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2014年1月 3日 (金)

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 ~新春初夢・女流名人戦~

新たなる気持ちで新年を迎えたいという気分に、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲とピアノ協奏曲「皇帝」は、とても相応しいですね。峻厳な気持ちになるヴァイオリン協奏曲に対して、「皇帝」は生きる力と勇気を湧き起こしてくれます。どちらも素晴らしい名曲だと思います。

実は、二年前の2011年の新年にも、同じ「皇帝」で聴き初めをしました。僕の愛聴盤についてはその時の記事、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 名盤で、ご紹介済みですが、今回は題して「新春初夢・女流名人戦」です。演奏を競うのは日仏の美人鍵盤奏者同士という、いわば国際Aマッチです。

エレーヌ・グリモー(フランス代表)
     VS
仲道郁代 (日本代表)  

なにしろ、お二人ともホント美しいので、CDのジャケット写真を眺めているだけで魅入られてしまいます。ボーっとしていてロクに正しい審判ができないかもしれませんが、二人とも自分の好みのタイプですので、どちらかを贔屓するような真似はしません。たぶんですけど(?)

それでは、試合開始!先攻はエレーヌ・グリモーさんです。

41kbt0fajylエレーヌ・グリモー独奏、ヴラディーミル・ユロフスキ指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2006年録音/グラモフォン盤)

指揮者のユロフスキは余り知られませんが、ロシアに生まれて18歳でドイツに移住した人です。それにしてもグラモフォンは最近、シュターツカペレ・ドレスデンを使った録音が多いですね。東西ドイツ分断の時代には考えられなかったことです。この演奏がルカ教会で録音されたと聴けば、古いファンなら「ああ」と言って響きを想像なさるでしょう。全ての楽器が柔かく溶け合った、あの典雅な響きです。ユロフスキの指揮は力みの無い自然体で、オケの響きを最優先させている印象です。木管のハーモニーも美しく、このオケのドイツものは本当に素晴らしいです。グリモーのピアノはオーソドックスです。テクニック的にも不足は全く感じません。彼女はブラームスでは、かなりロマン的に傾く傾向が有りますが、このベートーヴェンは古典的な様式をしっかりと守っています。あくまで造形を重視して、そこにロマンの香りを混ぜ合わせるというスタイルです。造形を壊してしまうような過剰表現は有りません。それはオケの演奏スタイルともピタリと一致していて、バランスの良く取れた統一感を感じます。といって、第2楽章の敬虔な雰囲気が薄いなどということは無く、非常に深い祈りを聴かせています。ピアノとオケの両者が何と美しいことでしょう。第3楽章のリズムの良さと躍動感も見事です。更に、そこかしこに感じられる愉悦感が聴き手を幸せな気分にさせるでしょう。これは決して暴君のような荒々しい皇帝ではありません。立派な佇まいをしていて、民衆のを大切にする慈愛と人徳に溢れた皇帝という印象です。

ここで、攻守の交代。後攻めは仲道郁代さんです。

51axi15yy7l仲道郁代独奏、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー(2004年録音/ソニー盤)

仲道さんは本当に美しいと思います。けれでも、時にそれが正当な評価の邪魔をする場合が有りそうです。「あんな美人が良いピアノを弾けるわけがない。しょせんビジュアルだろう。」と玄人のファンに思われかねないからです。もちろん、どの演奏も全て良いなどと言うつもりは毛頭無いですし、それでは逆に正しい聴き手では無いと思います。

そんな仲道さんが41歳の時の録音であるこの演奏は、オーケストラが古楽器であるのが特徴的です。ヴィブラートが少ない透明感の有る響きです。そのバロック的な音が良いかどうかは聴き手の好みしだいですが、個人的にはベートーヴェンには現代楽器の重厚な音が好みです。仲道さんはテクニックに物を言わせてバリバリと弾くヴィルトゥオーゾ・タイプでは全くありませんが、テクニックに不足するわけではありません。彼女のピアノは、端正で透明感の有るとても美しい音を持ちますので、古楽器オケとの相性は決して悪くありません。白眉は第2楽章で、清純な祈りの雰囲気を見事に漂わせています。もちろん、全体が力強さに欠けている訳では無く、第1楽章や第3楽章の勇壮な部分ではとても立派に弾いています。しかし、これはグリモーにも共通していますが、荒々しい男性の皇帝では無く、気品が有り聡明な美しい女帝という印象です。そういう点はグリモー以上に感じられます。その結果、幾らかスケール感に不足しているのは否めません。但しそれは、仲道さんのピアノだけのせいでは無く、パーヴォの取る全体的に速めのテンポや古楽器オケの響きなどのトータル的な結果です。第3楽章の湧き立つような生命感と気品溢れる優しさの両立なども見事なものです。仲道さんが、単なるヴィジュアルの女流ピアニストと思われたら大間違いです。誤解されている方には是非ともお聴きになられて欲しいです。

ということで、この女流一番勝負(いや、「5番」勝負ですね)、管弦楽パートも含めた演奏トータルでは、グリモー盤の判定勝ちとします。しかしグリモーさんの美貌に惹かれながらも、仲道さんの優しい笑顔には更に惹きつけられます。ということで、この新春対決の結果は「水入りで引き分け」です。
仕方ありませんね、水もしたたる美しいお二人ですから。
へえ、おあとがよろしいようで。

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コメント

ハルくんさん、こんばんは。
新年 第1発目は女流(美人)対決ですか。(笑)ハルくんさんらしいですね~ (笑)
確かに お二人共、実力派ですからね。(この二人のシューマンなど、現役ピアニストの中でもトップクラスだと思います) でも、「皇帝」ともなると名演、快演が多すぎるので 現代のピアニストは大変だと思います。
私など、いまだに バックハウス/イッセルシュテット盤の呪縛から抜け出す事が出来ませんから…(笑)
今日は 珍しい所で、エリー・ナイ/ホーフストラーテンの演奏を聴いていますが、これは なかなか良いです。

投稿: ヨシツグカ | 2014年1月 3日 (金) 20時47分

ヨシツグカさん、こんにちは。

グリモーのシューマンも素晴らしいですが、仲道さんのシューマンは絶品でベートーヴェンよりも良いと思っています。それはまた追々記事にするつもりです。

「皇帝」に関しては僕もバックハウスが一番好きですね。録音も含めてSイッセルシュテット盤がベストですが、バックハウスの演奏だけならばシューリヒト盤が上だと思います。
エリー・ナイのベートーヴェンはソナタの何曲かを聴いた覚えが有りますが「皇帝」は無かったかなあ。中々に良かった気がします。

投稿: ハルくん | 2014年1月 4日 (土) 00時37分

ハルくんさん、あけましておめでとうございます。ご紹介されている2枚は2枚とも美人のピアニストによるもので私はそれだけで高い評価を与えてしまいますが、肝心の演奏も、演奏者名を伏せたとしても「ハッ」とするようなすぐれた演奏だと思います。グリモーの方は発売当時、名盤の数多いこの曲のなかでも上位に位置する名演奏だと思いました。仲道さんの方はとくにやり手でいろいろ攻めていた頃のパーヴォ・ヤルヴィのベートーヴェンプロジェクトのソリストとして選ばれたのが不思議ではないと感じました。控えめでありながら芯が強くて透明感のあるピアノでした。日本人らしさというのがマイナスになっていない稀有な演奏でした。演奏のタイプは違いますが似た雰囲気の2枚でした。決してバリバリ弾くような超人的なタイプではない2人のピアノから、ベートーヴェンの音楽の持つ高い精神性を感じるられるのが嬉しくて、2枚とも私もよく聴くCDです。長くなりましてすみません。どうぞ本年もよろしくお願いいたします。

投稿: ushinabe1980 | 2014年1月 5日 (日) 00時41分

ushinabeさん、明けましておめでとうございます。

どちらも良い演奏ですよね。私ももちろん同感ですが、グリモー盤などは意外と評価の低いレヴューも見受けられますね。そういったリスナーがどこまでちゃんと聴いているのか疑問に感じていましたが、ushinabeさんが評価されているのを聞くと実に「我が意を得たり」です。どうも有難うございました。

本年もどうぞよろしくお願い致します。

投稿: ハルくん | 2014年1月 5日 (日) 15時03分

今晩は、ハルくん様。 お正月休みも終わってしまいました。規則正しい生活に戻れるかな、心配…
演奏は聴いていないのでジャケットだけの判定。私の個人的な好みで仲道郁代さんに一票です。
実はハルくんに聞きたい事がありまして無理やりの書き込みなんです。
今、スキージャンプのW杯でチャイコフスキー大会が開催されてますよね。ロシアにチャイコフスキーという地名があるのですか?
気になって地図帳を探すのですが見つかりません。教えてくださいませんか。
音楽にまったく関係ない話申し訳ありませんが、餅が喉にひっかかっている気分なんですぅ。

投稿: from Seiko | 2014年1月 5日 (日) 21時27分

Seikoさん、こんばんは。

お正月休み終わってしまいましたね。
社会復帰目指して頑張りましょうrock

仲道さんに一票!ありがとうございます。
僕も個人的には仲道さんなのですが、試合主催者兼審判ですので私情を挟むわけにはいけないのが辛いところです。

Tchaikovskyという町は有りますよ。カザフスタンのちょいと北あたりです。Google Mapでちゃんと検索が出来ました。Ski Jumpimg Tchaikovskyでもweb検索が可能です。ご参考までに。
絶好調の沙羅ちゃん、ソチで頑張ってほしいですね。

投稿: ハルくん | 2014年1月 5日 (日) 23時45分

 ハルくんさん、あけましておめでとうございます。
 新春に「皇帝」、いいですね!ご紹介されている2種の演奏は聴いたことがないのですが、どちらもいい演奏をするピアニストですから引き分けも致し方ないですね。特にグリモーは好きです。ザンデルリンクとのブラームス、本当に素晴らしかった…。
 ところで「皇帝」なら私はギレリスとセルががっぷり四つに組んだ演奏が大好きです。次点にミケランジェリ&ジュリーニが来ます。タイプが違いますが、どちらも「皇帝」の2つの面を見事に表現していると思います――つまり、荘厳・厳格な面(ギレリス)と高貴・華麗な面(ミケランジェリ)です。
 明日は久しぶりに「皇帝」を聴くことにします。さて、どちらを聴こうか…迷う…。

投稿: ぴあの・ぴあの | 2014年1月 6日 (月) 00時23分

ぴあの・ぴあのさん、明けましておめでとうございます。

ミケランジェリのピアノは輝かしさに言葉が無いですね。他の人とは全く違います。

ギレリスの「皇帝」はベームとのライブ盤しか聴いていません。この人のロシアものはとても好きなのですが、ドイツものには余り心を奪われた記憶が有りません。
「皇帝」はセルとのEMI盤ですよね。機会あれば聴いてみたいと思います。ご紹介ありがとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。

投稿: ハルくん | 2014年1月 6日 (月) 16時19分

あけましておめでとうございます。年末年始めちゃくちゃ忙しくてごぶさたしておりました。仕事始めからさっそく出張でしたし。
「皇帝」はミケランジェリやポリーニの演奏が好きでしたが、最近ではこの二人の演奏もいいですね。自分が伴奏してみたい曲でもあります。

投稿: かげっち | 2014年1月 8日 (水) 13時06分

かげっちさん、明けましておめでとうございます。

年始からご出張とは大変ですね。余り無理し過ぎにならないように体を大事にしてください。

ミケランジェリ盤もポリーニ盤も良いですよね。「皇帝」には良い演奏が色々と有りますね。
上手いソリストを迎えれば、演奏をするのも楽しいでしょうね。

それでは、本年もどうぞよろしくお願いします。

投稿: ハルくん | 2014年1月 8日 (水) 14時30分

こんにちは。

このグリモーのCDにはベートーヴェンのソナタ28番がカップリングされていますね。B面扱いのような感じであまり話題にならないようですが、これはとてもいい演奏だと思います。 28番の3楽章は大家でもガタガタになっている演奏が多い中、堅実で凛々しいです。

28番を聴くとホロヴィッツの来日公演(1983年)を思い出します。ひび割れた骨董品とか言われて散々でしたよね。まあ、誰が弾いても難しい曲ではありますが。

投稿: NY | 2014年5月 2日 (金) 22時48分

NYさん、こんにちは。

「皇帝」対決でしたので、28番ソナタには触れませんでしたが、グリモーのは良い演奏ですね。

「大家でもガタガタになる」というのは第3楽章では無く第2楽章のような気がしますが・・・あるいは第4楽章?

投稿: ハルくん | 2014年5月 4日 (日) 00時11分

すみません。終楽章のことです。

イ短調の序奏部は途切れがないので、それも含めて私は昔から第3楽章と数えています。人によっては、というより録音の編集によっては後続のアレグロだけを第4楽章とみなしているようです。定説はないようですね。

第2楽章の行進曲も終楽章も和声が絶妙で大好きです。私が言うのは恐れ多いことですが、古いピアニストでは(誰とは言いませんが)かなり雑な演奏も散見されます。グリモーの演奏はとても丁寧でいい感じですね。「皇帝」はまたゆっくり聴いてみたいと思います。

投稿: NY | 2014年5月 4日 (日) 01時54分

NYさん、こんにちは。

たまたま良く聴くCDで”4楽章”となっていたのと、グリモー盤でもやはり”4楽章”でしたので、そう思っていましたが、確かに別のCDでは”3楽章”として表記されていました。
こちらこそ失礼しました。

終楽章は難しいでしょうが、2楽章のリズムも結構難しそうですね。ピアノ演奏家は凄いです。

投稿: ハルくん | 2014年5月 4日 (日) 06時53分

グリモーのベートーヴェン、「皇帝」は楽しみに置いておいて
さきにソナタ28番と別アルバムの「テンペスト」を聴きましたが
とてもセンスの良い演奏と感じました。
メリハリは十分ですが、それが度を超すことなく
音楽が語り掛けてくるようです。
全集まではいかなくても録音を続けてほしいです。

仲道さんはすでにソナタ全集を完成させていました。
「熱情」と「エロイカ変奏曲」の1枚しか聴いていませんが
これは迫力十分の演奏です。
仲道さんの協奏曲の方は1・2・4番を聴きましたが
パーヴォのオケに不満があり、こちらは残念です。

仲道さんは実演も聴きましたが、本当に尊敬できる人です。

投稿: 影の王子 | 2016年8月25日 (木) 22時21分

影の王子さん、こんばんは。

グリモーはいいピアニストですね。
ベートーヴェンも良いですがブラームスがまた素晴らしいです。

仲道さんも大好きですが、全曲録音とは大変なことに挑戦しましたね。ベートーヴェンのソナタはそれこそ古今のピアニストが録音しているので、その中で輝きを放つというのは至難の業だと思います。

パーヴォのベートーヴェンはシンフォニーも含めて新鮮?で人気が有りますが、自分の好みのスタイルではありません。やはりもっと重厚さが感じられたほうが良いです。

投稿: ハルくん | 2016年8月25日 (木) 23時33分

10/30(日)の「題名のない音楽会」に仲道さん、ご出演です。
http://www.tv-asahi.co.jp/daimei/

投稿: 影の王子 | 2016年10月26日 (水) 21時25分

影の王子さん、こんにちは。

おおっ、それは耳よりの情報ですね。
見逃さないようにしなければ。
ありがとうございます!

投稿: ハルくん | 2016年10月27日 (木) 12時52分

やはり・・・とういべきか?
ルービンシュタイン
ミケランジェリ
ホロヴィッツ
の「3強」でしたね。

ホロヴィッツが使用したピアノを
仲道さんが引いて感嘆されてましたが
やはり「超一流はハード(楽器)に拘る」
という事実を目の当たりにしました。

「題名のない音楽会」観たり観なかったりですが
佐渡さんから五嶋さんに代わって面白くなったかも?

投稿: 影の王子 | 2016年10月30日 (日) 22時14分

影の王子さん、こんにちは。

ミケランジェリとホロヴィッツは揺るぎないと思います。
ルービンシュタインは大好きなピアニストですが、ならばリヒテルやバックハウスは?更に古くはホフマンやコルトーはどうした?と思ってしまいます。
個人的にはむしろもう一人はグリゴリー・ソコロフを選びたいところです。
超一流の演奏家が超一流の楽器を駆使して演奏するときに次元が異なる域に達するということでしょう。

この番組は佐渡さんのときにはおよそ観なかったですが、最近は観ていますよ。仰る通りですね。

投稿: ハルくん | 2016年10月31日 (月) 12時34分

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