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2013年11月14日 (木)

ブラームス/ヨアヒム編曲 「ハンガリア舞曲集」 ~ジプシー・ヴァイオリン~

Remenyi_and_j_brahmsエドゥアルト・レメーニ(左)とヨハネス・ブラームス(右)

クラシックをほとんど聴かない人にも知られている「ハンガリア舞曲集」は、ブラームスによる『編曲集』ですね。ブラームスが青春時代に交友を持ち、一緒に演奏旅行に出かけたハンガリー出身のヴァイオリニスト、エドゥアルト・レメーニから教えられたジプシー音楽に興味を持ったブラームスが、色々な旅先でメロディを採譜して、それをピアノ連弾用に編曲したのが「ハンガリア舞曲集」です。この曲集は大ヒットとなり、それを知ったレメーニはブラームスを訴えましたが、ブラームスは楽譜を「作曲」ではなく「編曲」としていたので、この訴えは退けられました。

ちなみに、このレメーニは、1886年に世界一周の演奏旅行を行なったときに日本にも来て、何回か演奏会を開いています。それは明治天皇の御前演奏会や鹿鳴館、さらに神戸や横浜での演奏会です。

この曲集はピアノ連弾版を基に、ブラームス自身をはじめ、何人かの作曲家の手で管弦楽用に編曲をされました。この曲集はコンサートのアンコール用として大変にポピュラーな存在です。もちろんピアノ連弾版も広く親しまれています。

更には、ブラームスの友人でもあるヴァイオリニストのヨゼフ・ヨアヒムの手によってヴァイオリンとピアノ用に編曲されています。ヨアヒムはハンガリー出身の大ヴァイオリニストですが、この人をブラームスに紹介したのもレメーニでした。

最初にブラームスにジプシー音楽を教えたレメーニは、当然ヴァイオリンで演奏をしたことでしょう。また、多くのジプシー達が街で演奏をしていた楽器はヴァイオリンか、小規模なアンサンブルであったと考えられます。そうしてみると、この音楽の原点はピアノ連弾でもオーケストラでも無く、実はヴァイオリンであるような気がします。ところが、『ブラームスのハンガリア舞曲集』としては、ヴァイオリン版はそれほどポピュラーではありません。CDを入手しようとしても、録音の数は多く有りません。そんな中で、これはと思って選んだのがナクソス盤です。

8_553026マラト・ビゼンガリエフ(Vn)、ジョン・レナハン(Pf)(1994年録音/ナクソス盤)

ビゼンガリエフというヴァイオリニストは1962年生まれのカザフスタン人です。カザフスタンは旧ソ連でしたが、中央アジアに位置して古くはモンゴルと同じ遊牧民族でした。カザフの語源である「カザク」とは「放浪の民」を意味します。早い話がジプシーですね。そのカザフスタン生まれの実力派ヴァイオリニストとあれば、期待できそうな気がしました。そしてCDを聴いてみたところ、期待を大きく上回る素晴らしさだったのです。この曲集をヴァイオリン演奏で聴いていると、放浪の民のジプシーたちが、楽器を携えて旅先で演奏をする姿が目に浮かんできます。これこそは、この音楽の原点であろうと思えるほどです。ピアノやオーケストラで聴く曲とは全く違って聞こえるのです。ヴァイオリン技法を駆使した編曲はヨアヒムの手に寄りますが、ヨアヒム自身がハンガリー生まれですし、ブラームスの書いた楽譜よりもむしろ元々のジプシー音楽に近いのではないかと推測されます。

ビゼンガリエフの演奏も本当に素晴らしいです。即興的で変幻自在を極めた弾き方であり、こういう演奏はどんなに上手いオーケストラでも無理でしょう。テクニックと艶のある音色は文句の無い素晴らしさですし、何よりもジプシーの奔放さや哀愁がこぼれるのが最高です。ジョン・レナハンのピアノもヴァイオリンにピタリと合っていて不満は有りません。

というわけで、ピアノ版やオーケストラ版よりも魅力的とすら思えるヨアヒムのヴァイオリン版ですが、このナクソスのCDには全21曲が収録されていて、もちろん録音も優れています。おまけに珍しいヨアヒム自作曲の小品「アンダンティーノ」「ロマンス」まで聴けるというサービスぶりですので、五つ星の大推薦盤です。

ちなみにナクソスのサイトで試聴ができます。さわりを聴くだけで、きっと虜になると思いますよ。

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ブラームス(室内楽)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんばんは。
私は、「ハンガリア舞曲」が大好きなので オケ版、ピアノ連弾版 共に良く聴くのですが、(ちなみに愛聴盤は、オケ版が、アンタル盤。連弾版は、コンタルスキー兄弟盤です。)この "ヨアヒム版"は 完全に盲点でしたね。
確かに ブラームスの音楽の源流の一つの "ジプシー音楽"として捉えるのなら、ヴァイオリンとピアノによる演奏が ふさわしいように思います。
これは 是非、聴かなくては・・・。

投稿: ヨシツグカ | 2013年11月14日 (木) 22時36分

ヨシツグカさん、こんばんは。

僕もハンガリア舞曲集は大好きですが、ヨアヒム版はやはり最近目にとめたのですよ。
先日のコメントで教えて頂いたアンタル盤をヒントに色々と物色をしていたところ、ふと気付いたのです。
ブラームスの編曲がクラシック的なそれであるとすれば、ヨアヒムの編曲はよりジプシー的と言えそうです。

ビゼンガリエフ盤以外は聴いていませんが、元々CDが少ないですし、この演奏で充分満足しています。CDで聴かれたら是非ご感想を。楽しみにしています。

投稿: ハルくん | 2013年11月14日 (木) 23時41分

こんにちは。

ハンガリア舞曲は編曲扱いだったのですか。訴訟の話も知りませんでした。世知辛いですねー。私はピアノ独奏版が好きですが、これはかなりマイナーな存在で、リストを思わせる超絶技巧はアマチュアでは歯が立たず、プロでもカッチェンとか限られた人しか手を付けていないと思います。ヨアヒムのヴァイオリン版は聴いたことがありません。それにしても、哀愁漂う演歌調のハンガリア舞曲は日本人にはよくわかる世界ではないかなと思います。

投稿: NY | 2013年11月17日 (日) 11時30分

今晩は、ハルくん様。 晩秋にブラームス…良いですよね~♪
今日の東響定期はブラームスづくし。ラインナップは「運命の歌」「悲歌」「ピアノ協奏曲2番」
以前ハルくんが仰った通り、人の声は楽器と同様(もしくはそれ以上)の感動を与えてくれますね。涙腺が緩みました。鼻水腺も緩んで参りました。
ソリストはアンドレ・ワッツ氏の予定でしたが転んで手首の負傷から出演不可となり聴く事は出来ませんでしたが、代役の白建宇氏の演奏も十分に素晴らしいものでした。
指揮は桐朋で尾高さんからも手解きを受けた大友直人氏。元気いっぱいで顔は坊や坊やしてた若手指揮者も(その時はわたしも若かった…)すっかり熟練者になられたなぁとおばさんは感慨しきり。。。 そんな秋の一夜でした。


投稿: from Seiko | 2013年11月17日 (日) 23時05分

ハルくん様

morokomanです。

このCD、実にナクソスらしい企画ですね。

メジャー・レーベルでこんな企画をする会社は、おそらく存在しないと思います。

ナクソスは録音も良いですし、存在すること自体が「人類の音楽文化に対する貢献」になっていますね。

演奏する人も、たとえばフィンランドの音楽ではカムやパヌラ教授など、「メジャー・レーベルではなぜか取り上げない実力者」を起用しています。演奏のレベルも侮れません。

ナクソスのHPを見ると、この会社の録音の紹介や、他社の貴重な録音も紹介されています。お金を払えばダウンロードできるのではないか、と思うのですが、利用方法がわかりません。HPのどこをクリックすればいいんでしょうかね?

それはともかく、日に日に寒さが増してきます。こういう時、ブラームスの曲は心に染み入りますね。

前に購入したプリムローズのヴィオラ・ソナタですが、この時期に聴くと他の季節よりもずっと、心にぐぐぐ~っと入っていくことを実感します。

私個人としては


              秋は、シベ3の季節!


なのです(根拠は第2楽章)が、「秋はブラームスの季節!」は「全ての音楽ファンにとっての共通認識」なのだと思います。

投稿: morokoman | 2013年11月18日 (月) 06時50分

NYさん、こんばんは。

ピアノ独奏版というのはマイナーですね。
僕は聴いたことが有りません。超絶技巧難曲なのですね。

この曲集を演歌調に演奏をさせるのであれば、やはりヴァイオリンが最右翼のように思います。そういう意味でヨアヒム版はとても得難いのではないでしょうか。


投稿: ハルくん | 2013年11月18日 (月) 22時51分

Seikoさん、こんばんは。

ホント、晩秋のブラームスは最高ですね。
ブラームスをこういう季節感覚で聴いている国民って日本が一番なのではないでしょうか。

東響定期のプログラム、ニクイですね~。シンフォニーを入れずに声楽曲やピアノ協2番とは。深まる秋の淋しさに木漏れ日が射し込むような雰囲気ですね。素晴らしい!

大友直人さんを最後に聴いたのは何年も前ですが、既に素晴らしかったですよ。更に円熟を迎えていることでしょうね。

ワッツは少々残念でしたが、素晴らしい演奏会を楽しめて良かったですね。

投稿: ハルくん | 2013年11月18日 (月) 23時13分

morokomanさん、こんばんは。

ナクソスはギャラの少ない演奏家を使いますので玉石混合なのは仕方がないと思いますが、それでも最善の演奏家をチョイスしていますね。
しかも、このビゼンガリエフのハンガリア舞曲集や、コシュラー/スロヴァキアPOのスラヴ舞曲集などは最高の演奏です。もちろんパヌラ教授とトゥルクPOのフィンランド物もですね。

ナクソスのダウンロード購入はAmazonのMP3ミュージックから可能ですよ。他にもルートは有りそうですが。

「秋はブラームス!」
こういう季節感覚を持ち合わせる日本人に生まれてつくづく良かったと思います。毎年楽しみですから。
秋サンマや秋の味覚を味わうようなものですね。(笑)

投稿: ハルくん | 2013年11月18日 (月) 23時29分

そうそう、オケ版よりはずっとハンガリー的な趣にあふれているように思います。昔の師匠はヨアヒム版をクラリネットで吹いていました。

投稿: かげっち | 2013年11月20日 (水) 12時08分

かげっちさん

ヨアヒム版をクラリネットで吹いてしまうとは、さすがはお師匠さんですね。
でも、そう言われてみればクラリネットの音も演歌調のジプシー音楽にはとても似合いそうですね。

投稿: ハルくん | 2013年11月21日 (木) 14時28分

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