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2013年4月

2013年4月29日 (月)

シネマ歌舞伎「野田版・研辰の討たれ」

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今日は本当に春らしく暖かい中、東銀座の東劇まで出かけて、シネマ歌舞伎の「野田版・研辰(とぎたつ)の討たれ」を観てきました。5年前にもこの歌舞伎映画を一度観ていますが、今年は新歌舞伎座の落成記念と勘三郎さん追悼ということで、全国でシネマ歌舞伎が公開されていますのでもう一度観たくなりました。

勘三郎さんが亡くなったので、テレビでも多く取り上げられましたが、演劇の野田秀樹さんが勘三郎さんに促されて、初めて歌舞伎座で公演したのが、この「野田版・研辰(とぎたつ)の討たれ」です。公演初日の前には二人とも本当に成功するかどうか不安も有ったようですが、幕が下りた後に歌舞伎座史上初のスタンディングオベーションが起こる大成功だったので、二人して喜び合ったそうです。残念ながら、自分は舞台公演に接することは有りませんでしたが、後から映画で鑑賞できたのは幸せです。

それにしても、これは野田秀樹と中村勘三郎(公演当時は中村勘九郎)という二人の才能の凄さを嫌と言うほど思い知らされる舞台でした。スクリーンで観ても抱腹絶倒でどんなコメディ映画よりも面白いです。細かい顔の表情などは舞台よりも詳しく観ることができるという長所も有ります。

最後に、敵討ちに合った研辰役の勘三郎さんが「死にたくはねえ」とセリフを言いながら死んでゆくシーンには、この何年か後に本当に亡くなってしまう勘三郎さんの姿と重なり合ってしまい、無性に涙を誘われました。前回観たときには、勘三郎さんはまだ生きていましたので、こんな風に感じることは当然有りませんでした。時の無常をつくづく思ってしまいました。

このシネマ歌舞伎、他の「野田版・鼠小僧」「平成中村座・法界坊」などと合わせて、是非とも劇場でご覧になられることをお勧めします。劇場へ足を運べない方にはDVDも出ています。

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2013年4月28日 (日)

アンジュラン・プレルジョカージュ振付によるバレエ「春の祭典」

自分はクラシック・バレエは結構好きなのですが、残念ながらコンテンポラリー・ダンスには詳しくありません。ですので恥ずかしながら、アンジュラン・プレルジョカージュさんという、フランスのコンテンポラリー・ダンス振付家が居るのも最近知りました。この人は自ら創設したバレエ・カンパニー「バレエ・プレルジョカージュ」として活動をしていますが、パリ・オペラ座バレエ団にも作品を提供していて、クラシック・バレエの伝統を踏まえつつも様々な分野のコンテンポラリー・アーティストと共同制作を行って、独自の様式を追求した作品を生み出しています。

YouTubeに2001年にパリ・オペラ座で公演された「春の祭典」の映像が有りましたが、この公演はヨーロッパで活躍する日本人のダンサー白井渚さんがいけにえの乙女を踊って絶賛されたそうです。演出が過激なので驚かされますが、クライマックス・シーンの舞踏が余りに鬼気迫る内容で圧倒されてしまいました。いけにえにされる恐怖の表情や演技が見事なのですが、これは正に全身全霊を舞踏の神様に捧げ尽くしたダンス・パフォーマンスだと思います。
彼女は舞台で裸になってしまうので、裸を喜ぶエロじじいと誤解されかねませんが(いや、実際はそれも好きですけど)(苦笑)、この舞踏をもしもご覧になっていなければ、絶対に一見の価値が有ります。
但し、閲覧には年齢確認が求められるかもしれませんので、その場合にはユーザー登録を済ませてからご覧ください。
あー未成年の人は・・・成人してから見て下さいね。

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<関連記事>
バレエ「春の祭典」 マリインスキー劇場 ニジンスキー初演版DVD
バレエ「春の祭典」 ライプチヒ・バレエ団DVD他
ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」 CD名盤 

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2013年4月26日 (金)

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第9番 ハ長調 「ラズモフスキー第3番」 作品59-3 名盤

ラズモフスキー四重奏の最後を飾る「第3番」は非常に斬新な作品です。この曲は20世紀のカルテットの姿を予見していたかのように思えてしまいます。それまで伝統的に、第1ヴァイオリンが専制君主的に演奏全体をリードして、自分の歌いたいように旋律を歌い、他のメンバーはそれを伴奏して支えるという弦楽四重奏の構成を、この曲では4つのパートの役割が完全に均等に割り当てられています。顕著なのは第1楽章と第4楽章ですが、特にフーガの手法を用いた第4楽章は、4つのパートの比重が全くの平等ですし、最初の主題を一番地味な音色のヴィオラから始めて、以後チェロ→第2ヴァイオリン→第1ヴァイオリンと受け継いでゆくので、段々と音色の明確度が高まり、楽器の特性が生かされるという作曲の閃きが実に素晴らしいです。

以上のことを考えてみると、昔の専制君主型のカルテットのスタイルではこの曲の真価を表すことは難しかったでしょう。20世紀も半ばになって、ブダペスト弦楽四重奏団によって、初めてこの曲の真価が表されたと言っても過言では無さそうです。「ハ長調」という調性もあって、作曲された当時、3曲の中で最も聴衆に理解されたとの話ですが、本当にこの曲の真価が演奏によって表されるには、更に時の流れが必要だったと思います。

もっとも「第3番」は非常にストレートな曲なので、最初に聴いた時のインパクトは大きいのですが、何度も繰り返して聴くと、第1番、第2番に比べて、幾らか飽きが来やすいようにも思います。大傑作であることに変わりは無いのですけれど。

この曲の演奏の良し悪しの判断には第1楽章と第4楽章の出来栄えが大きく影響しますし、メンバーの力量の均一性が非常に重要です。演奏する側にとっては非常な難曲です。ところが、こともあろうに僕はこの曲の第4楽章を演奏会で演奏した経験が有ります。それは大学の卒業記念の演奏会で、オーケストラ部の卒業生の数名同士でメンバーを組んで短い室内楽曲を演奏したのです。小ホールでのミニ・コンサートでしたが、僕は仲間とカルテットを組んで、選んだ曲が何とこの曲の第4楽章でした。
それにしても、この曲を人前で弾くと言うのは何とも無謀極まり無く、ヴィオラのソロで曲を開始しましたが、緊張で指が空回りしてしまい悲惨な状況と成りました。恐らく聴いていた人には冗談音楽に聞こえたことでしょう。(苦笑)

この曲を聴くと、今でもそんな青春時代の悪夢??が蘇りますが、世界の一流プロは流石に上手いです。そんなこの曲の愛聴盤をご紹介します。

51u9dbjsblブッシュ弦楽四重奏団(1933年録音/EMI盤) アドルフ・ブッシュは20世紀の偉大なヴァイオリニストですが、この曲の場合には他の3人に同等の力量が要求されるように書かれているので、やや聴き劣りします。ヴィオラ、チェロの音程の甘さは気になるところです。第4楽章で拍の長さが均一で無いのも(もちろん意図的な表現なのでしょうが)抵抗を感じます。第2楽章の悲壮感溢れる歌は流石なものの、全体的には古めかしさを感じてしまいます。録音はもちろん古いです。

10845ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団(1952年録音/ユニヴァーサル・ミュージック盤) ウエストミンスター録音です。1楽章で主部に入っても慌てず騒がず、じっくりと進む様は、さながらクレンペラーかクナッパーツブッシュを思わせます。第3楽章での大時代がかった遅さにも驚きますが、第4楽章こそ彼らの真骨頂です。非常に遅いテンポで歌うように進むので旋律線が明確に聴き取れます。速いだけが能では有りませんよ、とでも言っているようです。この曲に関しては、同じ古めかしいスタイルでも、僕はブッシュSQよりもこちらの方が好きです。録音は古いながら明瞭です。

1196111187_2バリリ弦楽四重奏団(1955年録音/MCAビクター盤) ウエストミンスター録音です。コンツェルトハウスSQに比べると、メンバー全員が若く技量が上がっているので、この曲本来の音の構築性が充分に表現出来るように成りました。第2楽章での音の重なり合いの美しさと深い祈りの雰囲気も非常に素晴らしいです。第3楽章ではウイーン的な甘さと柔らかさに魅了されます。そうした美感を持ちながら、情緒至上主義には終わらないので、第4楽章では現代的な機能性も持ち合わせているところを感じさせます。録音はモノラルですが極上です。

90650dc0bfe3c81c14f641d351d90ca5ブダペスト弦楽四重奏団(1958年録音/CBS盤) 全集盤です。古くからの第1ヴァイオリン専制君主型から脱して、4人の民主政治型の演奏スタイルを確立したのはブダペストSQですが、それに最も適したのがこの曲です。4人のメンバーの力量が完全に均等で、アンサンブルが完璧であった為に、当時は「即物的だ」などと言われたそうですが、それぐらい上手かったわけです。現在聴くと、無機的な印象は全く無く、人間的な味わいも強く感じます。圧巻は第4楽章で、現代の速さを競うスポーツ競技のような演奏とは全く異なり、速過ぎも遅過ぎもしない理想のテンポで重戦車が爆走するような迫力と聴き応えを感じます。

151ジュリアード弦楽四重奏団(1964年録音/CBS盤) 旧盤の全集からです。昔、LP盤で聴いた時には、テンポも速過ぎ、メカニカルで無機的に感じられて余り好みませんでした。けれども現在改めて聴き直すと、メンバー4人の高度な技術が一体と成った合奏の切れ味と迫力には圧倒されるばかりです。終楽章の速さも新盤以上で、手持ちの演奏でこれより早いのはエマーソンSQのみです。バリリQやブダペストQの録音から10年も経ていない時代に、このような演奏をしていたとは、今更ながら本当に驚きです。

61zqixj1x9lズスケ弦楽四重奏団(1967-68年録音/Berlin Classics盤) ベルリン歌劇場管弦楽団のメンバーで編成されたこのカルテットの技量は専門の団体に劣らない技量を持ちました。ですので、この曲でも充分に弾きこなしています。強いて言うと、チェロの速い音が時々曖昧に聞こえる箇所が有りますが許せる範囲です。全体に東ドイツ的な堅牢さよりも、むしろ音のしなやかさを強く感じさせますが、オーソドックスな名演奏として何の抵抗も無く安心して曲そのものを味わえます。

V4871ヴェーグ弦楽四重奏団(1973年録音/仏Naive盤) 全集盤です。第1Vnのシャーンドル・ヴェーグは、情緒的な表現力ではブッシュ、カンパ―並みの素晴らしさですが、アンサンブルに現代的な意味での洗練度は求められません。そこがブダペストSQに及ばない点です。従って、この曲には不向きなように思えますが、聴いてみると案外その弱みが気に成りません。機械的な冷たさではなく人間的な温か味が感じられて、これはこれで悪くありません。

1939ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(1977年録音/ビクター盤) 「第2番」の感想と同じようになってしまいますが、コンビチュニー時代のゲヴァントハウス管の「野武士」に例えられる武骨な響きの名残を感じさせる演奏です。頑固なまでに融通の利かないイン・テンポを守っていて、ずしりとした手ごたえが有ります。柔らかいウイーン・スタイルでも現代的にスマートなスタイルでも無い、これこそは古きドイツ風と呼べるでしょう。このような貴重な演奏の録音が我が国で行われたことに感謝したいと思います。

D0021969_10143431アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1978年録音/EMI盤) 全集盤です。EMI特有の残響の多い録音は生の会場に近いのかもしれませんが、細部が聴き取りにくいのが欠点です。彼らは第1楽章を速いテンポで疾走しますが、16分音符が団子に聞こえてしまい残念です。第2楽章はギュンター・ピヒラーを中心にしなやかに歌わせています。第3楽章はさすがにウイーンの団体らしく甘く美しくとても魅力的です。第4楽章でも録音のマイナスは有りますが、集中力の高いアンサンブルを繰り広げています。

G7138122wスメタナ弦楽四重奏団(1979年録音/DENON盤) 全集盤です。スメタナSQのチェコものは掛け値なしに好きですが、ベートーヴェンは当時の評価の高さほどには凄いと思っていません。彼らの生演奏に接した時にもそう感じました。この曲でもオーソドックスな表現で聴き易い反面、ベートーヴェンらしいアクの強さが薄いような気がします。メンバーではチェロのコホウトが幾らか弱く感じられるのもマイナスです。

51f03m0kttlジュリアード弦楽四重奏団(1982年録音/CBS盤) ワシントン国会図書館ホールでのライブによる新盤です。ブダペストSQと同様、目の前で演奏しているような生々しいCBS録音は好きです。機能的に追い込んだアンサンブルも凄いですが、ライブのせいで無機的な冷たさは感じさせず、メンバー全員の実在感の有る音と演奏の凄みだけが伝わって来ます。第4楽章は相当な速さですが、僅かに音符が前のめり気味です。大して気になるほどでは無いのですが。

Imagesca41p4peメロス弦楽四重奏団(1984年録音/グラモフォン盤) 当時の新世代のドイツのカルテットとして非常に優秀なアンサンブルを誇りましたが、この曲を聴く限り、第3楽章はとても美しいものの、第1楽章や第4楽章では速いテンポに幾らか音符が鳴り切っていないように感じてしまいます。カラヤンやクライバーを意識した訳でも無いでしょうが、無理に飛ばしている印象です。時代の流れでは仕方有りませんが、重厚なドイツの演奏スタイルは既に消え去る運命だったのでしょうか。

36305935ボロディン弦楽四重奏団(1987年録音/Virgin盤) ラズモの1番では残響過多の録音に閉口しましたが、2年前に録音された3番の方が良好です。演奏も非常にオーソドックスで好感を持てます。古くも無く先鋭的でも無く、僕のような年代には安心して聴いていられます。アンサンブルは優れていますがメカニカルには感じません。ロシア演奏家のドイツものは余り趣味では無いのですが、彼らは例外です。時にウイーン的な甘さを感じさせるセンスの良さが魅力的です。4楽章ではゆとりと貫禄を感じさせます。

61vvfzeifl__sl500_aa300_ウイーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団(1990年録音/PLATZ盤) 全集盤からです。第1楽章から速いテンポでかっ飛ばすので、チェロが付いて行けずに苦労しています。全体もバタついた印象です。第2、第3楽章も速めですが、さすがに美しく良く歌っています。第4楽章は驚くほど速いですが、音符を弾き飛ばしている印象が有り、意外に感銘を受けません。別にジュリアードやABQに対抗する必要は無いと思うのですがねぇ。

Emersonbeethovenエマーソン弦楽四重奏団(1994年録音/グラモフォン盤) 全集盤からです。4人の奏者の存在感が全くの五分という点においてはブダペストSQ以来だと思います。第1楽章を相当速いテンポで弾いているにもかかわらず、一つ一つの音符の迫力と凄みは驚くほどです。第2、第3楽章では旋律を甘く柔らかく歌いますが、対旋律や伴奏音型にことごとく意味が込められているのにも目からうろこです。そして白眉は第4楽章で、圧倒的な猛スピードでありながら、弾き飛ばすどころか細部に聴かせどころ満載です。手に汗握る展開に言葉も失い、ただただ息を止めて聴き入る他有りません。

312ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(2003年録音/NCA盤) 全集盤からです。録音の良さも加わって、冒頭の和音の美しさに耳を奪われます。ビブラート少なめでピッチが正確だからでしょう。主部に入っても一音一画を曖昧にすることなくキッチリと音にしています。ダイナミクスやアクセントが明確なのはいかにもドイツ的です。第2、第3楽章も美しい響きをベースによく歌い聞かせます。第4楽章は無理の無い速さで、弾き飛ばすこと無く丁寧に音にしています。とても味わいの深さを感じます。

以上ですが、この曲の場合は、やはり第4楽章で受ける感銘の度合いで勝負が決まるように思います。そうなると圧倒的な聴き応えという点でブダペストSQが最高ですが、もう一つそれに匹敵するのがエマーソンSQです。さしずめブダペストが東の横綱大鵬ならば、エマーソンが西の横綱柏戸という両横綱です。そして大関の座には、ジュリアードSQの新旧両盤に後ろ髪を強く引かれ(抜けそうになり)ながらも、新旧のゲヴァントハウスSQの両盤を据えたいと思います。

<追記> ジュリアード四重奏団の旧盤を後から加筆しました。

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2013年4月20日 (土)

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 「ラズモフスキー第2番」 作品59-2 名盤

ラズモフスキー四重奏の3曲の中でも、第1番と第3番は外へと向かう広がりを感じるのに対して、第2番は反対に内へ内へと向かうような求心力の強さを感じます。それは、この曲だけが短調で書かれているせいもあるでしょう。第1番と第3番の人気の高さに比べると地味で陰に隠れ気味ですが、充実度としては少しも劣りません。一聴して理解がし易い第3番も傑作ですが、内省的で切迫感のある第2番のほうが、むしろ何度聴いても飽きが来ないかもしれません。

第1楽章 冒頭の激しい和音が、あの「コリオラン」序曲の出だしを連想させます。それに続く緊迫感の有る音楽の始まりを予感させています。

第2楽章 極めて内省的な音楽で、ベートーヴェンの深い祈りに他なりません。心が洗われる気持ちになります。

第3楽章 揺れるような情緒溢れる歌が魅力的です。不安定な心の内の表出に他なりません。

第4楽章 切迫感溢れる嵐のように激しいリズムは、第7交響曲の終楽章を想わせます。途中に現れる情緒的な旋律も非常に印象的です。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

10845ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団(1951年録音/ユニヴァーサル・ミュージック盤) ウエストミンスター録音です。録音は明瞭ですが、やや固さを感じます。けれども聴き進むうちに演奏の素晴らしさに惹きこまれてしまします。ゆったりとしたテンポで情緒綿々と歌う演奏は、現代ではとても聴けないようなオールド・スタイルですが、なんと人間の心の襞や翳を深く表していることでしょう。終楽章でも意外に緊迫感を感じさせて見事です。この曲でもアントン・カンパーのヴァイオリンは甘く懐かしい音で聴き手を魅了しますが、こんな奏者はもう現れないでしょう。

1196111187バリリ弦楽四重奏団(1956年録音/MCAビクター盤) ウエストミンスター録音です。バリリSQも懐かしいウイーンの音を持ちますが、同時期に録音されたコンツェルトハウスSQと比べるとイン・テンポでかっちりと演奏していて、良くも悪くもスマートさを感じます。これはメンバー全員の世代が若いからでしょう。それでも、このウイーン的な情緒は非常に魅力的なので、彼らが全曲を録音してくれたのは貴重です。第2楽章の祈りの歌は非常に感動的です。終楽章の立体的な構築性も立派です。

90650dc0bfe3c81c14f641d351d90ca5ブダペスト弦楽四重奏団(1958年録音/CBS盤) 全集盤からです。半世紀以上も前に、これほどの演奏をしていたというのは驚異です。曖昧なところが少しも無い完璧な演奏は現代の演奏の先駆けであり、よくジュリアードSQが革新的と言われましたが、ブダペストが居てはじめてジュリアードが登場したのです。当時はブダペストよりもバリリSQの方が人気が有りましたが、時代の耳が追いつけなかったのでしょう。残響の無い録音が楽器の生々しい音を際立たせますが、表面的な綺麗さを求めては彼らの音の真の美しさは感じ取れないかもしれません。この曲の緊迫した曲想が第1番よりも更に彼らに適していると思います。

151ジュリアード弦楽四重奏団(1964年録音/CBS盤) 旧盤の全集からです。昔、LP盤で聴いた時には、テンポも速過ぎ、メカニカルで無機的に感じられて余り好みませんでした。けれども現在改めて聴き直すと、4人が織成す音の凄まじい切れ味と迫力に、しばし呆然とするばかりです。技術的に正に全盛期のジュリアードの実力は圧倒的です。バリリQやブダペストQの録音から10年も経ていない時代に、このような先鋭的な演奏をしていたとは、今更ながら本当に驚きです。

61zqixj1x9lズスケ弦楽四重奏団(1967-68年録音/Berlin Classics盤) 武骨なドイツの音を予想すると、非常にしなやかで美しい音なのに驚くことでしょう。ウイーン風の柔らかさとドイツ風の堅牢さを両立したような印象です。強烈な個性を持たない代わりに、音楽そのものをゆっくりと味わうには最適だと思います。反面、この破格の四重奏曲にしては幾らかの物足りなさを感じられる人も多いかもしれません。自分の場合も、どちらかと言えば後者側の聴き手なのですが、こういう演奏もやはり手放したくありません。

V4871ヴェーグ弦楽四重奏団(1972年録音/仏Naive盤) 全集盤からです。この曲のように張り詰めた緊張感を持つ曲はブダペストSQのほうが適しているとは思います。それでも終楽章の切迫感は充分ですが。少しもメカニカルな雰囲気が無く、あくまでも人間的な肌触りと精神を感じさせるタイプは今となっては貴重です。同じタイプのブッシュSQやウイーン・コンツェルトハウスSQは全曲の録音が残されていないので、ヴェーグSQが全集を完成させてくれたのはつくづく有り難いです。オールド・ファンは是非とも聴かれるべきです。もちろん最近のファンにもですが。

1939ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(1977年録音/ビクター盤) これこそは真正ドイツの演奏です。微動だにしない堅牢なテンポを守って太い音を響かせます。伴奏形の音の刻みの男性的なことも比類有りません。昔よく、母体のゲヴァントハウス管が「野武士」に例えられたような印象そのままです。ウイーンの流麗な演奏とは異なる、質実剛健なドイツ風のベートーヴェンはずしりとした手ごたえが有り、その魅力は絶大です。ボッセ教授がカルテット引退前に貴重な録音を残してくれたことに感謝です。

G7138122wスメタナ弦楽四重奏団(1979年録音/DENON盤) 全集盤からです。曲の持つ緊迫感を充分に表に出した演奏です。音そのものは流麗でとても美しいのですが、この曲では、しばしば音を割って激しく演奏しています。彼らは、ともすると穏健なイメージに思われますが、それが決して正しく無いことを再認識させられます。2楽章でも単に美しいだけで無く、驚くほど壮絶です。3、4楽章では速めのテンポによる熱演ぶりに思わず熱くなります。

D0021969_10143431アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1979年録音/EMI盤) 旧全集盤からです。1楽章は過激とも言えるようなダイナミクスが印象的です。それは「怒り」にさえ聞こえて、ちょっと平常心ではいられなくなります。2楽章は「祈り」が感じられる良い演奏です。3、4楽章は速いテンポで緊迫感が有りますが、少々せわしなく感じられるのが自分の好みからは離れます。全体にイコライジングがかかったような録音も、生の楽器の音とは異なって聞えて抵抗が有ります。

51f03m0kttlジュリアード弦楽四重奏団(1982年録音/CBS盤) ワシントン国会図書館ホールでのライブによる新盤です。速いテンポで凄まじい切れ味と迫力を感じさせる旧盤に対して新盤では、驚くほど情感重視のロマンティックな演奏スタイルに変化しています。もちろん激しさも持ちますが、そこに不自然なダイナミクスは感じさせず、あくまでも自然な高揚感を呼び起こします。それが、この曲にピッタリであり、ウイーン的でもドイツ的でも無いにもかかわらず、心の底からベートーヴェンを聴いたという充実感に浸らせてくれます。

Imagesca41p4peメロス弦楽四重奏団(1984年録音/グラモフォン盤) 第1楽章ではインテンポによりズシリとした手応えを感じさせて、これぞドイツという満足感に浸れます。2楽章も深い情感を持ちます。ところが3楽章では幾らか情感不足を感じさせてマイナス。4楽章では速めで前のめりのリズムがどうもせわしなく、1楽章との統一性を失わせています。どうも全体のまとまりに欠けているように思えるのが残念です。

61vvfzeifl__sl500_aa300_ウイーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団(1990年録音/PLATZ盤) 全集盤からです。シンフォニックなこの曲を、その印象の通り演奏しています。まるでウイーン・フィルの演奏のようです。録音は良いのですが、残響の多さが初めは気に成りますが、じきに演奏の良さに忘れてしまいます。ウイーンの音の柔らかさと、現代的な鋭さが見事に同居していますし、テンポ、表現の全体の統一性が見事です。さすがはウイーン・フィルのメンバーです。意外に気迫のこもった音に驚かされたりもします。

Emersonbeethovenエマーソン弦楽四重奏団(1994-95年録音/グラモフォン盤) 全集盤からです。全くこれがライブ収録とはとても信じられません。全員のテクニックとアンサンブルは完璧ですが、更にダイナミクスの巾が大きくて彫が深いので、極めて立体的な構築性を感じます。音のアタックの激しさにも圧倒されます。シンフォニックな点においては間違いなく最右翼です。ドイツ的でもウイーン的でもありませんが、非常に豊かな純音楽性を感じずにはいられません。味わいも深いです。ちなみにこの曲では第1Vnをフィリップ・セッツァーが弾いています。

312ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(2003年録音/NCA盤) 全集盤からです。ボッセ時代の野武士的な剛直さと重量感は失われましたが、それでもドイツ的な味わいを残しているのが嬉しいです。じっくりとイン・テンポを守っていて、決して前のめりになったりしません。彼らのこの曲の演奏は3年前に紀尾井ホールで聴きましたが、その時には、相当速いテンポで先鋭的な印象を受けました。それがライブだからかは分りませんが、やはり時間の経過と共に演奏スタイルが変化しているのかもしれません。美しく厚い響きもとても魅力的です。

以上ですが、大変な激戦区なので特に好む愛聴盤もウイーン・コンツェルトハウス、バリリ、ブダペスト、スメタナ、ジュリアードの新旧両盤、ウイーン・ムジークフェライン、エマーソン、ゲヴァントハウスの新旧両盤と、なかなか多くて絞り込めません。

<追記> ジュリアード四重奏団の旧盤を後から加筆しました。

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2013年4月14日 (日)

千住真理子・長谷川陽子・仲道郁代コンサート ~女神(ミューズ)たちの愛のうた~

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昨日は、横浜みなとみらいホールに出かけて「女神(ミューズ)たちの愛のうた」というコンサートを聴いてきました。タイトルを見てお分りの通り、僕の大好きな美女演奏家が登場しました♡

まずは仲道郁代さま(以下苗字略)!やっと生身の郁代さまに会えました!彼女は写真を眺めているだけでクラクラするほど美しいので、本物を見たら一体どうなることか・・・天にも昇る気持ちでした。(ドキドキ)

そして千住真理子さま(同)!あの知性が滲み出ている顔立ちが好きなのです。諏訪内晶子さまは美女ヴァイオリニストNo.1ですが(ボクの基準でです)、真理子さまもイイんですよ。(ドキドキ)

それと長谷川陽子さま(同)!昔、勤めていた会社の上司がなんでも彼女のお母さんと知り合いだったらしく、彼女のデビュー間もない頃の話を憶えています。その上司も今や故人となり、特別な思い出が残っています。(シンミリ)

演奏曲目をざっと紹介しますと、

サン=サーンス:白鳥
カザルス:鳥の歌
(予定の「ひまわり」から変更)
ピアソラ:リベルタンゴ
 (以上、陽子さま/郁代さま)

ショパン:練習曲 Op.25-1  エオリアンハープ
      練習曲 Op.10-12 革命 
      練習曲 Op.10-3  別れの曲

 (以上、郁代さま)

クライスラー:ロンドンデリーの歌
        :ジプシー奇想曲

 (以上、真理子さま/郁代さま)

クライスラー:レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース
 (真理子さま)

メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番
 (以上、真理子さま/陽子さま/郁代さま)

いやぁ、素晴らしい選曲と構成ですね。三人を見たかったこともありますが、曲目が良いのもこの演奏会が気に入りました。
座席はバックステージの中央3列目ですので、美女たちをステージ近くで上方から眺められるという最高の席です。

ドラ(このホールではベルではありません)が鳴って、いよいよ開演しました。

最初は郁代さまと陽子さまの登場。郁代さまは淡いベージュの上品なドレスでとっても素敵です。陽子さまはブルー系の爽やかなドレス、これも素敵です。

実は演奏の前後に彼女らのトークが入るのがこの演奏会のポイントです。いやぁ、郁代さまは優しい語り口が実に素敵だ!演奏前からボルテージが上がります。(笑)

そして「白鳥」の演奏がもう最高です。陽子さまの豊かなチェロの響きも素晴らしいですが、郁代さまのピアノがまた素晴らしい!白く綺麗な指先が鍵盤の上を正にさざ波のように優しく流れてゆきます。あー、あのピアノになりたい!

♪もしも~ピアノに~なれーたなら~♪思いの~すべてを~音にして~君に伝える~ことーだろう~♪ (By 西田ハル行??)

ホント、あのピアノになって郁代さまの指でさざ波のように撫でてもらいたいです。(笑) それにしても郁代さまはもうフィフティのはずなのに、なんであんなに美しいのでしょうか。ああ女神さまだぁ!

「鳥の歌」もとても良かったです。平和への祈りが心に浸みわたりました。
ピアソラの「リベルタンゴ」はヨーヨー・マでお馴染みですが、こういうコンサートで聴けると言うのは楽しいです。

郁代さま独奏のショパンでは「エオリアンハープ」が美しさの極みでした。ハープのように会場にフワッと広がる響きを強く意識した演奏で本当にハープの音のような美しさです。郁代さまはこういう曲は最高です。反面、「革命」や「別れの曲」の中間部ではちょっと上品過ぎるかなぁ。更に荒々しさを求めたいですが、これは郁代さまの性格でしょう。

そして、真理子さまの登場です。真っ赤なドレスに銀の靴という派手なドレスですが、スラリとした体型の彼女によく似合います。背中がポッカリ開いているので、綺麗な背中が実に良く見えます。うーん参った!真理子さまももうじきフィフティのはずなのにホント美しいなぁ。

でも、ストラディヴァリウスが良い音をしていました。もちろん当たり前と言えばそうなのですが、幾ら楽器が良くても弾き手が悪くては良いとは出ません。真理子さまの最近の音はとても太く厚くなったようです。やはり楽器が自分のものに成って来たのでしょう。歌いまわしも自由で、演奏家としての自信が増したような印象です。

最後のメンデルスゾーンのピアノトリオ。これは期待以上に良い演奏でした。太く大胆に歌う真理子さまのヴァイオリン、豊かな響きでスケール大きな陽子さま、幾らか控え目にしっかりと全体を支える郁代さま、三人のバランスが素晴らしいのです。単に、ミューズの小奇麗な演奏というわけでは全く有りません。演奏後のブラヴォーも決してお世辞では有りませんね。

客席の大きな拍手に応えたアンコール曲は、エルガーの「朝のあいさつ」でした。ヴァイオリンの後にチェロが歌うピアノ・トリオ版がとても良かったです。

さすがに三人のソリストが揃うと非常に聴き応えが有ります。今度は、このトリオで本格的な演奏会を聴きたいですね。ブラームスやベートーヴェン、シューマン、シューベルトのピアノトリオを是非とも聴いてみたいです。演奏してくれないかなぁ。

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2013年4月10日 (水)

チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 サラ・ネムタヌ 待望の新盤

005798サラ・ネムタヌ独奏、クルト・マズア指揮フランス国立管弦楽団(2012年録音/仏Naive盤)

待ちに待った新盤がようやくリリースされました。世界中で大ヒットした映画「オーケストラ」(原題:Le Concert)でヒロインが弾くチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を、実際に演奏していたヴァイオリニストであるサラ・ネムタヌさんのCDです。

あの映画の中のコンサートで奏されるヴァイオリンは非常に印象的でした。この曲のCDを飽きるほど聴いて来た人間でも感動するような素晴らしい演奏だった(ように感じた?)からです。これはクラシック愛好家の友人に聞いてもやはり同じ感想でした。ですので、この人の弾く全曲を是非とも聴いてみたかったのです。映画で感動したような演奏を本当に行うのかどうか?それとも、もしやあの感動は映画の中だからそう感じただけだったのだろうか?それを確かめたかったからです。

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サラ・ネムタヌさんの名前は、映画公開当時はほとんど知られていませんでした。けれども、今ではかなりの方が知っていると思います。フランス国立管弦楽団の第1コンサート・マスターです。1981年生れで、出身はルーマニアですが、現在はフランスとルーマニアの二つの国籍を持っているそうです。
まだ30代前半の若手ですが実力が有り、ソリストとしても一流のオケと指揮者の演奏会に招かれています。それに、(ココが肝心!)何と言っても彼女は美しい!ルーマニアもまた美女の宝庫なのですね・・・(羨)

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今回のCDはライブ演奏による録音です。この難しい曲をライブとはよほど自信が有るのでしょう。オーケストラは、彼女の所属するフランス国立管弦楽団で、指揮をするのは、ミスター堅実?ことクルト・マズアです。せっかく映画がヒットしたのですから、ここはロシア出身の指揮者を起用すれば、ずっと映画のイメージに近くなったと思うのですが。人選としてはちょっとマズアかなぁ。

まあ、ともかくCDを聴いてみましょう。

第1楽章冒頭のヴァイオリンの歌わせ方は、映画の時よりもややアッサリと感じます。コテコテのロシア風ではありませんし、さりとて小粋でお洒落なフランス風でもありません。でも味わいが無いわけでは無いのですね。強いて言うと彼女の生まれ故郷のルーマニア風?よく判りませんが、ルーマニアには一部ジプシーの血が混じっていますし、わずかに民族的な味わいを感じないこともありません。
彼女のテクニックは非常に素晴らしいです。オーケストラのコンサートマスター・レベルでも、この難しい曲をこれだけ弾ける人はそうは居ないと思います。それほどの演奏者であれば、ソリストとして独立を目指すのではないでしょうか。

オーケストラの伴奏は普通です。オケはともかくとして、マズアの指揮が相変わらず堅実一本やりで面白みに欠けます。

第2楽章は非常に美しいです。ロシア風の情緒綿々たるエレジーというよりも、いくらか控え目なルーマニア風の「望郷のバラード」といった感じですが、静寂の中を時がゆっくりと流れてゆくような、とても深い味わいを感じます。

第3楽章では、彼女のパッションが全開です。ハッタリは無く、丁寧なのですが、映画での熱狂ぶりを彷彿させる素晴らしさです。ライブでこれだけ、ほぼ完璧に弾けるのは凄いことです。マズアとオーケストラも。ここではピッタリと合わせ健闘していますし、フィナーレの追い込みは荒々しさも加わって映画での興奮を誘います。

と言うことで、全曲を聴き終えてみると、とても満足できる良い演奏でした。ただ、映画で感動したイメージをそのまま期待すると、裏切られてしまう可能性が有ります。あれは、やはり映画によって感動がかなり増幅されていたようです。そして、この演奏が、オイストラフやコーガン、トレチャコフ、レーピンといったロシア出身の名人達を越えるかというと、それは少々難しいです。そういう尺度で聴くと失望しかねません。それでも、録音は生演奏を聴いているような臨場感の有る優れたものですし、映画のシーンを思い浮かべながら聴いていると、とても楽しめる好CDであることは確かです。

繰り返しになりますが、こんなに上手い人がオーケストラのコンサートマスター席に座られていたら、下手なソリストはちょっと演奏しにくいのではないでしょうか。ホントに。

なお、カップリングにはネムタヌさんを中心に、フランスで活躍するメンバーを集めて、同じチャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの想い出」が収められています。これもとても充実した素晴らしい演奏です。

以上、ご興味が有って、このCDの購入を考えておられる方に少しでも参考になればと思います。お聴きになれた方のご感想を楽しみにお待ちしています。

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チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 名盤

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2013年4月 8日 (月)

~クラシック音楽館~ N響定期からエレーヌ・グリモーのブラームス ピアノ協奏曲第2番

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今年1月のNHK交響楽団のB定期演奏会(サントリー・ホール)には、エレーヌ・グリモーがソリストとして登場してブラームスのピアノ協奏曲第2番を弾くと言うので是非とも聴きたかったのですが、平日なので休暇を取らないと行けないなぁ、などとちょっと迷った隙にチケットが完売してしまいました。もう後の祭りです。「いつチケット買うの!今でしょ!」と先生に言われた気がしました。(苦笑)

そのコンサートの録画がついに、Eテレ新番組の「クラシック音楽館」で放送されました。ホント楽しみだったのですよ。なにしろ現役のピアニストで一番好きなのはグリモーです。(ビジュアルでは仲道郁代ですけれども。いえ、もちろんピアノも良いですけどネ。)

グリモーが以前、クルト・ザンデルリンクの指揮で録音したブラームスの協奏曲第1番のCDは本当に素晴らしかったです。ブラームスの晩年のピアノ小品集も素晴らしかったです。どうしてフランス娘の彼女がブラームスをこれほど得意にするのか不思議でなりませんが、なんでも彼女は狼を飼育していて、自分は狼の血をひいていると(本気で?)思っているとかいないとか、ちょっと常人離れした感覚を持っているみたいです。

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演奏が始まる前のインタヴューで、グリモーが興味深いことを話していました。

「第1番はすぐに自分に無くてはならない曲に思えましたが、第2番は中々そうは思えませんでした。最近ようやくそう思えるようになったので演奏会で弾き始めたのです。私はそう思えない曲は弾きませんから。そして面白いことに気が付きました。これはブラームスと同じだからです。彼はこの曲を書くのに大変長い時間がかかったからです。」
そんな内容でした。

ちなみに指揮をするのはデーヴィッド・ジンマンです。正直言って、指揮者は誰でも良かったのです。もしもザンデルリンクが生きているなら話は別ですけれど。まぁ、そんな風に言っては元も子もないので期待して聴きましょう。

そして演奏が始まりました。(前プロについては省略します。ブゾーニの短い曲とシェーンベルクの「浄夜」です。もちろんオケだけの演奏です。)第1楽章はグリモーはよく弾いてはいますが、何かいつものインスピレーションが感じられません。難しいスケールも完全に音になっていないように聞こえます。それにしてもこの曲は本当に難しいですね。テクニックだけ有ってもどうにもなりませんが、テクニックが無くても音楽になりません。グリモーの演奏は、まだ充分に弾き込んでいないような未完成さを感じました。第2楽章は第1楽章よりも上出来でしたが、彼女にはもっと期待したいところです。第3楽章はいかにもグリモーらしい深々と沈滞した素晴らしい演奏だったと思います。第4楽章は軽やかなのだけど、もっとブラームスらしい含蓄が欲しかったです。

全体を聴き終えて思い出したのが初めのインタビューです。彼女にとってはこの曲はまだ完成途中なのではないかと。更なる時間が必要なのではないでしょうか。彼女にはもっともっと閃きに溢れた演奏を期待しますし、それが可能になった時にレコーディングを行ってくれることと思います。現在の彼女の演奏を聴けたことは大変嬉しいのですが、この程度では決して満足できません。彼女のファンであればこそ更なる高みの演奏を期待するのです。

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2013年4月 5日 (金)

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調 「ラズモフスキー第1番」 作品59-1 名盤

Razumovskiアンドレイ・キリロヴィチ・ラズモフスキー侯爵(ウイーン駐在ロシア大使)

ベートーヴェン中期の弦楽四重奏曲は「傑作の森」の名に相応しい作品ばかりですが、特に「ラズモフスキー四重奏曲」の3曲については、その素晴らしさを何と形容したら良いか判らないほどで、正に弦楽四重奏曲の歴史における一大傑作です。

この曲集はベートーヴェンがラズモフスキー侯爵の依頼で作曲したために、その名称で呼ばれることは良く知られています。この人はロシアの貴族ですが、海軍軍人から外交官へ転身してウイーン駐在大使に任じられました。もちろんお金持ちなのでしょうが、羽振りが相当良かったようです。それに音楽と美術の大変な愛好家でもありました。自分のお抱えの弦楽四重奏団を持っていましたが、しばしば自らも第2ヴァイオリンを奏したそうですので、中々の腕前だったのでしょう。

その弦楽四重奏団は、ベートーヴェンとも親しいヴァイオリンの名手イグナーツ・シュパンツィヒが在籍していて、ヨーロッパで最も優れたカルテットと評判でした。そんな名カルテットのために作曲を依頼されれば、ベートーヴェンも創作に力が入ろうというものです。そして、かつてない最高の四重奏曲を書き上げました。

3曲はそれぞれ性格が異なり、実にヴァラエティに富んでいます。中でも第1番は最も曲の規模が大きく長大で、演奏に約40分を要します。壮大な広がりを持つ曲想が、どことなく「英雄交響曲」を連想させます。それとは対照的に、第2番と第3番は切迫感を持ち、強固に凝縮された音楽が「運命」を想わせます。音楽の驚くほど豊かな内容は作品18とは比べものにならず、後期の四重奏曲の深淵さとも異なる魅力に溢れています。

ラズモフスキー第1番の第1楽章は「英雄」の第1楽章と似ている気宇壮大なスケール感の有る傑作です。第2楽章はスケルツォ楽章ですが、通常は2楽章に置かれる緩徐楽章と入れ替えるという斬新さは自身の「第九」の先取りだと言えます。けれどもこの楽章は、当時の聴衆には全く理解されずに、ベートーヴェンは冗談でこの曲を書いたのだと思われたそうです。第3楽章は悲壮感に満ちたアダージョです。高貴なことこの上ありません。第4楽章はリズミカルな躍動感に溢れますが、展開部のシンコペーションが生み出す緊張感に強く惹かれます。4つの楽章はどれもが魅力に溢れていて大変に聴きごたえが有ります。

ベートーヴェンの中期以降の作品は4つの楽器が互いに競い合うように書かれている傾向が有りますが、それでもこのラズモフスキー第1番では、第1ヴァイオリンの重要性が相当に高いので、その奏者の力量や音楽性は演奏の出来栄えに大きく影響します。

この曲は非常に好きな曲なので、もしも全集盤の良し悪しを幾つかの曲で判断する際には、この曲と、それに第14番、第15番あたりを聴くことにしています。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

00143708ブッシュ弦楽四重奏団(1942年録音/CBS盤) 学生時代にLP盤で聴いて、この曲に開眼した想い出深い演奏です。ブッシュは戦前の一連の演奏からは想像出来ないほどに遅めのテンポでゆったりと歌っています。淡々としていながらも驚くほど味わいが深く、一音一音の意味深さが凄いです。3楽章でのブッシュのヴァイオリンの奏する悲壮感には言葉を失います。この演奏を聴いて、いつも連想するのがフルトヴェングラーの戦後のEMI録音の「エロイカ」です。単に精密なだけやスピード感の有る演奏とは全く次元の異なる素晴らしさです。時代を越えた演奏とは正にこのようなものです。これは偉大なブッシュの残した最高の遺産の一つです。録音も古い割に明瞭です。

10845ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団(1951年録音/ユニヴァーサル・ミュージック盤) 彼らがウエストミンスターにベートーヴェンも主要な曲の録音を残してくれたのは嬉しいです。ブッシュ以上にゆったりとした演奏で、ウイーンの田舎の情緒がこぼれるようです。少々まったりし過ぎで迫力には欠けていますが、アントン・カンパーのヴァイオリンは悲壮感においてアドルフ・ブッシュに肉薄していますし、現代ではとても聴けないような甘さと柔らかさが非常に魅力的です。嗚呼、何と美しき哉、古き良きウイーン!

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バリリ弦楽四重奏団(1955年録音/MCAビクター盤) ウエストミンスター録音です。もちろんバリリもウイーン的な甘く柔らかい音を持ちますが、コンツェルトハウスSQに比べれば、ずっと若い世代になるので都会的でスマートです。アンサンブルの精度は上がっていますし、2、4楽章では躍動するリズム感が素晴らしいです。反面、3楽章などは案外とスッキリしていて、悲壮感の表出に幾らかの物足りなさを覚えます。

90650dc0bfe3c81c14f641d351d90ca5ブダペスト弦楽四重奏団(1958年録音/CBS盤) 昔はバリリSQに比べると無味乾燥のように思われていた彼らですが、余りに厳しい音には当時の評価を想い起させます。面白いのはリズムやダイナミックの強調が現代の団体並みに先鋭的でメカニカルなのに、ポルタメントを多用した旋律の歌いまわしが情緒一杯で極めて人間的であることです。特に第1Vnのヨゼフ・ロイスマンの泣き節はシゲティにも匹敵するほどです。この一見アンバランスとも思われる要素が見事に融合しているのが凄いです。1950年代のモノラル録音盤も良いですが、音楽的に更に深いステレオ録音盤を取ります。

151ジュリアード弦楽四重奏団(1964年録音/CBS盤) 旧盤の全集からです。昔、吉田秀和氏が絶賛していたのでLP盤で購入しましたが、メカニカルな窮屈さを感じて好みませんでした。けれども現在改めて聴き直すと音そのものの持つ迫力と力強さに圧倒されて、このハードボイルドな演奏も悪く無いなと思います。優秀なテクニックによる精緻な演奏はセル/クリーヴランド管のイメージとも重なります。アダージョも情に流されるタイプでは有りませんが、決して無味乾燥ということはなく案外と心に響いてきます。

61zqixj1x9lズスケ弦楽四重奏団(1967-68年録音/Berlin Classics盤) カール・ズスケはゲヴァントハウス管からベルリン歌劇場に移り、ベルリンSQを結成しました。それがこの団体です。東ドイツ的な堅牢さを持ちますが、ゲヴァントハウスSQと比べると、ずっとしなやかさを感じます。これはズスケの個性でしょう。テンポも幾らか速めですし、ダイナミクスも随分と現代的に強調されています。これは古いファンにも若いファンにも受け入れられそうな秀演だと思います。3楽章でのズスケのヴァイオリンは澄み切っていて、単なる感傷性を越えた崇高さをも感じさせます。

V4871ヴェーグ弦楽四重奏団(1973年録音/仏Naive盤) アメリカに渡ったブダペストSQは強靭なアンサンブルを有しましたが、ヴェーグSQは現代の感覚からすれば、まったりした「ゆるキャラ」です。神経質なメカニカルさは微塵も無く、常に人間の肌の温もりを感じさせてくれます。ですので、第3楽章はそれほど深刻ではないのに悲しみが心の奥に浸みわたって来ます。ある種、戦前のレトロさと同質の味わいを感じさせてくれる演奏です。個人的には堪らなく好きです。

1939ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(1977年録音/ビクター盤) 彼らの演奏旅行の合い間に日本でラズモフスキーの3曲が録音されたのは貴重でした。第2Vnはズスケからギュンター・グラスに代わりましたが、第1Vnのゲルハルト・ボッセ教授は健在です。テンポは一貫して中庸ですが、念押しするリズムに良い意味での重みを感じます。音もウイーン流の柔らかい音とは異なる、正に堅牢なドイツの音であり、全体が質実剛健な雰囲気に包まれています。嗚呼、古き良きドイツよ!

G7138122wスメタナ弦楽四重奏団(1978年録音/DENON盤) 作品18の演奏は少々爽やかに過ぎるように感じましたが、ラズモフスキーでは音に強さを増していて不満が解消されました。と言っても、元々彼らはチェコの団体らしく、流麗で美しい演奏をすることには変わりありません。ベートーヴェンの音楽の持つアクの強さを更に打ち出してくれたほうが良いと思わないこともありませんが、この純音楽的な表現と美感が彼らの特徴ですので、そのまま味わいたいと思います。先鋭的に過ぎない演奏には安心して身を任せていられます。3楽章も非常に美しいです。

D0021969_10143431アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1979年録音/EMI盤) 1、2楽章は速いテンポでダイナミズムが過激です。アンサンブルは優秀ですが、聴いていて「ゆとり」が感じられないのが好みから離れます。ところが3楽章になると一変してゆったりと甘く歌い、深い沈滞感を醸し出します。1stVnのギュンター・ピヒラーの味わいに満ちた歌いまわしにも魅了されます。4楽章は中庸のテンポですが、躍動感に溢れるリズムに乗った歌が非常に楽しいです。前後半で評価は分かれますが、全体的には悪くありません。

51f03m0kttlジュリアード弦楽四重奏団(1982年録音/CBS盤) これはワシントン国会図書館ホールでのライブによる新盤です。精緻な旧盤に比べるとアンサンブルに幾らか緩みを感じますが、それが逆に人間的で好ましいです。 それよりもロバート・マンのヴァイオリンが非常にロマンティックなのには驚かされます。アダージョの痛切さは如何ばかりでしょう。これはウイーン的でもドイツ的でもありませんが、間違いなくベートーヴェンの心に肉薄する感動的な演奏です。残響の少ない録音も演奏が生々しく聞こえて好みです。

Imagesca41p4peメロス弦楽四重奏団(1984年録音/グラモフォン盤) 彼らが登場したころは、ドイツの団体も世代が変わったなぁと思いました。速めのテンポで流麗に歌うのは、さしづめカラヤン/ベルリン・フィルのようです。それでも表現そのものはオーソドックスなので、異形な印象は受けません。ウイーン的な甘さを排除した、やはりドイツの伝統を受け継いだ団体です。余り強い個性を感じないのが好悪の分かれ目でしょうが、音は美しくアンサンブルも優れた美しい良い演奏だと思います。

36305935ボロディン弦楽四重奏団(1989年録音/Virgin盤) 彼らはショスタコーヴィチの素晴らしい全集を残していますが、一方でドイツ音楽を演奏した場合にはウイーン的な甘さを表現するのが、とても好きです。ベートーヴェンにも主要な曲の録音を残してくれました。これは第1Vnのコぺルマンが東京カルテットに移籍してしまう前の録音であり、彼を中心に優れたアンサンブルで非常に美しい演奏を行なっています。欠点としては、まるで銭湯の中で録音したような残響過多な録音の為に細部が聴き取り難いことです。これは少々残念です。

338アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1989年録音/EMI盤) 二度目の全集がライブというのはジュリアードSQと同じです。第1Vのピヒラーの語るところによれば、スタジオ録音に比べて細部の完成度は失われても、それに代わって得られるものが有るためにライブによる再録音を行なったそうです。確かに表現が過激とも言えるほどに大胆になりましたが、個人的には細部の犠牲の見返りほどの大きな魅力は感じていません。その点がジュリアードとの違いです。

61vvfzeifl__sl500_aa300_ウイーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団(1990年録音/PLATZ盤) 全集盤からです。ウイーンの伝統である甘く柔らかい音が基盤となっていて、正にミニ・ウイーン・フィルです。ウイーンの情緒がこぼれそうです。弦楽器同士の紡ぎ合いが何とも美しいです。けれども同時に現代的な迫真性も持ち合わせているので、決してノンビリまったりというわけではありません。充分な音の迫力も持っています。古き良きウイーンの魅力と現代性の絶妙な融合ぶりが見事です。録音については残響が少々過多のように感じます。

Emersonbeethovenエマーソン弦楽四重奏団(1994-95年録音/グラモフォン盤) 全集盤からです。これがライブ収録とはとても信じられません。他の団体のスタジオ録音を遥かに凌ぐ上手さです。アンサンブルの精緻さに加えて、個々の奏者の音程が完璧で、ハーモニーが極上の美しさです。ダイナミックな迫力を見せる部分と、柔らかく歌う部分の対比が実に見事で、千辺万化する表情の豊かさが得も言われぬ素晴らしさです。ドイツ的でもウイーン的でも無い、純粋に「音楽的な」名演奏だと思います。強いて欠点を上げれば、3楽章に深刻さが不足することでしょうか。それにしても第1Vnを弾くユージン・ドラッカーの上手さとセンスの良さは圧巻です。やはりこの人が第1Vnを弾く時が最強だと思います(このカルテットは第1Vnと第2Vnが曲によってローテーションをします)。

312ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(2003年録音/NCA盤) 全集盤からです。ボッセ時代の質実剛健さとは随分変わりました。早いテンポで颯爽と駆け抜ける演奏は、実に現代的です。オーケストラが母体のカルテットとしては非常に優秀ですが、さすがにエマーソンSQの後に聴いてしまうと少々聞き劣りします。それでもドイツ的な音の香りが完全に失われているわけでは無いので、やはりそこが魅力です。

以上のどれもが中々に良い演奏なので甲乙が付け難いところですが、ブッシュ弦楽四重奏団の演奏だけは別格的存在です。その理由はアドルフ・ブッシュの弾くヴァイオリンが他の奏者とは次元の異なる素晴らしさだからです。

ブッシュが余りに素晴らしいので、その他の演奏は特にどれとは言い難いところですが、しいて上げるとすれば、ブダペストSQとジュリアードSQの新盤の二つでしょうか。片やヨゼフ・ロイスマン、そしてロバート・マンという第1ヴァイオリンの存在感が圧倒的です。やっぱりこの曲は男(マン)の音楽なのかなぁ。

<追記> ジュリアード四重奏団の旧盤を後から加筆しました。

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