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2013年4月20日 (土)

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 「ラズモフスキー第2番」 作品59-2 名盤

ラズモフスキー四重奏の3曲の中でも、第1番と第3番は外へと向かう広がりを感じるのに対して、第2番は反対に内へ内へと向かうような求心力の強さを感じます。それは、この曲だけが短調で書かれているせいもあるでしょう。第1番と第3番の人気の高さに比べると地味で陰に隠れ気味ですが、充実度としては少しも劣りません。一聴して理解がし易い第3番も傑作ですが、内省的で切迫感のある第2番のほうが、むしろ何度聴いても飽きが来ないかもしれません。

第1楽章 冒頭の激しい和音が、あの「コリオラン」序曲の出だしを連想させます。それに続く緊迫感の有る音楽の始まりを予感させています。

第2楽章 極めて内省的な音楽で、ベートーヴェンの深い祈りに他なりません。心が洗われる気持ちになります。

第3楽章 揺れるような情緒溢れる歌が魅力的です。不安定な心の内の表出に他なりません。

第4楽章 切迫感溢れる嵐のように激しいリズムは、第7交響曲の終楽章を想わせます。途中に現れる情緒的な旋律も非常に印象的です。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

10845ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団(1951年録音/ユニヴァーサル・ミュージック盤) ウエストミンスター録音です。録音は明瞭ですが、やや固さを感じます。けれども聴き進むうちに演奏の素晴らしさに惹きこまれてしまします。ゆったりとしたテンポで情緒綿々と歌う演奏は、現代ではとても聴けないようなオールド・スタイルですが、なんと人間の心の襞や翳を深く表していることでしょう。終楽章でも意外に緊迫感を感じさせて見事です。この曲でもアントン・カンパーのヴァイオリンは甘く懐かしい音で聴き手を魅了しますが、こんな奏者はもう現れないでしょう。

1196111187バリリ弦楽四重奏団(1956年録音/MCAビクター盤) ウエストミンスター録音です。バリリSQも懐かしいウイーンの音を持ちますが、同時期に録音されたコンツェルトハウスSQと比べるとイン・テンポでかっちりと演奏していて、良くも悪くもスマートさを感じます。これはメンバー全員の世代が若いからでしょう。それでも、このウイーン的な情緒は非常に魅力的なので、彼らが全曲を録音してくれたのは貴重です。第2楽章の祈りの歌は非常に感動的です。終楽章の立体的な構築性も立派です。

90650dc0bfe3c81c14f641d351d90ca5ブダペスト弦楽四重奏団(1958年録音/CBS盤) 全集盤からです。半世紀以上も前に、これほどの演奏をしていたというのは驚異です。曖昧なところが少しも無い完璧な演奏は現代の演奏の先駆けであり、よくジュリアードSQが革新的と言われましたが、ブダペストが居てはじめてジュリアードが登場したのです。当時はブダペストよりもバリリSQの方が人気が有りましたが、時代の耳が追いつけなかったのでしょう。残響の無い録音が楽器の生々しい音を際立たせますが、表面的な綺麗さを求めては彼らの音の真の美しさは感じ取れないかもしれません。この曲の緊迫した曲想が第1番よりも更に彼らに適していると思います。

151ジュリアード弦楽四重奏団(1964年録音/CBS盤) 旧盤の全集からです。昔、LP盤で聴いた時には、テンポも速過ぎ、メカニカルで無機的に感じられて余り好みませんでした。けれども現在改めて聴き直すと、4人が織成す音の凄まじい切れ味と迫力に、しばし呆然とするばかりです。技術的に正に全盛期のジュリアードの実力は圧倒的です。バリリQやブダペストQの録音から10年も経ていない時代に、このような先鋭的な演奏をしていたとは、今更ながら本当に驚きです。

61zqixj1x9lズスケ弦楽四重奏団(1967-68年録音/Berlin Classics盤) 武骨なドイツの音を予想すると、非常にしなやかで美しい音なのに驚くことでしょう。ウイーン風の柔らかさとドイツ風の堅牢さを両立したような印象です。強烈な個性を持たない代わりに、音楽そのものをゆっくりと味わうには最適だと思います。反面、この破格の四重奏曲にしては幾らかの物足りなさを感じられる人も多いかもしれません。自分の場合も、どちらかと言えば後者側の聴き手なのですが、こういう演奏もやはり手放したくありません。

V4871ヴェーグ弦楽四重奏団(1972年録音/仏Naive盤) 全集盤からです。この曲のように張り詰めた緊張感を持つ曲はブダペストSQのほうが適しているとは思います。それでも終楽章の切迫感は充分ですが。少しもメカニカルな雰囲気が無く、あくまでも人間的な肌触りと精神を感じさせるタイプは今となっては貴重です。同じタイプのブッシュSQやウイーン・コンツェルトハウスSQは全曲の録音が残されていないので、ヴェーグSQが全集を完成させてくれたのはつくづく有り難いです。オールド・ファンは是非とも聴かれるべきです。もちろん最近のファンにもですが。

1939ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(1977年録音/ビクター盤) これこそは真正ドイツの演奏です。微動だにしない堅牢なテンポを守って太い音を響かせます。伴奏形の音の刻みの男性的なことも比類有りません。昔よく、母体のゲヴァントハウス管が「野武士」に例えられたような印象そのままです。ウイーンの流麗な演奏とは異なる、質実剛健なドイツ風のベートーヴェンはずしりとした手ごたえが有り、その魅力は絶大です。ボッセ教授がカルテット引退前に貴重な録音を残してくれたことに感謝です。

G7138122wスメタナ弦楽四重奏団(1979年録音/DENON盤) 全集盤からです。曲の持つ緊迫感を充分に表に出した演奏です。音そのものは流麗でとても美しいのですが、この曲では、しばしば音を割って激しく演奏しています。彼らは、ともすると穏健なイメージに思われますが、それが決して正しく無いことを再認識させられます。2楽章でも単に美しいだけで無く、驚くほど壮絶です。3、4楽章では速めのテンポによる熱演ぶりに思わず熱くなります。

D0021969_10143431アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1979年録音/EMI盤) 旧全集盤からです。1楽章は過激とも言えるようなダイナミクスが印象的です。それは「怒り」にさえ聞こえて、ちょっと平常心ではいられなくなります。2楽章は「祈り」が感じられる良い演奏です。3、4楽章は速いテンポで緊迫感が有りますが、少々せわしなく感じられるのが自分の好みからは離れます。全体にイコライジングがかかったような録音も、生の楽器の音とは異なって聞えて抵抗が有ります。

51f03m0kttlジュリアード弦楽四重奏団(1982年録音/CBS盤) ワシントン国会図書館ホールでのライブによる新盤です。速いテンポで凄まじい切れ味と迫力を感じさせる旧盤に対して新盤では、驚くほど情感重視のロマンティックな演奏スタイルに変化しています。もちろん激しさも持ちますが、そこに不自然なダイナミクスは感じさせず、あくまでも自然な高揚感を呼び起こします。それが、この曲にピッタリであり、ウイーン的でもドイツ的でも無いにもかかわらず、心の底からベートーヴェンを聴いたという充実感に浸らせてくれます。

Imagesca41p4peメロス弦楽四重奏団(1984年録音/グラモフォン盤) 第1楽章ではインテンポによりズシリとした手応えを感じさせて、これぞドイツという満足感に浸れます。2楽章も深い情感を持ちます。ところが3楽章では幾らか情感不足を感じさせてマイナス。4楽章では速めで前のめりのリズムがどうもせわしなく、1楽章との統一性を失わせています。どうも全体のまとまりに欠けているように思えるのが残念です。

61vvfzeifl__sl500_aa300_ウイーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団(1990年録音/PLATZ盤) 全集盤からです。シンフォニックなこの曲を、その印象の通り演奏しています。まるでウイーン・フィルの演奏のようです。録音は良いのですが、残響の多さが初めは気に成りますが、じきに演奏の良さに忘れてしまいます。ウイーンの音の柔らかさと、現代的な鋭さが見事に同居していますし、テンポ、表現の全体の統一性が見事です。さすがはウイーン・フィルのメンバーです。意外に気迫のこもった音に驚かされたりもします。

Emersonbeethovenエマーソン弦楽四重奏団(1994-95年録音/グラモフォン盤) 全集盤からです。全くこれがライブ収録とはとても信じられません。全員のテクニックとアンサンブルは完璧ですが、更にダイナミクスの巾が大きくて彫が深いので、極めて立体的な構築性を感じます。音のアタックの激しさにも圧倒されます。シンフォニックな点においては間違いなく最右翼です。ドイツ的でもウイーン的でもありませんが、非常に豊かな純音楽性を感じずにはいられません。味わいも深いです。ちなみにこの曲では第1Vnをフィリップ・セッツァーが弾いています。

312ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(2003年録音/NCA盤) 全集盤からです。ボッセ時代の野武士的な剛直さと重量感は失われましたが、それでもドイツ的な味わいを残しているのが嬉しいです。じっくりとイン・テンポを守っていて、決して前のめりになったりしません。彼らのこの曲の演奏は3年前に紀尾井ホールで聴きましたが、その時には、相当速いテンポで先鋭的な印象を受けました。それがライブだからかは分りませんが、やはり時間の経過と共に演奏スタイルが変化しているのかもしれません。美しく厚い響きもとても魅力的です。

以上ですが、大変な激戦区なので特に好む愛聴盤もウイーン・コンツェルトハウス、バリリ、ブダペスト、スメタナ、ジュリアードの新旧両盤、ウイーン・ムジークフェライン、エマーソン、ゲヴァントハウスの新旧両盤と、なかなか多くて絞り込めません。

<追記> ジュリアード四重奏団の旧盤を後から加筆しました。

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コメント

ハルくんさん、こんにちは。
ラズモフスキー第2番は、確かに 内へ、内へと向かってゆく様な音楽ですが、それが ファンにとっては たまらないんですねぇ。(笑) やはり ベートーヴェンは凄い!      私は こういう曲は ブダペストQの演奏が非常に好きなので、ほとんど このCDを聴いています。なんと言う激しく、深い演奏なのでしょうか・・・。素晴らしいです。
先日、ブッシュQの 第7番と 第9番を購入することができました。どちらも 物凄い演奏ですね。驚きました。CDの購入方法を教えて頂き、ありがとうございました。

投稿: ヨシツグカ | 2013年4月20日 (土) 14時29分

ヨシツグカさん、こんにちは。

ラズモフスキー2番は本当に良いですよね。
確かにブダペストSQの演奏を聴くと、これだけでも充分と思えますが、最近は他の演奏も結構、其々良さが有るなぁと思っています。最後に行き着くのはやはりブダペストですけど。

ブッシュSQ入手されたのですね。良かったです。9番は正直それほど好みませんが、7番は特別です。ブッシュのヴァイオリンの音って、どうしてあれほど悲壮感が込められるのでしょうね。他の人とまるで違って聞こえます。フルトヴェングラーの引き出す音と同じですね。

投稿: ハルくん | 2013年4月20日 (土) 18時48分

再びこんにちは。
ブタペストの全集を随分前に入手済で、貴Blogで紹介されるまで寝かせておきました。
>第2番は反対に内へ内へと向かうような求心力の強さ~
そうなのです!Bill Evansが弾く♪Nardisのよう。1~3番を続けて聴いてみて、心もっていかれたのは2番です。

投稿: source man | 2013年5月 6日 (月) 10時56分

source manさん、こちらへもコメントありがとうございます。

ブダペストSQのラズモの演奏では、僕も1番よりも2番と3番が好きです。2番という曲も聴けば聴くほどに味わいが深まりますね。ホントに心もっていかれる感じですよ。

投稿: ハルくん | 2013年5月 6日 (月) 11時28分

ハルくん様
バリリSQのこの録音未だ聴いておらず、是非そのうち…と思っておりますが、日本盤のウェストミンスター、御承知の通り結構な御値段するんですよね(笑)。
DG、SONY等外盤のバジェット・ボックスの価格と比べて、二の足を踏んでおります次第です。

投稿: リゴレットさん | 2018年4月24日 (火) 16時40分

リゴレットさん

ウェストミンスターは確かにバジェットにならないですね。他の余りの安さに二の足を踏まれるのは良く解ります。
ただバリリの演奏はその代わりに聴けるような演奏って無いですから悩むところでしょう。

投稿: ハルくん | 2018年4月26日 (木) 12時31分

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