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2013年6月19日 (水)

「ボクの音楽武者修行」 小澤征爾

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作家の村上春樹さんはクラシック、ジャズ、ポップスなど、音楽のジャンルを問わず驚くほどの物知りですが、それも「単に聴いて知っている」というだけではなく、いかにも作家ならではの深い洞察力と感性を感じてしまい感心します。氏の比較的最近の著書「小澤征爾さんと音楽について話をする」という対談形式の本の中では、小澤さんを相手にクラシック音楽の様々な鑑賞知識を出してきて、小澤さんを驚かせています。もっとも、有名指揮者というのは、恐らく同業者の出したレコード(CD)を熱心に聴き漁るようなことはしないでしょうから、小澤さんが驚くのは決して不思議なことでは無いのでしょう。村上さんがひっぱり出したレコードの大半は、古くからのクラシック・マニアにとっては大半がお馴染みのものだと思います。でも、この音楽対談が成り立っているのは、確かに村上さんの知識ですので、そういう点でもとても楽しめました。

この本で面白いと感じたのは、音楽のプロの小澤さんがアマチュアの村上さんに対して音楽の事、指揮の事などを非常に解り易く説明していることです。それによって、小澤さん自身の音楽への考えが方が明確に浮き上がってくることです。小澤さんはつくづくプロフェッショナルな音楽家だなぁと思う反面、いわゆる昔の「巨匠」的なタイプで無いことが改めて感じられます。普段、小澤さんの演奏を聴いていて感じていることが、そのまま言葉になっていました。

ところで、この本を読んだ後で無性に読みたくなった本が有りました。それは僕が高校生の頃に読んだ「ボクの音楽武者修行」という本です。これは、小澤さんが若くしてブザンソン指揮者コンクールで優勝して、名門ニューヨーク・フィルの副指揮者としてバーンスタインとともに日本に凱旋帰国した後の1962年に出版された、小澤さん自らのエッセイです。桐朋音大を出たばかりで全くの無名の若者が、クラシック音楽の本場のヨーロッパで勉強をしようと思い立ちますが、先立つ資金が無い。しかたなくスポンサーを求めて企業を回りますが、援助を申し出てくれた会社は唯一、富士重工業の一社だけ。それもスバルのスクーターを提供するための条件として、下記の3つが上げられました。

1.日本国籍を明示すること
2.音楽家であることを示すこと
3.事故を起こさないこと

この条件をかなえるために、小澤さんは白いヘルメットにギターをかついで、日の丸を付けたスクーターにまたがるという何とも滑稽な出で立ちでヨーロッパを走り回ったのだそうです。

ヨーロッパへの渡航方法も、現在のように飛行機ではなく船です。しかも客船に乗るお金が無いので、なんと大型貨物船にスクーターと共に乗せてもらいます。乗客は小澤さんたった一人だけだったそうです。途中アジアや中東の国々に何度も停泊して荷物を積み下ろししながらの航海なので、ヨーロッパに着くまでには一か月半の長旅でした。

そんな船旅の道中の様子、ヨーロッパについてから後の様々な出来事、コンクールへ出場するときの逸話、優勝後にシャルル・ミンシュやバーンスタインに指揮を習い、ついにニューヨーク・フィルの副指揮者に就任して日本へ凱旋帰国するまでの話が、面白おかしくつづられています。ここには現在の大指揮者小澤さんの姿からは、とてもとても想像がつかないようなエピソードでいっぱいです。この本は、どんな青春冒険小説にも負けない楽しさに溢れています。高校生の時には図書館で借りて読んだので、新しく単行本を買おうかと思ったら、現在は新潮社から文庫本で出ているだけでした。もちろん文庫本でも面白さは変わりませんが。

高校生の頃、当然小澤さんの大ファンに成り、レコードを購入しては愛聴していましたが、そのうちに「巨匠」的では無い氏の演奏が自分の好みとは段々と異なってしまって、聴くことが少なくなってしまいました。今回、本当に久しぶりに「ボクの音楽武者修行」を読み返してみて、小澤さんの演奏を改めて聴いてみたくなりました。

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コメント

私も高校生の時、「ボクの音楽武者修行」を読みました
今も、我が家の本棚の中で並んでます。
表紙のデザインは変わってしまったのですね。
スクーターに乗ってのヨーロッパ上陸。
本当に痛快ですね。
現在、小澤征爾氏の息子と滝川クリステルの結婚が話題になるとは、物凄い時代の流れを感じますな。

投稿: オペラファン | 2013年6月19日 (水) 23時35分

オペラファンさん、こんばんは。

ちょうど我々が青春時代の頃に接した本ですね。本当に痛快な読み物でした。
現在は新しい表紙絵の文庫本だけなのですよ。懐かしいので昔と同じ単行本が欲しいと思ったのでしたが。

息子の小澤征悦は好きな俳優ですが、滝川クリステルも大好きです。あの美しい彼女を女房にするなんてのはちょっと許しがたいですな。

投稿: ハルくん | 2013年6月20日 (木) 01時21分

お邪魔します!!

僕も、昔のハルくんさんの記事に感想を書くのは、ほとんど意味がないと気付いたから、これを最後にもう止めます!!

人はどんどん変わります!! ハルくんさんも変われば僕も変わります!!
小澤征爾も変わりましたし、今も変わっています!!

10代代、20代、30代、40代、50代、60代、70代、80代、90代の時に読む夏目漱石は、それぞれ感想が変わって当然です。小澤征爾は音楽武者修行中、漱石の「こころ」をずっと携えていたそうですが、僕は学生のころ凄く共感した「こころ」をこの前読み返したら、「先生にしたって私にしたって、なんじゃこの自己中連中は!!」としか思えませんでした!!(ある意味自分の痛いところを突かれて嫌悪感が走ったのかも 汗!)

記事を平時に読むか非常時に読むかでも感想が違ってきますし、その時点でこれこそ真実だと感じて書いても、時代が変わったら陳腐になるかもしれないのは当然ですが、それがずっと他人様のブログのコメント欄で生き続けるのはいやです!!

自分のブログならいざ知らず、他人様のコメント欄では、ブルックナーなどの作曲家みたいに、自分で後から改訂や抹消できないですもの!!

それに、ピカソに例えれば、僕は「青の時代」で、ハルくんさんはちょうど「ヴァロリス期」くらいかもしれないから、話がかみ合うはずがないです!!

ハルくんさんと僕は違う軌道を周る惑星みたいなものですので、旬なハルくんさんの記事で、気持ちが最接近したと感じた時だけ、コメントすることにします!!

今後も何かと教えてください!!
失礼します!!

投稿: 海の王子 | 2021年1月24日 (日) 10時55分

追記です!!

結局、過去記事には、諸先輩方のように、CDやLPについての情報交換や、最近聴いた演奏会の感想などだけに極力徹して投稿すべきなのだと、今頃気付きました!!

すみませんでした 汗!!

投稿: 海の王子 | 2021年1月24日 (日) 11時35分

海の王子さん、こんにちは。

音楽の関連話のみに絞る必要は有りませんが、基本はあくまで音楽愛好者の交流サイトとお考えくださればと思います。昔は政治社会問題などを書きましたが、最近はほとんど止めています。

今後ともよろしくお願いします!

投稿: ハルくん | 2021年1月25日 (月) 01時05分

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