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2013年2月15日 (金)

若き日のオッコ・カムのシベリウス ~カム・バック・プリーズ!~

毎年同じことを言っているような気がしますが、春が近づく頃になると北欧の音楽、とりわけシベリウスが聴きたくなります。真冬にではありません。といって春にでもありません。もう少しで春が訪れるという、まさにその頃なのです。北国の人が感じるであろう「春への期待」が最も強く感じられる季節だからです。

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シベリウスの交響曲は全7曲のどれもが最高に好きなので、愛聴盤も多く有りますが、基本的にはフィンランドの演奏家のものが一番しっくり来ます。その中に、ヘルシンキ・フィルハーモニーが1982年に初来日した時に、オッコ・カムと渡邊暁雄が二人で指揮をしたシベリウス・チクルスのライブ録音盤が有ります。個人的には最も好きな全曲録音盤の一つです。当時それを東京FMで聴いて、シベリウスの音楽に目覚めるきっかけとなった、大変に想い出深い演奏でも有るのです。

フィンランド出身の名指揮者は多く存在して、名匠パーヴォ・ベルグルンド亡き後も、サロネン、サラステ、セーゲルスタム、ヴァンスカ、オラモ、などの面々が大活躍しています。そんな中で、オッコ・カムだけがどうも地味で余り目立ちません。フィンランド中心に活動していて、日本にも随分来ているにもかかわらずです。

1946年生まれの彼は、元々ヴァイオリニストとしてスタートしましたが、20歳を待たずにヘルシンキ・フィルに入団し、まもなくフィンランド歌劇場のコンサートマスターに就任するほどの名手でした。ところが指揮は独学にもかかわらず、僅か23歳の1969年に、第一回カラヤン国際指揮者コンクールで第一位となったのです。そして、ご褒美に独グラモフォンにシベリウスの交響曲を録音することになりました。元々、カラヤンが1965年から67年にかけて4番から7番までの録音を行っていましたが、何故か中断していました。その残された1番から3番だけをカムが録音することになったために、何となく妙な全集が出来上がりました。

その全集は、カラヤンの指揮した4番以降は、音に美しく磨きをかけたカラヤン流の演奏で、決して悪いということではありませんが、少々ムード的に流れていて、透徹したシベリウス本来の音楽とは幾らかのギャップを感じてしまいます。一方、カムの指揮した3番までの曲では、もっと自然なシベリウスの本質を捕えた演奏が聞こえて来ます。そこで、このカムの指揮した3曲について改めて聴き直してみることにします。

シベリウス 交響曲第2番

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オッコ・カム指揮ベルリン・フィル(1970年録音/グラモフォン盤)

記念すべきコンクールの翌年に最初に録音されたのが第2番です。新人指揮者とは思えない堂々とした指揮ぶりに感心します。ハッタリが微塵も無い純粋なシベリウスの音楽が感じられます。カラヤンの演奏に感じる僅かなギャップを感じることは有りません。但し、問題が有るとすればベルリン・フィルの出す音です。まず第一に、金管の強奏が少々羽目を外しています。バリバリと咆哮する音がシベリウスの美感を損ねています。第二には、弦楽にカラヤンの演奏で聞かれたポルタメント気味の弾き方がしばしば顔を出すことです。来日公演の際のヘルシンキ・フィルでは、このような弾き方は見られないので、これはベルリン・フィルの奏法なのでしょう。コンサートマスターまで経験したカムといえども、新人の身分で天下のベルリン・フィルの弾き方は変えられなかったのだと推察します。従って、良い演奏ではあるのですが、手放しで絶賛することは出来ません。

シベリウス 交響曲第1番/第3番

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オッコ・カム指揮ヘルシンキ放送響(1972年録音/グラモフォン盤)

2番はそのままベルリン・フィルと録音しましたが、続く1番、3番では、なぜかフィンランドのオーケストラに変わりました。ヘルシンキ放送響というのは、どうやらヘルシンキにあるフィンランド放送響のようです。ますます妙な全集となりましたが、変更理由はどこにも記されていません。これは恐らく、ベルリン・フィルではシベリウスの本当の音は出せないとカムが判断したからだと推察します。そこで自国のオケを使うという賭けに出たのではないでしょうか。その結果、本当に素晴らしい演奏となりました。第1番は日本ライブでは渡邊暁雄が指揮しましたので、ここでカムの演奏を聴くことが出来ます。この曲はロシアあたりのオケが演奏すると、往々に金管が大咆哮するものですが、そんなことは決してしません。冒頭からロシアの荒涼とした大地では無く、フィンランドの深い森が想い起されます。2楽章での木管の音色や歌いまわしも実に自然であり、シベリウス特有の寡黙な美しさを感じます。続く3、4楽章でフォルテシモになっても、ある程度抑制を伴った音が響いて来ます。それはもちろん迫力不足ということではなく、ただ過剰にならないだけなのです。

第3番の演奏も、やはり同じ傾向で、派手さの無い素朴な音が、1番よりも更にこの曲に適しています。1楽章で刻まれるリズムは機械的では無く、手造り的な温か味を感じます。2楽章の民謡調の雰囲気も本当に心に浸み渡ります。3楽章の節度の有る盛り上がりもまったくもって的を得ています。

カムの指揮には、全体的に余り神経質にならない大らかさを感じます。ロマンティックな傾向も強いと思います。但し、それはあくまで控えめな北欧の音楽の範囲であり、節度を保った素晴らしい演奏なのです。1番と3番に関しては、来日ライブの名演奏と比べても充分に魅力的であり、他の名盤達の中に有って、少しも輝きを失わない魅力的な演奏だと思います。若い頃から素晴らしいシベリウスを演奏していたとつくづく認識させられます。

この素晴らしい1番と3番のCDは残念なことに、現在単独では発売されていません。1番~3番の2枚組ディスクも有りましたが既に廃盤です。入手するためには全集を購入するしか無いのですが、廉価盤ですし、カラヤンの4番以降の演奏も人によっては好まれるでしょうから、悪くないと思います。

地道な活動の時期を経て、カムは、最近ようやくフィンランドの名オーケストラであるラハティ交響楽団の首席指揮者に就任しました。既に管弦楽曲のCDを1枚録音しましたが、是非ともこのオーケストラと、交響曲全集を録音して欲しいものです。

カムよ、どうか楽壇の表舞台に再び戻って来てくれ!
カム・バック・プリーズ!

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シベリウス(交響曲)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんばんは。 シベリウスの交響曲の中で、私が"早春"をイメージする作品は 第3番と第4番です。
特に第4番は、まだ寒さが厳しく 春とは名ばかりの立春の頃の感じがします。それでも"春"は少しずつでも確実に近づいている・・・そんなイメージでしょうか。
ヘルシンキ・フィルの'82年日本ライブの全集盤は素晴らしいですね。私は カムが指揮をした第3番と第6番がお気に入りの演奏になっています。
いつか、カムの指揮で、第4番を聴いてみたいですね。

投稿: ヨシツグカ | 2013年2月16日 (土) 23時26分

ハルくん様

morokomanです。

おおお~! 今回はカムだぁ~! 
(^O^)← 喜びの顔

ありがとうございます。カム大好きなんですよ~! (感涙)


>そんな中で、オッコ・カムだけがどうも地味で余り目立ちません。フィンランド中心に活動していて、日本にも随分来ているにもかかわらずです。


その通りです……(大泣き)。

これはどうにも、彼自身、有名どころの曲を熱心にレコーディングしていないことが関係しているようです。

ナクソスなどには結構CDを出しているのですが、フィンランドの現代作曲家を取り上げたものが多いです。

アウリス・サリネンという作曲家が中心で、この人はシベリウス以降、フィンランドでは最も国際的な名声を勝ち得つつある、と言われている人物です。

聴いてみると非常に聴きやすい。いわゆる『現代音楽』ではなく、シベリウスを現代の感覚に合うようにリニューアルした雰囲気の曲が中心です。

カム自身、『シベリウス指揮者』としてひとくくりにされるところに抵抗を感じているのか、「録音に恵まれない曲、特にフィンランドの他の作曲家を取り上げる」という意識をもっているようです。

とりわけこのサリネンには愛着を感じているようで、「シベリウスにとってのカヤヌス」のような立場になろうとしているのではないか、などと想像してしまいます。ちなみにサリネンは確か存命中だと思います。

ですが、シベリウスに比べればまだまだサリネンや他のフィンランドの作曲家は小物……なので、結果としてカムが目立たない立場に置かれてしまっている、というのが原因の一つなのかもしれません。

今回ご紹介のCD、二つとも持っています。私の宝のひとつです。とりわけ1番&3番は本当にお薦めです! フィンランドの「大気」のような、押し付けがましくない爽やかな叙情が持ち味で、この人の特徴ですね。

まだ持っておられない、でも関心のある方は中古で出ていたら即、買うべきだと思います。

それに比べれば、第2はベルリン・フィルの個性の強さが勝っていると感じます。オーケストラはさすがに凄いの一言ですが、シベリウスとなるとちょっと違うような……。(これは後年、カラヤンがEMIに録音をした一連の演奏で、更に顕著に感じるようになりました)

もっと書きたいのですが、あまり長くなりすぎると良くないので、今回はこのへんで。

そうそう、BISでラハティ響を使ってシベリウスの交響曲&管弦楽曲のCDを出し始めました。ハルくん様はじめ、ご存知の方も多いかと思います。


祝! 復活!!  ですね。(^^)


ぜひ父ヤルヴィのように一通り完成させて欲しいです。

投稿: morokoman | 2013年2月17日 (日) 00時16分

ヨシツグカさん、こんにちは。

カム良いですよね!
'82日本LIVEは渡邊暁雄を含めて本当に素晴らしい演奏ばかりだと思います。

僕もカムの4番は是非とも聴きたいです。
新任のラハティ響と、きっと実現してくれることと思います。楽しみですね。

投稿: ハルくん | 2013年2月17日 (日) 09時19分

morokomanさん、こんにちは。

ロマンティックな要素の強いカムは、ベルグルンドのような透徹し切った演奏とはやや異なりますが、そこがこの人の魅力だと思います。僕も大好きですよ。
この1番&3番の素晴らしさに、ご同意頂けて嬉しいです。2番については全く同じ考えです。記事にも書きましたがシベリウスの音とはちょっと異なりますね。

自国の無名の作曲家の紹介に力を入れるのは、もちろん良いのですが、シベリウスの交響曲はフィンにとってはベートーヴェンの交響曲全集と同じですから、避ける訳には行きませんからね。今後のラハティ響との録音が本当に楽しみです。

確かにカラヤンのEMI録音のシベリウスは頂けないですね。DG録音の方がまだずっとマシだと思います。

サリネンは「フィンランド管弦楽曲集」というCDに収められている「サンライズセレナーデ」ぐらいしか知りません。まともなシンフォニーを聴いてみたいですね。ありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2013年2月17日 (日) 09時33分

シベリウスの熱心な聴き手でないのでコメントする資格はありませんが(笑)、第7番は好きでカラヤン・BPOで時に聴きますね。
第2番はセルの来日公演ライヴを通して聴く時ぐらいかな。シベリウスの醍醐味を味わえるように早くなりたいと思ってはいるのですが、ショスタコーヴィチと同じで挫折してしまいますね(笑)。

投稿: シーバード | 2013年2月18日 (月) 11時35分

シーバードさん、こんにちは。

シベリウスの7番がお好きであれば、5番、6番なんかは直ぐに気に入ると思います。
ショスタコの音楽は本当に人それぞれの好みだと思いますが、シベリウスはベートーヴェンやブルックナーのように幅広い聴き手に受け入れられる普遍性を持っています。
聴きこめば、きっと誰でも理解できると思います。

投稿: ハルくん | 2013年2月18日 (月) 22時00分

こんにちは、長らくごぶさたしておりました。2カ月近く入院し、1カ月の自宅療養の後、1日から職場復帰しました。といってもまだ移植した頸椎を固定しており、手足の痛み不自由もあって、リハビリ通院しながらですが。

PCを使えるようになったのも先週なので、この日記でオッコ・カムの記事を見つけとてもうれしく思いました。1982年来日の時は東京文化まで聴きに行きましたよ。2番と5番だったでしょうか、ほんとうに感動しました。

実は、手術後の苦しい中で生きる勇気を湧き上がらせるために、あらかじめ病床にシベリウスのCDをたくさん持ち込みました。その一枚がカムの2番です。4楽章を繰り返し聴きながら故郷北海道の白い情景を思い起こし、涙を流しながら(比喩ではない)負けるもんか生きてやる!と気力を振り絞りました。クリスマスからお正月にかけては日本列島もけっこう寒かったようですが、私の心には地吹雪が荒れ狂っていました。

その甲斐あって、いまは一応ふつうに歩けるまでになりました。音楽の力はすばらしいですね。余談ですが「春の歌」という小品も好きです。「ハルくんの歌」ではありませんが・・・

投稿: かげっち | 2013年3月 4日 (月) 12時30分

かげっちさん、お帰りなさい!
手術の結果がとても気になっていましたが、こうして久しぶりに書き込みを頂けて安心しました。何よりも嬉しい便りです。
まだまだ不自由で大変だとは思いますが、シベリウスの2番終楽章の雪と氷を解かすかのような勝利の歌とともに頑張って下さい。

82年のコンサートを聴かれていましたか。自分は生でこそ聴きませんでしたが、FM放送で聴いて感動しました。記事でも書きましたが、シべリウス開眼のきっかけとなった演奏です。今、CDで聴き直しても本当に素晴らしいですね。

投稿: ハルくん | 2013年3月 4日 (月) 22時48分

ハルくん様 

久方ぶりです。morokomanです。(^^)

私にとって感涙ものの北欧音楽シリーズが一段落して一箇月以上が経過しました。このシリーズとのやりとりで改めて「自分が軸足を置くべき音楽の場は北欧(特にフィンランド)にあり! 」という思いを再確認しました。

北欧音楽シリーズが終わった後、私と言えばあいも変わらずシベ5三昧の日々を送っております。昨年の秋に、あるシベ5CDを入手した後、この曲の魅力に改めて開眼いたしました(それまでは6と7が中心でした)。

それから後はシベ5が主体となった日々をおくっております。その合間に例えばザンデルリンクのブラ1やプリムローズのヴィオラ・ソナタなどを聴いているわけです。

オッコ・カム/ヘルシンキ・フィルの演奏は、様々な録音をとっかえひっかえ聴きまくっている中で、やはり「格別の名演!」との認識を新たにしています。

個人的には、今まで最高だと思っていたベルグルンド/ヘルシンキ・フィルよりも好きになってしまいました。ベルグルンド盤は透徹しきっているがために、却ってあまりにも人間界から遠い世界のように聴こえてしまいますので(ベルグルンド盤が最高! という評価こそ変わりませんが)。

カム盤は劇的な起伏もあり、さりとて強奏のあまり音楽を壊してしまうことがなく、バランス的にも非常に優れています。

更に、あの彼独特の「大気感」-カムは私に言わせてもらえば「カレヴァラに登場する大気の乙女-ルオンノタールに愛されし者」だと考えております。この人の演奏で感じる独特の空気感、大気感、押し付けがましくない、柔らかい大気にもわっと包まれるような感覚は、他の指揮者よりもより顕著に感じられます。

ルオンノタールがカムに力を貸してくれるのではないか、などとアホなことを連想してしまうほどです。

新しいBIS盤、SACDのためまだ入手しておりません。これって通常のCDプレーヤーで再生できるのでしょうか? 不安が先立ち、購入をためらってしまうのです。しかも価格が高いし……。

それはともかく、パワーアップしたカムに、再びルオンノタールが力を与えてくれることを望むばかりです。

お約束の『プリムローズ/ブラームス ヴィオラ・ソナタ』の感想は、今しばらくお待ちください。ブラームスの作品は、人生の味と共に噛み締めるもの……。理解するのに、やはり時間がかかりますね。(^^;)

投稿: morokoman | 2013年4月13日 (土) 22時21分

morokomanさん、こんにちは。
お久しぶりです。

最近のオッコ・カムは聴いていませんが、かつてのグラモフォン録音や日本ライブは本当にイイですね。僕も大好きです。
ロマンティックで大胆なのですが、シベリウスの音楽を決してはみ出さない安心感があります。セーゲルスタムやヴァンスカだと、時々はみ出さないかなと不安に成ることが有りますが、それが有りません。
むしろヤルヴィの新盤が一番カムに近いのかもしれません。
ただ、最近の演奏はどうなのでしょうね。SACD盤もSACD/CDのハイブリッド盤ならCDプレイヤーで再生できますよ。ただしSACDのシングルレイヤー盤だとCDプレイヤーでは再生できません。

プリムローズ/ブラームス・ヴィオラソナタ盤の方のご感想も楽しみにお待ちしていますね。

投稿: ハルくん | 2013年4月14日 (日) 11時42分

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