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2013年11月 8日 (金)

ブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 ユーディ・メニューインの名盤

”秋のブラームス祭り” 本日の出し物はヴァイオリン・ソナタ集です。この3曲、どれもが深まりゆく秋に聴くのに、とっても相応しい名曲ですね。
そして、登場する演奏家はユーディ・メニューインです。

41yf1812vwlユーディ・メニューイン(Vn)、ルイス・ケントナー(Pf)(1956-57年録音/EMI盤)

ユーディ・メニューインは1916年生れのユダヤ系アメリカ人で、1999年に亡くなりました。この人は不思議なヴァイオリニストでした。幼少の頃には「神童」としてもてはやされて大変な人気を獲得しましたが、彼は早熟の天才であったために曲を楽々と弾きこなせてしまい、多くのコンサートに明け暮れました。そのために、普通であれば若い年齢の時に地道に取り組むべき基礎練習が不足していたそうなのです。結局、その付けが回って、後年になってから技術的な問題が起きて来たという話です。確かに壮年期以降のメニューインを同じ世代のオイストラフやスターン、ミルシュテイン、シェリングらと比べると、ボウイングには滑らかさが不足して音がしばしばカスれますし、フィンガリングも何となくぎくしゃくした印象を受けてしまいます。

僕がメニューインの演奏を最初に聴いたのは学生時代で、フルトヴェングラーと共演したベートーヴェンの協奏曲の録音でしたが、当時の東芝EMIのアナログLP盤の音の悪さも手伝って、全く良さが分かりませんでした。

ところが、随分と後になってウィルヘルム・ケンプと組んだベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ集を聴いたのですが、その演奏の素晴らしさには驚かされました。特徴は少しも変わらないのにです。要するにこの人は、晩年のヨゼフ・シゲティのタイプなのですね。音はカスれ気味で、テクニックはヨレヨレしていても、そこから聞こえてくる音楽には妙に説得力が有って、心に訴えかけてくるという具合です。これはもう理屈では無くて、演奏家の持つパッションが聴き手の心に対してダイレクトに届くということなのでしょう。

それ以来、この人のバッハやブラームス、ベートーヴェンなどの録音を色々と聴いてみましたが、どれもが素晴らしいものでした。そして既に廃盤となっているために中古盤を入手するのに苦労をしていた(というのも、Amazonでは法外な高値で販売されていますので)ブラームスのヴァイオリン・ソナタ集をようやくリーゾナブルな価格で手に入れることが出来ました。これは1956年から1957年にかけてのEMI録音です。ピアノを弾いているのはハンガリー出身のルイス・ケントナーという人で、メニューインとはしばしば共演をしていました。

この録音は、なにせ最初期のステレオ録音ですので優れているとは言えません。けれどもデジタル・リマスターで高音強調に加工されていないのがむしろ良かったように思います。メニューインの音楽に似合った人肌の温もりを感じさせるような音質だからです。それは、とても古い写真のセピア色の雰囲気を連想させます。メニューインの実際の音もこのような音であったのではないでしょうか。この人は日本にも来ていますから、生演奏に接した人に聞いてみたい気がします。

それにしても、メニューインの奏でるブラームスは何とも人間的です。若手でテクニックがバリバリのヴァイオリニストがするような演奏とは最も遠い世界です。こういう演奏が良いと感じるのは、自分が齢をとった証拠なのでしょうが、でも良く考えてみれば僕は学生の頃からシゲティ晩年の枯れた演奏が大好きでしたので、ブラームスと同じ”年齢不詳の青年”だったのかもしれません。

3曲の中では、第1番と第2番の穏やかな曲想は、メニューインに実に適しています。ルイス・ケントナーのピアノもメニューインが組んでいるだけあってピタリとはまっています。深まりゆく秋に聴くブラームスの味わいを心から満喫できます。ああ、こんな音楽を聴いていると、若い頃の恋を思い出してしまいますね・・・。う~ん、詩人になってしまう??

曲想の激しい第3番も意外に(?)素晴らしいです。世評の高いオイストラフ&リヒテルという巨人同士の剛演のような迫力は有りませんが、ブラームス特有の暗い情熱を余すところなく表現しています。しかも生身の人間の等身大の演奏ですので、3楽章などは何とも心に染み入ります。終楽章での気迫も充分です。

ブラームスのヴァイオリン・ソナタ集では、リファレンスとしては今でもシェリング&ルービンシュタイン盤が最適だと思っています。ただ個人的には、CDが分かれてはいますがシゲティ&ホルショフスキー盤に最も強く惹かれます。最近ではスーク&バドゥラ=スコダの1997年録音盤が録音の優秀なことも含めて非常に気に入っています。このメニューイン&ケントナー盤も音質が古めかしいものの、これから愛聴盤の一角を占めそうです。

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コメント

こんにちは。

若い頃のメニューインは音色がとても甘く、素晴らしい演奏家だったと思います。エルガーのヴァイオリン協奏曲などは歴史的名演という感じがします。ちりめんのような音色はまさに超人的です。ブラームスのソナタは1940年あたりの動画を一部だけ見ましたが、レトロで甘く、いい演奏ですね。

残念ながら壮年期以降は私ですら音程が悪いと感じるものが多々あります。グールドとも親交があったようですし、音楽思想家あるいは教育者としては大変偉かった人のようですが。

投稿: NY | 2013年11月 9日 (土) 18時16分

NYさん、こんばんは。

メニューインの若い頃の演奏は確かに素晴らしいですね。「神童」の名に恥じないと思います。
エルガーも恐らくエルガー本人の指揮で弾いた演奏だと思いますが、こぼれるような美音は、古い録音からも充分に聴き取れますね。

それに対して、晩年の音はまるで別人のようですが、広い方面で人間として成長しただけのことはある深いヒューマニズムを感じずにいられません。ですので晩年の演奏にも非常に魅力を感じるのです。

投稿: ハルくん | 2013年11月10日 (日) 19時37分

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