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2013年8月

2013年8月31日 (土)

サイモン・ラトル/ロンドン響 映画「炎のランナー」のテーマ ~ロンドンオリンピック2012~

昨夏のロンドン・オリンピックの感動からもう1年以上も経ってしまいましたね。2020年の開催都市決定ももうじきです。果たして日本で再びオリンピックを観ることが出来るのかどうかは分りませんが、スポーツ観戦の大好きな自分としては開催の実現を心から願っています。

さて、ロンドン大会での開会セレモニーは非常に楽しいものでしたが、何と言ってもイギリス出身の大指揮者サイモン・ラトルがロンドン交響楽団を指揮して演奏した、映画「炎のランナー」のヴァンゲリス作曲のテーマ曲が最高でした。もちろん、この曲は素晴らしい名曲なのですが、オーケストラのメンバーにミスター・ビーンが加わっているのには笑いを誘われました。そのビーンが演奏中に居眠りして夢を見て、映画のシーンに登場するというアイディアが秀逸です。元々この映画は1920年代のイギリスの二人の若者がパリ・オリンピックへ参加して共に優勝するという実話に基づきますが、それを知っていると、このパロディ・パフォーマンスがどれほど良く出来ているかが理解できます。最後のラトルとビーンのシーンも可笑しいです。ミスター・ラトル、あんたも中々の役者やのう!

この映像は何度観ても楽しめます。それではYouTubeでご一緒に。

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2013年8月23日 (金)

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調作品131 名盤 ~最高傑作~

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番は、実際には15番目に書かれた作品です。シューベルトはこの作品を聴いて、「この後で我々に何が書けるというのだ?」と述べたと伝えられています。実際、この曲を最高傑作に上げる人は多いと思います。

曲の構成はとうとう7楽章となり、完全に古典的な様式から逸脱しています。交響曲の世界では後期ロマン派のマーラーにより古典的な4楽章構成が破壊されるのを待ちますが、弦楽四重奏曲においては古典派を極めたベートーヴェンが、その自らの手によって4楽章構成を壊してしまいました。ある意味、後期ロマン派へ続く道筋を一気に駆け抜けて先取りしてしまったとも言えそうです。

第1楽章 アダージョ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・エスプレッシーヴォ

第2楽章 アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ

第3楽章 アレグロ・モデラート~アダージョ

第4楽章 アンダンテ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・カンタービレ

第5楽章 プレスト

第6楽章 アダージョ・クワジ・ウン・ポーコ・アンダンテ

第7楽章 アレグロ

各楽章は切れ目無くつながりますが、人によっては1楽章を長い序奏、3、6楽章をそれぞれ4、7楽章への序奏楽段と位置づけて、この曲は拡大された4楽章であると解釈する場合も有るとのことです。

長いアダージョの1楽章は敬虔な祈りの雰囲気で非常に美しいです。変奏形式のアンダンテの4楽章は大変魅力的ですが、中間部で楽器ごとに弾かせるスケールが意外に難所で、名カルテットでも音程取りに苦労しています。5楽章のプレストはとてもユニークです。ピツィカートやスル・ポンティ・チェロ(擦れたような変な音)の技法を使って新鮮味を演出しています。そして、とりわけ印象深いのは終楽章です。ベートーヴェンの荒々しい男臭さがたまりません。う~ん、これぞ男の音楽だ!
実は、大学時代にオーケストラの部内演奏会で仲間とカルテットを組み、終楽章のヴィオラ・パートを弾いたことがあります。余興演奏とは言え、ベートーヴェンの傑作を弾く面白さは半端ではありません。もっとも酷い演奏を聴かされた人達にとっては迷惑だったかもしれませんが。(笑)

確かにこの曲の持つ斬新さから、最高傑作と呼ぶことにいささかも躊躇しませんが、個人的には旋律線の美しい第15番を最も好んでいます。それはともかくとして、第13番、14番、15番の3曲はベートーヴェンの極めた最高到達点であるのは間違いありません。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

51u9dbjsblブッシュ弦楽四重奏団(1936年録音/EMI盤) ブッシュ達がアメリカに移住する前のSP録音です。カぺ―SQはさすがに古過ぎて抵抗が有りますが、ブッシュは充分鑑賞できます。確かにポルタメントを多用した古めかしさは有りますが、それが逆に現代では絶対に聴くことが出来ない極めて人間的な、それも人間の心そのものが音に成っているかのような温かさを感じずにはいられません。それが今でもリリースされ続けて愛好されている理由です。戦後の演奏しか聴いたことの無い方も一度は接しておくべき歴史的演奏です。

206リリ弦楽四重奏団(1952年録音/MCAビクター盤) ウエストミンスター録音による往年の名盤です。今聴くと、この厳しい曲にしては少々甘く柔らか過ぎるようにも感じますが、逆に余り革新性に捉われずに、落ち着いた気分で曲を楽しむことが出来ます。ブッシュSQほど古めかしい印象は受けませんし、この演奏に聴き易さや心地良さを覚える人だって少なくないと思います。とは言え終楽章では中々の緊張感を漂わせています。名演奏とは、やはり時代を越えて人に伝わるものだという気がします。

90650dc0bfe3c81c14f641d351d90ca5ブダペスト弦楽四重奏団(1961年録音/CBS盤) 全集盤です。学生時代に初めて買ったこの曲の演奏(LP盤)で、音楽の持つとてつもない厳しさを感じたものです。1楽章から楷書的で明確な音なのですが、無機的な印象は一切受けません。峻厳極まりない雰囲気を一杯に漂わせます。2~4楽章も柔らかく歌い崩したりはしません。どこまでも厳しい音楽ですが表情は豊かです。5~7楽章は彼らに正にピッタリの曲想ですが、圧巻は終楽章です。重厚なリズムと凄みの有る音のズシリとした聴きごたえには心の底から圧倒されます。こればかりは最高傑作の最高の演奏だと断言します。

151ジュリアード弦楽四重奏団(1969年録音/CBS盤) 旧盤の全集からです。ジュリアードと言えば、4人の卓越したテクニックによる精緻で完成度の高い演奏のイメージですが、それにピタリ重なり合うのがジョージ・セルとクリーヴランド管の演奏です。面白いことに実演ではスタジオ録音とは異なり、意外なほどに熱い演奏になるのも両者に共通しています。これはスタジオ録音ですので、完璧な合奏には感心しますが、少々窮屈な印象が拭えません。但し、終楽章の切れ味と音の凄みは流石です。

V4871ヴェーグ弦楽四重奏団(1973年録音/仏Naive盤) 全集盤です。1楽章は厳しさというよりも滋味を感じますが、1stヴァイオリンのハイ・ポジションの音程が僅かに怪しいです。2~4楽章でのゆったりとした深い味わいはとても魅力的です。5楽章も慌てずにゆとりが有ります。終楽章は意外に速めですが、この楽章の持つ緊迫感は幾らか弱いように感じます。良くも悪くもヴェーグの特徴がそのまま出ている演奏ですので万全とは言えません。

51jrjljelラサール弦楽四重奏団(1977年録音/グラモフォン盤) 後期四重奏曲集です。1楽章にはブッシュやブダペストのような神々しさは有りません。2~4楽章は明確な音により曖昧さが少しも有りません。ダイナミクスの変化が大きく多彩なのは良いとしても、少々神経質で煩わしさを感じてしまいます。これを面白いと感じる方も多いのでしょうけれども。終楽章は切れの良いリズムで立体感の有るダイナミックな演奏です。こんな演奏を当時から行っていたのには驚きます。

Suske_beethoven_late_2ズスケ弦楽四重奏団(1980年録音/Berlin Classics盤) 全集盤です。音そのものはヴィブラートの多い柔かで美しい音ですが、歌い方が端正なので絶妙なバランスを保っています。決して古めかしさは有りませんが、先鋭的にも成らないドイツ伝統の血筋を感じずにはいられません。彼らの音楽がそのままベートーヴェンに結び付いているかのような同質性は、他の国の演奏家からは中々感じられないものです。相当に弾き込んでいるからでしょうが、オーソドックスであることがどれほど素晴らしいことかを再認識する演奏です。

D0021969_10143431アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1983年録音/EMI盤) 全集盤です。残響過多で分離の悪い録音は相変わらずです。ウイーンの団体らしい柔かさも見せますが、曲が曲なので比較的禁欲的な厳しい表情で統一しています。特に第6楽章などは崇高な祈りを感じさせて素晴らしいです。終楽章は荒々しいほどの豪快な迫力なのですが、表情や音量の変化を極端に付け過ぎているために姑息な印象を受けてしまい、自分のような天邪鬼には素直に感動が出ません。もっとも、人によってはこれが好きだという方も居るはずです。

51065xicuplジュリアード弦楽四重奏団(1982年録音/CBS盤) ワシントン国会図書館ホールでのライブ録音による新盤です。かつてのように機能性に徹した印象を受けないのはライブという条件と年月を経たことによる変化と両方だと思います。ここではアンサンブルを整えるよりも、音楽を如何に大きく深く表現できるかに最も力が注がれています。緩徐楽章での心への染み入り方がそれを証明しています。反面、終楽章での迫力や凄みは、彼らの旧盤やブダペストSQ、アルバン・ベルクSQには及びません。

G7138122wスメタナ弦楽四重奏団(1984年録音/DENON盤) 全集盤です。誇張や大げさな表情の全くない地味で控え目な表現なのですが、4つの弦楽器が繊細に重なり合い、織り成すベートーヴェン晩年の音楽が本当に深く心に染み入って来ます。音の静寂が、これほどまでに物を言う演奏も中々無いように思います。終楽章も無駄な力みの無い、非常に透徹した演奏ですが聴きごたえが有ります。かつて彼らが来日した時に実演で聴いたこの曲の感動がそのままに蘇ります。

Melos_beethoven_lateメロス弦楽四重奏団(1985年録音/グラモフォン盤) 表情を豊かに付けたり、アクセントを大きく強調したりと、非常に積極的な演奏です。5楽章の大胆さや、終楽章の劇的な表現も印象的です。その点ではアルバン・ベルクSQの旧盤に似ていますが、質の高さでは越えていると思います。けれども、それがそのまま感動を呼ぶかというと幾らか減衰してしまうのです。むしろ3、4楽章の美しさにに感銘を受けます。全体的にスケールやハイ・ポジションの音程が幾らか怪しく聴こえるのが気になります。

338アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1989年録音/EMI盤) 二度目の全集の第1巻に含まれます。完成度においては旧盤に譲りますが(と言ってもライヴでこの完成度は凄いです)、表情の自然さは新盤の方が上です。旧盤はどこか作り物めいた感が有りましたが、新盤にはそれが有りません。全般に緩徐部分は旧盤、急速楽章は新盤が良いように思いますが、これも好みではあります。全体的にどちらが好きかと言われれば、自分は新盤です。

61vvfzeifl__sl500_aa300_ウイーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団(1991年録音/PLATZ盤) 全集盤からです。いかにもウイーンの団体らしい甘さと柔かさが出ているのは4楽章で、非常に美しいです。反面、終楽章では気迫が溢れている割に感銘が薄い気がします。たとえば、楽譜の読みの深さもブダペストSQやスメタナSQに比べて甘いように感じます。室内楽専門の団体では無いハンディが、どうしても出てしまうのでしょうか。

Emersonbeethovenエマーソン弦楽四重奏団(1994年録音/グラモフォン盤) 全集盤からです。頂点の14番と15番で第1Vnがドラッカーでは無くセッツァーなのはちょっと残念です。ドラッカーの方が表現力の点で上だと思うからです。1楽章は透明感のある響きの極弱音で開始されますが、少しづつ音量を増してゆき最後は劇的に結びます。2楽章は速く弾むようなリズムが現代的です。4楽章も速めですが、各変奏のきりりとしてデリカシー溢れる歌い方に惹かれます。5楽章は文字通り”プレスト”で超快速ですが、唖然とするほど上手いです。そして、緊張感を湛えた6楽章に導かれて開始される終楽章こそが白眉で、速いテンポの激しいリズムと攻撃的とも言える迫力ある音に圧倒されます。けれどもアルバン・ベルクSQのような姑息な印象は一切受けません。

312ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(1997年録音/NCA盤) 全集盤からです。1楽章は和音が美しいですが、加えて敬虔な祈りの雰囲気に満ちています。2、3楽章はリズムを厳格に刻むドイツ風の演奏です。4楽章はウイーンの団体のようにゆったりと歌うわけではありませんが、凛とした味わいが有ります。終楽章は速過ぎないテンポで毅然としていますが、気迫や音の凄みにも不足はありません。全体的に非常に完成度の高い演奏です。

以上の中で、たった一つ選ぶとすればブダペストSQをおいて他には有りません。但し、それに肉薄する凄さのエマーソンSQと、透徹の極みのスメタナSQも外せません。あとは現代ドイツ風なゲヴァントハウスSQにも大いに惹かれます。

さて、次回はいよいよ第15番です。個人的には聴き比べが最も楽しみです。

<追記> ジュリアード四重奏団の旧盤を後から加筆しました。

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2013年8月17日 (土)

今日の「サワコの朝」 葉加瀬太郎とブラームス

毎週土曜日の朝にTV放送される「サワコの朝」。この番組は結構好きでよく見ます。阿川佐和子さんの”聞く力”で毎回楽しいトークが楽しめるからです。それにしてもサワコさんは自分のお姉さんに相当する年齢ですが、いつまでも可愛らしさを保っていてとても素敵ですね。

今日はゲストが葉加瀬太郎なので、『これは中々楽しそうだな』と思って見たのですが、予想通りとても面白かったです。

芸大時代から既にクラシック音楽から非クラシック音楽に方向転換した葉加瀬さんは、自分にしか弾けないヴァイオリン演奏を創り出した代償に、正統的な奏法の多くを捨てて来たんだそうです。ところが、45歳の現在、改めてレッスンを受け直しているのだとか。クラシックのちゃんとした?ヴァイオリニストに成りたいのだそうです。

そんな葉加瀬さんの心の曲が、ブラームスのヴァイオリンソナタ第1番だそうです。確かにこの曲、心に染み入るメロディが葉加瀬さんに似合いますね。何でも60歳に成った時に3曲のソナタを演奏(録音)するのが目標なのだそうです。サワコさんが「15年も先ですか?」と驚くと、葉加瀬さんは「あと15年しかないです。」と答えました。15年先にどんなブラームスを聴かせてくれるのか楽しみですね。60歳で本当に演奏しそうな気がします。その時には、きっと今日の「サワコの朝」でのトークを思い出すことでしょう。でも、葉加瀬さんの60歳の姿、案外とブラームスに似ているかもしれませんよ。(笑)

15年後の名演奏に期待して、今日の記事は「名ヴァイオリニスト」のカテゴリーに入れておくことにします。

<参考記事>
ブラームス ヴァイオリン・ソナタ集 名盤

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2013年8月15日 (木)

ラ・メール(La Mer) ~海~

今週は夏休みですが、遠出はせずに家でのんびりです。それでも月曜には二人目の孫が誕生したので翌日病院に見に行きましたし、今週末には父親の七回忌の法事が有ります。それ以外にも友人と会って飲んだりと、暇で時間を持てあますことは有りません。

でも夏休みと言えば、やはり海と山ですね。幸い我が家は丹沢山麓にほど近い場所に有るので、その山並みを見渡すことが出来ます。海は残念ながら見えないので心に思い浮かべるだけです。

その「海」という名曲が有りますね。但しドヴュッシーの有名な管弦楽曲ではありませんよ。「La Mer(ラ・メール)」の曲名で知られる古いシャンソンです。1943年にフランスのシャンソン歌手で作曲家のシャルル・トレネが歌った曲ですが、この曲は英語圏でも「Beyond the Sea(ビヨンド・ザ・シー)」の曲名で多くの歌手にカヴァーされています。実は昔から大好きな曲で、もしかしたらポピュラーソングの中で一番好きかもしれません。晴れた日の穏やかな大海原。どこまでも続く水平線。あの向こうには行ったことの無い国が沢山有るのだと想像をかき立てられます。

この曲は旋律線に独特の魅力が有り、微妙な転調を何度か繰り返す妙が何とも素敵です。歌無しのオーケストラで演奏されると神秘的な雰囲気さえ漂わせます。というように様々なバージョンで楽しめる素晴らしい名曲です。久しぶりにゆっくりと聴いてみたいと思います。

まずは作曲者のシャルル・トレネで聴きましょう。まぁ、これはリファレンスですね。陽光輝く地中海が想い描かされます。

英語版の「ビヨンド・ザ・シー」も古くはビング・クロスビーから色々な人が歌っていますが、僕が好きなのはボビー・コールドウェルです。元々はAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の歌手ですが、ジャズもとても上手いのです。この曲が入った「ブルー・コンディション」というアルバムは愛聴盤です。嬉しいことにステージ映像が見つかりました。うーん、アダルト!

けれども、実はこの曲を高校生の頃に最初に聴いたのはマントヴァーニ・オーケストラの演奏なのですね。何という美しく神秘的な曲なのかと思いました。

最後にこれはおまけです。ミスター・ビーンの映画「Mr.Bean’s Holiday(邦題:Mr.ビーン、カンヌで大迷惑)」のラスト・シーンです。ロンドンからカンヌを目指して珍道中の旅をしてきたミスター・ビーンがついにカンヌの浜辺にたどり着いた場面です。「ラ・メール」が見事に使用されています。他にもプッチーニの「ジャンニ・スキッキ」の「私のお父さん」のパロディが有ったりと実に楽しい映画でした。
映画「Mr.BEAN’S HOLYDAY」より

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2013年8月10日 (土)

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第13番変ロ長調 作品130 &「大フーガ」作品133 名盤

いやはや今年の夏は暑いですね!こう暑くては記事を書く筆(キーボード?)もすっかり鈍ります(汗)。いえ、本当はベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の凄さ、深さに改めて感じ入ってしまい、同じ演奏を何度も繰り返して聴いてしまって進まないだけなのです。2週間ぶりですが、ようやくアップできました。アップ、アップ・・・(笑)

ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の、第13番から第15番までの3曲は楽譜が出版された順に作品番号が付けられたために、実際に書かれた順序とは異っています。第15番と第13番はほぼ並行して作曲が進められましたが、完成した順でいうと第15番→第13番→第14番です。

3曲の大きな特徴としては、それまでの古典的な4楽章構成ではなく、曲を追うごとに楽章の数が増えてゆくことが上げられます。それはベートーヴェンが既に外面的な形式から解き放たれて、自らの心の奥底へと深く入り込んで行った結果では無いでしょうか。実際、ここで聴かれる音楽の自由さ、深淵さは、既に書き終えていた9曲のシンフォニーをも凌駕すると思います。

ブログの記事としては一応、作品番号順に進みたいと思いますので、今回は第13番です。

第13番は全6楽章形式ですが、この曲には大きな問題が有ります。最初に書かれた楽譜では終楽章に大規模なフーガが置かれていましたが、余りに難解で長大であったことから、出版される段階で周囲に説得されて、新しい終楽章と入れ替えられました。それが現在の作品番号130です。削除された最初の終楽章は、単独で作品番号133「大フーガ」として出版されました。

弦楽四重奏曲第13番変ロ長調 作品130

第1楽章 アダージョ・マ・ノン・トロッポ~アレグロ

第2楽章 プレスト

第3楽章 アンダンテ・コン・モト・ノントロッポ

第4楽章 アレグロ・アッサイ

第5楽章 カヴァティーナ アダージョ・モルト・エスプレッシーヴォ

第6楽章 フィナーレ アレグロ

「大フーガ」変ロ長調 作品133

ということから、大フーガが終楽章のものが初稿、アレグロに置き換えられた現在のものは云わば改訂版となるわけですが、いかんせん改訂版が作品番号130として楽譜出版され、大フーガは単独で作品番号133となったために、長いこと初稿は日の目を浴びずにいました。けれども、徐々に見直されるようになり、現在では大フーガを終楽章に置いた初稿が演奏されるケースも珍しくは無くなりました。

比較的短く(それでも長いですが)馴染み易い改訂版の終楽章よりも、最初の大フーガのほうが聴きごたえが有るのは事実です。新しい終楽章も自由闊達で愉悦感に富み、非常に魅力的なのですが、大フーガの仰ぎ見るような立体感と崇高な祈りの感動の前には少々影が薄くなります。

改定版になって全体のバランスは整いましたが、後期のベートーヴェンらしいずしりとした手ごたえは失われて、作品が軽くなった感が有ります。もしも大フーガが終楽章のままであれば、第13番は第14番、第15番に遜色が無かったと思います。周囲の助言を聞き入れて、解り易く書き替えてしまい、本来の良さが失われるというのはブルックナーの場合と同じですね。

終楽章の話ばかりに成りましたが、第3楽章アンダンテ、第4楽章のドイツ舞曲(レントラー)風のアレグロも美しい旋律が何か懐かしい気分にさせられるので、とても好んでいます。第5楽章カヴァティーナでのベートーヴェンの心の哀しみには大変胸を打たれます。

楽章の数が多く、比較的短い曲が並びますので、この曲と第14番は全体的にディヴェルティメントか組曲のような印象も受けますが、それだけベートーヴェンの魂の自由な飛翔だと言えるのかもしれません。

CDでは多くの演奏家は改訂版で演奏を行い、その後に付属の形で大フーガを収録するというのが慣例です。もちろん楽譜上で文句は有りませんが、何度も聴いていると、この曲があたかも7楽章構成であったかのような気になってきます。一方、初版を選ぶ演奏家も少なくありません。終楽章を大フーガで演奏して、その後に新しい終楽章を収録するという、初稿主義を示しています。たとえばヴェーグ、スメタナ、ラサール、アルバン・ベルク、エマーソンなどです。演奏家のポリシーを知るのは興味深いことです。

個人的には、やはり改定(改悪?)版よりも初稿が優れていると思うので、第6楽章までを鑑賞するのであれば、初稿で聴くのが好きです。ただ、その場合、大フーガの後に新しい終楽章を聴くことになってしまうので、これはどうしても頂けません。改定版、すなわち作品130を聴いてから、続けて大フーガを最後に聴く分には余り抵抗を感じないので、結局は改定版+大フーガという7楽章の曲として鑑賞するのが一番好きです。

実は、ウイーン・ムジークフェラインSQのCDのライナーノートを書いている近藤憲一氏によると、この曲は元々全7楽章構成で書かれていて、初演も7楽章で行われたとあります。その楽譜は第5楽章までは同じですが、第6楽章が作品130の終楽章アレグロ、第7楽章が大フーガであったとされています。出版される際には、難解な大フーガを削除して、第6楽章のコーダを手直しして作品130の形となったと書かれています。通説とは大きく異なりますし、真偽のほどは分りませんが非常に興味深い説ではあります。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

00143708ブッシュ弦楽四重奏団(1941年録音/CBS盤) ブッシュ達がアメリカに移住後の録音です。LP時代には弦楽合奏による大フーガがカップリングされていましたが、CDではラズモフスキー1番とカップリングされて、大フーガは省かれています。全体的に速めのテンポで颯爽と演奏していますが、ポルタメントを多用して表情は極めて濃厚。甘い歌いまわしが、とても懐かしい雰囲気を醸し出します。ベートーヴェンの肉声を代弁しているかのような、実に人間的で素晴らしい演奏です。カヴァティーナが何と感動的なことでしょうか。

Barylli_1012リリ弦楽四重奏団(1952年録音/MCAビクター盤) ウエストミンスター録音です。ブッシュほど濃厚ではありませんが、やはり味わいの深い歌は、とても懐かしさを感じさせてくれます。特に第3~5楽章では大きな魅力です。終楽章は改定版ですが、喜びに溢れて弾むような生命力が素晴らしいです。カップリングの大フーガの演奏も立派ですが、余り晦渋さは感じられずにゆったりと歌うのが非常に魅力的です。この曲が少しも難しく無く、自然に良さが感じられるのが凄いと思います。

90650dc0bfe3c81c14f641d351d90ca5ブダペスト弦楽四重奏団(1961年録音/CBS盤) 全集盤です。色気のまるで無い禁欲的な音からは、まるで禅の修行僧のような厳しさを感じます。第1楽章や改訂版による終楽章では、それが圧倒的な聴きごたえとなって迫り来ます。第3、第4楽章では曲想から、幾らか穏やかさが欲しい感が有りますが、大フーガでの気迫と厳しさは尋常では無く、一種近寄り難い雰囲気です。ベートーヴェンの音楽の核心に限りなく迫っていますが、普段そうそう気軽には聴けない演奏だと思います。

151ジュリアード弦楽四重奏団(1970年録音/CBS盤) 旧盤の全集からです。同じ旧盤でも60年代前半の録音のラズモフスキーとは印象が幾らか異なるように思います。もちろん精緻で完成度が高い点は変わりませんが、機能面から情緒面に傾きだす兆しを感じるからです。要するに後年の彼らへの序章です。カヴァティーナでの深い沈滞が正にそれです。それでも大フーガの完璧な合奏による構築性は正に彼らの真骨頂で圧巻の聴きものです。新しい終楽章は大フーガの後に収録されています。

51jrjljelラサール弦楽四重奏団(1972年録音/グラモフォン盤) 後期四重奏曲集での最初の録音です。アメリカの団体は楽譜に忠実で完成度が高い反面、往々にして無味乾燥に陥りやすいのですが、この演奏は非常に美しくデリカシーに溢れています。カヴァティーナでの高貴さも驚くほどで、非常に胸を打たれます。第6楽章を大フーガで演奏しますが、これがまた立体感と峻厳さを持った演奏で素晴らしいです。リリース当時、あれほど注目された存在だったのに改めて納得です。一方、改定版の終楽章の演奏も素晴らしいので、聴く順番に迷ってしまいます。

V4871ヴェーグ弦楽四重奏団(1973年録音/仏Naive盤) 全集盤です。初版による演奏で、新しい終楽章が後に収録されています。ヴェーグのヴァイオリンを中心とした、ブッシュSQタイプの演奏です。アメリカの団体のように完璧性を求めるのではなく、伝統に基づいた感覚で奏している印象が強いです。ところがそれが実に強い説得力と感銘を与えてくれます。ベートーヴェンの内面がそのまま音化されているかのようです。第3、4、5楽章で滲み出る深い情緒には惚れ惚れさせられます。大フーガでの構築性は幾らか弱いですが、演奏の気迫は凄いです。改定版の終楽章の演奏も実に魅力的です。

Suske_beethoven_late_2ズスケ弦楽四重奏団(1979年録音/Berlin Classics盤) 全集盤です。いかにもドイツの団体らしく、堅牢なリズムで一点一画も疎かにしない、がっちりとした演奏です。レトロな味わいとは異なりますが、大袈裟さの無いオーソドックスな表現の中にも味わい深さを感じます。かつて彼らを実演で聴いた時には音が柔らか過ぎる感も有りましたが、録音では美しい音の割に充分聴きごたえが有ります。ドイツ伝統の四重奏の最良の姿がここに存在します。終楽章は改定版によりますが、併録された大フーガとどちらも素晴らしい演奏です。

D0021969_10143431アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1982年録音/EMI盤) 全集盤です。残響過多で分離の悪いEMIの録音は諦めるとして、先鋭的な演奏の中に、ウイーンの団体らしい柔かさを垣間見せます。決して悪い演奏では無いのですが、問題は大フーガです。気迫が凄さまじいのは良いとしても、音のアタックが激し過ぎてヒステリックに感じるのです。少なくとも僕の耳の許容範囲を越えています。その後に収録された、改定版の終楽章も同様に激し過ぎて、本来の愉悦感を損なっています。

G7138122wスメタナ弦楽四重奏団(1982年録音/DENON盤) 全集盤です。終楽章は初版を用いています。オーソドックスな点ではズスケSQと並びますが、ズスケにはドイツ的な堅牢さを感じるのに対して、スメタナにはしなやかさをより強く感じます。それでも決して生ぬるいわけでは無く、第1楽章や大フーガなどには相当の気迫と緊迫感を感じます。速めのテンポの大フーガの立体感も中々のものです。続く改定版の終楽章も、速めで生命力が漲っていて見事です。

51065xicuplジュリアード弦楽四重奏団(1982年録音/CBS盤) ワシントン国会図書館ホールでのライブ録音による新盤です。ジュリアードと言えば機能性に徹した完璧な演奏の印象が有りますが、この新盤ではライブということもあってかなり異なります。テンポは伸び縮みの自由さが有りますし、大胆な音のタメが随所に見られます。多分にロマンティックに傾いた演奏だと言えます。これは恐らく晩年のロバート・マンの持つ音楽性なのでしょう。個人的にはこのようなタイプは非常に好みます。終楽章は初稿ですが、カヴァティーナと両終楽章の間がディスクで分かれているのは困りものです。録音の残響は少ないですが、ステージを目の当たりにするような臨場感が有ります。

Melos_beethoven_lateメロス弦楽四重奏団(1985年録音/グラモフォン盤) 厳格に刻まれるリズムと甘く成り過ぎない音が、やはり彼らがドイツの団体であることを認識させられます。ウイーン的なベートーヴェンも魅力ですが、ドイツ生れの楽聖の毅然とした姿を想像させるドイツ的なスタイルも良いです。もっともその分、4楽章のリズムが重く流れないのと、改定版の終楽章に洒落っ気が不足するのが気に成ります。但し、大フーガには気迫が満ち溢れていて、音に凄みすら感じさせます。これは非常に素晴らしいです。

338アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1989年録音/EMI盤) 二度目の全集の第1巻に含まれます。但し、こちらは作品130のみで、大フーガは第2巻に収められています。何故このような編集に成るのか大いに疑問です。演奏そのものは意外に普通で、旧盤で感じられたヒステリックさも有りませんし、彼らのセンスの良い面が出ています。個人的には旧盤よりもずっと好きですが、大フーガと分かれているのが惜しいです。

61vvfzeifl__sl500_aa300_ウイーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団(1991年録音/PLATZ盤) 全集盤からです。ウイーンの団体の演奏には独特の甘さと柔かさが有るのが魅力です。本当はウェラーSQが全集を残してくれていればと思うのですが、それは無い物ねだりというものです。この演奏もウイーン的な味わいに先進性を加えていて悪くはありません。大フーガは熱演ですが、全体的には仕上げに幾らか雑さが見られて弾き込み不足を感じます。室内楽専門の団体では無いハンディが出てしまったようです。

Emersonbeethovenエマーソン弦楽四重奏団(1995年録音/グラモフォン盤) 全集盤からです。これがライブとは信じられないほどの完璧さです。4人の奏者は全員が唖然とするほど上手いですが、音楽センスも抜群です。激しいダイナミックスとデリカシーが見事にブレンドされていて、ドイツ的でもウイーン的でも無い普遍的な音楽美を表出しています。聴きものの大フーガでは、厳しい構築性もさることながら、まるで現代音楽のような独特な雰囲気を醸し出しています。非常にユニークかつ圧倒的な名演奏だと思います。

312ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(2002年録音/NCA盤) 全集盤からです。厳格にリズムを刻むドイツ風の演奏です。ウイーンの団体のように甘く柔らかく歌い崩したりはしないので、表面的には情緒が薄いようですが、そこはドイツ伝統の血を引く団体ですので滋味溢れる味わいが有ります。音楽そのものを安心して聴いていられる感が有ります。決して古めかしくは無く、新鮮さも持ったとても良い演奏だと思います。終楽章は改定版です。続いて大フーガが収められていますが、これは単に気迫が有るだけでなく、充実仕切った音の素晴らしい演奏です。

後期のこの辺りの作品となると、そう簡単に優劣を語るのも憚れます。けれども個人的な好みで言えば、ヴェーグSQの演奏に最も癒しを感じます。彼らの晩年の録音なので技術的には衰えが見られますが、音楽が限りなく豊かです。そして、もう一つ絶対に外せないのがエマーソンSQです。先鋭的な鋭さに加えて音楽的なセンスの良さには脱帽です。それ以外にもブッシュは別格ですし、バリリ、ラサール、メロス、ゲヴァントハウス・・・みな良いのではありますが。

<追記> ジュリアード四重奏団の旧盤を後から加筆しました。

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2013年8月 3日 (土)

ブログ開設5周年記念御礼!

Manekineko

いやぁ、早いもので、このブログをスタートしてから5年が経ちました。始めた時には、正直ここまで続くとは思いませんでした。大好きな音楽の事も、そうでない事も、コメントを寄せて下さる方たちと楽しくコミュニケーションできることが何よりも楽しみです。日頃コメントを頂いている方々には、心から感謝したいですし、たとえコメントは頂かなくとも、お読み頂いている方々にも御礼の言葉をお伝えしたいです。

ブログ記事の中心は、いわゆる名曲や名盤についてですが、自分の耳で聴き、心で感じたことを、多少なりともご参考にして頂ければ大きな喜びです。つたない文章で毎回同じような事しか書けないのが非常に歯がゆいのですが、音楽の専門家では無い全くの素人ですので、まぁ仕方が無いかと諦めてはいます。

無理せず背伸びせず、これまで通りのペースでこの先も続けて行こうと思っていますので、どうぞ皆様、末永くお付き合い下さい。

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