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2013年1月26日 (土)

チャイコフスキー ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出」 クレーメル新盤

ロシアと言えば、やはりチャイコフスキーでしょう。この人は、管弦楽曲や協奏曲のイメージが強いですが、室内楽にも弦楽四重奏曲「アンダンテ・カンタービレつき」や、ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出」という傑作が有ります。特に後者は、ピアノ・トリオのジャンルでは、ブラームスの第3番と並んで最も好きな曲です。ビル・エヴァンスのピアノ・トリオも好きですが、これはちょっと違いますね。(苦笑)

この曲については、随分前になりますが、「偉大な芸術家の想い出 名盤」、それに「偉大な芸術家の想い出 もうひとつの名盤」 と二度記事にしました。その中で、マイ・フェイヴァリット盤として、コーガン、ロストロポーヴィチ&ギレリス盤と、オイストラフ、クヌシェヴィツキ―&オボーリン盤の2つを双璧としてご紹介しています。もちろん、それは現在も変わることはありませんが、一昨年リリースされたクレーメルの新しいディスクを聴いてみたところ、非常に素晴らしかったです。実は、このブログのお友達のNYさんが昨年11月に同じメンバーの生演奏をお聴きになられて、それがとても素晴らしかったと教えて頂いたので、せめてCDで聴いてみたいと思いました。

712csnkgxbl__aa1500__2チャイコフスキー「偉大な芸術家の想い出」(2011年録音/ECM盤)

演奏メンバーは、ヴァイオリンがギドン・クレーメル、チェロがギードレ・ディルヴァナウスカイテ、ピアノがカティア・ブニアティシヴィリ、という3人です。

クレーメルについては今更何をいわんやですが、この曲の演奏を10年以上前にアルゲリッチ、マイスキーと組んだ日本公演で聴いたことが有ります。豪華なメンバーでしたが、アルゲリッチの自由奔放さが過度に感じられて、今一つ好きになれなかったのは旧記事に書いた通りです。

今回の新盤のメンバーでは、ピアノのブニアティシヴィリは最近話題のピアニストです。目がくらむほどの美人ですが、彼女のショパン・アルバムは肝心の演奏のほうも非常に才能を感じさせます。そちらについては別の機会に記事にする予定です。

チェロのディルヴァナウスカイテのことは良く知りませんが、やはり実力者なのでしょう。クレーメルとは、しばしば共演しているようです。

ということで、演奏を聴いてみました。

冒頭、ピアノ伴奏が静かに入ってきます。それに続くチェロの旋律は最高に美しい一つですが、とても静かに奏されます。おや、と思うと、ヴァイオリンもやはり同じように静かに歌います。3人が絡み合うようになっても相変わらず同じように演奏されます。ああ、これは心の奥底に沈みこむような表現だな、と思いました。通常は、ずっと表情豊かに歌われることが多いからです。けれども、この控え目の表現が逆に哀しみを誘います。

3人ではブニアティシヴィリのちょっとした表情の変化が一番目につきます。それでもアルゲリッチのようなやり過ぎ感は無いので、抵抗は有りません。むしろセンスの豊かさに惹かれます(美貌にだけでは無いぞ)。クレーメルのヴァイオリンの音は美しく、表現も旧盤でのアルゲリッチに無理に対抗するような力みは感じられません。クレーメルが自然体で気持ちよく弾いている(あのビミューな)顔つきが目に浮かびます。ディルヴァナウスカイテのチェロも実に上手いです。派手さは無いですが、美しい音で全く過不足無く弾いています。

3人のテクニックは優秀で、アンサンブルも素晴らしいですが、音のからみ合いに何とも言えぬしっとり感を感じます。調和のとれた演奏ですが、かといって物足りなさを感じることは有りませんし、内面的な聴きごたえを充分に感じます。

第二部の変奏曲では曲が進むにつれて、少しづつ少しづつ気分が高まってゆくのが見事です。ここでも、一気に頂上へ駆け登って、また下り、上がるようなジェットコースター型の演奏とは異なり、本当に見通しの良い、フィナーレまでをじっくりと見据えた演奏だと思います。それに何よりも、ロシアの土地の空気感を感じさせてくれるのが嬉しいです。それが感じられないチャイコフスキーは正直言って苦手ですので。

これは素晴らしい演奏だと思います。優秀録音のCDとしてベストであるばかりではなく、マイ・フェイヴァリット盤に文句なく仲間入りします。
今更ながら、彼らの生演奏を聴けなかったのが残念です。それにブニアティシヴィリの美貌をこの目で確かめたかったなぁ・・・・。

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チャイコフスキー(室内楽)」カテゴリの記事

コメント

ハルくんさん、こんにちは。 チャイコフスキーの室内楽では、弦楽四重奏曲第1番を ボロディン四重奏団で良く聴いていますが、ピアノ三重奏曲は なかなか気に入った演奏が見つからないので(コーガン盤とオイストラフ盤は 今、捜索中です(笑)) しばらく聴いていません。
一応 チョン・トリオ盤を持っていますが 良い演奏だとは思いますが 「なんか違うなぁ・・・。」という感じです。
クレーメル新盤の三人は 出身地が近いので(旧ソ連からの独立国ですよね。)共感度が高いのではないでしょうか。是非 聴いてみようと思います。

投稿: ヨシツグカ | 2013年1月26日 (土) 14時20分

こんにちは。
クレーメルの新盤をお聴きになられましたか。あの地域の音楽家はとてもレベルが高いです。ハイフェッツの生地もあの辺ですね。

私は譜面を持っていませんが、このトリオのピアノパートは非常に難しいらしいですよ。ブニアティシヴィリは技術力が高いので、これからも安定して名演を残してくれるのではないかと思っています。

コーガンはぜひ聴いてみたいものです。無愛想で非社交的な人だったようですが、音楽の表現には凄みを感じます。やはり男は黙って仕事ですよねえ(高倉健的に)。

投稿: NY | 2013年1月26日 (土) 15時27分

ヨシツグカさん、こんにちは。

弦楽四重奏曲はボロディンSQだけ有れば良いかなって気になりますね。

ピアノトリオのほうは、確かに入手しやすいものでは、いま一つのものが多かったように思います。チョン・トリオも良いのですが、「ロシア」とはちょっと違って「コリア」って印象かな。(笑)
このクレーメル新盤は良かったです。旧盤よりもよほど好きですね。派手さは有りませんが、故人を偲ぶ静かな哀しみを湛えているかのようです。是非お聴きになられてみてください。ご感想を楽しみにしています。

投稿: ハルくん | 2013年1月26日 (土) 15時36分

NYさん、こんにちは。

このトリオのご紹介、感謝しています。
知ってましたが、それほど興味は持ってなかったからです。生演奏のお話をNYさんに伺ってCDを聴きたくなり、聴いてみたら実に良かったです。

ブニアティシヴィリいいですね。上手いだけでは無くて、表現意欲が豊かなのがいいです。若い頃のアルゲリッチもそうでしたので、これからが非常に楽しみですね。

コーガンという人も凄いヴァイオリニストですよ。チャイコフスキーのコンチェルトのライブなんかの「凄み」はハイフェッツ以上ではないかなぁ。「寄らば切るぞ」という剣豪というところでしょうか。

投稿: ハルくん | 2013年1月26日 (土) 15時55分

このクレーメル新盤、控え目な表現ながら
情感あふれる名演奏だと思います。

控え目と書きましたが、死に対する畏敬の念とか
ロシアの寒々とした空気(行ったことないですが)
を連想させるのが素晴らしいです。

旧盤ではこの曲の良さがさっぱり判りませんでしたが
この新盤では少し判った気がしました。

ピアノ三重奏でもベートーヴェンとは全く異なる世界です。

繰り返し聴きつづけたいです。

投稿: 影の王子 | 2014年4月26日 (土) 00時10分

影の王子さん

この曲は大好きですが、クレーメルの旧盤は演奏そのものは良いのかもしれませんが、アルゲリッチのクセが強過ぎましたね。どうも曲の良さが感じられませんでした。
その点、この新盤は曲の良さがしっかりと伝わってきてとても素晴らしいと思います。
曲の良さを伝える演奏と言うのはとても難しいものです。

投稿: ハルくん | 2014年4月26日 (土) 15時29分

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