« ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第11番 ヘ短調 「セリオーソ」 作品95 名盤 | トップページ | 橋下知事の従軍慰安婦問題発言のこと »

2013年5月22日 (水)

ピアニスト 小池由紀子 ~コンケのこと~ 

小池由紀子さんは、今から8年前の2005年3月に享年49歳で亡くなったピアニストです。「コンケ」というのは彼女が中学生時代に呼ばれたニックネームです。中学1年の時に僕は彼女と同級生でした。彼女はセミロングの髪型で眼鏡をかけた優等生風の女の子で、我が家のすぐ裏にあるお宅の親戚にあたるという話を聞いてはいましたが、女の子にウブだった僕は、彼女と言葉を交わした記憶はほとんど有りません。

それから、40年も過ぎたある日、中学校のクラス会がきっかけとなって、彼女が東京音大を卒業してプロのピアニストになったこと。そして2年前に癌で亡くなったことを知りました。中学1年の時には彼女がピアノを習っていたことなどは全く知りませんでしたし、そもそも僕はクラシック音楽に興味が有りませんでした。接点が生まれるわけも有りません。それから長い時が経つにつれて、彼女は音楽の世界でピアニストとして活躍し、僕はクラシック音楽が飯より好きな大人になっていたのです。彼女のコンサートを聴いてみたかったですし、大好きな音楽の話を一度でも交わしてみたかったと思わずにはいられません。

大人になってから、彼女と交流できる機会は得られませんでしたが、ここに彼女が亡くなる直前に演奏したCDが2枚有ります。彼女の友人から譲って頂いたものです。リリース当時はHMVやタワーレコードで取り扱っていたようですが、現在は販売していないようです。

Koike_yukiko001_2
シューマン「交響的練習曲」(2003年ブルガリア、ソフィア録音)
ショパン「24の前奏曲集」(2000年東京カザルスホール録音)

ピアノ独奏:小池由紀子
制作:コジマ・ファクトリー、製造:ビクターエンターテイメント

これはまた、僕の大好きな曲目が並んだCDです。こんな曲を得意にしていたなんて、本当に彼女と音楽について語ってみたかったとつくづく思います。「交響的練習曲」は、深いロマンの香りが一杯のシューマネスクな演奏に他なりません。とても素晴らしい演奏で、大家の演奏と比べてみても、そうそう聴き劣りしません。「24の前奏曲集」もショパンの孤独感に胸が痛くなるような共感に溢れた演奏です。技巧的にも中々のものですが、小股の切れ上がったピアニスティックなショパンというよりは、むせび泣く様なロマンの香りの濃い演奏です。それでも時に繊細、時に豪快なピアノタッチが素晴らしいです。最後にアンコールピースのように収められているのが、やはりカザルスホールで演奏されたショパンのノクターン第20番嬰ハ短調<遺作>です。映画「戦場のピアニスト」のラストで印象的に流れる曲ですが、故人を偲んで聴くには胸が絞めつけられる想いです。

Koike_yukiko002 
シューマン「ピアノ協奏曲イ短調」
ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番」

ピアノ独奏:小池由紀子
ヨルダン・ダフォフ指揮ソフィア・フィルハーモニック(2004年ブルガリア、ソフィア録音)
制作:コジマ・ファクトリー

ソフィアの大ホールでのライブ演奏です。これは前年に続く二度目のブルガリア・ツアーだったそうです。シューマンを得意にしていたという彼女のロマン的指向が良く分る、情感をとても大切にした演奏です。これまで聴いてきた大家達の演奏と比べてどこがどう違うなどと書く気にはなりません。どうしても中学時代の彼女の面影を浮かべてみたり、生前の大人の姿を想像してしまいます。それにしても、この華々しい海外ツアーの僅か1年後に彼女が神様に召されることを一体誰が知り得たことでしょう。ベートーヴェンは映像用の録音をCD化したようです。

彼女の生演奏に接することは適いませんでしたが、こうしてCDを聴くことが出来るのは、せめてもの喜びです。
コンケさん、君の演奏をこうして聴いているからね。そのうちに天国で会ったら君の愛した音楽について大いに語ろう。そして今度こそ生のピアノを聴かせておくれ。

|

« ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第11番 ヘ短調 「セリオーソ」 作品95 名盤 | トップページ | 橋下知事の従軍慰安婦問題発言のこと »

名ピアニスト」カテゴリの記事

コメント

ハルくん様

morokomanです。

今回ご紹介の曲目は、自分は知らないものばかりです。以前も書きましたが、基本的に自分は北欧音楽の人間なので……。

ですが、このような記事にぴったりの曲を今、聴いております。

ブラームスのヴィオラ・ソナタ第1番の第2楽章や第2番の第3楽章をBGMにこの記事を読んでいるのです。

演奏はもちろんプリムローズ盤です。

人と人との出会いや、時の移り変わり……。ある程度の年齢を重ねることで積み重なる様々な思い出。そして、取り返しのつかない出来事への胸の痛み。哀しみとあきらめ。

ブラームスの曲は、人生そのものです。

コンケさんがもしブラームスのピアノ小品集を演奏したら、どんな曲想になったのでしょう。

すべては想像の中ですが、余りにも惜しいことですね。

コンケさんのご冥福をお祈り申し上げます。

投稿: morokoman | 2013年5月22日 (水) 23時07分

morokomanさん、こんばんは。

コメントとコンケさんへの追悼のお言葉を誠にありがとうございました。

ブラームスの曲は本当に人間臭くて、仰られる通り「人生そのもの」ですね。
コンケさんには50代になってブラームスの演奏を是非とも聴かせて欲しかったです。

投稿: ハルくん | 2013年5月23日 (木) 00時56分

ああ、そんな過去がおありでしたか。いろいろな意味で惜しいことをしましたね。
シューマンはグリークにつながる叙情性が魅力です。私はショパン嫌いなのですが、演奏によっては同様の叙情性がよいなと思うことがあります。小池さんの24の前奏曲、きっとそんな演奏の一つなのでしょう。選曲に奏者の感性があらわれますものね。

投稿: かげっち | 2013年5月26日 (日) 18時45分

かげっちさん、コメントをありがとうございました。

シューマンとグリーグの抒情性は似ていますね。そので点はショパンも共通していると思います。但し抒情性だけで勝負できるショパン演奏というのは極極稀だと思いますね。ピアニスティックな要素とのバランスが問題なのでしょう。僕もどちらか言えば抒情性に傾いた演奏が好きです。ピアニスティックな方向に強く傾いている演奏は苦手かもしれません。

投稿: ハルくん | 2013年5月26日 (日) 22時24分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1080200/51588938

この記事へのトラックバック一覧です: ピアニスト 小池由紀子 ~コンケのこと~ :

« ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第11番 ヘ短調 「セリオーソ」 作品95 名盤 | トップページ | 橋下知事の従軍慰安婦問題発言のこと »