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2013年9月28日 (土)

ヴェルディ 「レクイエム」 名盤 トスカニーニ、サバタ、カラヤン、ジュリーニ、アバド、そしてムーティ他

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初演が行われたミラノのサン・マルコ寺院

ヴェルディは、彼が敬愛したイタリアの詩人であり作家であるアレッサンドリ・マンゾーニの一周忌のために「レクイエム」を作曲しました。数多く作曲されたオペラと並んで有名な、ヴェルディの「レクイエム」です。

マンゾーニの一周忌は1874年にミラノのサン・マルコ寺院で行なわれましたが、その時に指揮をしたのはヴェルディ自身で、オーケストラはミラノ・スカラ座のメンバーを中心とする100名、コーラスが120名、4人のソリストは当時の一流を揃えたそうです。その三日後には会場をスカラ座に移して数回のコンサートが開かれました。

何しろ、この「レクイエム」は、円熟期の大傑作オペラ「アイーダ」の更に3年後の作品でもあり、それまで前例の無いほどにドラマティックだったことから、「余りにイタリア・オペラ的」「ドラマ的に過ぎる」「教会に相応しく無い」という多くの批判にさらされました。熱烈なワグネリアンであるハンス・フォン・ビューローも、この曲を「聖職者の衣服をまとった、ヴェルディの最新のオペラ」だと皮肉りました。
もっともブラームスは、こうしたビューローの評を聞いて、「奴は馬鹿な事を言ったものだ。これは天才の作品だ。」と言ったと伝えられています。

こうして酷評と賛美の両方が飛び交った「レクイエム」ですが、直に海外でも次々と演奏されるようになり、あのビューローも後になって「どんな下手な楽団員の手で演奏されても、涙が出るほど感動させられる」と評価を改めたそうです。

ヴェルディ自身は、「この曲をオペラと同じように歌ってはいけません。オペラで効果のある音声装飾はここでは私の趣味では無いのです。」と語っています。とは言っても、この曲への「教会音楽らしくない」という批評が的外れで無いことは紛れも無い事実ですし、どこからどう聴いても彼のオペラに聞こえてしまいます。けれども、例えばモーツァルトの書いた教会音楽も、やはり彼のオペラと同じように聞こえますので、作曲家の作法というのは中々変えられないもののようです。
ヴェルディがいかにもヴェルディらしく書いた、敬愛する詩人の為の鎮魂歌。それがこの「レクイエム」です。

曲の構成は下記の通りですが、全体で演奏時間が90分近くになる大曲です。

1.レクイエムとキリエ
  レクイエム(安息を)
  キリエ(憐れみ給え)

2.ディエス・イレ(怒りの日)
  怒りの日
  くすしきラッパの音
  書き記されし書物は
  あわれなるかな
  みいつの大王
  思い給え
  我は嘆く
  判決を受けた呪われし者
  ラクリモーサ(涙の日)

3.オフェルトリウム(主イエズス)

4.サンクトゥス(聖なるかな)

5.アニュス・デイ(神の子羊)

6.ルックス・エテルナ(永遠の光りを)

7.リベラ・メ(我らを救い給え)

この曲の核心は言わずと知れた長大な「ディエス・イレ」ですが、「オフェルトリウム」の神秘的な美しさもまた大きな魅力で聴きものです。

ところで音楽評論家の故宇野功芳先生は、たびたび「レクイエムならモーツァルトやフォーレよりもヴェルディのほうが感動的だ。」と書いています。もちろんヴェルレクは大変な傑作ですが、僕個人としてはモーツァルトやフォーレ、あるいはブラームスのほうに更に惹かれますし、感動的なように思えます。まぁ、これは好みの問題ですね。

さて、僕の愛聴盤のご紹介です。曲の持つ性質、その歴史から言っても、やはりミラノ・スカラ座に代表されるイタリアのオーケストラと合唱団による演奏、あるいはイタリアの指揮者の演奏を中心に聴きたくはなります。

Verdi-61wcnlkml0l_ac_sl1075_ アルトゥーロ・トスカニーニ指揮BBC響/合唱団(1938年録音/TESTAMENT盤:EMI原盤) トスカニーニの「ヴェルレク」の録音を数えたことは有りませんが、かなりの数が残されています。しかしいずれも古く、大半は鑑賞には向きません。その中で鑑賞に耐え得るものとして、古いところではロンドンでのBBC響とのライヴが上げられます。英国で戦前に手兵としていたBBC響と合唱団は。鬼神が乗り移ったかのようなトスカニーニの指揮に全身全霊を傾けて食らいついていき、前のめりで火の玉のような演奏に圧倒されます。独唱ではソプラノのジンカ・ミラノフが凄いですが、アルトのトルボルイ、テノールのロスヴェンゲ、バスのモスコーナといずれも入魂の絶唱と言えます。EMIによる録音はもちろんモノラルで貧しい音ですが、バスドラの迫力ある低音がしっかり捉えられていて録音年にしては全体のバランスも良く案外と聴き易いです。

Verdi-51y2ohnxl8l_ac_ アルトゥーロ・トスカニーニ指揮ミラノ・スカラ座管/合唱団(1950年録音/Istituto Discografico Italiano盤) トスカニーニのスカラ座での古いライヴ(年代不詳)は正に阿修羅と化した壮絶な演奏で、あれほど凄い演奏はこれまで聴いたことが有りません。しかし録音が劣悪で、しかも現在はそのディスクを見つけることが出来ません。現在入手可能なものではこの1950年のライヴ盤が有ります。一般的に質の落ちるイタリア録音とはいえ、この録音年であればモノラルなのはともかくも、もう少し音質に期待したいところですし、せっかくのスカラ座の合唱がやや遠めに感じられるのは残念です。しかしそれでも流石はトスカニーニのスカラ座ライヴです。この熱気と凄さは何なのでしょう!独唱ではソプラノのテバルディとバスのシェピの両者が圧巻の素晴らしさです。

1198031392アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC響/ロバート・ショウ合唱団(1951年録音/RCA盤) これはカーネギーホールにおけるライヴ録音で、数あるトスカニーニの「ヴェルレク」録音の中でどれか一つとなれば、演奏が素晴らしく、録音も明瞭なRCA盤が最適です。もちろんモノラルですし最新録音には遠く及びませんが、その演奏に圧倒されて、直ぐに慣れてしまいます。冒頭の「レクイエム」からフレージングが明瞭で、ムードよりも旋律線の強調が目立ちます。これがトスカニーニのイタリア音楽の魅力です。「怒りの日」では速さだけでは無く、ズシリとした聴きごたえが最高です。続く「くすしきラッパの音」での大見得を切るような音のタメと迫力にはゾクゾクします。トスカニーニの声が大きく入っているのも興奮します。独唱陣もシェピやステファノを始め強力ですし、ロバート・ショウ合唱団もトスカニーニの演奏と一体化した素晴らしさです。普通なら、録音の良し悪しが印象を左右する「ヴェルレク」ですが、音の多少の古さを物ともしないこの演奏はトスカニーニの起こした奇跡のうちの一つだと思います。

51iz5bn2ql_ac_ ヴィクトル・デ・サバタ指揮ミラノ・スカラ座管/合唱団(1954年録音/NAXOS盤) しかし、トスカニーニの後を継いでスカラ座の監督となった”炎の指揮者”サバタを忘れてはなりません。マリア・カラスの歌う歌劇「トスカ」EMI盤が余りにも有名ですが、このヴェルレクもまたサバタの数少ない録音の中で「トスカ」と並び称されるものです。スカラ座の合唱団の圧倒的な迫力、シュワルツコップ、ステファノ、シェピと声楽陣も最高ですし、何よりも演奏の熱量に於いてトスカニーニと互角と言えます。むろんモノラル録音ですし、時代による音質の限界は有りますが、ナクソスがLP盤から復刻したCDが音の明瞭さと中低音域の音の厚さも有って優れます。なお、この録音はアナログ初期にEMIからもコロムビアからもリリースされていて原盤がどちらなのかは良く分かりません。また、サバタには1951年のライブ録音も存在しますが残念ながら未聴です。

Verdi-61b5re8rtrl グィド・カンテッリ指揮ニューヨーク・フィル/ウェストミンスター合唱団(1955年録音/ARCHIPEL盤) 36歳という若さでミラノ・スカラ座の音楽監督に就任が決まっていたカンテッリでしたが、その前に航空機事故で亡くなります。これは亡くなる前年にニューヨークで行われた演奏会のライブ録音です。イタリアの指揮者なら誰しもが得意とするヴェルレクですが、カンテッリは単に熱くなるだけではなく、全体のパースペクティブの良さも感じさせます。残した録音にドイツ・オーストリアの音楽が多いことからも欧州的な音楽性と指揮の才能を伺い知ります。ネッリ、ターナー、タッカー、ハインズと当時の米国で活躍した声楽陣も優れますし、合唱もまた力強く素晴らしいです。録音はこの手のものとしては優れます。音は明瞭ですし音域バランスも悪く無いです。

Verdi-857 トゥリオ・セラフィン指揮ローマ歌劇場管/合唱団(1959年録音/TESTAMENT盤:EMI原盤) イタリア・オペラの権威の一人セラフィンも、1968年に亡くなるまで第一線で活躍を続けました。ヴェルレクにはローマ歌劇場との1939年の録音が有りますが、その20年後にこのステレオ再録音を行いました。一般的には再録音盤が勧められると思います。管弦楽はイタリアの名門歌劇場だけあって熱い血が煮えたぎっていて、トゥッティの迫力に惹き付けられます。合唱団も厚い歌声が素晴らしいです。但し、ヴァーテニシアン、コッソット、フェルナンディ、クリストフ達ソリストの歌唱がオペラ的過ぎるという難点が有ります。「そういう曲だろ」という意見も有るでしょうが、これはちょっと極端で、曲によっては抵抗が有ります。本家のEMI盤では聴いていませんが、このリマスターは成功していると思います。

81vaooq24pl_ac_sl1500_ カルロ・マリア・ジュリーニ指揮フィルハーモニア管/合唱団(1963-64年録音/EMI盤) ジュリーニもまた39歳の若さでスカラ座の音楽監督となりました。この人は70年代あたりから極端に遅いテンポを取るようになり(それはそれで魅力ではあり)ますが、この録音の時代では若々しさを残したテンポと張り詰めた緊張感が心地良いです。声楽陣は、シュヴァルツコップ、ルートヴィヒ、ギャウロフと揃い、管弦楽と合唱も美しく、かつ迫力ある音で力演をしています。録音はこの時代のEMIのものとしては普通ですが、強奏音で音がだいぶ割れ気味なのがマイナスです。それが気になってしまう人にはお勧めできません。

Verdi-cr8004 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ミラノ・スカラ座管/合唱団(1964年録音/RELIEF盤) カラヤンのこの曲のライブ録音は幾つか残されていますが、録音の古いものが多いのが残念です。その点、歴史的にも特筆されるのが、1964年のミラノ・スカラ座とのソヴィエト公演です。この時にはモスクワのボリショイ劇場でヴェルレクと「ボエーム」を演奏しています。スカラ座が威信を掛けてのツアーだったのは疑いなく、大熱演を繰り広げています。ソリストにもレオンティン・プライス、コッソット、ベルゴンツィ、ザッカリアというメンバーが揃いましたが、特にプライスの美しく深い歌唱が絶品です。録音はステレオで明瞭、レンジも広め、合唱が幾らか遠め以外は当時の条件を考えるとかなり優秀です。入手性は余り良くないでしょうが、カラヤンのみならず、ヴェルレクの隠れたる名盤として外せません。

Verdi-71nl1fiynal_ac_sl1500_ ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル/ウィーン楽友協会合唱団(1972年録音/グラモフォン盤) カラヤンはヴェルレクのセッション録音を2回行いましたが、これは1回目のもので、若々しくベルリン・フィルをドライブし切った非常に迫力の有る演奏です。かつてのドイツ的な響きが、既に明るく変貌したこの楽団の音色もヴェルディには適しています。但しイタリアの指揮者達が血の熱さを感じさせるのに対して、やや音響的な熱さのようにも感じられます。聴いていて否応にも興奮を誘われるのは前述のスカラ座とのモスクワ・ライブです。合唱は力演していますが、イタリアの歌劇場のような凄味ではなく静謐さに惹かれます。ソリストのフレーニ、ルートヴィヒ、コッスッタ、ギャウロフは手堅いところで、重唱も非常に美しいです。録音は重低音域が物足りませんが、当時としては優秀です。 

Uccg4809m01dlクラウディオ・アバド指揮ミラノ・スカラ座管/合唱団(1980年録音/グラモフォン盤) アバドは、この曲を3回録音していますが、その最初の録音です。やはりスカラ座での演奏というのがポイントです。オーケストラと合唱の力強さと厚み、それに何よりもイタリア的な味わいが魅力だからです。録音もマスターはアナログですが非常に優れていて、分離の良さも優れます。強音でも音割れは有りませんし、彫の深い演奏を充分に味わうことが出来ます。「怒りの日」などでは後年のベルリン・フィル盤ほどの迫力と興奮は見られませんが、むしろ繰り返しの鑑賞には向いています。リチャレッリ、ドミンゴ、ギャゥロフらの独唱陣も実に充実していて素晴らしいです。アバドのヴェルディはオペラも含めて、この当時が最高だったのでは無いでしょうか。

Verdi-61ftnzmolel_ac_ ズービン・メータ指揮ニュ-ヨーク・フィル、ムジカ・サクラ合唱団(1980年録音/SONY盤) イタリアオペラを得意とするメータはヴェルレクも三種類は録音を残しています。余り話題に上りませんが、これはそのうちニューヨークのエイヴリー・フィッシャー・ホールで行われたライヴ録音で、演奏の集中力と白熱度それに迫力が凄いです。ムジカ・サクラは、ニューヨーク市で長く継続的に演奏しているプロ合唱団ですが、この合唱がまた素晴らしいです。独唱もカバリエ、ドミンゴは言うまでもなく素晴らしいですが、メゾのベリーニ、バスのプリシュカもとても良いです。ソニーの録音はマイクを近くに立てたようで、管弦楽もコーラスも独唱もみな音が明瞭で分離も良く、セッション録音のようです。ホールの残響が少なめなので、とても生々しさが有ります。

Verdi-387 リッカルド・ムーティ指揮バイエルン放送響/合唱団(1981年録音/ BR-KLASSIK盤) ミュンヘンで行われた演奏会のライヴ録音ですが、何と40年後に正規リリースされました。ムーティには1979年にバイエルン歌劇場で指揮した「アイーダ」の凄演がありますが、ミュンヘンのヴェルディには縁が有るようです。管弦楽はバイエルン放送響がムーティの指揮に熱く反応していて圧巻です。合唱団は綺麗ですが、イタリアの団体のような凄味においては及びません。ソリストにはノーマン、バルツァ、カレーラス、ネステレンコを揃えていますが、カレーラスが余りに力の入ったオペラ的な大袈裟な歌唱なのに抵抗を覚えます。他の三人には問題は有りません。録音は明瞭で優れますが、最強音が幾らかざらつき気味です。総合的には後述するミラノスカラ座盤を上位としたいです。

Verdi_requiem_muti_scalaリッカルド・ムーティ指揮ミラノ・スカラ座管/合唱団(1987年録音/EMI盤) ムーティとしては2回目の録音です。スカラ座の録音としてはアバド盤の7年後ですが、演奏にはアバド以上の熱さが有ります。「怒りの日」も快速テンポで突き進み、正に炎のようです。スカラ座の合唱の凄さにはさすがに本家の底力と貫禄を感じますし、独唱もハーモニーも揃っていて不満は有りません。パバロッティもショルティ/VPO盤の時の美しさこそ失われましたが、まだまだ素晴らしい歌声を聞かせてくれます。この曲をいったい何度演奏したかわからないオーケストの自家薬篭中の上手さと雄弁さには舌を巻きます。このイタリア・オペラ的な味わいには抗しがたい魅力を感じます。但し音質的にはやや混濁感が有り、最強音で音に荒れが感じられるのが心残りです。

Verdi90397_ihw_extralarge カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ベルリン・フィル/エルンスト・ゼンフ合唱団(1989年録音/グラモフォン盤) ジュリーニの二度目の録音と成りますが、旧盤とは大きく異なるユニークな演奏です。まず第1曲の密やかな厳粛さがまるで大聖堂の儀式の様です。「怒りの日」はさすがにそうは行きませんが、「オッフェルトリウム」の中間などやはり厳粛です。ソリストには大歌手を排してコンセプトに適した人選をしていますし、合唱も同様です。ベルリン・フィルも派手なサウンドを誇示することは無く、禁欲的で底光りする音を出しています。とは言え、ヴェルディオペラ的な激しさこそ無いものの、決して迫力不足と言うことではなく、むしろずっしりとした凄味と聴き応えが有るのはやはりジュリーニです。孤高のヴェルレクとして圧倒的な存在感が有ります。

Uccg4811m01dlクラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル/ウイーン国立歌劇場合唱団(1991年録音/グラモフォン盤) スカラ座盤から約10年後となる2回目の録音ですが、アバドがどういう演奏を意図したのかが良く分かりません。スカラ座の明瞭で押し出しの強い合唱に比べて、「ウイーンらしい抒情性」と言えば聞こえが良いですが、合唱の発声の柔かさがマイナスに感じられます。独唱陣ではカレーラスが一人極めてドラマティックに歌うので浮いてしまい、バランスを崩しているようです。「怒りの日」などでは、スカラ座盤以上に迫力が有りますし、部分的には良いと思えるのですが、全体では何か統一性の欠けた居心地の悪さを感じてしまいます。録音には広がりが有り、ダイナミックレンジも大きいですが、分離の良さはスカラ座盤が優位です。トータル的にはスカラ座盤を取りたいと思います。

Verdi-61ae8inb82l_ac_ クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィル、スウェーデン放送合唱団他(2001年録音/EMI盤) これはヴェルディの没後100周年となる命日にベルリンで行われたライヴ録音で、アバドとしても三回目の録音となりました。ベルリン・フィルの洗練された音が印象的で、合唱もスウェーデン放送合唱団、エリック・エリクソン室内合唱団、オルフェオン・ドノスティアラの混合チームですが、弱音のコーラスが極めて美しいです。それは英国や北欧の教会音楽を聴くような荘厳さを感じます。反面イタリア的な陽光の空気感からは離れています。しかし「怒りの日」の威力と迫力は相当なもので、アバドのスカラ座盤をむしろ凌ぐ感が有ります。独唱はゲオルギュー、アラーニャ、バルチェッローナ、コンスタンティノフと揃いましたが、個人的には余り魅力を感じません。ライヴながら録音も含めて全体の完成度は非常に高いですが、感動の度合いとしてはスカラ座盤の方に軍配を上げたいです。

51yz3bpgspl__sl500_aa300_リッカルド・ムーティ指揮シカゴ響/合唱団(2009年録音/CSO盤) ほぼ最新盤と言って良いムーティの3回目の録音はシカゴ響と演奏されました。合唱はシカゴ響のものですが、スカラ座の合唱団ほどの力強さは無いものの、透明感があり美しいです。オーケストラの音の美しさと相まって、オペラティックな旧盤よりも、ずっと宗教曲的な静けさを感じさせる部分が多々あります。それも優秀で分離の良い最新録音なので、「怒りの日」などは非常に充実した聴きごたえを感じさせます。独唱陣は余り各人の個性を感じさせず、管弦楽とコーラスに良く混じり合ったトータル・ハーモニーとして聴かせるコンセプトのように受け止められます。旧盤のイタリア・オペラ的な味わいも良いですが、ずっとユニヴァーサル的で純音楽的な美演の新盤も中々に良いと思います。

これ以外だと、宇野功芳先生がご推薦されていたショルティ/ウイーンPO盤は確かに美演ですし、ショルティの力みも普段ほどは感じさせないのですが、どうも音だけがクールに鳴り響いている感じがして余り感動はしませんでした。

ということで、個人的には未だにトスカニーニのRCA盤、サバタ盤に強く惹かれますが、カラヤン/スカラ座のモスクワ・ライブもそれに追従します。演奏、録音のトータルで優れたものとしてはアバド/スカラ座盤、それに個性的なジュリーニ/ベルリン・フィル盤を挙げておきたいです。

<補足>トスカニーニのBBC響盤、ミラノスカラ座盤、サバタ盤、カンテッリ盤、セラフィン盤、ジュリーニの二種、カラヤンの二種、メータ盤、ムーティのバイエルン放送響盤、アバドのベルリン・フィル盤を後から追記しました。合わせて各盤についての感想も幾らか補筆しました。(補筆日:2024年1月22日、4月29日、5月2日)

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ヴェルディ(声楽曲)」カテゴリの記事

コメント

私もヴェルディのレクイエムでは録音の古いトスカニーニ盤が一番手なので、意見の同じ方がいらっしゃって嬉しいです。
定評のあるアバド盤では、私は2001年のベルリンフィル(EMI盤)との録音が一番好きです。ソプラノ独唱のゲオルギューが素晴らしいと思います。
まあ、人それぞれということでしょうねえ。
なおアバドはミラノ・スカラ座との初来日の時、「レクイエム」を演奏しましたが、この時の演奏が最高ではないかと信じています。
ソプラノ独唱はミレッラ・フレーニ。
この時のFM放送を録音していましたが、テープを紛失してしまい今も悔やんでいます。

投稿: オペラファン | 2013年9月28日 (土) 16時04分

ハルくん様

morokomanです。

私の書き込みは、ヴェルディの『レクイエム』とはやや離れたことを話題にしてしまいます。お許しください。

>もっともブラームスはこうしたビューローの評を聞いて、「奴は馬鹿な事を言ったものだ。これは天才の作品だ。」と言ったとも伝えられています。


上記のエピソードは有名ですが、私はブラームスは超一流の批評家だったと思うことがあります。

インターネットで得た情報なので、違っているかも知れませんが、シューベルトの『未完成』をはじめて聴いた時、「形の上では未完だが、芸術的には完成している!」と言ったのはブラームスだったとのこと。

「この曲(未完成)は、2楽章であまりにも完成しつくされているので、シューベルトはこれ以上作曲を続ける必要を感じなかったのだ」と評したと言う話だったり……。(間違っていたらすみません)

まだ若い指揮者だったマーラーが、モーツァルトのオペラのタクトを取ったときに、「どえらい奴が現れた!」と言ったとか……。

これまた留学生だったときのシベリウスが会いにきたときに、彼の歌曲のスコアを読んで、「彼(シベリウス)は大物になる」と予言したとか……。

物事の本質を見抜く、確かな審美眼を持っていたとしか感じられないエピソードが残っています。

ヴェルディの『レクイエム』の批評も、その一端が現れていると思います。

投稿: morokoman | 2013年9月28日 (土) 18時53分

ハルくんさん、こんばんは。
弦楽四重奏曲が続いたので、今度は大編成の曲が来ると思ってました。(笑)
 
ヴェルディと言えば やはり、トスカニーニの「アイーダ」と「レクイエム」は外す訳にはいきませんよね。どちらも録音の壁を越えた名演だと思います。しかし、レクイエムのCDに関しては 私の愛聴している、セラフィンの新盤が一般的にも あまり知られていない事は残念です。
セラフィンはローマの国立歌劇場のメンバー達と トスカニーニ盤にも 負けない名演奏を繰り広げています。特に "涙の日"は どんな演奏より 私の心に染み渡って来ます。

投稿: ヨシツグカ | 2013年9月28日 (土) 20時06分

オペラファンさん、こんばんは。

トスカニーニは録音の古さを越えた超名演ですね。同じご感想であるとのこと、こちらこそ嬉しく思います。

残念ながらアバドのベルリンPO盤は聴いていません。ベルリンPOというのが余り食指を動かされない理由ですが、そんなに良いですか。

スカラ座の来日公演は聴いた記憶が有りませんが、アバドの当時のライブであれば素晴らしいのは想像できますね。聴いてみたいなぁ。

投稿: ハルくん | 2013年9月28日 (土) 23時36分

morokomanさん、こんばんは。

今では色々な名曲や音楽家の評価がすっかり定まっていて驚くことは有りませんが、何もない白紙の状態で真価を見抜くというのは、本人がそれだけ本物中の本物の音楽家だったということなのでしょう。要するに「違いの分かる男」だったのですね。

投稿: ハルくん | 2013年9月28日 (土) 23時42分

ヨシツグカさん、こんばんは。

大編成の曲だと読まれていましたか!
いやぁ参りました。(笑)

トスカニーニのヴェルディでは「アイーダ」と「レクイエム」、それにもうひとつ「オテロ」ですね。

確かにセラフィンはトスカニーニと並び称されるイタリア・オペラの巨匠だと思います。残念ながら「レクイエム」は聴いたことが無いのですが、イタリアの指揮者のイタリア歌劇場の演奏と有れば、自分の好みにピタリ当てはまりますし、それは是非とも聴いてみたいですね。
どうもありがとうございました。

投稿: ハルくん | 2013年9月28日 (土) 23時51分

トスカニーニ盤は、普段のRCA録音には参加できない、イギリス・コロンビア専属のディ・ステファノ、Decca専属のシエピが加わって居るのも、大きな魅力ですね。昔のトスカニーニ、後のアバドとイタリア人指揮者のヴェルディが素晴らしいのは、この大作曲家に対する尊敬の念と打ち込みようからして、至極当然かと存じます。

投稿: リゴレットさん | 2021年1月26日 (火) 10時26分

リゴレットさん

そりゃあイタリア人にとってヴェルディは神様以上でしょうからね。しかもこの大傑作作品ですから!

投稿: ハルくん | 2021年1月28日 (木) 17時11分

未曾有の大災害から早いもので、もう10年になるんですね。私は明日は我が身かとの思いで、生々しいヴェルディ「レクイエム」を、所有しているCDの中から、クラウディオ・アバド指揮ミラノ・スカラ座管で聴きます。

調べてみると、ヴェルディという人は不思議と「3月11日」という日付に縁がありますね。

1851年3月11日 オペラ 『リゴレット』 ヴェネツィアで初演

1867年3月11日 オペラ 『ドン・カルロ』 パリで初演

一方で物事の始まりの日としての「3月11日」があることも、忘れたくはないです。

投稿: 犍陀多 | 2021年3月11日 (木) 23時28分

犍陀多さん

お得意の歴史調査「あの日あの時」ですね!
大災害だけではないということですか。

投稿: ハルくん | 2021年3月13日 (土) 23時36分

ハルくんさん、こんばんは。

この作品はやっぱりアツい演奏で聴きたいですよね。なので、個人的1位は「火を噴くマエストロ」の異名を持つサバタ盤、僅差で2位がトスカニーニ盤です。熱量で言えば僅かに後者が上回りますが、前者はスカラ座とソリストの強みで逆転です。それにやはりトスカニーニよりサバタの方がソリストに自由度があって伸びやかですし。

どちらも強靭なカンタービレで胸が熱くなりますが、鋼のトスカニーニに対し弾性のサバタといったイメージですね。ちなみに、CDでの音だとサバタのEMI盤は余りにも酷く、とても鑑賞に堪えません。なので、聴いた事はありませんがご紹介されている盤起こしの方がおっしゃる通り良いでしょうね。尚、本国オリジはモノラル録音ながら本当に素晴らしい音質です。トスカニーニは逆に放送録音で不利なのにCDはサバタより良いですね。

アバドのものはまあ、スカラ座盤は完成度が高いですね。悪くないと思います。ただ、BPO盤は私的には全く駄目ですね。木偶の様でちっとも感じない。それだったらむしろ、同じBPOでも色々やり尽くしたカラヤン盤の方がまだマシです(全く好みではありませんが)。

それならいっそ、フリッチャイのモノラル録音やライナー/VPOの方が好みです。前者の強烈な気迫、後者の意外な程のしなやかさと真摯な祈りなど、聴きどころ満載です。

投稿: げるねお | 2023年3月 5日 (日) 22時25分

げるねおさん

こんにちは。
トスカニーニとサバタは双璧で、順の付けようも聴き方で入れ替わる程度でしょうね。演奏だけで言えば、文中に書いた通りトスカニーニのスカラ座ライブが最高ですが、いかんせん音が悪すぎます。

ベルリンPOのヴェルディは。。。私もオペラを含めて食指を余り誘われません。

投稿: ハルくん | 2023年3月 6日 (月) 16時30分

げるねおさん

追伸です。

頂いたコメントに触発?されて(笑)、これまで敬遠していたカラヤンとセラフィン(は聴きたいと思っていましたが)を聴いてみました。しかし大収穫だったのはカラヤン/スカラ座のモスクワ公演盤で、ことのほか気に入りました。

投稿: ハルくん | 2023年3月14日 (火) 16時30分

ハルくんさん、こんばんは。

カラヤンの指揮であっても、流石はスカラ座ということでしょうか。やはりこの作品は指揮者かオケ・コーラス、そしてソリストにもイタリアの血が求められるのでしょうね。

私もセラフィンの、ですが39年の方のLP仏初出を聴き直してみました。以前も感じた事ですが、意外にも古臭さはあまり気になりませんでした。セラフィンのダイナミックかつ歌に満ちた指揮、スカラ座に決して劣らないローマのオケとコーラス、そして何よりも4人の絶頂期のソリストの歌唱!カニーリアの美しさと強さ(リベラ・メは圧巻!)を兼ね備えたソプラノ、スティニャーニのシミオナートを先取りしたかのような凛としたメゾ、ピンツァのノーブルでありながらも底知れぬ深さに戦慄させられるバス、そしてどこまでも甘く、どこまでも輝かしいハイに魅せられるジーリのインジェミスコ・・・。堪りません。

音質も流石にディエス・イレで少々音割れしていますが思いの外聴きやすく、十分迫力もあって堪能出来ました。

そういえば、この演奏は完全オールイタリアン・キャストですが意外にも珍しいかも知れませんね。

投稿: げるねお | 2023年3月19日 (日) 00時14分

げるねおさん、こんにちおいは。

セラフィンの39年録音も大いに興味が有りますが、せっかくステレオ録音が有るのでと再録盤から聴きました。機会あれば旧録の方も聴いてみたいです。しかしトスカニーニ、サバタ、セラフィンの時代には凄い歌手がゴロゴロ居ましたね。歌唱が古いかどうかは別として、存在感が桁違いですからね。

投稿: ハルくん | 2023年3月20日 (月) 17時20分

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