« ブラームス ピアノ協奏曲第1番 続々・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~ | トップページ | ブラームス ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ツェートマイヤー&メネセス ザンデルリンク/ケルン放送響 »

2013年10月12日 (土)

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~

ここ数日は10月とは思えない暑さですね。まさかエアコンを入れながら”秋のブラームス祭り”を書くことになるとは思いもしませんでした(汗)。でも、開催した以上は続けますよ~、ワッショイワッショイ!

ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、交響曲以上に気宇の大きい、充実仕切った名曲ですので、あらゆるピアノ協奏曲の中でも最も好んでいます。ですのでこのブログでも、これまでに「名盤」「続・名盤」「続々・名盤」と3回の記事を書いています。今回は「新・名盤」と題して4回目となります。

それでは、エレーヌ・グリモーの最新盤からスタートして順にご紹介してゆきます。

Uccg1637m01pl
エレーヌ・グリモー独奏、アンドリス・ネルソンス指揮ウイーン・フィル(2012年録音/グラモフォン盤) 

これは1番、2番をセットにしたCDですが、2枚のディスクのラベルに印刷されているブラームスの顔のイラストが、それぞれ若い時の顔と壮年の時の顔と異なっているのが洒落ています。第2番でも指揮者はアンドリス・ネルソンスですが、オーケストラがウイーン・フィルに変わりました。ウイーンのムジークフェラインにおけるセッション録音です。

ところで、グリモーが今年の7月に来日してN響の定期でこの曲をジンマンの指揮で演奏したのをTV放送で観ました。それはブログの記事で書いた通り、彼女の美貌(!)には満足したものの、演奏のほうは正直言って期待の半分ほどの出来でした。速いパッセージの難所も今一つ弾き切れていないように感じました。ですので、その半年前に遡ってのこの録音には少々不安を感じていたのです。もしかして彼女にとって第2番はまだまだ未消化なのじゃないかという不安です。さて実際はどうでしょうか。

第1楽章導入部のウイーン・フィルの美しく柔らかい音は期待通りです。続くグリモーのピアノも無駄な力みの無い、自然体の演奏です。全体的に幾らか遅めのテンポでゆったりと進みますが、物足り無さは感じません。N響定期で弾き切れていなかった部分もしっかりと弾き切っています。オーケストラについては幾らか抑制が効き過ぎで、冷静過ぎる印象を受けてしまいます。ネルソンスがもっと自己主張してくれて、もう少し「熱さ」が有っても良かったように思うのです。もちろん度が過ぎて騒々しくなっては元も子も有りませんけれど。そういう点では、もしもこれがライブ収録であったら結果はどう変わっていたのでしょう。

第2楽章でも、全体にテンポはゆったり気味ですが、グリモーはじっくりと立派なピアノを聞かせます。一方ネルソンスは音に繊細さを表現しようとしているのがよく分かります。大波が寄せるような振幅の巾も中々に感じられますし、ブラームスらしい濃い翳りの有る大好きな楽章の演奏としては合格です。

第3楽章では、枯れ切っていない瑞々しさを感じさせます。グリモーがアルぺッジオひとつにも詩を感じさせる極めてデリカシーと変化に富んだ魅力的なピアノを聴かせてくれます。ネルソンスもこの楽章ではウイーン・フィルの音の美しさを充分に引き出していて魅了します。音楽の持つ寂寥感と幸福感とが絶妙にブレンドされているので、演奏に浸っているうちに、しばし時の経つのを忘れてしまいます。

第4楽章は、テンポそのものは標準的ですが、ピアノもオケも弾むようなリズム感が有って、とても生き生きとしています。正に「イタリアの陽光への憧れ」という雰囲気です。その分、北ドイツ的な音の厚みと翳りは薄くなっていますが、これはこれで良さが有ると思います。

全体的には、N響定期での演奏とはまるで別人です。あの時が単にコンディションが悪かったのか、指揮とオケの影響だったのかは分かりませんが、この録音は遥かに素晴らしいと思います。強いて言えば1、4楽章に更に気迫や高揚感、音の厚みが欲しいかなという想いが残りますが、そこは彼女の美しさに免じて許しちゃいます!(笑)

51wfbzhw8lスヴャトスラフ・リヒテル独奏、エーリッヒ・ラインスドルフ指揮シカゴ響(1960年録音/RCA盤) このころのリヒテルの演奏はどれも凄かったです。この曲には後年のマゼールと組んだEMI盤も有りますが、荒さの方が気になって余り好みません。その点、このRCA盤は理性をかなぐり捨てても音楽に没入するような気迫とデリカシーの両方が備わっていて魅力的です。テンポに即興的な伸縮が有るので、古典的な造形性は希薄ですが、とてもスタジオ録音とは思えないライブ演奏のような熱気は、当時西側にデビューしたリヒテルの意欲の表れなのでしょう。ツボを心得たラインスドルフの指揮するシカゴ響の重厚な音もリヒテルを大いに盛り立てています。とにかく鬼神が乗り移ったかのような壮絶な演奏で、一度聴き始めると麻薬のように虜になってしまう、バックハウスやアラウの名演とは対極的な名盤です。RCAの録音は最新録音のような鮮明感には欠けますが、中々に優れています。

41mkfv28nnlクラウディオ・アラウ独奏、ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管(1969年録音/フィリップス盤) この曲でも名門コンセルトへボウの美しくしっとりとした音色が素晴らしいです。ハイティンクの指揮も非常に立派で見直したくなるほどです。アラウは実演では意外なほど即興的に演奏する場合が有るように思いますが、ここでは頑固なまでにどっしりとした演奏をしています。正に「動かざること山の如し」といった風情です。ピアノの一音一音には非常に重さを感じさせて聴き応えが有ります。まるでドイツの頑固おやじのような武骨さが、いかにも北国人ブラームスを思わせますが、それが逆に聴き疲れを感じさせないでもありません。この人の演奏するベートーヴェンにもそんなところが有りました。それはともかくとしても、これはコンセルトへボウのいぶし銀の音色と相まって、存在感を感じさせる演奏です。

513p08uyjcl__sy355_セシル・ウーセ独奏、クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管(1974年録音/Berlin Classics盤) ウーセはフランスの女流ピアニストですが、これは38歳の時に東独へ乗り込んでのセッション録音です。彼女は写真で見る限りは、気の強そうなフランス女性に見えますが、演奏のほうも非常に力強く男性的なピアノを弾いています。これを黙って聞かせたらフランス娘だと思う人は居ないでしょう。テクニックも非常に安定していますし、がっちりとした念押しするリズム感覚がドイツのベテラン・ピアニストのようです。マズアもよく感じさせる退屈さは感じさせずに実に立派です。ゲヴァントハウス管の響きが古色蒼然としていて、古き良きドイツの響きを好む人には最高です。ことによるとソリストを含めても”最もドイツ的な演奏”かも知れません。東独エテルナによる録音は分離が明瞭で無く、古めかしさも感じますが、ザンデルリンク/ドレスデン管の録音にも共通したアナログ的な音の柔かさを感じさせます。当時、仏ディスク大賞を獲得したこの演奏は、非常に掘り出し物の名盤だと思います。

8173fa0zdl__aa1459_アリシア・デ・ラローチャ独奏、オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・ドイツ響(1981年録音/WEIBLICK盤) スペインの女流ラローチャの58歳の時のライブ録音です。決して珠を転がすような流麗なピアノではありませんが、アクセントは明確に付けられてメリハリが効いたタッチです。それでも音楽が男性的に聞こえる訳では無く、むしろどことなく優しさを感じさせます。ですので第2楽章などでは荒々しさは無く、おっとりとした雰囲気なのがちょっと物足り無いです。第3楽章は余り深刻にはなりませんが、豊かな情感を感じさせます。終楽章は室内楽的でとてもアットホームな雰囲気なのに心が癒されます。これは彼女の人間性なのかもしれません。ところで余談ですが、若い頃のラローチャは案外ぽっちゃりとして可愛い顔立ちをしていましたが、このころになると年齢相応で、そ・れ・な・りです。年輪を重ねた女性の癒しにも大いに惹かれますが、ビジュアルで比べる場合には、やはり若い美貌のグリモーを取りたいところでしょうか。

<関連記事>
ブラームス ピアノ協奏曲第2番 名盤
ブラームス ピアノ協奏曲第2番 続・名盤
ブラームス ピアノ協奏曲第2番 続々・名盤

|

« ブラームス ピアノ協奏曲第1番 続々・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~ | トップページ | ブラームス ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ツェートマイヤー&メネセス ザンデルリンク/ケルン放送響 »

ブラームス(協奏曲:ピアノ)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんばんは。
このグリモーの「第2番」ですが、オケがウィーン・フィルだからでしょうか やはり第3楽章が良いですね。グリモーもなかなか素晴らしい演奏を聴かせてくれます。しかし、全体としては バックハウス/ベーム盤や アンダ/フリッチャイ盤等の名盤と比べると 感銘度は ワンランク落ちるように思います。やはり、この曲は ピアノ、指揮者、オケが がっしりと組んだ"ピアノとオケのための交響曲"のような演奏を期待してしまいます。
私は むしろ ラローチャ/ヨッフム盤の"癒し"に感動を覚えました。ハルくんさんが「物足りない」と仰っていた、第2楽章も 私には魅力的に感じます。(まぁ この辺は好みの違いでしょうね(笑))
 
ところで、バックハウス盤ですが 最近 新リマスター版が出ているので聴いてみました。
印象としては、ピアノもオケ(特に弦楽器)も艶やかさが増したように感じます。元々、名録音として知られてますが 今回 改めて「あぁ、50年代のウィーン・フィルは なんと豊かで美しいんだろう・・・。」と思いました。
このCDはSACDなのでオススメは出来ませんが、参考になれば幸いです。

投稿: ヨシツグカ | 2013年10月12日 (土) 19時48分

バックハウス盤は 60年代でしたね。申し訳ありませんでした。

投稿: ヨシツグカ | 2013年10月12日 (土) 20時24分

こんにちは。

グリモーの2番は見逃しまして、いつかCDになったら買おうと思っていました。まだ聴いていないので想像ですが、誰も完璧に弾けないくらいの難曲なので技術的にある程度の妥協は仕方ないのではないかなあと思います。余談ですが、グリモーは左利きのせいかバスの打鍵が大きいように感じます。

最近の動画ではポリーニ/アバドとツィメルマン/バーンスタインの人気が高いですね。ポリーニはペダルが過剰のように感じますので私はあまり好みではないのですが、ツィメルマンの方は驚くべき技術力で切れがあり、最高レベルの演奏と言ってよいと思います。

投稿: NY | 2013年10月12日 (土) 21時06分

ヨシツグカさん、こんばんは。

バックハウス/ベーム盤は1967年録音ですね。
もちろん好みは有りますが、個人的にはこの演奏を越えるものには未だ出会えていません。
二番手グループはアンダ/フリッチャイ、ルービンシュタイン/ロヴィツキ、ゼルキン/セル、ウーセ/マズア、リヒテル/ラインスドルフ、アックス/ザンデルリンク、などが挙げられますが、グリモー盤もこれに含めて構わないかもしれません。

バックハウス盤はCDでもマスタリングの良いものを選べば不満は有りませんが、将来的にはSACDで聴きたい気もします。ありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2013年10月13日 (日) 00時47分

NYさん、こんばんは。

グリモーはCDではほとんど完璧に弾いていますよ。日本のライブとは全然違います。

音のバランスについては録音でどうにでも調整が可能なので、実演で聴き比べてみたいですね。次回は是非ライブに行きたいです。

僕もポリーニよりはツィメルマンを好みますが、音楽がスッキリしていてわかりやす過ぎるのが良し悪しです。繰り返して聴くと飽き易い気がします。もっともこれはグリモーの2番にも言えてしまうかもしれません。元々音楽自体が分かりやすい1番では問題ないのですが。

投稿: ハルくん | 2013年10月13日 (日) 01時01分

N響との演奏のノリの悪さは、グリモー自身が、この作品を決して自分のモノにしていないと言うのではなく、やはり指揮者やオケとの微妙なバランスの中で、何か窮屈なものがあったのでしょう。
N響定期より数カ月前の演奏とは、とても思えません。
それにしてもウィーンフィルの響きは素晴らしいものがあります。その素晴らしい響きにのってのグリモーのピアノ独奏。素晴らしい演奏だと思います。

投稿: オペラファン | 2013年10月14日 (月) 15時39分

オペラファンさん、こんばんは。

そうですね。やはりN響のときには特に指揮者のジンマンとの音楽的解釈のズレが有ったような気がしますね。閃きを大切にするグリモーにとっては支障となったのでしょう。
その点、ネルソンスはグリモーにとってはずっと弾き易かったのだと思います。
第3楽章など本当に美しく素晴らしいです。

投稿: ハルくん | 2013年10月14日 (月) 18時12分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1080200/53496684

この記事へのトラックバック一覧です: ブラームス ピアノ協奏曲第2番 新・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~ :

« ブラームス ピアノ協奏曲第1番 続々・名盤 ~エレーヌ・グリモーの新盤 他~ | トップページ | ブラームス ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ツェートマイヤー&メネセス ザンデルリンク/ケルン放送響 »