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2013年3月 1日 (金)

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 ギレリス/ムラヴィンスキー盤

旧ソヴィエト時代の名ピアニスであったエミール・ギレリスは、我が国でも知られるようになった頃に、日本の記者のインタビューに答えて、「ソヴィエトには私よりも素晴らしいピアニストが居ます。それはスヴャトスラフ・リヒテルです。」と言ったそうです。それは本心からの言葉だと思いますし、確かに好調時のリヒテルの霊感に満ちた演奏に比べると、ギレリスは常に「努力型の名演奏」というように感じられるからです。例えば僕はこの人の弾くドイツものには余り感銘を受けたことがありませんし、霊感からも遠いと思っています。ところが、どういうわけかチャイコフスキーを弾く時には、リヒテルを凌ぐほどの名演奏をします。

過去の記事「チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 名盤」の中で、フリッツ・ライナー/シカゴ響との演奏と、ズービン・メータ/ニューヨーク・フィルとの演奏をご紹介しましたが、この曲に関しては真っ先に上げたい愛聴盤です。

それとは別に、今回ご紹介したいのは、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルと共演した1971年録音のライブ盤です。以前にもRussian Discから発売されていましたが、僕が入手したのは英Master Toneレーベル盤です。初めて聴きましたが、想像以上に良くて非常に気に入りました。

51zdwyktgelエミール・ギレリス(Pf)、エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1971年録音/英Master Tone Multimedia盤)

Russian Disc盤とどちらの音が良いかは比べていませんが、良好な音です。ピアノパートとオーケストラの音の両方が明瞭で、バランス的にも問題がありません。一応ステレオ録音のようです。強いて言えば、高音域にイコライジングを施したような強調感とざらつきが有りますが、昔のライブ録音ということを考えれば、これは大目に見るべきかもしれません。

さて、肝心の演奏ですが、メータ盤の時には随分伸び伸びと演奏している印象でしたが、ここでは始めのうち、どことなく窮屈に弾いているような印象を受けます。一つにはムラヴィンスキーのテンポが遅めであることと、余りに毅然とした指揮ぶりに影響されているのかもしれません。それでも、いつもと変わらぬ力強い打鍵の「鋼鉄の音」は健在です。表現も少しも女々しさを感じさせない、男の中の男のチャイコフスキー、そんな感じです。「どうだワイルドだろう~」って、ここにもロシアのスギちゃんが居ました。(笑) 実際、第1楽章の中間あたりからムラヴィンスキーともども、緊張感がみるみる高まってきて、凄みを増してきます。チャイコフスキーのシンフォニーで聴かせてくれる、あのレニングラード・フィルの鋼のような音が鳴り響きます。そういう点では、ギレリスとレニングラード・フィルの音はよくマッチします。弦楽合奏の切れ味の鋭さは、名刀村正のごとくです。木管のピッチがやや不揃いのように聞こえますが、特別に気になるレベルではありません。

第2楽章では一転して、冬のロシアの情緒がこぼれます。ベタベタしないのに空気感を醸し出すのはさすがに自国の演奏家です。

第3楽章はギレリスの独壇場です。激しく刻むリズムがコケたり、のめったりすることはありません。白熱しているにもかかわらず安定感を感じます。やはりこの人にとっては大得意の曲なのでしょう。そして圧倒的な音の乱舞する終結部の凄いこと!

この録音は、ムラヴィンスキーのコンチェルトの演奏というだけで希少価値が有りますが、ギレリスとの組み合わせが最高です。

ところで、このCDにはギドン・クレーメルが1970年のチャイコフスキー・コンクールに優勝した次の年のライブ演奏がカップリングされています。そちらについては、「チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 名盤」の記事に追記を行いました。ご興味が有りましたら、ご覧ください。

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チャイコフスキー(協奏曲)」カテゴリの記事

コメント

リヒテル・カラヤン盤が聴き始めでしたが、
アルゲリッチ・コンドラシン盤を聴いてからはコレがずっと決定盤でしたね。特に第3楽章は壮年期のリヒテルも真っ青になるぐらいの爆演で・・・(笑)。但し残念なのは録音がイマイチで音量レベルが低くヴォリュームを上げて聴かないといけないことでしたね。リヒテル盤は壮年期にしては大人しい印象で
物足りない気がします。ギレリスはライナー盤を持ってますが、彼の場合鋼鉄のピアニストのイメージとのギャップをいつも感じてインパクトが弱いですね。リヒテルのように解り易い迫力しか理解できないのが情けないのですが(笑)。

投稿: シーバード | 2013年3月 1日 (金) 09時21分

ハルくんさん、こんばんは。 チャイコフスキーの協奏曲では ヴァイオリン協奏曲が大好きで、良く聴くのですが、ピアノ協奏曲は何故かあまり聴いてません。CDは何枚か持っているのですけどね・・・(相性でしょうか?う~ん)。
もちろん アルゲリッチ/コンドラシン盤や 中村紘子/スヴェトーラノフ盤は素晴らしいと思いますが、なんか しっくり来ないんです。そんな私が 一番 心に響く演奏は リヒテル/ムラヴィンスキー盤です。
このCDは 1959年のモノラルなので 音は良いとは言えませんが、若き リヒテルの情熱が伝わって来て、後のカラヤンとの演奏より感動的です。
その 好サポートをしていたムラヴィンスキーが ギレリスと組んだ このCDも素晴らしいに違いありませんね。是非、聴いてみたいです。探してみますね。

投稿: ヨシツグカ | 2013年3月 1日 (金) 21時41分

シーバードさん、こんにちは。

アルゲリッチはデュトワ盤の方が録音は良いですが、コンドラシン盤もライブとしては良いと思いますよ。演奏はもちろん後者のほうが断然良いですね。

リヒテルのカラヤン盤は同感です。演奏が立派な割には熱くならないのですよね。

ギレリスはどれも好きですけど、熱さで言えば、メータ盤かムラヴィンスキー盤が良いですよ。

投稿: ハルくん | 2013年3月 2日 (土) 09時02分

ヨシツグカさん、こんにちは。

ヴァイオリン協奏曲とピアノ協奏曲ですか。僕は非常に迷うところです。どちらも溺愛しているので・・・(笑)

リヒテル/ムラヴィンスキー盤はかつて店頭試聴しましたが、録音もさることながら、余り良いと感じられなかったので見合わせたことがありました。でもヨシツグカさんが、そう言われるならば、もう一度ちゃんと聴いてみたいですね。ありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2013年3月 2日 (土) 09時15分

暑中お見舞い申し上げます。
m(_ _)m

余りの暑暑暑なので、大人しく部屋で納涼しながら音楽です。

拝読後ずーっと聴いてみたかった演奏で、ようやく入手できたRussian Disc盤は、鋼鉄の音ではなく、第1楽章は特に深奥に沈んでいきます。充分なピアノに比べ、伴奏はあくまで御供と言える音質です苦笑。

自分にはそのバランスもハマりました。ギレリスでこんな演奏を聴けるなんて...。

音質面では対照的感想なので、改めて拝読する限り、Master Tone盤が一般には評価されるのではないでしょうか。

アルゲリッチ/コンドラシンは、西独盤も95年ドイツ盤も、音質面で納得がいかず、ハマる演奏が欲しかったので大満足です。

ご紹介に感謝しています。

投稿: source man | 2018年7月15日 (日) 21時00分

終結部聞いてみました。
一瞬、ハンマーでピアノ叩いているのではと錯覚しました  ピアノ壊れそう 笑
拳でピアノ殴ってるのかも。。
YOUTUBEでマゼールとギレリスです。

投稿: pp | 2018年7月16日 (月) 09時19分

source manさん、こんにちは。暑中お見舞い申し上げます。

ホントに暑いですね。先の豪雨で被災された方々には痛手の追い打ちとなり心が痛みます。

Russian Disc盤を入手されたのですね。たぶん生々しさではRussian Disc盤が上ではないでしょうか。でも同じ英国のRegisとかのロシア原盤リマスターは聴きやすさが加わって悪くないです。

演奏も大変気に入られたとの事で嬉しいです!

投稿: ハルくん | 2018年7月16日 (月) 10時51分

ppさん、こんにちは。

なにしろ当時のギレリスのキャチコピーは「鋼鉄の音」ですからね。なんだか褒めてるようには聞こえないのですが特徴はよく表しています。
ただこの人はドイツものなんかは案外優しく弾いたりもしているので少々誤解の元になります。

投稿: ハルくん | 2018年7月16日 (月) 10時58分

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