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2012年12月13日 (木)

ブラームス クラリネット・ソナタ集 続・名盤 ~最後の室内楽作品~

ブラームスは晩年、ピアノのための小品集を作品116、117、118、119と、たて続けに書いた後に、再びミュールフェルのためにクラリネット・ソナタの作品120の1と2の2曲を書きます。これがブラームスの書いた最後の室内楽作品となります。作品114のクラリネット三重奏曲とこの2曲のソナタに関しては、クラリネットをヴィオラに変えて演奏しても良いとしています。

僕は昔、アマチュア・オーケストラでヴィオラを弾いていましたので、当然このソナタの楽譜を購入して自分で弾いてみました。いや、正確に言えば「弾こうと努力してみた」ですね。(苦笑)

ですので、どうしてもヴィオラ版のほうに愛着が有るのは否定できません。ただ、面白いと思うのは、クラリネットとヴィオラの演奏を聴き比べてみると、随分と印象が異なります。クラリネットで演奏されると、本当に晩年の枯れた感じが良く出ます。この曲は、クラリネット三部作のトリオやクインテットに比べると、若さを取り戻した感は有りますが、それでもクラリネットの音色そのものが、枯淡の雰囲気を与えます。それがヴィオラで演奏されると、遥かに若返ったように聞こえます。ヴィオラは弦楽器の中では最も柔らかい音質ですが、感情を外面に表したり、音のアタックを強調するという点においては、クラリネットを上回るからではないかと思います。

もうひとつ、ヴィオラ版では重音を出すように書き替えられています。これはブラームスのロマンティックなハーモニーが醸し出されるので魅力が増します。特に第2番の2楽章中間部での6度の和音!何度聴いても魅了されてしまいます。

それにしても、この2曲のソナタは大変な名作です。ブラームスが再び霊感を取り戻したことにより、最晩年の円熟した技法を用いて一部の隙もない傑作が生まれました。あらためてこのソナタを聴き直してみると、どれほどブラームスが澄み切った境地でこの曲を書いたかが、よく分ります。ブラームスはあるとき、友人であるヴァイオリニストのヨアヒムに宛てた手紙で、「ウイーンに来るときには、あの”可愛らしい曲”を、もう一度弾けるように、ぜひ君のヴィオラを持ってきてください」と書いています。ブラームスがこの曲に、とても愛着を持っていたことを知ることのできるエピソードではないでしょうか。

個人的に特に好んでいるのは、第1番の1楽章と第2番の2楽章ですが、第1番と第2番の魅力には甲乙がつけがたく、やはり作品120として2曲合わせて味わうべきです。

これまで、この曲については、ヴィオラ版を「ヴィオラ・ソナタ集 愛聴盤」「ヴィオラ・ソナタ集 続・名盤」で、クラリネット版を「クラリネット・ソナタ集 名盤」で記事にしています。今回は、クラリネット版の新しい愛聴盤をご紹介することにします。

51dhgphuil__aa300__2レジナルド・ケル(Cl)、ジョエル・ローゼン(Pf)(1953年録音/ウエストミンスター盤) ケルといえばオールドファンには、1930年代にブッシュ四重奏団と組んだクラリネット五重奏曲のEMI録音が懐かしいことでしょう。これは後年の録音ですが、面白いことにブッシュSQのヴィオラ奏者カール・ドクトールの息子であるパウル・ドクトールが弾くヴィオラ版の録音と2枚セットになっています。そちらの演奏は取り立ててどうということはありませんが、ケルのクラリネット版は非常に面白い演奏です。ケルはイギリス人ですが、ドイツ・オーストリアの奏者と違って音色は明るくフランス的です。そのうえ節回しが即興的で、どうかするとジャズのベニー・グッドマンを連想させます。いえ、実はグッドマンのほうがケルに奏法を教えて貰ったことがあるのだそうですが。真正ドイツのライスターとは対照的な、ケルの演奏は第1番の3楽章や4楽章などでは粋なスイング感を持っていて非常に楽しいです。この曲が、決して枯れただけの音楽では無いと思っている自分には、ウラッハ盤よりもむしろ好ましく思います。

51gtndmmgml__sl500_aa300_カール・ライスター(Cl)、ゲルハルト・オピッツ(Pf)(1983年録音/オルフェオ盤) これはクラリネットとピアノががっぷり四つに組んだ、誠に堂々とスケールの大きな演奏です。円熟したライスターも見事ですが、オピッツのピアノが実に素晴らしいです。底光りのする美しい音色で、含蓄のある深い味わいのある表現を聴かせてくれます。決して「枯淡」ではない、音楽として最高に聴きごたえの有る名演奏だと思います。ウイーンでの録音ですが、音質もバランスも極上です。

41cec3txvxl__sl500_aa300_カール・ライスター(Cl)、フェレンツ・ボーグナー(Pf)(1997年録音/Briliant盤) トリオ、クインテットと合わせたクラリネット三部作の2枚組CDです。オルフェオ盤と比べると、やはり14年の時の経過を感じます。全体的にテンポが緩やかになり、表現も淡々としています。「枯れた」と言っても良いのでしょうが、より彼岸に近づいたような印象を受けます。ボーグナーのピアノは透明感のあるタッチで優秀ですが、オピッツのような押しの強さは感じません。

というわけで、この曲のクラリネットによる演奏としては、ライスター/オピッツ盤がマイ・フェイヴァリットとなりました。でも、ケル盤も大いに捨て難いです。

ヴィオラによる演奏ではプリムローズ/フィルクスニー盤とスーク/パネンカ盤がやはり双璧です。

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コメント

ハルくんさん、こんばんは。 作品120の2つのソナタは クラリネット版もヴィオラ版も それぞれ素晴らしいですね。 変なたとえですが、クラリネット版は昔の名作映画。ヴィオラ版は今のフレッシュな役者さん達による そのリメイク版映画のようです。(笑) (う~む・・・どちらも捨てがたい・・・。) CDは クラリネット版は モノクロ映画のような味わいの ウラッハ盤、ヴィオラ版は 「優しいブラームス」を感じる スーク盤が 私のお気に入りです。

投稿: ヨシツグカ | 2012年12月13日 (木) 22時05分

こんばんは。

私も同じ経験があります。ヴァイオリンですが、大好きなブラームスのソナタ第2番の楽譜を買って弾いてみました(笑)確かに、技術的にはコンチェルトなんかと比べれば簡単なんですが、弾けりゃいいってもんじゃないです(笑)こういうシンプルな美しさを持つ曲こそ、本当の演奏技術が必要なんだと痛感しました。

そのヴァイオリンソナタ第2番と同じ「アレグロ・アマービレ」の第1楽章を持つクラリネットソナタ第2番が、私は好きです。

弦楽器派なので(笑)ヨゼフ・スークが弾くヴィオラ版を愛聴しています。

投稿: こもじゃー | 2012年12月13日 (木) 22時43分

ヨシツグカさん、こんばんは。

クラリネット版は昔の名作映画、ヴィオラ版は今のリメイク版映画のよう・・・・うーん、なるほど。良い例えですねぇ。本当にどちらも捨て難いですよ。

ウラッハ盤のモノクロの味わいは確かに良いのですが、ライスターとオピッツの立派な演奏もホントに良いです。

「優しいブラームス」のスークは僕も大好きですよ。きめの細やかさは最高ですね。

投稿: ハルくん | 2012年12月13日 (木) 23時42分

こもじゃーさん、こんばんは。

ヴァイオリン・ソナタも良いですね。僕も2番はとても好きです。ヴィオラ・ソナタの2番と相通じるものがありますね。

こもじゃーさんもスーク盤を愛聴なんですね。
表情が本当に細やかですからね。曲にピッタリの演奏ですよね。

投稿: ハルくん | 2012年12月14日 (金) 00時41分

ヨシツグカさんに座布団一枚!

でもクラ吹きとしてはやはりクラ盤に一票です。ブラームスがクラリネットという楽器をよく研究して実にいろいろな使い方を試みていることがわかります。1番1楽章の冒頭の主題は絶対に他の楽器で真似できませんし、3楽章のワルツの内声はクラだからじゃまにならないのです。2番の2楽章の終結部も広い音域を駆使した美しい旋律で、3楽章では汽笛の遠鳴りのような最低音を使っています。

ヴィオラの演奏がダメだというわけではありませんが、クラ高音域の透明感は出ないですね。まったく別の曲だと考えて演奏したり聴いたりすべきかもしれません。それと実際問題として、録音が少ないのでクラのように数ある盤から名演を選ぶことが難しいですね。スークは良いですが、ズッカーマンはちょっと???でした。

投稿: かげっち | 2012年12月15日 (土) 15時57分

かげっちさん、たぶんそう仰ると思っていましたよ。(笑)

やはり自分の心得の有る楽器の魅力が、より多く耳に聞こえるのでしょうね。

クラ版とヴィオラ版は、同じ曲であって別の曲、というのが正解ではないでしょうか。
ブラームス本人に聞いても、「同じように可愛い作品だ」と言うことでしょう。

スークはホントに良いですよ。ズーカーマンも案外と好きですけどね。
ただ、ピアノの出来栄えも非常に重要なので、両者のバランスがベストに思えるのは、プリムローズ&フィルクスニーと、ライスター&オピッツ、ということになります。これは中々に難しいものですね。

投稿: ハルくん | 2012年12月15日 (土) 16時51分

ハルくんさん、かげっちさん、こんばんは。 かげっちさん、お褒めの言葉 ありがとうございます。(笑) 私は 皆さんのように、楽器は弾けない(楽譜はドレミファが読める程度です(笑))ので お二人の見解の違いは興味深いです。でも、純粋な(ん?笑)リスナーとしては、クラリネット版もヴィオラ版も、とても魅力的なので おっしゃるように 別の作品として楽しんでいます。        実は、ライスターのブリリアント盤を安く購入することが出来たので 今日は このCDを聴いています。ライスターの表現が深くなったように思います。 特に「トリオ」での三人のかけ合いは素晴らしいですね。

投稿: ヨシツグカ | 2012年12月15日 (土) 18時45分

ヨシツグカさん、こんにちは。

今回は三者それぞれの立ち位置の違いから、とても興味深い意見交換が出来たように思います。
いままでこんな風に比較したことも、ネットで読んだことも有りませんでしたので、実に有意義でした。
かげっちさんとヨシツグカさんに深く感謝します。

ブリリアント盤良いですよね。僕も「トリオ」の演奏が特に気に入っています。

投稿: ハルくん | 2012年12月16日 (日) 11時30分

こんばんは。
ライスター/Orfeo盤が届き、先程聴き終えた処です。音色もオピッツの伴奏も柔らかくて心地良い。ブラームスなら、こういう音色じゃないと愛聴盤にはなりまセン。日本語解説も読み応えがありました。
「音大生なら吹くことはできるだろうが【演奏】するのは至難の業」と書かれており、確かにこういう曲は別格の実力者で聴かないと。

投稿: source man | 2013年2月14日 (木) 23時00分

source manさん、こんばんは。

ライスター/オピッツ盤、良いですよね。
この演奏を聴いて、初めてクラリネットの版が本当に好きになったような気がします。
同じようにお気に入られて良かったです。

投稿: ハルくん | 2013年2月15日 (金) 00時04分

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