« ジョルジュ・ムスタキ 「私の孤独」(Ma Solitude) | トップページ | ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~ »

2013年10月 5日 (土)

ブラームス ピアノ協奏曲第1番 続々・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~

本格的な秋の到来となり、いよいよブラームスを聴くのに良い季節となりました。そうしたところ、先日ちょうど良いタイミングで、心待ちにしていたエレーヌ・グリモーが弾くブラームスのピアノ協奏曲第1番と第2番の2枚組CDがリリースされました。この演奏の感想と合わせて、今年新たに加えたCDをご紹介したいと思います。さあさ、今年の秋もブラームス祭りだ、祭りだ、ワッショイワッショイ!

まずはピアノ協奏曲第1番です。さっそくグリモーの新盤からスタートしましょう。

Uccg1637m01pl
エレーヌ・グリモー独奏、アンドリス・ネルソンス指揮バイエルン放送響(2012年録音/グラモフォン盤) 

1番と2番をセットにした録音と言うとエミール・ギレリスあたりが印象に残りますが、決して数多いわけではありません。この大作をセットでリリースするのはかなりの自信の表れでしょう。加えてレコード会社の力の入れ具合が良く分ります。指揮はアンドリス・ネルソンスですが、オケが第1番ではバイエルン放送響、第2番はウイーン・フィルと異なりますが、曲の性格からいっても妥当な選択だと思います。

その第1番は、ミュンヘンのヘラクレス・ザールでのライブ録音です。そういえばグリモーが20代後半で録音したザンデルリンクとの旧盤もベルリンでのライブでした。二度ともブラームスの母国のドイツでライブ録音するとは、この曲にどれだけ自信を持っているかが良く分かります。その旧盤はザンデルリンクの指揮が正に最高でしたが、グリモーのピアノもベストを争うほどに素晴らしかったです。そこで今回の新盤ではどんな演奏を聴けるのか興味芯々でした。第1楽章はオーケストラによる長い導入部で始まりますが、ネルソンスの指揮は悪くはないものの、彫の深さと翳の濃さではザンデルリンクとは役者が違うなぁという感じです。録音は旧盤よりもずっと明瞭な割にです。そしてようやくグリモーが登場しますが、旧盤ではザンデルリンクの大河の流れに身を任せて自然体で弾いていた印象でした。それが新盤では、自分自身で音楽の流れを創り出しています。それで再録音の意味合いを理解できました。ピアノのフレージングそのものは旧盤で既に完成されていたので、それほど変わってはいません。けれども細かいダイナミクスの変化やアクセントの付け方の配慮が多分に加わっていて、表現力がかなり増しています。その点では聴いていて非常に楽しめます。ただ、繰り返しますが、旧盤でも音楽は充分に完成されていました。新盤の方が感銘の度合いが飛躍的に高まったということでもないのです。むしろ指揮の貫禄の違いで、元々シンフォニーとしてブラームスが書いたこの曲の分厚い音楽の再現は旧盤のほうが上のように感じます。続く第2楽章では新盤は旧盤よりもずっとテンポを遅めとなり、沈滞したロマンティシズムを極上の美しさで表出させているのが素晴らしいです。部分部分のオケ・パートのキメどころはやはりザンデルリンクが上ですが、全体的には新盤の深みを取りたいような気もします。第3楽章は旧盤では自然なリズム感で強い推進力を感じさせますが、新盤ではアクセントの強調が多く加えられていてとても面白さを感じます。旧盤の一気呵成に突き進む印象は薄くなっています。これは違いを楽しむべきであって、どちらが良いとも好きとも言えません。こうしてみると、旧盤はどちらかいうとザンデルリンクの創り出す巨大な音楽に溶け込んでいた彼女が、新盤では堂々と主役として音楽を自らの手で創り出しています。どちらもが素晴らしいブラームスであることに変わりは有りません。そして彼女がこの曲をどれほど自分のものにしているか感心することしきりです。

419fqkb3cil__sl500_aa300_ブルーノ・レオナルド・ゲルバー独奏、フランツ=パウル・デッカー指揮ミュンヘン・フィル(1966年録音/EMI盤) 若きゲルバーはこの録音当時25歳。ブラームスがこの曲を書いた年齢と同じです。そのせいか何か瑞々しい「青春のブラームス」の印象を感じさせます。その割に、両者とも妙に落ち着き払った大人の雰囲気が有るところも似てはいますが。ゲルバーは既にこの曲を弾きこなすのに十分なテクニックを持ち、或るときは豊かな感受性を前面に出し、或るときは極めて男性的に豪快に弾き切っています。25歳という年齢で、こんな曲をよくも書いたし、こんな演奏をよくもしたりと、ブラームスとゲルバーの二人の天才ぶりに改めて感銘を受けます。ミュンヘン・フィルが、2年前まで指揮をしていたクナッパーツブッシュの影響がまだ残っているのか、しばしば豪快に咆哮するのが楽しいです。それでも決して騒々しくは感じさせないのもクナ譲りです。デッカーは作曲家でもありますが、ゲルバーに負けず劣らずオケを豪快に鳴らしていて見事な指揮ぶりです。ちなみにゲルバーは当時、第2番ではケンぺ/ロイヤル・フィルと録音をしましたが、オケの充実ぶりはこの第1番の方が断然素晴らしいです。

41mkfv28nnlクラウディオ・アラウ独奏、ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1969年録音/フィリップス盤) さすがに名門コンセルトへボウは上手いし、しっとりとした音色が素晴らしいです。フィリップスの録音もそれを忠実に捉えています。ただ、高低弦が厚く充実している割に、中音部の旋律線が良く聞こえて来ないのは残念です。とは言え、全体的にはハイティンクにしてはかなり上出来な部類だと思います。アラウのピアノはライブの時ほど即興性を前面に出しませんが、一音一音に重さが乗った武骨なまでの素朴さがブラームスにはピッタリです。いぶし銀の音色も同様に音楽に適しています。第3楽章あたりは遅めのテンポで少々重ったるい感も有りますし、全体的に「青春のブラームス」というよりは既に壮年期に入ったブラームスのイメージですが、非常に味わいの有る良い演奏だと思います。

41x77ea3xkl__sl500_aa300_ヴィルヘルム・ケンプ独奏、フランツ・コンヴィチュニー指揮ドレスデン国立管(1957年録音/グラモフォン盤) ケンプは元々テクニック主体にバリバリ弾くタイプではありませんし、この曲はどうかなと思いましたが、コンヴィチュニー/SKDとの共演ですので期待して聴きました。モノラル録音ですので、音質が鈍重なのは仕方ありません。全体的にほぼイン・テンポで通し、ルバートを控えた極めて堅実な演奏です。ケンプの打鍵は若い世代の腕前からすれば随分と頼りないものです。「青春のブラームス」には程遠い、老齢者がつまづきそうになりながらも懸命に歩いているという風情です。けれどもこの翁は決してかつての青春時代を忘れない頑固なまでの意志の力が有ります。意外に熱い情熱のほとばしりを感じさせます。オケの音は70年代のザンデルリンクの交響曲全集を期待すると裏切られます。録音が鈍重なせいか、あのいぶし銀の響きは良く聴き取れません。けれども色々とハンディは有りますが、ドイツ音楽の王道を歩んだ二人の巨匠の共演ということで一聴の価値は有ると思います。

<関連記事>
ブラームス ピアノ協奏曲第1番 名盤
ブラームス ピアノ協奏曲第1番 続・名盤
ブラームス ピアノ協奏曲第1番 グールドとバーンスタインの歴史的演奏会

|

« ジョルジュ・ムスタキ 「私の孤独」(Ma Solitude) | トップページ | ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~ »

ブラームス(協奏曲:ピアノ)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんばんは。
10月になると さすがに秋らしくなりますが、秋と言えば やはり来ましたね!ブラームス祭!(笑)
このグリモーの2枚組CD、私も予約していたので発売の2日後に手元に届きました。
聴いた感想ですが、これは"グリモーのブラームス"を聴くCDたな・・・と思いました。ここには現在の彼女が表現したい"ブラームス"が聴かれます。(来日公演の時は、単に調子が悪かったのでしょうか?)
まあ、このCDがこの2曲のベストか?と聞かれたら、「違う」と答えますが(笑)、愛聴盤には加わりりそうですね。
ちなみに今の私の 第1番のトップ1は今年の夏に入手した ルプー/ザンデルリンクの海賊盤になりました。(多分、ハルくんさんの所有のCDとは違うメーカーだと思います。音が若干 こもるので・・・)

投稿: ヨシツグカ | 2013年10月 5日 (土) 20時01分

私は、第1楽章のオーケストラの物凄いエネルギーで鳴り響く冒頭の序奏が大好きなのですが肩透かし。
やはり指揮者の若さが出たのかな?
ピアノとオーケストラの対話を楽しむと言うより、あくまでもグリモーのブラームスを楽しむ演奏と思ったらよいのかも?
それはそれで良し。素晴らしいブラームス。第2楽章の美しさは、やはりグリモーならでは。
おそらく第2番も既にお聴きのことと思います。感想を楽しみにしています。

投稿: オペラファン | 2013年10月 5日 (土) 23時43分

ヨシツグカさん、こんにちは。

このCDの演奏がベストと呼べないのはネルソンスに原因があるでしょうね。ブラームスの協奏曲はオケと指揮者が非常に重要ですので。
ただ、現役の指揮者でザンデルリンクのような実力者が居るかというと中々見当たらないのも事実です。僕が唯一思い浮かぶのはエッシェンバッハでしょうか。あの人のブラームスのシンフォニーの凄さを考えると、NDRを使って録音してくれたらベストに成った可能性もあります。ただ契約レーベルの垣根が有るので簡単ではありませんけど。

第1番はルプー/ザンデルリンク盤がやはりベストだと思います。あとはグリモーの旧盤ですね。

投稿: ハルくん | 2013年10月 6日 (日) 10時38分

オペラファンさん、こんにちは。

おっしゃる通り、第1楽章の冒頭は物足りませんね。もっともギレリス盤のヨッフム/BPOのようにまるでワーグナーのようにけたたましく鳴らされても頂けませんけど。バランスの難しさを感じます。
このCDは、やはりグリモーのブラームスを楽しむべき演奏のように思いますね。

ええ、第2番のほうも現在聴いているところです。感想がまとまりましたら記事をUPします。どうもありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2013年10月 6日 (日) 10時46分

おっしゃるとおり、このオケはがんがん鳴らしてよいのです、それでつぶれるようなピアニストは弾いてはいけない。グリモーなら大丈夫と思うのですがね。

投稿: かげっち | 2013年10月 7日 (月) 13時00分

かげっちさん

この曲、がんがん鳴らすのも程度問題だと思います。先のコメントで引き合いに出したギレリスの演奏ですが、ヨッフム/ベルリンフィルがまるで「ニーベルングの指輪」のように聞こえます。さすがギレリスはつぶれませんが、どうもブラームスを聴いている気には成れません。

投稿: ハルくん | 2013年10月 7日 (月) 23時23分

ごぶさたしています。報告です。友人がフルートのレッスンのため新宿のスタジオに行ったところ、隣の部屋からエレーヌさんが出てきたそうです。やっぱり美しかったとのこと、恐れ多くて声をかけそびれたそうです。

投稿: かげっち | 2013年11月20日 (水) 12時02分

かげっちさん、お久しぶりです。
お元気そうで何よりです。

美しきエレーヌさんと遭遇とは何と運の良いお友達でしょう!
しかし、声をかけそびれとは随分と勿体無かったですねー。自分だったら・・・どうしたかなぁ。

投稿: ハルくん | 2013年11月21日 (木) 14時23分

ハルくん様
愚生のこの曲の贔屓CDは、エマニエル・アックス独奏、レヴァイン指揮シカゴ交響楽団のRCA原盤のCDです。両者ともまだまだお若い頃の集録で、19世紀生まれのヨーロッパの大家とは一味違う、明晰で爽やかなブラームスと言った御印象です。ただ、好みによっては、沈潜する深みのある味わいに乏しく、あっけらかんとした印象で、何じゃこりゃあと思われるお方もいらっしゃるかも、知れませんね(笑)。
最近タワレコ神戸店の店頭で、Sonyのマスター・ワークス・ポートレイトなる、バジェット・ボックスで、レヴァイン指揮のブラームス交響曲全集、ドイツ・レクイエム、この曲のソリスト2人によるリート集と共に収められ、置かれているのを見つけましたです。

投稿: リゴレットさん | 2018年3月16日 (金) 01時13分

この曲の以下の2点を御既聴でしたら、是非ハルくん様の御印象をお聞かせ下さいませ。
ルプー独奏、デ・ワールト指揮ロンドン・フィルのDecca盤。
ホロヴィッツ独奏、ワルター指揮のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の、ライヴ盤。
今、急に思いつき、失礼ですが宜しくお願いします。

投稿: リゴレットさん | 2018年3月16日 (金) 01時20分

リゴレットさん

エマニエル・アックスは第2番でザンデルリンクと共演した海賊盤が素晴らしい演奏でした。その「続々・名盤」で記事にしています。http://harucla.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-d903.html
ただご紹介の第1番の演奏は聴いたことが有りません。

ルプーは好きなピアニストですし海賊盤でこれもザンデルリンクと共演した最高の演奏が有りますが、残念ながらデ・ワールト盤は聴いておりません。あまり食指を誘われなかったのは指揮者とオーケストラにそれほど期待できないのではという判断からです。

ホロヴィッツ&ワルターの当時のライブとあっては壮絶な演奏なのは間違いないのですが、ブラームスとして気に入るかというと全く自信ありません。ですので聴いた記憶が有りません。

投稿: ハルくん | 2018年3月16日 (金) 12時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1080200/53431658

この記事へのトラックバック一覧です: ブラームス ピアノ協奏曲第1番 続々・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~:

« ジョルジュ・ムスタキ 「私の孤独」(Ma Solitude) | トップページ | ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~ »