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2013年3月

2013年3月29日 (金)

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第1番~第6番 作品18 名盤

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ベートーヴェンの作品ジャンルの金字塔と言えば、交響曲(9曲)、ピアノソナタ(32曲)、それに弦楽四重奏曲(16曲)の三つというのは、誰もが一致するところでしょう。ただ、僕にとって交響曲と並ぶ重要な存在であるのが弦楽四重奏曲です。その理由は多分、かつて自分がヴィオラを弾いていたので、どうしても弦楽器に対する思い入れが強いからだと思います。

外向的な性格の交響曲に対して、弦楽四重奏曲は極めて内向的な性格を持っています。これまでこのブログで一度も取り上げなかったのも、余りに深い領域に足を踏み入れるような気がして、中々手を出す気にならなかったからです。でも、それではいつになっても記事を書けませんからね。肩の力を抜いて書いてみることにします。ということで、しばらくはベートーヴェンの弦楽四重奏曲の特集です。

さて、良く知られている通り、ベートーヴェンの創作期は大きく3つに分れています。

-初期- 生れ故郷のボンからウィーンに移り住んでからの最初の10年間

-中期- 難聴となり自殺まで考えるものの不屈の精神で立ち直り、作曲に邁進する10年間(いわゆる「傑作の森」の時期)

-後期- 私生活における多くのトラブルに巻き込まれつつも、芸術的に益々深化していく晩年

弦楽四重奏曲は、1番から6番までが「初期」、7番から11番までが「中期」、12番から16番までが「後期」というように、はっきりと分かれていますので、それぞれの曲の位置づけが非常に分かり易いです。

このうち「初期」の1番から6番までの6曲については、1798年から1800年の2年間に集中して書かれていて、「作品18」として6曲をまとめた形で楽譜出版されました。まだまだハイドンやモーツァルトの影響を強く残していますし、あの中期以降の傑作群と比べてしまえば、どうしても物足りなさを感じます。でも、決して未熟だということでは無く、のちのベートーヴェン作品の芽をあちこちに聴くことが出来ます。また、熟達の演奏家用に書かれた中期以降の演奏難易度の高い作品とは違って、アマチュアの演奏家でも手を出す余地が残されているので、楽器の心得の有る人が集まれば、演奏を楽しむことも可能です。

6曲の実際に書かれた順番は、3番、1番、2番、5番、6番、4番という順番です。出版の際に順番を入れ替えたのは、ヴァイオリニストで友人でもあったシュパンツィッヒのアドヴァイスによるものだそうです。

この中では、最後に書かれた第4番だけが短調で、しかもハ短調というベートーヴェン的な調で書かれているので、悲壮感を伴う傑作として人気が高く、最もよく演奏されます。僕も大学オケ時代には、仲の良いメンバーとカルテットを組んで演奏を楽しんだことが有りました。特に魅力的なのは緊迫感と激しさを持つ1楽章と4楽章で、中々に初期の作品とは思えません。

次に演奏されることが多いのは第1番ですが、これは第2楽章のアダージョが非常に深刻な雰囲気を湛えていて、ベートーヴェン自身がこの楽章を「ロメオとジュリエットの墓場の場面を思い描いた」という逸話が残されているからでしょう。第4楽章の中間部では、「エロイカ」の終楽章によく似た音型が登場します。この作品は確かに魅力作です。

けれども、曲として一層充実していて飽きのこないのは、やはり第5番と第6番だと思います。

第5番では、美しいメヌエットの2楽章に続く、3楽章の長大なアンダンテ・カンタービレが傑作です。変奏形式ですが、穏やかな主題が変奏ごとに力強さを増してゆき、最後にはいかにもベートーヴェンらしい高らかな勝利の行進の歌となるのがユニークです。終楽章では「運命交響曲」の第1楽章の原型となるような音型が登場するのが面白いです。

第6番では、2楽章の悟ったような美しさと哀しみは中期以降を想わせます。終楽章に<メランコリー>と名付けた序奏を置くのもユニークで、完全にベートーヴェンそのものの独創性を感じます。この序奏は中間でも再び登場します。曲全体の和音と転調の魅力も素晴らしく、とても初期作品とは思えません。

残る第2番や第3番は地味ですが、これらも決してつまらない作品では有りません。
要するに、既に「ポスト・ハイドン&モーツァルト」であって「プリ・ベートーヴェン」という時期の作品として、尽きせぬ魅力を持っているのが作品18の6曲だと思います。

それでは、僕の愛聴盤をご紹介します。

474b3550lバリリ弦楽四重奏団(1952‐53年録音/MCAビクター盤) 有名なウエストミンスター録音の全集です。かつてはバリリかブダペストかと比較された栄光の時代が有りました。厳しい音のブダペストSQに対して、ウイーン的な柔らかい音を持つバリリSQは現在でも根強いファンを持っています。テンポは速過ぎず、遅過ぎず、常に中庸で、意外に解釈はスマートですが、メヌエットのトリオなどではゆったりと歌っていて本当に美しいです。どのメンバーの音からもウイーンの情緒がこぼれる辺りは伝統なのでしょう。機械的な息苦しさとは無縁の、心を癒される音楽がここにはあります。

90650dc0bfe3c81c14f641d351d90ca5ブダペスト弦楽四重奏団(1958年録音/CBS盤) 20世紀の最も偉大なカルテットである彼らはSP、モノラル、ステレオ各時代に全集録音を行なっています。この当時のブダペストSQは全員ロシア出身のメンバーで、アメリカに居住していましたが、演奏スタイルはハンガリー的というユニークな団体でした。彼らの重厚で彫が深く、厳しい音造りには畏怖心を覚えます。初期の作品も、まるで中期以降の作品のように聞えます。余りの真剣勝負の姿勢が辛口に過ぎるために、日常的に聴くには不向きかもしれません。当時のCBSのオンマイクで残響の少ない録音もそれを助長します。けれどもベートーヴェンの音楽に真剣に向かい合いたいと思った時には、彼ら以上の演奏は有りません。たとえ新しい団体がどれほどメカニカルな方向性で突き詰めたところで、とても越えられる音楽では無いからです。最初のSP時代の演奏も素晴らしいのですが、僕は最後のステレオ録音盤を好んでいます。

0031832bcゲヴァントハウス弦楽四重奏団(1967年録音/ETERNA盤) 当時の古色蒼然としたゲヴァントハウス管の音そのままの カルテットです。頑固で無愛想だし冗談を言ったりもしないけれど、本当は優しいドイツ親父のようなイメージです。第1Vnのゲルハルト・ボッセ教授は晩年は指揮者として知られていますが、当時はゲヴァントハウス管の名コンマスです。端正で禁欲的な音が素晴らしいです。第2Vnを弾いているのがカール・ズスケというのも豪華です。全体のアンサンブルは非常に堅牢ですが、少しもメカニカルな印象がしないのは、さすがにドイツの歴史ある団体です。

V4871ヴェーグ弦楽四重奏団(1973-74年録音/仏Naive盤) ウエストミンスターにウイーン・コンツェルトハウスSQの作品18が無いのが残念ですが、その代替えになるのがヴェーグSQです。この古き良き時代の田舎風の情緒満点の演奏と比べると、バリリSQの方がよほどスマートで都会的に聞こえます(あくまで比較の上の話)。第5番のアンダンテ・カンタービレの懐かしさは最高です。音に翳の濃いのはいかにもハンガリーですが、ブダペストSQを聴くのには緊張感を強いられますが、ヴェーグには心からの癒しを与えられます。どちらが好きということでは無く、両方ともかけがえのない演奏です。倍音のよく捉えられたアナログ的なリマスターですので余計レトロに感じられるのも幸いです。

51i52fglul__sl500_ss500_ズスケ弦楽四重奏団(1976-77年録音/Berlin Classics盤) 20代の頃に来日公演を聴きに行った頃は”ベルリン弦楽四重奏団”の名称でしたので、今でもその方が親しみが有ります。その時にも第4番を聴いた覚えが有りますが、ズスケの音はゲヴァントハウスのボッセに比べるとしなやかで、瑞々しさが優っていました。その美しい音がこのCDには忠実に捉えられています。ドイツといいながらも、ウイーンに近い柔らかい印象の音が魅力です。第2Vn以下のメンバーのレベルが高く、アンサンブルが優秀なので聴き応えが有ります。

G7138122wスメタナ弦楽四重奏団(1976-78年録音/DENON盤) 大学オケでヴィオラを弾いていた頃には、このメンバーのシュカンパさんの大ファンでした。生で聴いた彼らのチェコものやベートーヴェンの演奏は最高の思い出です。ですが、ベートーヴェンの作品18に関する限り、現在CDで改めて聴き直すと、少々爽やかに過ぎるように感じます。いくら初期の作品でも、もう少し個性を表に出して欲しかったかなぁというのが正直なところです。

D0021969_10143431アルバン・ベルク弦楽四重奏団(1980-81年録音/EMI盤) スメタナSQ時代に取って替わって一世を風靡した彼らのベストセラー全集です。ウイーン出身団体としての柔らかさも持ちますが、それよりも(録音当時は)新世代としての先鋭的な側面の印象を強く感じます。演奏表現のダイナミックレンジが広い割に、大ホールで聴くような遠い録音で楽器の微細が聴き取りにくいのが難点です。楽章ごとのテンポ設定にも幾らか不自然さを感じますし、少なくとも作品18に関しては特別な愛着を感じてはいません。但し、第6番だけは先鋭的な演奏が成功していて素晴らしい出来栄えです。この全集盤の欠点は、6曲があちこちに分散して収められているのが不便です。
尚、彼らには1989年のライブ録音による新盤が有りますが、録音は細部が明瞭で良いものの、演奏自体は「こんな風に演奏できるのだぞ」という表現意欲が旧盤以上に旺盛なので、少なくとも初期の作品については正直言ってわずらわしさを感じます。

61vvfzeifl__sl500_aa300_ウイーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団(1990-92年録音/PLATZ盤) ライナー・キュッヘルを中心としたウイーン・フィルの団体です。バリリSQの名盤以降に、ワルター・ウェラーやヘッツェルが成し得なかった全集を完成させてくれたのは意義深いです。同じウイーンの団体でもアルバン・ベルクSQの先鋭的な演奏とは異なり、あくまでもウイーンの伝統の色濃い演奏であり、そこが正に魅力です。ウイーン情緒に溢れた柔らかな弦楽器が紡ぎ合う響きの何という美しさでしょう。その割に第6番あたりはアルバン・ベルクSQを意識したのか、意外に先鋭的な面も見せています。録音も優秀ですし、日常的に聴くには最適だと思います。

Emersonbeethovenエマーソン弦楽四重奏団(1994-95年録音/グラモフォン盤) ライブ収録による全集盤からです。エマーソンというと、僕はいまだにエマーソン、レイク&パーマーを連想してしまいます(苦笑)。しかも、この演奏は、ウイーン情緒などには目もくれず、疾走するテンポと激しさが、あたかもELPの「タルカス」のようです。聴いていると、これは作品18では無くて中期以降の作品のように思えてくるほどです。第1ヴァイオリン以外の楽器も、極めて雄弁なことは特筆に値します。ライブというのも彼らの自信の表れでしょう。同じライブでも精緻さにおいてアルバン・ベルクSQを凌駕します。この演奏から連想するのはカルロス・クライバーのベートーヴェンですが、あれが好きな方は手放しで気に入られることと思います。自分はというと、少々とまどいを感じますが、反面彼らの演奏の中毒にかかりそうでもあります。

312ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(2003年録音/NCA盤) 全集盤からです。ボッセ時代から40年近くも経っているのですから、母体のオケも変わったように、音が変わっても当たり前です。それでも演奏のベースにはしっかりとドイツ的な堅牢さが有って、そこへアンサンブルの緻密さとダイナミズムをブレンドさせている印象です。これは新しい世代の素晴らしい演奏です。アルバン・ベルクSQがウイーン的なら、こちらはやはりドイツ的です。ずっと新しい録音だけあって音質も非常に優れています。

これ以外では、ディスクを手放してしまいましたが、セーケイ・ゾルターン率いるハンガリー弦楽四重奏団の演奏が案外良かったように記憶しています。これはもう一度聴き直してみたい気がします。

また第1番のみでは、あの偉大なブッシュ弦楽四重奏団のEMI録音が有ります。演奏の歴史において貴重な記録です。

ということで、作品18のマイ・フィヴァリットは、ブダペストSQ盤とヴェーグSQ盤のふたつです。もちろんバリリSQやズスケSQも忘れることは出来ません。
ただ、これでは「古い奴だ」と思われそうなので、新しい世代から、ウイーンの情緒と新しさが上手くブレンドされたウイーン・ムジークフェラインSQを選びます。

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2013年3月26日 (火)

合唱団アニモKAWASAKI バッハ「ヨハネ受難曲」演奏会のご紹介

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昨年、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」の演奏会を聴かせていただく機会の有った、川崎市の合唱団アニモKAWASAKIが、今年はJSバッハの「ヨハネ受難曲」を取り上げるそうです。あの偉大な「マタイ受難曲」にも劣らない作品であるにもかかわらず、マタイほどには聴かれていないのが惜しまれる大傑作です。実際に演奏される回数も少ないので、考えてみたら自分もこれまで生演奏では聴いたことが有りませんでした。ですので今回の演奏会をとても楽しみにしています。
オーケストラ演奏を行なうのが、やはり川崎で定期演奏会を開いているプロの東京交響楽団というのも嬉しいです。

実は、もうひとつ楽しみにしているのが、東日本大震災で被害を受けたためにホール内部の修復に長期間必要となり、ようやくリニューアル・オープンするミューズ川崎を、しばらくぶりに訪れることです。

演奏会の開催日は2013年6月8日(土)ですが、詳細についてはこちらをご参照ください。

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2013年3月22日 (金)

ブラームス ヴァイオリン協奏曲 リサ・バティアシュヴィリの新盤

Uccg1610m01dlリサ・バティアシュヴィリ(独奏)、クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2012年6月ドレスデン、ルカ教会で録音/グラモフォン盤)

リサ・バティアシュヴィリの演奏するシべリウスのヴァイオリン協奏曲のCDは、とても良いと思いました。でも、それだけなら新盤のブラームスを購入していたかどうかは分りません。ところが今回のオーケストラ伴奏は、クリスティアン・ティーレマンが指揮するシュターツカペレ・ドレスデンという豪華コンビなのです。ブラームスを演奏させたら比類の無い素晴らしさのSKドレスデンですが、この協奏曲のオケ伴奏をした録音というのは意外に少ないのです。これは期待が高まろうというものです。

さて、演奏を聴いてみた感想ですが、期待を大きく上回る素晴らしい演奏でした。

冒頭のホルンの音色からして既に違います。アルプスの山々に響くホルンの音を思わせます。そして、トゥッティになってもハーモニーの何と美しいことでしょう。ティーレマンのテンポが少々急き込んでいるのが気にはなりますが、オケの響きの余りの素晴らしさに許せます。長い序奏が終わると、いよいよヴァイオリンの登場ですが、バティアシュヴィリの溢れる気迫と情熱に強く惹きつけられます。シべリウスの演奏では美しさと優しさが前面に出ていましたが、今回は気迫の凄さが印象的です。それも正確な技術に裏付けされているので、とても安心して聴いていられます。ヴァイオリンの音色、そして重音の美しさは特筆ものです。非常に上手いヴァイオリンですが、どこまでも人間の温か味を感じさせる演奏です。メカニカルな冷たさは微塵も有りません。これはやはり彼女の人間性なのかもしれません。彼女の旦那様は名オーボエ奏者のフランソワ・ルルーですが、実にお目が高い。きっと彼女は優しい奥様に違いありません。ボクには判ります。

それにしても、これは完璧な演奏です。いくらスタジオ録音といっても、音程に僅かでもアヤしいところが全く有りません。それも音程が(機械的にではなく)「音楽的に」的確なことは、あのヘンリク・シェリングのようです。ですので重音や分散和音が本当に美しく耳に響きます。ハッタリでは無く、音楽そのものから充実感を引き出す点でも、シェリング的と言えそうです。女流奏者であれば、さしづめヨハンナ・マルツィというところでしょうか。

ところで、この楽章のカデンツァ部分では、舞台後方でティンパニがずっとヴァイオリンに合わせて叩き続けますが、とても雄弁でありユニークです。誰のものかと思ったらブゾーニの書いたものなのですね。どうりで珍しいわけです。

第2楽章でもSKDの美しさは際立っています。冒頭のオーボエ独奏は言葉にならないほどですが、続いてヴァイオリンが同じように美しく旋律を奏でるのも素晴らしい受け渡しです。この楽章でのヴァイオリンの歌いまわしや、オケの伴奏の素晴らしさは、これまで聴いたことが無いようにすら思えます。恐らくSKDという最高の名器が、ルカ教会という最高の響きの建物で演奏しているからでしょう。

そして第3楽章も白眉です。ザクセン風の堂々としたオケの響きとリズムが最高なのですが、それに乗るヴァイオリンが本当に立派です。ハッタリやこけおどしが少しも無いにもかかわらず、この充実仕切った演奏は何なのでしょう。
ブラームスはかつて、あるヴァイオリニストの演奏を聴いて、「あんなに綺麗に弾かなくて良いのにね。」と言ったそうです。きっとそれは、「この曲はジプシー風に激しく情熱的に弾くべきだよ」ということを言いたかったのでしょう。バティアシュヴィリの演奏は、充分過ぎるほど美しいですが、それでいて充分な迫力や情熱を持ち合わせています。ブラームスはきっと彼女の演奏に満足することと思います。ティーレマンのリズムのキレと重厚さを兼ね備えた指揮ぶりも本当に見事です。この人は、まだまだ出来栄えに凸凹は有りますが、ハマったときの演奏は実に素晴らしいです。

録音についても、旧東ドイツ時代から定評のあるルカ教会の深々とした残響を美しく捉えた素晴らしいものです。

ということで、ブラームスのこの協奏曲は過去に色々と聴いてきましたが、ことによると、これまでのマイ・フェイヴァリットであるシェリングとクーベリックのライブ盤(オルフェオ)をも凌駕しているかもしれません。ヴァイオリン独奏、オケの響き、録音、それら全てを総合すれば、そのように思います。

このCDのカップリング曲に選ばれたのは、ブラームスが「生涯で本当に愛したただ一人の女性」と称したクララ・シューマンの作曲である「ヴァイオリンとピアノのための3つのロマンス 作品22」です。選曲も粋なら、ピアノ伴奏をするのもアリス・沙良=オットーという粋な計らい。グラモフォンは力を入れてますね。間違いなく彼女はそれだけの逸材です。

<過去記事>
ブラームス ヴァイオリン協奏曲 名盤
ブラームス ヴァイオリン協奏曲 続・名盤(女神達の饗宴)
ブラームス ヴァイオリン協奏曲 続々・名盤(男祭り)

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2013年3月18日 (月)

らららクラシック 諏訪内晶子さま

WBC終わってしまいましたねー。(涙)
海を渡ったサムライたちも、いきなり大男のガンマンたちを相手にすると勝手が違い、平常心では戦えなかったのでしょう。残念ですが、ヴィクトリーへのジャーニーになるはずが、センチメンタル・ジャーニーとなってしまいました。でもアメリカも韓国も台湾も予選ラウンドで敗退した中で、日本は今回も決勝ラウンドに進んだことは評価されて良いと思います。

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さて、昨夜のNHKテレビ「らららクラシック」の録画を観ました。今回は滅多にテレビで見られない諏訪内晶子様の大特集だったのですね。彼女がプロデュースした国際音楽祭でのブラームスのピアノ・トリオのライブや、小学生のための公開レッスン、N響と共演した日本初演曲、そしてスタジオ・ライブと、盛り沢山の内容が1時間にギッシリ。さらにトークでは彼女がヴァイオリニストとなるまでのヒストリーの紹介とか、晶子ファンにはたまらない内容でした。

あのチャイコフスキー・コンクールのときの初々しかった女の子も、いまやアラフォー。すっかり艶っぽい女性になって、隠しきれないお肌の曲がり角が逆にオジサンの心を惹きつけます。いやぁ素敵だぁ。最近は仲道郁代様に傾いていたボクの心をグッと引き戻されました。あぁ、恋の板挟みはつらいわぁ・・・・

<諏訪内晶子さまのCD紹介>

チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 名盤
シベリウス ヴァイオリン協奏曲 名盤
ブルッフ スコットランド幻想曲 

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2013年3月16日 (土)

シューマン ピアノ協奏曲 続・名盤 ~リヒテルとグリモーの名演奏~

シューマンのピアノ協奏曲はロマン派らしい名曲だとは思うのですが、意外と演奏は難しく思います。というのは、ピアノが頑張れば何とでもなる古典派の曲とは違って、オーケストラの響きにも深い陰影が求められるからです。その典型がブラームスでありシューマンです。

オーケストラの深い響きに支えられて、始めてピアノは演奏の舞台を得られるのですが、この曲では結構退屈してしまう場合が多いです。この曲に心の底から感動できる演奏というのは、考えてみたらディヌ・リパッティ/アンセルメ盤ぐらいかもしれません。不治の病魔に侵されて残り少ない命の炎を燃やしながら、高熱にもかかわらずピアノに向かった、あの伝説のコンサートです。アルフレッド・コルトーやマルタ・アルゲリッチらの雄弁な演奏も印象的でしたが、それでもリパッティの感動には到底及ぶところでありません。

そのような訳から、この曲の新しい演奏にも興味が湧くことが少なくなってしまいましたが、ところがどっこい、二つの素晴らしい演奏に出会いました。今回はそれをご紹介します。

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スヴャトスラフ・リヒテル(Pf)、リッカルド・ムーティ指揮ウイーン・フィル(1972年録音/オルフェオ盤)

私見ではリヒテルはシューマンの演奏が一番です。にもかかわらず、これまでのこの協奏曲の録音には余り恵まれていません。オーケストラのレベルが低いか、適していないかのどちらかだったからです。その点で、このザルツブルク音楽祭のライブでは、若き才能溢れるムーティが指揮するウイーン・フィルという、かなり理想に近いコンビに恵まれました。

期待に違わず、1楽章からシューマン特有のロマンの世界に引きずり込まれます。録音、マスタリングとも申し分なく、リヒテル本来の美しく底光りする音が忠実に捉えられています。これでこそリヒテルの実力が生きてきます。これまでのリヒテルの残したシューマンの録音のベストのように思います。演奏についても、ゆったりと悠然とした構えで、けれどもエスプレーシヴォのところは充分に盛り上げています。ほの暗いロマン性の表出がなんと見事なことでしょう。ムーティの指揮も素晴らしく、ウイーン・フィルから同じように暗いロマンの音色を引き出しています。

2楽章の味わいも見事です。ともすると退屈になる楽章ですが、音色と雰囲気だけで充分に酔わされます。オーケストラの音は、シューマンの心の奥にある幸福感や不安の入り混じった複雑な感情をそのまま聴かせてくれているかのようです。

3楽章はゆったりとした恰幅の良い演奏で、若きシューマンの精神の高揚ぶりというよりは、ロマン派の王道を行くような貫禄に満ちています。音楽が一つグレードアップしたかのような威厳を感じます。もちろん決して情熱が失われてるわけではありません。リパッティの命を燃やし尽くすような凄まじい気迫とは異なりますが、充分に「熱さ」も感じます。

なお、このCDには別の日の演奏で、モーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのほうの「シンフォニア・コンツェルタンテ」K364が収められています。ゲルハルト・ヘッツェルの独奏が聴けるという貴重な録音です。

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エレーヌ・グリモー(Pf)、エサ・ペッカ=サロネン指揮シュターツカペレ・ドレスデン(2005年録音/グラモフォン盤)

これまでに何度も書いていますが、グリモーが若い頃にザンデルリンクの指揮で録音したブラームスのピアノ協奏曲第1番は奇跡的な名演奏でした。そして、ブラームス晩年の小品集も同じように素晴らしかったです。深いロマンを内包した彼女の音と表現はブラームスに一番向いているように思います。ですので、同傾向のシューマンの演奏が悪いはずがありません。

この演奏は決してピアノを弾き崩してドロドロにしているわけではありません。(そのようなスタイルではコルトーが最高です。)感情を豊かに表現しながらも、一定の節度を保ったうえで、シューマン独特のまだら模様の色彩を刻々と変化せているのです。少しも奇をてらう表現はしなくても、自然にシューマンの音楽が具現化できてしまうグリモーは、生粋のロマンティストだと思います。

この曲の録音はドレスデンのルカ教会で行われました。SKドレスデンの持ついぶし銀の響きを最も忠実に捉える、残響の豊かなあの教会です。サロネンの指揮は余計な事を全くしていません。それが良いのです。この古都のオーケストラは、自分たちの古雅な美音を自発的に出せる優秀な楽団だからです。シューマンのまだら模様の音色に何と見事に適合していることでしょうか。

このCDには「Reflections」とタイトルが付いていますが、この場合は「似ている人、あるいは思想、考え方」という意味に思います。カップリングされているのは、クララ・シューマンの歌曲3曲(歌うのはアンネ・ゾフィー・フォン・オットー)、ブラームスの「チェロ・ソナタ第1番」(チェロはトルルス・モルク)、それに「二つのラプソディー」作品79です。音楽的にも近似していたシューマンとその妻クララ、それにブラームスの3人は、私生活においても深い関係に有りました。その3人の曲を集めて1枚のコンセプトアルバムに仕上げるあたりのセンスの良さはさすがです。

メインのシューマンの協奏曲はもちろんですが、他の曲、とりわけブラームスの曲に感銘を受けました。チェロ・ソナタでの彼女のピアノは、翳の濃さがブラームス晩年の作品のような佇まいを醸し出していて、これまでに聴いた中でのベストです。「二つのラプソディー」でも、速いテンポで焦燥感に溢れますが、決して一本調子で無く複雑な精神的葛藤を見事に表しています。ラプソディックであることこの上ありません。この曲でも、やはりこれまでのベストに思います。それにしてもグリモーの弾くブラームスは何故これほどまでに素晴らしいのでしょう。いずれは、ピアノ協奏曲第2番を是非ともSKドレスデンと録音して貰いたいです。指揮者ですか?それはもう誰でも良いです。(笑)

リパッティ/アンセルメの伝説的ライブは別格としても、それに次ぐだけの出来栄えの素晴らしい名盤が加わりました。録音を考慮に入れれば、今後はこのリヒテルとグリモーの二つの演奏を第一にお勧めしたいと思います。

<過去記事>

シューマン ピアノ協奏曲 名盤
シューマン ピアノ協奏曲 続々・名盤

ブラームス ピアノ協奏曲第1番 名盤
ブラームス 晩年のピアノ小品集

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2013年3月13日 (水)

ジャーニー 「フロンティアーズ」 ~WBC三連覇への旅~

WBCが盛り上がっていますね。今回の大会には、日本は参加をするか、しないかとさんざんモメていましたが、いざ参加となれば、イマイチの下馬評も何のその、我が侍ジャパンは予選ラウンドを一位で勝ち上がって、いよいよアメリカでの決勝ラウンドに臨みます。自分は普段は野球中継はほとんど観ていないのですが、国際大会となれば話は別です。

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ところで、TV放送のテーマ曲として1980年代のロックバンド、ジャーニーの「セパレイト・ウェイズ(SEPARATE WAYS)」が、流されているので、すっかりハマってしまいました。この曲は、彼らの「フロンティアーズ」というアルバムに収められていて大ヒットしましたが、僕も当時はレコードを買って聴きました。当時、僕は20代でしたが、アマチュア・オーケストラ活動に飽きてしまい、替わりに熱中したのがテニスです。週末には仲間と車で山中湖や房総、軽井沢に出かけて、朝から晩までテニスをしました。そんな行き帰りにカーステレオで聴いたのが、当時流行ったTV「ベストヒットUSA」に出てくるような音楽です。特に好きだったのはホール&オーツでしたが、このジャーニーも好きでしたね。カルロス・サンタナのバンドの天才少年ギタリストとして話題になったニール・ショーンがサンタナを退団して、結成したのがジャーニーでした。

ジャーニーは1980年代に入ると大ブレイクしましたが、この「フロンティアーズ」のアルバムには、彼ら自身が最高の自信を持っていたということが納得できる、素晴らしい傑作ロック・アルバムです。
当時は、多様なロックが流行った時代でしたが、彼らのサウンドは1970年代から続くハードロックの正に王道を行く内容です。
この「フロンティアーズ」を久しぶりに聴きたくなって、CDを購入してしまいました。

「セパレイト・ウェイズ」は、愛し合った恋人同士が、離れて別々の道に行くという内容なので、どうしてWBCのテーマに使われているのかはよく分りません。単に、勇気の湧き起る曲なので使われただけなのかもしれません。でもまぁ、勝負の世界は、常に勝つか負けるかの分かれ道ですので、案外と番組に相応しいのかもしれませんね。
どちらにしても、この曲では重厚なバンドの音と、スティーヴ・ペリーのヴォーカルとニール・ショーンのギターが聴きものです。
他の曲もどれも名作揃いですが、バラードの「フェイスフリー(FAITHFULLY)」はほれぼれするほど美しい曲です。こういう曲を歌わせるとペリーが実に上手いです。

WEBサイトで、ジャーニーが1983年に日本武道館で行ったライブでの「セパレイト・ウェイズ」の映像を見つけましたのでリンクしておきます。メンバーのダサい衣装が、いかにも当時を想わせます。
懐かしくって、素晴らしくって、しばらくは車に乗るときはジャーニーを聴きそうです。

侍ジャパンも、WBC三連覇に向けて、ジャーニー・トゥ・ザ・ビクトリー(勝利への旅)だ。頑張れサムライ!

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2013年3月10日 (日)

カティア・ブニアティシヴィリのショパン・アルバム

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カティア・ブニアティシヴィリは、近年優れた演奏家を次々と世に送り出しているグルジア共和国の出身です。グルジアといえば、これまでならバレエのニーナ・アナニアシュヴィリぐらいしか思い浮かびませんでしたが、最近は色々な音楽家の名前が浮かびます。

ブニアティシヴィリは1987年生まれですので、まだ20代半ばですが、6歳からサイタルやオーケストラとの共演を行なっているそうです。
2003年のホロヴィッツ国際コンクールでは特別賞を、2008年のアルトゥール。ルービンシュタイン国際ピアノコンクールでは第3位と最優秀ショパン演奏賞を受賞しました。
彼女が音楽を勉強したのは自国の音楽学校ですから、きっとグルジアの音楽教育は優れているのでしょう。彼女はマルタ・アルゲリッチ、ギドン・クレーメル、パーヴォ・ヤルヴィ達から才能を認められていますので、これは本物です。

それにしても、彼女は溜息が出るほどに美しいですね。これでは映画女優にでもしたくなるほどです。しかも20代の半ばで、このお色気です!見るからに豊かで美しい胸と、肉感的な唇に思わず吸い込まれてゆきそうです。いえ僕の魂は、もうとっくに奪われています・・・(笑)
わが国の仲道郁代も飛び切りの美人ピアニストで、見ただけでもうっとりとしますが、ブニアティシヴィリの妖艶な美しさには身も心もとろけてしまいそうです。

それに加えて、彼女はピアノも実に魅力的です(どっちが主体なんだ?!)。クレーメルと共演したチャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出」での彼女の素晴らしさはご紹介済みですが、その後にリリースされたオール・ショパン・アルバムも抜群の出来栄えです。

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カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)、パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団(2011‐2012年録音/SONY盤)

―収録曲目―

1.ワルツ第7番嬰ハ短調 op.64-2
2.ピアノソナタ第2番変ロ長調 op.35「葬送」
3.バラード第4番ヘ短調 op.52
4.ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 op.21
5.マズルカ第13番イ短調 op.17-4

このアルバムは曲順がユニークです。もちろん中心となるのは、「葬送ソナタ」と「第2協奏曲」ですが、その前後と中間に、それぞれ「プレリュード」「インテルメッツォ」「アンコール」に相当する曲を配置しています。これが彼女本人のアイディアだとすれば、これはただものではありません。

演奏も極めて素晴らしく、チャイコフスキーのピアノ・トリオでの演奏と比べれば、自分の表現をずっと強く表に出しています。それは感性のほとばしりを感じる自由奔放な演奏で、テンポの変化やルバートが実に大胆です。そういう点では、アルゲリッチとよく似ていますが、若い頃のアルゲリッチほどの激しさや凄みはありません。アルゲリッチは完全な肉食系アマゾネスで、今にも食べられてしまいそうでしたが、ブニアティシヴィリには女性特有の感情の豊かさを感じますが、食べたくなる(?)のはあくまでこちらのほうです。(←意味不明でスミマセン)(汗)

彼女のピアノの打鍵そのものはしっかりしていますが、音が硬いとか強過ぎには感じません。音色は少しも冷たく無く、温かな肌のぬくもりが感じられるような美しい音です。現代に多いメカニカルなタイプの超人演奏家とは異なり、あくまでも人間的な優しさが感じられるタイプだと思います。

「葬送ソナタ」では自由な表現が魅力的で、地獄の深淵を覗かせるような怖さでは無く、大往生した祖母や祖父を温かく天国に送るような「愛情」を感じてしまいます。でも、決して迫力不足の微温的な演奏なのではありません。繰り返して聴いても飽きない面白さに満ちています。これまで愛聴しているこの曲の名盤の仲間入りするのは間違いありません。

「第2協奏曲」はパリでのライブ録音です。天下のパーヴォとパリ管のコンビがバックという豪華さです。これが20代前半の若手のライブかと思うほどに落ち着きがあり、しっとりとした抒情に溢れる演奏です。2楽章での美しさは特筆ものだと思います。3楽章の流れるような優美さも魅力です。一方、パーヴォはことさら自分が目立たないように温かく彼女をサポートしているという印象です。うーん、大人の男性だなぁ。

「バラード第4番」もとても素晴らしいです。「詩情」を充分に感じられる演奏であり、どの大家の演奏と比べても魅力的で遜色が無いように思います。

この素晴らしいショパン・アルバムは自分の愛聴盤になるでしょうし、彼女の他のショパンの曲の演奏も是非聴いてみたいものです。

ところで、やはりパーヴォと共演しているシューマンのコンチェルトの動画サイトを見つけました。ふくよかな胸(!)に目が釘付けになりますが、椅子に座るとお尻のほうにも目が行きます。若い頃から、あんまりグラマラスに過ぎるのも将来的にはどうかなと、いらぬ心配をしてしまいますが、ここはじっくりと見守ってゆきましょう。演奏のほうも中々に良かったような気がします。ついついナイス・バディに気が散ってしまって、集中して聴けてはいませんが・・・(笑)

<過去記事>
ショパン ピアノ・ソナタ第2番「葬送」 名盤
ショパン ピアノ・ソナタ第2番「葬送」 続・名盤

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2013年3月 7日 (木)

マーラー 交響曲第5番 テンシュテット/コンセルトへボウ管のライブ盤

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ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団アンソロジー第6集1990-2000

タイトル名の通り、アムステルダムのロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団による自主制作CDが出されています。同じ録音年代の名演奏をそれぞれCDセット化していて、既に第7集まで制作されましたが、どれも10枚を超える大物ですので、実はこれまで購入を躊躇っていました。

けれども、どうしても欲しかったのが、1990年から2000年に渡る演奏を集めた第6集です。その理由は、この中にクラウス・テンシュテットが1990年12月9日にコンセルトへボウで演奏したマーラーの交響曲第5番が含まれているからです。これまでは海賊盤でしか出ていなかった演奏なので、正規音源からの発売を心底渇望していました。自分にとっては、この演奏が収録されているのでこのセットを買ったようなものです。

マーラーの「劇場型」(「激情型」とも)タイプの演奏家として、テンシュテットはバーンスタインと双璧です。もちろん、ワルター、バルビローリ、クレンペラー、クーベリック、ノイマン、ベルティーニなども素晴らしいマーラーを聴かせてはくれますが、マーラーの音楽を溺愛していて、とことん音楽にのめり込みたくなる自分にとっては、バーンスタインとテンシュテットの二人は、やはり別格としてそそり立つ存在です。ただ、バーンスタインが特に晩年の演奏でユダヤ的に粘りに粘ったのとは異なり、テンシュテットは遅いテンポで非常に彫の深い演奏を聴かせても、そこにユダヤ的な粘りというものは有りません。

テンシュテットのマラ5には、手兵のロンドン・フィルとの演奏が幾つか正規盤として出ています。どの演奏も素晴らしいですし、特に1988年のロンドン・ライブ(EMI盤)は傑出したマーラーです。けれどもバーンスタインが名器ウイーン・フィルとグラモフォン盤、それにプロムスライブ盤の二つを残したのと比較すると、オーケストラの質の点でどうしてもハンディを感じざるを得ませんでした。唯一、海賊盤のコンセルトへボウ盤だけが、ウイーン・フィルと全く遜色の無い質の高い音を聴かせていました。確かに、熱気においてはロンドン・フィルのライブでの献身的な演奏が上回るのかもしれません。けれどもオケの上手さ、表現力という質の高さだけは如何ともしがたいのです。ここには「名演」を更に一段超えた上質な音楽が存在します。ですので、このコンセルトへボウ盤こそがテンシュテットのマラ5のベストだと思っています。あの北ドイツ放送響との「復活」(これもFirst Classicsの海賊盤でしたが、正規盤以上の高音質なので不満は有りません)は、テンシュテットの残した最大の遺産であり、間違い無くこの人のマーラーの全演奏のベストですが、このコンセルトへボウとの5番は、それに次ぐものとして極めて重要な記録です。やはりテンシュテットの真骨頂はライブに有ります。EMIのセッション録音による全集のみでは、この人のマーラーの凄さは半分も理解出来ないと思います。

ところで、このセットには他にも非常に興味をそそられる演奏が幾つも含まれています。ざっとご紹介してみますと。

バルトーク:歌劇『青ひげ公の城』
 イヴァン・フィッシャー(指揮)

ベートーヴェン:交響曲第6番『田園』
 ヴォルフガング・サヴァリッシュ(指揮)

シベリウス:交響曲第4番
 パーヴォ・ベルグルンド(指揮)

エルガー:交響曲第2番
 アンドレ・プレヴィン(指揮)

バルトーク:ピアノ協奏曲第3番
 マルタ・アルゲリッチ(P)
 クラウス・ペーター・フロール(指揮)

シェーンベルク:淨められた夜(弦楽合奏版)
 ピエール・ブーレーズ(指揮)

シューベルト:交響曲第8(9)番『グレイト』
 サー・ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)

モーツァルト:交響曲第40番
 ニコラウス・アーノンクール(指揮)

ブルックナー:交響曲第3番
 クルト・ザンデルリング(指揮)

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
 クルト・ザンデルリング(指揮)

特に興味の有るのはこんなところです。いずれも世界に冠たる名オーケストラであるコンセルトへボウ管の1990年以降の演奏を優秀録音で聴けるわけですから感謝です。それらについては、また別の機会にご紹介するつもりです。

<過去記事> 「マーラー 交響曲第5番 名盤」

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2013年3月 3日 (日)

マーラー 交響曲第9番 バーンスタイン/イスラエル・フィルのライブ盤

Israel_9レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィル(1985年録音/Helicon Classics盤)

僕は、自称ブラームジアーナーとして、ブラームスの音楽を心の底から愛していますが、同じように溺愛しているのがマーラーです。そのマーラーの曲で、どれか一つだけ選べと言われれば、ためらわずに選ぶのが交響曲第9番です。もちろん、アマチュアオケ団員時代に、この曲を演奏したことも影響しているかもしれません。でもそれを抜きにしても、やはり他のどの曲でも無く第9なのです。

その第9交響曲の演奏のなかで一番気に入っているのが、「劇場型」(「激情型」とも)マーラー演奏家として最高のレナード・バーンスタインです。もちろん人によっては、ワルターだ、ジュリーニだ、バルビローリだ、と色々と言われるでしょう。けれどもバーンスタインの洗礼を受けたファンにとっては、とてもとても比べものにならないほどの唯一無二の存在がバーンスタインの演奏です。

そのバーンスタインによるマーラーの第9交響曲については、正規録音として以下の4つの演奏がCD化されています。

1965年12月  ニューヨーク・フィル(スタジオ)
1979年10月  ベルリン・フィル(ライブ)
1985年5、6月 ロイヤル・コンセルトへボウ(ライブ)
1985年8月   イスラエル・フィル(ライブ)

(この他に、1971年3月のウイーン・フィルとのライブも存在しますが、ビデオ収録のみです)

このうち、バーンスタインのマラ9のベスト演奏はどれかと言えば、自分としてはコンセルトへボウ盤(グラモフォン)を上げますが、ベルリン・フィル盤(グラモフォン)を上げる方も居ます。ただ、最初のニューヨーク・フィル盤(CBS)を上げる人は少なそうです。

そんなバーンスタインのマラ9で最近リリースされたのが、最後のイスラエル・フィル盤で、本拠地のテルアビブでのライブ録音です。何となくグラモフォンのジャケット・デザインを彷彿させますが、実際にはイスラエル・フィルの自主レーベル「Helicon Classics」が制作したものです。録音スタッフも全てイスラエル人のようです。

実はこのコンサートの翌月に、彼らは日本でコンサート・ツアーを行なって、マラ9を4度演奏しました。古いマーラーファンには伝説となっているコンサートです。残念ながら僕はそれを聴いていませんが、当時それを聴いた人の話では、空前絶後の凄演だったそうです。その日本のコンサートを想像できるCDとしてはとても貴重だと思います。

さて、肝心の演奏内容ですが、多くのCDレヴューを読むと賛否両論で興味深いです。ある人は「過去の全ての演奏を凌ぐ」と書いていますし、「大したことない」と書いている人も居ます。僕には、そのどれもが本当だろうと思います。少なくとも、書き手にとっては、その人の書いた通りなのです。ですので、これから書く感想も、あくまで僕一人の感想でしかありません。

これまでの演奏と比べて、最もユダヤ的な演奏に感じます。第二次大戦前のウイーン・フィルが、どうしてあれほど甘く柔らかい音を出せていたかと言えば、ユダヤ人が多く在籍していたからだそうです。長い指を持つユダヤ人が弾くヴァイオリンの音の特徴なのですって。イスラエル・フィルにはそれと共通した魅力を感じます。とにかく甘く柔らかく、そして粘ります。それがマーラーの音楽との同質性を感じさせます。それは、ユダヤ系の指揮者と、それ以外の民族の指揮者が演奏するマーラーの確かな違いとも言えます。従って、バーンスタインの指揮したマラ9は全てが魅力に溢れてて感動的です。もちろん、この演奏も同じです。最も顕著なのが第4楽章で、弦楽の息の長い旋律を、粘りに粘って弾いています。こういうのが苦手の人には抵抗が有るでしょうね。でも僕は大好きなのです。魂の没入度では一番かもしれません。バーンスタインの足音がひときわ大きく聞こえますし(笑)。この楽章を聴くだけでも価値が有ると思います。但し、それまでの楽章について言えば、特に管楽器全体の質とミスがかなり多いのがマイナスです。実演で聴けば気にならないようなことでも、CDで聴く場合は気にならないと言えば嘘になります。ですので、ディスクとして聴く限りは、やはりコンセルトへボウ盤がベストです。恐らく、このCDを聴かなくても困らなかったとは思いますが、聴いたことを後悔はしていません。聴いて良かったと思っています。
もっとも、他の人に「このCDを聴くべきか、聴くべきでないか?」と尋ねられても答えられません。その答えは「その人が聴きたいと思えば聴くべき」でしかないからです。

<過去記事> マーラー 交響曲第9番 名盤

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2013年3月 1日 (金)

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 ギレリス/ムラヴィンスキー盤

旧ソヴィエト時代の名ピアニスであったエミール・ギレリスは、我が国でも知られるようになった頃に、日本の記者のインタビューに答えて、「ソヴィエトには私よりも素晴らしいピアニストが居ます。それはスヴャトスラフ・リヒテルです。」と言ったそうです。それは本心からの言葉だと思いますし、確かに好調時のリヒテルの霊感に満ちた演奏に比べると、ギレリスは常に「努力型の名演奏」というように感じられるからです。例えば僕はこの人の弾くドイツものには余り感銘を受けたことがありませんし、霊感からも遠いと思っています。ところが、どういうわけかチャイコフスキーを弾く時には、リヒテルを凌ぐほどの名演奏をします。

過去の記事「チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 名盤」の中で、フリッツ・ライナー/シカゴ響との演奏と、ズービン・メータ/ニューヨーク・フィルとの演奏をご紹介しましたが、この曲に関しては真っ先に上げたい愛聴盤です。

それとは別に、今回ご紹介したいのは、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルと共演した1971年録音のライブ盤です。以前にもRussian Discから発売されていましたが、僕が入手したのは英Master Toneレーベル盤です。初めて聴きましたが、想像以上に良くて非常に気に入りました。

51zdwyktgelエミール・ギレリス(Pf)、エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(1971年録音/英Master Tone Multimedia盤)

Russian Disc盤とどちらの音が良いかは比べていませんが、良好な音です。ピアノパートとオーケストラの音の両方が明瞭で、バランス的にも問題がありません。一応ステレオ録音のようです。強いて言えば、高音域にイコライジングを施したような強調感とざらつきが有りますが、昔のライブ録音ということを考えれば、これは大目に見るべきかもしれません。

さて、肝心の演奏ですが、メータ盤の時には随分伸び伸びと演奏している印象でしたが、ここでは始めのうち、どことなく窮屈に弾いているような印象を受けます。一つにはムラヴィンスキーのテンポが遅めであることと、余りに毅然とした指揮ぶりに影響されているのかもしれません。それでも、いつもと変わらぬ力強い打鍵の「鋼鉄の音」は健在です。表現も少しも女々しさを感じさせない、男の中の男のチャイコフスキー、そんな感じです。「どうだワイルドだろう~」って、ここにもロシアのスギちゃんが居ました。(笑) 実際、第1楽章の中間あたりからムラヴィンスキーともども、緊張感がみるみる高まってきて、凄みを増してきます。チャイコフスキーのシンフォニーで聴かせてくれる、あのレニングラード・フィルの鋼のような音が鳴り響きます。そういう点では、ギレリスとレニングラード・フィルの音はよくマッチします。弦楽合奏の切れ味の鋭さは、名刀村正のごとくです。木管のピッチがやや不揃いのように聞こえますが、特別に気になるレベルではありません。

第2楽章では一転して、冬のロシアの情緒がこぼれます。ベタベタしないのに空気感を醸し出すのはさすがに自国の演奏家です。

第3楽章はギレリスの独壇場です。激しく刻むリズムがコケたり、のめったりすることはありません。白熱しているにもかかわらず安定感を感じます。やはりこの人にとっては大得意の曲なのでしょう。そして圧倒的な音の乱舞する終結部の凄いこと!

この録音は、ムラヴィンスキーのコンチェルトの演奏というだけで希少価値が有りますが、ギレリスとの組み合わせが最高です。

ところで、このCDにはギドン・クレーメルが1970年のチャイコフスキー・コンクールに優勝した次の年のライブ演奏がカップリングされています。そちらについては、「チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 名盤」の記事に追記を行いました。ご興味が有りましたら、ご覧ください。

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