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2013年7月19日 (金)

ドヴォルザーク 交響曲第8番&第9番「新世界より」 チャールズ・マッケラス/プラハ響のライブ盤

Mackerras_dvorak_0チャールズ・マッケラス指揮プラハ交響楽団(2005年録音/スプラフォン盤)

サー・チャールズ・マッケラスは、オーストラリア人ながら、自国の他にイギリス、ドイツ、チェコなどの国で活躍しました。レパートリーも幅広く、モーツァルトの交響曲や管弦楽曲の録音でも良く知られていますが、ユニークなのはヤナーチェックの音楽に造詣が深いことでしょう。恐らく20代の頃にプラハでヴァーツラフ・ターリッヒに師事した影響だと思われます。マッケラスがヤナーチェックのオペラを録音する時に、チェコ人の歌手たちにチェコ語で指示を出していたので皆を驚かせたそうです。また、チェコ・フィルの首席客演指揮者になった時期も有りますので、チェコの音楽全般を得意としています。

そんなマッケラスが亡くなる5年前の80歳の年、2005年にライブ録音されたドヴォルザークの交響曲第8番と第9番「新世界より」が有ります。最近、この演奏を聴いてみたのですが、非常に素晴らしかったのでご紹介します。

オーケストラはプラハ交響楽団、演奏会場はプラハのスメタナ・ホールです。チェコの管弦楽団の王座に君臨するチェコ・フィルは音色、技術ともに最高ですが、レコーディングに関してはヴァーツラフ・ノイマン時代に極め尽くされてしまった為に、その後の色々な指揮者の演奏にもそれほどの新鮮味を感じません。むしろ洗練されたチェコ・フィルよりもプラハ響、プラハ放送響、あるいはスロヴァキアのスロヴァキア・フィルやブラティスラヴァ放送響といった技術的には少々劣っていても、よりローカル色の強い味わいを持つ演奏の方に新鮮味を感じています。

さて、この演奏ですが、プラハ響は、とても美しく良い響きを出しています。録音もホール・トーンを生かしたコンサート会場の臨場感を感じさせる優秀なものです。

マッケラスの解釈は極めてオーソドックスで、まるでチェコ人が指揮しているような安心感を感じます。チェコ以外の国の指揮者が演奏すると、大抵の場合「曲を自分の腕でどんな風に料理してやろうか」という欲を感じるものです。そうすると面白くは有っても、チェコの音楽からは遠ざかってしまいます。そういう演奏は個人的には好みません。マッケラスのテンポ、歌いまわしは本当にチェコの伝統に忠実なので、人によってはつまらないと感じるかもしれません。自分のように「国民楽派は自国の演奏家が一番だ」と考える人には、きっと自然に受け入れられるでしょう。もちろんライブですので、高揚感は充分に有ります。しかし過剰と思えるような強奏やハッタリの要素はどこにも有りません。

プラハ響は、随分以前には実演だと技術的に粗さを感じてしまうことが有りましたが、この演奏にはほとんど感じられません。でも繰り返しますが、無機的なメカニカルさを感じることは全く有りませんし(そこまでは上手く無い?)、人間的な肌触りや、ローカルな素朴さを多く感じます。弦楽も美しいですが、木管の音質はチェコ・フィルと全く同質の美しさを持ちます。

第8番、第9番の2曲の出来栄えは、どちらも素晴らしいのですが、8つの楽章どれをとっても魅力的です。第8番であれば、第2楽章の抒情性、第3楽章の哀愁を一杯に湛えたゆったりとした歌いまわし、第4楽章の高揚感、どれもが心から満足できます。全般にアレグロ部で幾らかリズムが前のめりになりますが、これはむしろライブなのでプラスに感じられます。

第9番の演奏も、8番の特徴がそのまま当てはまりますが、出来栄えは第8番を更に上回るかもしれません。第1楽章での余り仰々しくならない音のタメ具合と、瑞々しく流れるようなフレージング、第2楽章での心の奥から淋しさが滲み出てくるような望郷の念、第3楽章の切れのあるリズム、第4楽章での高揚感を強く感じさせながらもドンチャン騒ぎの爆演に陥らない理性や、金管の強奏でも濁らずにふっくらと広がる響きの美しさ、どれも本当に素晴らしいです。

これまで自国演奏家でなければ、決して出来ないと思っていた、ボヘミアの自然の味わいと美しさに満ちた演奏をマッケラスは成し遂げています。この人にとってチェコは第2の故郷だったのかもしれませんね。

自分のフェイヴァリット盤としても、第8番では、アンチェル/チェコ・フィルの1960年ライブ(PRAGA)、ノイマン/チェコ・フィルの1982年盤(スプラフォン)に次いで、セル/クリーヴランド管(EMI)と並ぶベスト3に、第9番「新世界より」では、ノイマン/チェコ・フィルの1971年ライブ(PRAGA)、アンチェル/チェコ・フィル(スプラフォン)、ターリッヒ/チェコ・フィルの1954年盤(スプラフォン)のベスト3に続く、コシュラー/スロヴァキア・フィル(オーパス)、レナルト/ブラティスラヴァ放送響(Amadis)と並ぶ第二グループに加えたいと思います。2曲が1枚のディスクに収録されていて、どちらも非常に高い水準というのがポイントです。

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コメント

ハルくんさん、おはようございます

マッケラスは、録音で聴く限り、神経質な感じの薄い、安心して聴いていられる演奏をする指揮者でしたね。上に書かれた曲の他にベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、それとハイドンの交響曲の録音をし、ブレンデルとモーツァルトのピアノ協奏曲の録音をし、さらにはヘンデルの「メサイア」や「ユダ・マカベウス」、リヒャルト・シュトラウスの「ダナエの愛」の録音等、意外なほど広範囲に渡って演奏したように思います。
さて、マッケラス指揮の演奏録音で、ドヴォルザークの交響曲第7番~第9番のCDセットを持っています。但し、1991年録音、オケはロンドン・フィルです。先ほど、久し振りに9番を聴いてみましたが、ハルくさんが上に書かれた表現が当てはまるような演奏でした。しかし、こちらのは、恐らく地域色は薄いのでしょう。
ヤナーチェックのオペラの録音を残してくれたのが嬉しいのですが、廉価ボックスだったため、歌詞が付いていないので、やはり不便をします。他のCDや中古LPを探して、それについている小冊子で代用しています。HABABI

投稿: HABABI | 2013年7月20日 (土) 11時32分

HABABIさん、こんにちは。

これまでマッケラスの演奏はモーツァルトのセレナーデ集ぐらいしか聴いていませんでした。
でも、今回非常に良い指揮者の一人だなぁと思いました。
ドヴォルザークの交響曲のロンドンPO盤は聴いていませんが、恐らく同じスタイルの良い演奏なのでしょうね。

ヤナーチェクの作品はこれまで別の人の演奏で聴いていましたが、マッケラスは結構な数の録音を残しているので、これから聴いてみたいです。

投稿: ハルくん | 2013年7月20日 (土) 13時37分

ハルくん様

morokomanです。

サー・チャールズ・マッケラス……演奏は一度も聴いたことはありません。地味な方ですが、なにげに評価が高いですね。

この方のすごいところは「民族の壁」を越えた活躍をされているところだと思いますね。私などではシベ2が名盤だと良く聞きます。

また、イギリス音楽のジャンルでは、とりわけディーリアスの録音で名高いです。いわゆる“ディーリアン”(ディーリアス信者)からも高く評価されているようですし。

ご本人の出身地から考慮すると、とんでもなくレベルの高い活動をされている方です。もっと知名度が上がっても良い方のように思われます。

今回ご指摘のでヴォルザークも、シベ2も、ディーリアスも、機会があれば聴いてみたいものです。

投稿: morokoman | 2013年7月20日 (土) 21時34分

morokomanさん、こんにちは。

広い意味では英国系の指揮者ですので、デーリアスやエルガーやシベリウスを得意にしても不思議では無いですね。
シベ2にはロンドンSOとロイヤルPOと2種類有る様で、試聴出来たのはロイヤルPO盤のみです。
フィンランドのオケ以外でシべリウスの演奏を心底良いと感じたことはほとんど無いので、正直「どうだろうか・・・」という印象でした。
ロンドンSO盤を聴いてみたいですね。

投稿: ハルくん | 2013年7月21日 (日) 17時00分

こんど聴いてみます。フィンランドのオケを除けば、シベリウスを比較的良い演奏で聴かせるのはイギリスのオケだと思います。

投稿: かげっち | 2013年9月 4日 (水) 12時48分

かげっちさん

フィンランドのオケ以外でシベリウスを比較的良い演奏で聴かせるのは、やはりイギリス、スウェーデンなどの近い国ですね。やはり空気感を理解しやすいのでしょうか。
ただブロムシュテット/サンフランシスコSOなんてのも良い演奏でした。これは指揮者の力かなぁ。

投稿: ハルくん | 2013年9月 4日 (水) 23時42分

こんばんは。

両曲ともモーツァルトを聴いているような愉しさがありますね。
大仰な表現は皆無ですが、管楽器の歌わせ方とか実に見事です!
「味付けは控えめにして素材の良さを活かした」と言えますか?

ただ残念なのは第8の終演直後に「ブラボー」の間抜けな声が
収録されたこと。感興を殺がれること甚だしい。
ブラボーを絶叫して「CDに収録されたぜ」と
自慢するブロガー(某O氏)もいますが・・・

この名演はひとえにマッケラスの音楽性の勝利でしょうね。
残念ながら第8はもう聴きませんが、「新世界」は繰り返し聴きたいです。

投稿: 影の王子 | 2017年5月 3日 (水) 20時56分

影の王子さん、こんにちは。

間抜けなブラボーはコンサート会場でも閉口しますが、CDに入っていては毎回聞かされますから本当に困りますね。お気持ちは察します。
ただ自分はそれでも8番のCDを時々は聴くこと思います。

投稿: ハルくん | 2017年5月 8日 (月) 11時43分

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