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2013年12月15日 (日)

ホルヘ・ボレット&ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送響のライヴ盤 チャイコフスキー ピアノ協奏曲/ムソルグスキー「展覧会の絵」 

北国では吹雪だそうですね。今年の冬は雪が多いのでしょうか。関東でも日増しに冷え込んでゆく感じです。ということで、寒さに負けず「冬のロシア音楽祭り」を続けます。

Jorge_boret_2

ホルヘ・ボレットは1914年生まれのピアニストで、若い頃はバリバリのテクニシャンで鳴らしていた割には、余り人気が出なかったようです。それはもしかしたら、この人がキューバの出身だったからなのかもしれませんね。キューバ革命以後、キューバはアメリカにとって最も近くて危険な国であったからです。まぁ、これは単なる邪推に過ぎません。

ボレットに人気が出てきたのは1970代になってからです(といっても相変わらず余り派手さはありませんでした)が、かなり前時代的なロマンティシズムを綿々と感じさせる演奏スタイルだったようです。何しろ、この人はフランツ・リストの孫弟子だった(リストの弟子の一人が長寿だったので、ピアノを教授されたらしい)からかもしれません。

そんなボレットが、名指揮者ギュンター・ヴァントの伴奏で演奏した、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のライブ盤が有ります。

840ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送響、ホルヘ・ボレット(ピアノ)(Profile盤)

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番(1985年録音)
ムソルグスキー(ラヴェル編曲)「展覧会の絵」(1982年録音)

チャイコフスキーのピアノ協奏曲は、ボレットが71歳の時の演奏になります。
総じてテンポはゆったりとしていて、せせこましい印象は微塵も感じられません。幾らか、まったりとしている印象です。このスケールの大きな恰幅の良さはとても魅力です。

テクニック的には全盛期の片りんは窺えるものの、目の覚めるような切れ味とは言えませんし、ミス・タッチも随分多いように思います。自分はライブでのミスは余り気にしない方なのですが、この演奏を最初に聴いた時には結構気になりました。けれども2度、3度と聴いていると慣れてしまいます。

この人のピアノのタッチと音色には得も言われぬ艶やかさを感じます。若いピアニストに良くある冷たく硬質で透明な印象とは正反対の、人間の体温を感じさせるような暖色系の、とても綺麗な音です。昔のピアニストにはこういう温かみの有る音を持つ人が多かったのですが、時代による楽器の音の変化と共にすっかり変わってしまいましたね。

一方、弱音部でのデリカシーに溢れて、じっくりと歌わせる弾き方はまったくもって素晴らしいの一言です。例えて言えば、伝統芸能を演じる人間国宝のように、円熟仕切った本当に味わいの深い演奏だと思います。

ヴァントの指揮も最良の職人芸を聴かせてくれます。ことさらロシア風に歌わせる訳ではありませんが、あるときはしっとりと、あるときは堂々と恰幅良くと、まずは理想的な指揮ぶりです。北ドイツ放送響の音色が暗めなのも、よくある派手派手しい伴奏に陥ってしまうのを防いでいて好ましく思います。

次にムソルグスキーの「展覧会の絵」ですが、この曲はもちろんムソルグスキーの作曲したピアノ曲を、フランスのラヴェルがオーケストラ編曲したものです。ですので、往々にしてこの曲がロシア作曲家の手によるものであるということを忘れさせるぐらいフランス的な明るい響きで演奏されます。それも確かに悪くは無いのですが、よくよく聴けばやはりこの曲にはロシアの土臭く暗い音楽が詰まっているのですね。それを思い出させてくれるような演奏を個人的には好んでいます。

実は意外なことに、ヴァントは「展覧会の絵」を好んでいたようで、スタジオ録音の他にも、複数のライブ録音が有ります。この北ドイツ放送響との演奏は、このオーケストラが持っている暗い響きが、自分の好みの丁度良い色彩バランスを持たせているように思います。これが真正ロシア風かと問われれば、そんなことはありませんが、「ビドロ(牛車)」や終曲の「キエフの大門」などでは息の長い旋律を、堂々と息切らせることなく歌い切っていて中々に感動的です。全体的には、決して聴き手を圧倒するような演奏ではありませんが、何となく聴いているうちに、いつのまにか聴き入っている自分が居ます。ヴァントは決してドイツ、オーストリアものだけが良かった訳では無いのですね。

2曲の録音は3年の違いが有りますが、音質はどちらも優秀で、その差は全く感じられません。

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コメント

ハルくんさん、こんにちは。
「展覧会の絵」は小学生の頃から大好きで、LPレコードも かなり最初の頃から(確か 3~4番目に買ったと思います。)聴いていました。当時はカラヤン盤でしたが、だんだん いわゆる本場物にシフトしていきました。
きっかけは 原曲のピアノ版をリヒテルのソフィア・ライブ盤で聴いた事で カラヤン盤(ラヴェル編曲版)とのあまりの違いに驚いたものです。(笑)
現在の愛聴盤は ピアノ版は やはリヒテルのソフィア・ライブが凄いと思うし、オケ版は ゲルギエフも良いですが、スヴェトラーノフのさらに「ロシアの土の匂い」がする演奏を気に入っています。

投稿: ヨシツグカ | 2013年12月15日 (日) 12時15分

ヨシツグカさん、こんにちは。

実はこのCDはボレットのチャイコP協が目的で聴きました。ヴァントの「展覧会」は全くのオマケだったのです。そうしたら”予想外”に良かったのですね。(笑)

リヒテルのソフィア・ライブは昔LP盤で聴いていました。確かにあれは凄い演奏ですよね。

スヴェトラーノフのは未だ聴いていません。ずっと、”お気に入りカート”に入ってはいるのですけど。(笑)
そのうちに是非聴いてみます。ありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2013年12月15日 (日) 12時31分

 ハルくんさん、こんばんは。
 ボレットとヴァントとは、また変わった組み合わせですね。ヴァントは合わせが上手い指揮者だと思いますけど、こんなに音楽性が違う2人となるとソリストとオケが全然違う曲になってしまいそうで心配です(笑)。
 「展覧会の絵」は私も原曲の方が好みです。そして原曲の演奏ではアファナシエフの狂気に満ちた演奏が大好きという、困った私です(笑)。なのでラヴェル編曲版を聴くときは、もう割り切って最高に華やかエレガントな演奏を聴くことにしています。ヴァントの芸風とはあまり合わなそうですが、ちょっと気になる盤ですね。

投稿: ぴあの・ぴあの | 2013年12月16日 (月) 18時57分

ぴあの・ぴあのさん、こんにちは。

この二人の組み合わせって、確かにイメージが湧きませんよね。僕も聴いてみる前には同じでした。でも、ヴァントはやはり名職人です。ボレットに上手く合わせているのですね。不自然な印象は全く受けません。

アファナシエフの「展覧会の絵」は試聴をしただけなのですが、なんだかスリラーSF映画を観ているような凄い演奏ですね。いずれCDでちゃんと聴いてみたいと思っています。

投稿: ハルくん | 2013年12月17日 (火) 10時43分

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