクライナ人指揮者の演奏です。非ロシア演奏家のものも幾つか聴きましたが、そのほとんどは「白鳥の湖」の音楽の持つロシア的な旋律や味わいを表現し切れていません。作品の舞台設定がドイツの深い森とはいえども、曲の持つロシア音楽の特徴を無視することは出来ないです。
これらの中から一般的には録音が優れていて演奏も美しいゲルギエフ盤をお勧めするべきでしょうが、ロシア的な荒々しさとヴァイオリン独奏部分に抗しがたい魅力を感じている自分は、あえてロジェストヴェンスキー盤を第一に取ります。またフィストラーリ盤、エルムレル盤にも抗し難い魅力が有ります。

さて、「絶対に全曲盤で」と言っておいて何ですが、組曲版よりはずっと曲数の多いハイライト盤も演奏さえ良ければ楽しめるのでご紹介します。

Tchaikovsky-81bypfmsfol_ac_sl1500_ アナトール・フィストラーリ指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管(1961年録音/DECCA盤) 
フィトラーリの2回目の録音ですが、ハイライト版なのがつくづく惜しまれます。上述したオランダ放送盤ほどは濃厚に演奏していませんが、それでも非常にシンフォニックで、リズムのキレの良さ、歌い回しの上手さ、スケールの大きさを其々兼ね備えていて実に見事です。オーケストラの金管の激しい鳴らし方もロシア風ですが、そこは名門コンセルトへボウなので騒々しくなるギリギリで踏み止まります。選曲も良く、序奏(イントロダクション)からちゃんと収められています。この時に全曲録音をしてくれていればどれほど素晴らしかったかとつくづく想われます。録音は古くはなりましたが流石はDECCAで充分に鑑賞できます。海外廉価盤などで入手も可能ですのでお勧めします。

Tchaikovsky ピエール・モントゥー指揮ロンドン響(1962年録音/フィリップス盤)
大指揮者モントゥーもまた、かつてバレエ・リュスの指揮者であったことは「春の祭典」の初演騒動などで余りに有名です。フィストラーリがロシアの情緒と荒々しい味わいを感じさせるのに対して、フランス生まれのモントゥーはずっとスマートです。とは言えこの人はフランスの洒脱さと言うよりも、ちょっとした堅牢さを感じさせます。そこがチャイコフスキーには似合います。スタイルとしては同じロンドン響を振ったプレヴィンに似ているかもしれません、おっとモントゥーの方が大先輩でした。フィストラーリ盤の翌年の録音ですが、こちらも流石はフィリップスでとても優れています。曲目はフィストラーリ盤とほぼ同じような内容ですが、こちらは序奏が無くていきなり情景から始まるのが気に入りません。残念なのはそれだけです。

最後に舞台映像版のDVDについてもご紹介しておきます。

Cci00040 マリインスキー劇場(2006年収録/DECCA盤) 
この伝統ある劇場の監督であるワレリー・ゲルギエフ自身が指揮をしています。なお上記のCDとは別の劇場収録です。オデットは看板のロパートキナです。彼女は顔立ちが美しいので大好きです。ゲルギエフの振るテンポは、やはりコンサート向きなので、ダンサーにとっては速過ぎたり遅過ぎたりと随分踊りにくそうな部分が見うけられます。そのために、純粋なバレエ・ファンからは必ずしも評判は良くないようです。けれども僕は純粋なバレエ・ファンでもありませんし、この演奏は大好きです。何といっても、オーケストラが優秀です。日本で公演を行う場合には、お世辞にもキーロフ管本来のレベルではありませんが、この収録では高い演奏レベルを聴かせてくれます。舞台映像用の「白鳥の湖」で、これ以上の管弦楽演奏はまず望めないでしょう。これほど音楽的に素晴らしい「白鳥の湖」のバレエ公演は有りません。もちろん伝統的な舞台演出も最高で、全体の薄明るく淡い色彩が本当に美しいです。そしてマリインスキーのコール・ド・バレエの素晴らしさ。これは生の舞台に接すると本当に言葉にならないのですが、DVDでも充分にその美しさを味わえます。
演出も最後に王子が見事に悪魔を倒してハッピー・エンドとなるオーソドックスな終わり方なので安心。この素晴らしいDVDは、普段バレエを見ないクラシック音楽ファンにこそ是非観て頂きたいお薦めです。

|

« ベートーヴェン 交響曲全集 コリン・デイヴィス/シュターツカペレ・ドレスデン ~新年はベートーヴェン~ | トップページ | ヴァン・クライバーン 第1回チャイコフスキー国際コンクール・ライブ »

チャイコフスキー(管弦楽曲)」カテゴリの記事

コメント

私は、ラスト、オデットと王子の2人が湖底に沈んでいく悲劇的な演出の公演を見たことがあります。
ハッピーエンドとは違った、何か重い余韻が残るものがありました。
なお、私も組曲や抜粋での演奏は物足りないものを感じます。チャイコフスキーのバレエ作品は、やはり全曲盤で聴くべきだと信じています。チャイコフスキーの美しい音楽に、とことん酔いたいものです。

投稿: オペラファン | 2014年1月12日 (日) 22時52分

オペラファンさん

悪魔を倒したにもかかわらず、魔法が解けないのはどうして?という疑問は残りますが、演出の違いを楽しめますね。なにしろ一応は初演版ですし。

やっぱりバレエ作品は全曲盤が良いですね。映像が無くても舞台の雰囲気をそのままに感じられます。

投稿: ハルくん | 2014年1月13日 (月) 00時07分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: チャイコフスキー バレエ音楽「白鳥の湖」全曲 名盤:

« ベートーヴェン 交響曲全集 コリン・デイヴィス/シュターツカペレ・ドレスデン ~新年はベートーヴェン~ | トップページ | ヴァン・クライバーン 第1回チャイコフスキー国際コンクール・ライブ »