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2014年1月30日 (木)

テミルカーノフ/サンクトぺテルブルグ・フィル 2014来日公演 ~静と動の対比~

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もうじきソチ・オリンピックが開かれるロシアから、ユーリ・テミルカーノフとサンクトぺテルブルグ・フィルハーモニーが3年ぶりに来日しています。そこで昨夜はサントリーホールのコンサートを聴きに行きました。

このロシアの名門オーケストラは近年では、2008年、2011年と来日していますが、いずれもコンサートを聴いて深い感銘を受けました。(詳しくは下記の関連記事を)

このオーケストラはロシア最古の楽団であること以上に、かつてのムラヴィンスキーの手兵レニングラード・フィルハーモニー(旧名称)として余りにも有名です。そのムラヴィンスキーが神格化された存在である為に、どうしても後任のユーリ・テミルカーノフは過小に評価されがちです。確かに、古い演奏には平凡なものも多かったような気がしますが、ムラヴィンスキーの没後から既に25年間も首席指揮者の座に就いている事実と実演を聴く限り、オーケストラの実力、優れた指揮ともにムラヴィンスキーの時代と比べても遜色が無いことを認識させられます。

2008年にはチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」、2011年にはやはりチャイコフスキーの第5番、そして今回交響曲第4番を聴きましたので、これで後期三大交響曲を聴くことが出来ました。現在チャイコフスキーを演奏してこのコンビは世界最高だと思います。

昨夜のプログラムは、前半が日本初演というギア・カンチェリ作曲「アル・ニエンテ~無へ」、後半がチャイコフスキーの交響曲第4番です。

それではコンサートの感想です。

ギア・カンチェリはグルジア共和国生まれの作曲家です。「アル・ニエンテ~無へ」は2000年に書かれた曲で、テミルカーノフに献呈されました。現代曲ですので、訳のわからない音楽を想像していましたが、さにあらずです。鳴る音と長い休符、ピアノとフォルテ部分が繰り返されるという、「静と動」の対比の音楽です。不協和音が多用されますが、不思議な抒情を感じさせる美しい響きが多いです。「現代音楽」というよりもミステリアスな映画に似合うような音楽という気がしました。

後半のチャイコフスキーの交響曲第4番では、テミルカーノフの旺盛な現意欲が感じられました。普段聴き慣れた演奏とは一味も二味も異なりました。

まず第1楽章冒頭のファンファーレが極めてゆっくりと、控え目に鳴らされます。はじめ「迫力に欠けるな」と感じましたが、それが解釈であることがあとから判ります。主部に入ると、テンポは逆にかなり速くなります。良く言えば「切迫感の有る」、悪く言えば「せわしない」テンポです。個人的にはこのテンポは少々速過ぎに感じられます。ところが、ゆったりとした部分に入ると再びテンポがぐっと落ちます。要するに、この曲でも表現のテーマは「静と動」の対比なのかと理解しました。
金管を派手に「爆奏」させないのはいつものテミルカーノフです。ムラヴィンスキーやスベトラーノフなどのタイプとは明らかに異なります。弦楽の音が常に表に出て、管楽の音に消されることがありません。消されない弦楽群の力ももちろん凄いです。あの延々と続く付点音符のリズムを正確に弾き切るのは非常に奏者を疲れさせるのですが、それを微塵も感じさせません。
第1楽章も後半に入ると音がどんどんと高揚してゆきます。終結部に入りたたみかけてゆく音の持つ凄みは流石にこのオーケストラの伝統です。

第2楽章はこれまで聴いた演奏の中でも最も遅いぐらいのテンポです。あの美しい旋律がもたれるほどですが、深く沈み込んでゆく虚無的なまでの雰囲気は悪くありません。オーボエ独奏の音色もとても美しいです。弦楽の音の美しいことも流石です。柔らかくふわっとホールに広がってゆきます。

第3楽章は聴きものの弦のピチカートの精度が気になるところですが、セッション録音ではありませんし、実演でこれだけ揃って演奏するのは並みのオケではありません。

第4楽章は当然速いテンポが予想されますが、その通りです。ここでも金管の音が制御されていて、弦楽の音がかき消されません。それどころか、あの速い音符を弾き切る弦楽群の優秀さには脱帽です。第1プルトから最後尾のプルトまでが全く同じようにピタリと合って凄みの有る音を出しています。昔、ムラヴィンスキーの「ルスランとリュドミラ」序曲を初めて聴いて驚愕したときを思い出します。このような「凄み」は、そうそう感じられるものではありません。そして一糸乱れぬアンサンブルで進軍を進めて、あのフィナーレにたたみかけてゆきます。終結前に冒頭のファンファーレが再び現れますが、今度は冒頭のときよりも遥かに力強く奏されます。
この楽章においても、決して「爆演」という印象では無く、極めて理知的な凄さ、興奮を感じさせるユニークなものです。こういうチャイコフスキーを聴かせるコンビが他に居るかどうか、少なくとも自分には思い当りません。

アンコールは2曲。このコンビの定番のエルガーの「愛の挨拶」とストラヴィンスキーの「プルチネッラ」から第7曲「ヴィーヴォ」でした。コントラバスとトロンボーンのソロが活躍してコンチェルトの趣のある「ヴィーヴォ」を実演で聴いたのは初めてですが、これはとても愉しかったです。

75歳になったテミルカーノフさんは3年前と少しも変わらず、まだまだ元気そうです。これからも何度でも日本に来てくれると良いなと思います。

<関連記事>
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チャイコフスキー(交響曲)」カテゴリの記事

コメント

早速の記事ありがとうございます。
私もチケットは購入していたものの仕事の都合がつかなくなり断念してしまいました。
昨年、氏が読響で悲愴を指揮した際は大変素晴らしい演奏だったので楽しみにしていたんですが。
次回の来日を首を長くして待ちたいと思います。

別途マーラー2番を聞きに行ったんですが、謹みがありながらも色鮮やかな演奏で、普段愛聴しているテンシュテットとは異なる解釈で楽しむことができました。まるでレクイエムを聞いたときのような感覚でしょうか。
やはり爆演にならずに丁寧にオケ全体を指揮しているのを感じました。

CD録音はチャイコフスキー同様に昔のものしかないようなので、後世のためにも音源の残していただけることに期待したいですね。
長文となり失礼しました。

投稿: ワト | 2014年2月 1日 (土) 22時09分

ワトさん、コメントありがとうございます。

そうでしたか。29日は残念でしたね。
でもマーラーをお聴きになられたのですね。
やはり、この人の演奏スタイルは昔のロシアン爆演スタイルとは異なるようですね。ゲルギエフと共通していますね。
せっかく手兵のオケが超優秀なのですから、もっとメジャーレーベルに色々と沢山新録音を残して欲しいです。

投稿: ハルくん | 2014年2月 2日 (日) 10時32分

サントリーホールでのレビュー、興味深く拝見しました。以前にハルくんさんが「悲愴」と5番をそれぞれ聴かれたことを書かれていて、私はどちらの演奏会も行くことができなかったので、今度こそは行きたいと思っていました。大阪で聴いた4番の印象も、爆演ではなかったというのが共通します。前に井上道義氏指揮のサンクトペテルブルク響(アカデミーオーケストラ)の方のショスタコーヴィチの交響曲第五番の演奏を聴きましたが、そちらは対照的な爆音、爆演でした。マエストロの美学で、きっと爆演を好まないのでしょう。自在にテンポが動かしながら、大局的な流れを聴き手に意識させる、スケールの大きな演奏でした。

投稿: ushinabe1980 | 2014年2月 4日 (火) 00時06分

ushinabe1980さん、コメントをどうもありがとうございました。

テミルカーノフは職人タイプだと思いますが、オーケストラの機能をここまで維持して、自分の思い描く表現をとことん追求する姿には畏怖すら覚えます。
晩年のギュンター・ヴァントもそうでしたが。

むやみにレパートリーを広げないところが好きです。ドイツものは少なくて大半がロシアものですね。自分の本場もの好きの趣味にも合っているように思います。

サンクトペテルブルクPOのあの音には来日するたびに触れたくなってしまうのですね。次回は何が聴けるか今から楽しみです。

投稿: ハルくん | 2014年2月 4日 (火) 18時34分

マーラーの「復活」行きました。解釈自体はかなり激しいもので、最終楽章などティンパニストが3人でおもいっきり叩いていましたが、残念ながら下手過ぎていくら叩いても全く迫力が伝わってきません。

テミルカーノフが爆演指揮者では無いというのは現在の姿で、1980年代スヴェトラーノフ時代のソビエト国立を振っていた頃のテミルカーノフはスヴェトラーノフもビックリの爆演指揮者だったはず。

1998年(だったと思うが)サンクトペテルブルク来日公演、東京オペラ・シティ・タケミツ・ホールでのワーグナー「ローエングリン」第3幕への前奏曲、そしてメインのマーラーの「巨人」のホールの屋根が吹き飛ぶような大爆演は前代未聞の壮絶な演奏であった。

今でもあの時の演奏を想い出すと胸が熱くなる。

オケも全然上手かった。

読響の「悲愴」や今回の「復活」を聴くと、こんな軟な演奏をする指揮者じゃなかったのにと愕然とする。

もうテミルカーノフもサンクトペテルブルクも終わってしまったのだ。

投稿: プーちゃん | 2014年2月25日 (火) 01時03分

プーちゃんさん

テミルカーノフの80年代の演奏を生では聴いていませんが、マリインスキー管との83年のライブ録音は持っています。非常に素晴らしい演奏をしていますが、やはり爆演というタイプでは無いですね。

マーラーの1番と2番では演奏スタイルを変えているのかもしれません。読響はともかくとして、最近のテミルカーノフ/サンクトペテルブルクのチャイコフスキーは実に素晴らしいですよ。もちろん聴かれた皆さんが仰るように”爆演”ではありませんので、プーちゃんさんのお好みでは無いのでしょうね。

投稿: ハルくん | 2014年2月25日 (火) 11時22分

TV放送された今年の来日公演の「レニングラード」交響曲
「人類の文化遺産」に指定すべきと思える素晴らしさでした。

インタヴューでテミルカーノフはムラヴィンスキーを批判してましたが
前任者のやり方を踏襲せず、自らの美意識を貫くのが立派です。

とにかく、音に艶やかさがあり、全強奏で決して混濁しない
「貴族的」ともいうべきでしょうか?
もちろん、戦車を連想させるかのような圧倒的迫力ですが
それが少しも「煩く」感じないのです。

著名指揮者たちが「乗り換え」ばかりして
どのオケも「マクドナルド」化する今
じっくりと独自のサウンドを保持しているのは立派です。

今までこのコンビに注目していなかった自分を恥じるばかりです。

投稿: 影の王子 | 2016年10月 9日 (日) 23時30分

影の王子さん、こんにちは。

確かにムラヴィンスキーの跡を継いだころのテミルカーノフは前任者に遠く及ばなかったと思います。
ところが「芸の道は一本道」なのですねー。最近のこのコンビの演奏は本当に素晴らしいです。記事にも書きましたが、ある意味ムラヴィンスキーを越えているかもしれません。ムラヴィンスキーファンは異論を唱えるかも知れませんが、あの人の演奏が全て良いとは思っていないからです。

テミルカーノフは高齢なので、あとどれぐらい現役で素晴らしい演奏を続けられるのか少々不安を覚えます。聴くなら今のうちですね!

投稿: ハルくん | 2016年10月10日 (月) 09時51分

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