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2013年7月26日 (金)

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第12番 変ホ長調 作品127 名盤

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲特集ですが、中期最後の第11番から、しばらく中断していました。およそニか月ぶりの再開です。と言うのも、ベートーヴェンは第11番を作曲した後に、次の弦楽四重奏曲を書くまでの間は何と14年もの空白が有ったのですね。そこで僕も、ちょっと間を置いてみようかなと思ったのです。でも、さすがに14年も空けるわけには行きませんからね。(笑)

弦楽四重奏曲第12番ホ長調作品127は、その14年の空白の後に作曲した最初の弦楽四重奏曲です。これ以降の5曲が、いわゆるベートーヴェンの「後期弦楽四重奏曲」とされます。この第12番と第13番、第15番は、ロシアのニコラス・ガリツィン公爵から依頼されて書いたために、この3曲を「ガリツィン・セット」と呼ぶことも有ります。ただ、実際に3曲まとめた演奏会やCDというのは余り目にした記憶がありません。

後期の弦楽四重奏曲を聴く上で忘れてならないことは、ベートーヴェンが全てのピアノ・ソナタと交響曲を書き終えてから、後期の弦楽四重奏曲を書き始めたことです。それは正にベートーヴェンが最後の最後に到達した孤高の境地だと言えます。その入り口に位置する第12番は、中期の作品ほど解り易くは有りませんし、続く第13番、14番、15番といった大傑作と比べると幾らか聴き劣りがするのも事実で、後期の5曲の中では地味な存在です。けれども、内容的には大変に内省的であり、気難しさを感じさせるベートーヴェン自身の魂の独白となっていますので、やはり後期の作品の名に恥じない名作だと思います。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

51u9dbjsblブッシュ弦楽四重奏団(1936年録音/EMI盤) 基本的にブッシュはアメリカに移住する前のヨーロッパ録音には、頻発するポルタメントなどに、どうしても古めかしさを感じます。けれども現代では失われてしまった、自由自在な歌いまわしによる極めて人間的な肌触りや濃厚なロマンは、他の演奏家らは絶対に聴くことが出来ない大きな存在感を示します。メカニカルに整えて体操競技のように些細なミス探しをするような演奏が何とも虚しく感じられることに気付かせてくれます。1930年代前半までの録音に比べてずっと鑑賞に耐え得る音質になったのは嬉しいです。

10845ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団(1951年録音/ユニヴァーサル・ミュージック盤) ウエストミンスター録音です。冒頭の和音から、実に柔らかく美しい音をゆったりと響かせます。緊張感よりは懐かしい雰囲気が一杯に感じられます。ブッシュSQに古めかしさを感じた自分が、この演奏には不思議と抵抗感が有りません。果てしない安らぎと癒しが絶大な魅力となっているのです。1楽章にしてこの様ですから、2楽章ではもう何をいわんやです。後半の3、4楽章は少々まったりし過ぎかなと思わなくもありませんが、それこそが彼らの魅力ですので不満は感じません。

Barylli_1012リリ弦楽四重奏団(1956年録音/MCAビクター盤) ウエストミンスター録音です。ウイーン・コンツェルトハウスSQ並みに柔らかく始まります。世代が異なるとは言っても、やはり同じ当時のウイーンのスタイルなのですね。強いて言えば、懐かしい雰囲気はコンツェルトハウスSQが勝り、バリリの方が幾らか現代的な構築性に優っている様です。ですので3、4楽章でのリズムの切れや躍動感でも彼らの方が勝りますが、現代の層々たるカルテット以上のものが有るかと問われれば答えに困ります。

90650dc0bfe3c81c14f641d351d90ca5ブダペスト弦楽四重奏団(1961年録音/CBS盤) 全集盤です。後期に入って作品が更に深みを増すとともに、ブダペストの本領がいよいよ発揮された感が有ります。中期の演奏も素晴らしかったですが、この曲での演奏の深みは何とも圧倒的です。単に音程や縦の線が完璧であるとか言うレベルでは無いのです。表現の意味深さや間合いの良さは比類が無く、4人の奏者がベートーヴェンの書いた楽譜の全ての音符に命を吹き込んでいます。一聴しただけでは耳あたりの決して良くない厳しい音に馴染めないかもしれませんが、聴きこむほどに心底引きこまれます。これほどまでに深い演奏は他の団体からはまず聴くことが出来ません。

V4871ヴェーグ弦楽四重奏団(1973年録音/仏Naive盤) 全集盤です。手放しで賞賛できるのは第2楽章で、他の演奏に比べても、最も深い味わいに満たされているように思います。けれども全体的にはアンサンブルの弱さを消し去ることは出来ないですし、緊迫感に欠けるきらいがあります。ところが退屈するかと言えば、決してそんなことも無く、ゆったりと落ち着いて聴き楽しめるのです。タイプとしては、ウイーン・コンツェルトハウスSQに近いと言えます。

51jrjljelラサール弦楽四重奏団(1976年録音/グラモフォン盤) 後期の曲のみの録音で、かつては一世を風靡しましたが、すっかり忘れ去られた感が有ります。けれども改めて聴いてみると、ジュリアードSQの旧盤のような先進性を感じます。アンサンブルはメカニカルに感じるほど優秀で、ダイナミクスは大きく、音の切り込みが鋭く、アタックは激しく、演奏に非常に凄みが有ります。反面、2楽章では余り「精神性的」な厳粛な雰囲気は感じさせません。いかにもアメリカ的に聞こえます。自分の好みで言えば、それほど惹かれるタイプの演奏ではありません。

Suske_beethoven_late_2ズスケ弦楽四重奏団(1978年録音/Berlin Classics盤) オーソドックスな演奏が優等生的に過ぎて、面白みを感じない場合が無きにしも非ずの彼らですが、この曲では、その弱点を感じさせません。ハーモニーが極めて美しく、表情も大げさなところが無いにもかかわらず、出す音は常に意味深く、聴き応えが充分です。強いてマイナスを言えば、演奏が美し過ぎて、この曲が持つ気難しさを感じ難いことぐらいでしょうか。けれどもそれさえもブラスに思えるぐらいに魅力的です。彼らの全集の中でも、1、2を争う出来栄えだと思います。

D0021969_10143431アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1981年録音/EMI盤) 全集盤です。さんざん書いてはいますが、大ホールの最上階で聴いているような録音がどうも好きになれません。第1楽章はウイーンの団体らしい柔らかい甘さと、先鋭的なダイナミクスの極端な変化とが混在して、何か統一感に欠けるような気がしてしまいます。第2楽章は、しなやかな歌で祈りの気分を一杯に感じさせてくれます。第3楽章はリズムの鋭い刻みが印象的です。第4楽章もダイナミクスの大きさと、厳しいリズムに魅了されます。

G7138122wスメタナ弦楽四重奏団(1981年録音/DENON盤) 全集盤です。前述のズスケSQに近い非常にオーソドックスな演奏です。過剰なダイナミクスの無い、穏やかな表現はいつもながらですが、少しも雑に弾き飛ばすことの無い誠実さには毎回感心します。第2楽章での4人の音の織り重なりには非常に美しさを感じます。第3楽章では音楽の気難しさが良く出ています。第4楽章は音楽の流れが非常に良く楽しめます。目新しさは無いものの良い演奏だと思います。

51f03m0kttlジュリアード弦楽四重奏団(1982年録音/CBS盤) ワシントン国会図書館ホールでのライブ録音による新盤です。ライブということもあるのでしょうが、かつてのメカニカルな印象は全く有りません。第1楽章の音のタメ、大きな間合いの取り方は、まるで歌舞伎の大見得を切るかのごとくです。第2楽章もロバート・マンを中心に実にロマンティックに崩すほどに歌います。第3楽章は彫の深い演奏ですが、中間部では気迫が溢れ出るようです。第4楽章は遅いテンポで、そそり立つ様な大きな音楽が有ります。

Melos_beethoven_lateメロス弦楽四重奏団(1984年録音/グラモフォン盤) リズムの堅牢さと甘く成り過ぎない音造りが、やはり彼らがドイツの団体であることを認識させられます。ウイーン的なベートーヴェンも魅力ですが、ドイツ生れの楽聖の毅然とした姿を想像させるには、こういうドイツ的なスタイルが良いですね。決して古めかしい演奏ではありませんが、さりとて表現に過激さを感じることはありません。ドイツの伝統の上に生まれた素晴らしい演奏だと思います。

338アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1989年録音/EMI盤) 二度目の全集の第1巻に含まれます。アルバン・ベルクSQは往々に最高の技術を持った団体だと評されますが、僕は決してそうは思いません。この演奏でも、第3楽章中間部の難所では随分粗く感じるからです。ウイーンの甘さと柔らかさは魅力ですが、フォルテ部分のアタックの激しさは迫力よりも騒々しさを感じてしまいます。この曲については、録音に難は有っても旧盤のほうを取りたいと思います。

61vvfzeifl__sl500_aa300_ウイーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団(1991年録音/PLATZ盤) 全集盤からです。この曲でも残響の多い録音ですが音に芯は有ります。ちょっとしたフレーズの端々に、いかにもウイーンの団体らしい甘さと柔らかさを感じます。それでいてフォルテ部分では適度な激しさも持ち合わせています。決して懐古主義で終わらない先鋭的な要素も持っているのです。正にミニ・ウイーンフィルといった風情です。もっと注目されて良い演奏ではないでしょうか。

Emersonbeethovenエマーソン弦楽四重奏団(1995年録音/グラモフォン盤) 全集盤からです。冒頭から、豊かな表現力とニュアンスが別次元であることを感じます。第3楽章の難所も唖然とするほど完璧に弾き切っています。これが本当にライブなのでしょうか。強奏部では相当凄みの有る音を出していますが、アルバン・ベルクのライブのような力みや汚い音には成りません。弱音部では一転して羽毛のように柔らかい音を聞かせます。それらが全て、ドイツ的でもウイーン的でも無い「純音楽的」な美を表出しています。これほどまでに素晴らしいセンスを持つ団体がアメリカから生まれたことは少々驚きです。

312ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(2002年録音/NCA盤) 全集盤からです。録音が優れていることもありますが、非常に音が美しいです。ウイーン的な甘さは皆無ですが、底光りするような禁欲的な音です。ドイツの古いオーケストラのようないぶし銀の美しさとも言えます。テンポは特に遅いわけでは有りませんが、厳格に刻まれるリズムにより重量感が感じられるのは、ドイツの団体に共通した特徴です。これもまた優れた演奏の一つです。

さすがに、どの演奏からも後期のベートーヴェンの深い内容が伝わって来ます。けれども、マイ・フェイヴァリット盤を選ぶとすれば、東の横綱がブダペストSQ盤、それに唯一対抗し得る西の横綱がエマーソンSQ盤です。続く大関の座は、ズスケSQとメロスSQというところです。但し大関は今後入れ変わるかもしれません。

ということで、ようやく再開したベートーヴェンの弦楽四重奏特集ですが、後期の曲はやはりキツイ。大したことを書いているわけでは有りませんが、一つ一つの演奏を聴き比べてゆくのは良い意味で結構疲れます。記事の間隔が開いてしまうかもしれませんが、そこはどうかご了承ください。

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ベートーヴェン(弦楽四重奏曲:後期)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんにちは。
ベートーヴェンの四重奏曲特集の再開、とても嬉しいです。
やはり、後期の四重奏曲は聴く側もある意味覚悟が要りますよね。
この頃のベートーヴェンの音楽表現は いよいよ内へ、内へと向かっているので ちょっと聴いただけでは理解できないと思います。
私は最初A・ベルクQの旧盤で聴いたのですが 正直、よく解りませんでした。
それが理解できたのは ベートーヴェンの意志が乗り移ったかのような ブダペストQの全集を聴いてからです。この四重奏団は本当に素晴らしいですね。ただ、現在 愛聴しているのは よりオーソドックスなズスケQ盤です。
12番はある程度 抑えた表現で聴きたいと 私は思ってしまいます。

投稿: ヨシツグカ | 2013年7月27日 (土) 15時05分

ヨシツグカさん、こんにちは。

ベートーヴェンの後期四重奏曲は本当に深淵な世界ですね。その点では明らかに交響曲以上ですね。

確かに12番と言うのは他の曲とちょっと違いますね。演奏の「均衡」がかなり重要なようです。ですので、ズスケやメロスのように他の曲では時に物足りなさを感じる団体が逆に良いです。大胆さを加えて、なおかつ素晴らしい均衡を保っているのが、ブダペストとエマーソンだと思います。この二つは本当に凄いです。

投稿: ハルくん | 2013年7月27日 (土) 18時12分

ハルくんさん、こちらへも続けてコメントさせて頂きます。

さて、貴殿のおっしゃる通り~、ベートーベンの後期弦楽四重奏曲は、全ての交響曲とピアノ・ソナタを書き終えてから作曲され、彼としては最も深く厳粛な内容の音楽になったと思います。或る意味~ブルックナーとは違った意味で、晩年神の領域に近づいた楽曲ではないでしょうか?

しかしながら、私はアルバン・ベルク四重奏団で後期の弦楽四重奏曲を通して聞いてみましたが、正直な話~さっぱり解りませんでした。初期・中期の四重奏曲と比較すると、総じて音楽が深く~難解・晦渋で聞いていて疲れました。

あと、私も貴殿と同様に他の方々は、アルバン・ベルク四重奏団の演奏するベートーベンは最高!と絶賛する人が多いのですが、私は大いに疑問なのです。

ということで~、他の四重奏団の演奏で後期の作品をいろいろと聞いてみましたが、私としては~形式面で革命的な実験を試みた、第14番が最も印象深く感動しました。それから、最後の第16番でしたか~?淡々とした中にも、深い枯淡の境地を感じさせて印象に残りましたね。

それに比べると、第12番はやや地味で印象が薄く~第13番は音楽が更に晦渋で長いので、聞いていてしんどいなぁ~という感じでしたねぇ~。

ただ、ハルくんのコメントによると~、ブダペスト四重奏団の演奏する第12番が、とても素晴らしいようなので~また第12番をじっくり聞いてみたいものですね!

投稿: kazuma | 2013年7月28日 (日) 23時12分

kazumaさん、こちらへもコメントありがとうございます。

アルバン・ベルクは非常に素晴らしい面も有りますが、先鋭性を強調するあまり、曲の良さが100%出ていない演奏も案外と有ると思います。世の評判は必ずしも当てには成りませんね。

12番であれば、ブダペストとエマーソンは是非聴いて頂きたいですね。ズスケも良いと思います。

13番は良い曲ですよ。14番、15番のほうが更に好きではありますけれども。

投稿: ハルくん | 2013年7月28日 (日) 23時40分

ハルくん様

morokomanです。

いよいよ前人未到の領域に踏み込んできましたね。私は後期弦楽四重奏曲が大好きで、一般的に人気の高い中期作品よりも聴く回数が遥かに多いです。

12番もよく聴きました。今は失われてしまいましたが、ズスケを持っていました。返す返すも惜しいです。

ブダペストとラサールは聴いたことがあります。共に強く印象に残りました。

ラサールはなぜか再販されない時期が長かったようです。ハルくん様が「忘れ去られた」と表現されてますが、こうしたことも関係しているのではないかと考えます。

自分が聴きたいのはエマーソンです。この四重奏団のおかげでやっと『シベリウス 親愛の声』の素晴らしさが理解できました。

アメリカの団体なのに、考えてみれば凄いことだと思いました。個人的にはヘルシンキ・アカデミーよりも良いと思いました。

「エマーソン」の名前の由来はアメリカにおける(おそらくは最高の)思想家であるエマーソンから取ったと聞いておりますが、「全人類が共通して価値を認める『本質的な部分』を取り出して、それを誰もが理解できる形に治して現出する」と言う姿勢が共通しているのでしょうか。

エマーソン、聴きたいなぁ。


投稿: morokoman | 2013年7月31日 (水) 21時47分

morokomanさん、こんばんは。

中期も後期もそれぞれ異なる良さが有るので、どちらが好きと言うことでも無いのですが、後期の音楽の深淵さと言うのはやはり圧倒的です。

ブダペストもズスケも素晴らしいですが、エマーソンは是非お聴きになられてみてはいかがでしょうか。驚くべき名演奏だと思います。

投稿: ハルくん | 2013年7月31日 (水) 22時05分

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