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2013年3月22日 (金)

ブラームス ヴァイオリン協奏曲 リサ・バティアシュヴィリの新盤

Uccg1610m01dlリサ・バティアシュヴィリ(独奏)、クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2012年6月ドレスデン、ルカ教会で録音/グラモフォン盤)

リサ・バティアシュヴィリの演奏するシべリウスのヴァイオリン協奏曲のCDは、とても良いと思いました。でも、それだけなら新盤のブラームスを購入していたかどうかは分りません。ところが今回のオーケストラ伴奏は、クリスティアン・ティーレマンが指揮するシュターツカペレ・ドレスデンという豪華コンビなのです。ブラームスを演奏させたら比類の無い素晴らしさのSKドレスデンですが、この協奏曲のオケ伴奏をした録音というのは意外に少ないのです。これは期待が高まろうというものです。

さて、演奏を聴いてみた感想ですが、期待を大きく上回る素晴らしい演奏でした。

冒頭のホルンの音色からして既に違います。アルプスの山々に響くホルンの音を思わせます。そして、トゥッティになってもハーモニーの何と美しいことでしょう。ティーレマンのテンポが少々急き込んでいるのが気にはなりますが、オケの響きの余りの素晴らしさに許せます。長い序奏が終わると、いよいよヴァイオリンの登場ですが、バティアシュヴィリの溢れる気迫と情熱に強く惹きつけられます。シべリウスの演奏では美しさと優しさが前面に出ていましたが、今回は気迫の凄さが印象的です。それも正確な技術に裏付けされているので、とても安心して聴いていられます。ヴァイオリンの音色、そして重音の美しさは特筆ものです。非常に上手いヴァイオリンですが、どこまでも人間の温か味を感じさせる演奏です。メカニカルな冷たさは微塵も有りません。これはやはり彼女の人間性なのかもしれません。彼女の旦那様は名オーボエ奏者のフランソワ・ルルーですが、実にお目が高い。きっと彼女は優しい奥様に違いありません。ボクには判ります。

それにしても、これは完璧な演奏です。いくらスタジオ録音といっても、音程に僅かでもアヤしいところが全く有りません。それも音程が(機械的にではなく)「音楽的に」的確なことは、あのヘンリク・シェリングのようです。ですので重音や分散和音が本当に美しく耳に響きます。ハッタリでは無く、音楽そのものから充実感を引き出す点でも、シェリング的と言えそうです。女流奏者であれば、さしづめヨハンナ・マルツィというところでしょうか。

ところで、この楽章のカデンツァ部分では、舞台後方でティンパニがずっとヴァイオリンに合わせて叩き続けますが、とても雄弁でありユニークです。誰のものかと思ったらブゾーニの書いたものなのですね。どうりで珍しいわけです。

第2楽章でもSKDの美しさは際立っています。冒頭のオーボエ独奏は言葉にならないほどですが、続いてヴァイオリンが同じように美しく旋律を奏でるのも素晴らしい受け渡しです。この楽章でのヴァイオリンの歌いまわしや、オケの伴奏の素晴らしさは、これまで聴いたことが無いようにすら思えます。恐らくSKDという最高の名器が、ルカ教会という最高の響きの建物で演奏しているからでしょう。

そして第3楽章も白眉です。ザクセン風の堂々としたオケの響きとリズムが最高なのですが、それに乗るヴァイオリンが本当に立派です。ハッタリやこけおどしが少しも無いにもかかわらず、この充実仕切った演奏は何なのでしょう。
ブラームスはかつて、あるヴァイオリニストの演奏を聴いて、「あんなに綺麗に弾かなくて良いのにね。」と言ったそうです。きっとそれは、「この曲はジプシー風に激しく情熱的に弾くべきだよ」ということを言いたかったのでしょう。バティアシュヴィリの演奏は、充分過ぎるほど美しいですが、それでいて充分な迫力や情熱を持ち合わせています。ブラームスはきっと彼女の演奏に満足することと思います。ティーレマンのリズムのキレと重厚さを兼ね備えた指揮ぶりも本当に見事です。この人は、まだまだ出来栄えに凸凹は有りますが、ハマったときの演奏は実に素晴らしいです。

録音についても、旧東ドイツ時代から定評のあるルカ教会の深々とした残響を美しく捉えた素晴らしいものです。

ということで、ブラームスのこの協奏曲は過去に色々と聴いてきましたが、ことによると、これまでのマイ・フェイヴァリットであるシェリングとクーベリックのライブ盤(オルフェオ)をも凌駕しているかもしれません。ヴァイオリン独奏、オケの響き、録音、それら全てを総合すれば、そのように思います。

このCDのカップリング曲に選ばれたのは、ブラームスが「生涯で本当に愛したただ一人の女性」と称したクララ・シューマンの作曲である「ヴァイオリンとピアノのための3つのロマンス 作品22」です。選曲も粋なら、ピアノ伴奏をするのもアリス・沙良=オットーという粋な計らい。グラモフォンは力を入れてますね。間違いなく彼女はそれだけの逸材です。

<過去記事>
ブラームス ヴァイオリン協奏曲 名盤
ブラームス ヴァイオリン協奏曲 続・名盤(女神達の饗宴)
ブラームス ヴァイオリン協奏曲 続々・名盤(男祭り)

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ブラームス(協奏曲:ヴァイオリン他)」カテゴリの記事

コメント

おはようございます。
そんなに素晴らしいですか、聞いて見たくなりますね。バティアシュビリのショスタコーヴィチがとんでもない演奏でした。
私もシェリングとクーベリックのライブ盤は気に入っています。でも先日、チョンキョンファとプレヴィンケルン放送のものをAppleTVでみましたがこれは途轍もない名演奏でした。ベートーヴェンもあったのでそちらも見ましたがこれまた凄い。テンシュテットとの有名なライブです。いずれにしろ力強い女性の演奏を必要とするブラームスとベートーヴェンのバイオリン協奏曲 バティアシュビリはもう完全に大物に成ったということでしょうか?


投稿: まつやす | 2013年3月23日 (土) 09時39分

ハルくんさん、こんにちは。
私も 最近、このCDを購入したのですが、仰られる通り 素晴らしい演奏ですね。
私の場合はオケがSKDという事で買ったのですが(笑)、バティアシュヴィリが期待以上の(失礼しました(笑))名演なので、 大変驚きました。
私はブラームスの協奏曲を聴く時には クーベリックとシューリヒトが振っている、シェリングの2つのライブ盤を聴いて来ましたが、それらに匹敵する名演だと思います。
特に 第2楽章のオーボエのソロは 本当に夢を見ているかのようですね。

投稿: ヨシツグカ | 2013年3月23日 (土) 12時11分

まつやすさん、こんにちは。

バティアシュビリのブラームスは良いですよ。伴奏のドレスデンの音を差し引いてもやはり素晴らしいです。今回のブラームスを聴く限りは、既に大物のヴァイオリニストの仲間入りをしていると思います。

チョン・キョンファ/プレヴィン=ケルン放送の演奏は、恐らく僕がCDRで持っているものと同じではないかと思いますが、あれは素晴らしいですね。

投稿: ハルくん | 2013年3月23日 (土) 17時35分

ヨシツグカさん、こんにちは。

僕の場合もオケがSKDというのは購入の大きな要素でしたよ。あとは「美女」だということですが。(笑)
それにしても本当に期待以上でした。この曲で凄いことですね。

シェリングのシューリヒト盤のほうは聴いていませんが、クーベリック盤は本当に素晴らしいと思います。もっともシェリングのベートーヴェンとブラームスは全て名演奏だと言って良いですね。

投稿: ハルくん | 2013年3月23日 (土) 17時40分

今晩は、ハルくん様。 本日、このCDをブックオフで見つけちゃいました。なんてラッキーな日。
当然即購入しました。ただいま鑑賞中なのです。 ジャケットの写真も美しいですが、演奏も美しい!ブラームスも勿論素晴らしいけれど、聞く事の少ないクララ・シューマンの小作品へのいっぱいの優しさとすこぉしの哀愁の音色にグッと来ました。

投稿: from Seiko | 2013年3月30日 (土) 22時34分

Seikoさん、こんにちは。
今週末、上越高田に来ています。新潟は寒いですね〜。神奈川では満開の桜もまだ完全に蕾ですし。でも爽やかな季節はもうすぐでしょう。楽しみですね。

この新盤をブックオフでゲットとはラッキーです!
気に入って貰えてとてもうれしいですよ。

投稿: ハルくん | 2013年3月31日 (日) 11時35分

いま、昨夜放送されたティーレマンとSKDの録画を見ています。いゃぁ、バティアシュビリの演奏はすごいですねCDはスタジオ録音なのですか?しかしこのカデンツァは少し違和感が私にはありました。いやぁそれにしても聴くも良し、見るも良しですね。^_^

投稿: まつやす | 2013年11月11日 (月) 21時35分

まつやすさん、こんばんは。

CDはルカ教会でのセッション録音ですね。
バティアシュビリは本当に素晴らしいと思います。才色兼備とは正に彼女のことですね。

カデンツァはユニークですが、とても楽しいと思っています。

投稿: ハルくん | 2013年11月11日 (月) 22時21分

こんばんは。

本当に文句のつけようのない素晴らしいヴァイオリンですね。
一音一音語りかけてくるようであり、実に味があります。
決して一本調子に陥ることがなく、曲の素晴らしさが伝わってきます。
それにしても、この曲は実に晴れやかで聴いて幸福感に包まれますね。

投稿: 影の王子 | 2015年2月 8日 (日) 22時24分

影の王子さん、こんばんは。

バティアシュビリ素晴らしいですよね。
同じコンビのライブDVDは、このCDを更に上回る凄演なので驚きます。

投稿: ハルくん | 2015年2月10日 (火) 23時20分

変な例えで申し訳ないのですが、
バティアシュヴィリは醤油ラーメン
ムターは豚骨ラーメン
ヒラリー・ハーンは塩ラーメン
って感じでした。
私は味噌ラーメンが好きなので、味噌ラーメン探しをします(笑)

投稿: 藤沢市民 | 2017年3月22日 (水) 00時43分

藤沢市民さん、こんにちは。

3人の味の違いは何となく分るような気がします。私は醤油と味噌が好きですが。

投稿: ハルくん | 2017年3月22日 (水) 14時00分

ヴァイオリン:レーピン
指揮:シャイー
演奏:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
上記をなかなか気に入りました。
ムター/カラヤン盤を上品にした感じ。ヒラリー盤を濃くした感じ。バティアシュヴィリ盤のソリストを目立たせた感じです。
ソリストの目立ち具合とオーケストラの頑張り具合が良い塩梅で、お互いが消し合う事なく、それぞれが良い仕事をしています。
カデンツァがよくあるパターンと違っていて、ピッツィカートからスタートします。カデンツァ自体もかなり変わっているので、曲全体の印象も変わります。
これはクセのある味噌ラーメンです(笑)

ヒラリー・ハーンは線が細く上品なので、ヴァイオリンソナタではロマンチックな曲作りで私の好みになりそうな気がします。

投稿: 藤沢市民 | 2017年3月26日 (日) 23時34分

藤沢市民さん、こんにちは。

レーピンは好きなヴァイオリニストですし、バックもゲヴァントハウス管というのは魅力ですがまだ聴いていません。カデンツァは誰のものなのでしょうね?機会あれば聴いてみたいです。ご紹介ありがとうございます。

同じゲヴァントハウス管がバックのアッカルド&マズア盤は割と最近聴きましたがこれは中々に気に入っています。

ハーンは残念ながら心を動かされた演奏にこれまで出会っていません。どうやら相性が悪そうです。

投稿: ハルくん | 2017年3月27日 (月) 11時46分

レーピン盤のカデンツァはヤッシャ・ハイフェッツだそうです。繰り返し聴いたところ、難しい技巧を凝らすが為に耳障りと感じました。第3楽章は弾むような演奏で素晴らしいのに残念です。

繰り返し聴くとバティアシュビリ盤の良さが光ります。

シューベルトがヴァイオリン協奏曲を書いてくれたらなぁと思います。小協奏曲 D.345はありますが。

投稿: 藤沢市民 | 2017年3月29日 (水) 00時34分

藤沢市民さん、こんにちは。

ありがとうございます。
ハイフェッツのブラームスはそれほど好まないのですが、この人のカデンツァとなると技巧を駆使した饒舌なものになりそうですね。

シューベルトがヴァイオリン協奏曲を書いていたらどうでしょうね。

投稿: ハルくん | 2017年3月29日 (水) 11時31分

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