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2012年11月13日 (火)

ブラームス 弦楽四重奏曲集 名盤 ~ドイツロマン派の弦楽四重奏の名作~

深まる秋にブラームスの音楽はうってつけですが、その中でも、とりわけ好んでいるのが室内楽です。これまでもブラームスの室内楽曲は秋になると随分取り上げて来ましたが、弦楽四重奏曲と弦楽五重奏曲については、だいぶ以前に、「弦楽六重奏曲 名盤」の記事の中で、両方が組み合わされた全集盤に触れただけで、それぞれの曲についてはこれまで記事にしたことが有りません。
ということで、今回はブラームスの弦楽四重奏曲集を取り上げてみます。

室内楽では、どのジャンルも3曲以上は書いていないブラームスですが、この編成でも、やはり3曲しか残していません。ブラームスが完全主義者で、交響曲第1番を完成させるのに20年以上かけたことは有名です。同じように弦楽四重奏曲の第1番を完成させるのにも、習作を20作以上も書いて8年以上をかけました。このジャンル、それにピアノ・ソナタもですが、先人ベートーヴェンの偉大な作品群を多分に意識したのは明らかです。

第1番 ハ短調 op.51-1 ブラームス40歳の年に、ようやく完成された第1番は、交響曲のそれと同じように傑作となりました。ハ短調という調性からも、劇的で悲劇性を感じさせる曲ですが、1楽章から付点リズムとシンコペーションに乗る旋律はブラームスの面目躍如ですし、円熟したブラームスの暗く熱い情熱が素晴らしいです。3楽章では何度も繰り返されるふんぎりの悪いメロディがいかにもブラームスです。孤独感に妙に惹きつけられます。終楽章の暗い情熱と切迫感も胸に迫り来ます。もしも最初のとっかかりに1曲だけ聴かれる場合には、第1番が良いのではないかと思います。

第2番 イ短調 op.51-2 第1番とペアになっているのが第2番ですが、イ短調という調性からも、1番の劇的さは後退していて、憂愁や優美さを感じさせる曲となっています。それでも、時折見せる暗い情熱はまぎれもないブラームスのものです。2楽章あたりは、息の長い旋律が初めのうちは親しみ難いかもしれませんが、どっぷりと身を浸らせる感じで繰り返して聴くと中々に深い味が有ります。3楽章以降は民族舞曲的な躍動感が感じられて素晴らしいです。但し個人的には、喜びと哀しみの切り替えがめまぐるし過ぎるのが欠点だと思っています。

第3番 変ロ長調 op.67 作品51の2曲から2年後の42歳の年に書かれました。まるでハイドンと間違えるように始まるのに面食らいます。これはブラームスの「古典への回帰」というユーモアなのかもしれません。聴き進むとベートーヴェンのようでもあり、やはりブラームスのようにもなり、あたかもウイーンの音楽の歴史を辿るかのようです。幸せな時代のブラームスのニヤニヤした顔が思い浮かばせられるようで非常に楽しいです。

駄作が一作たりとも存在しないブラームスの室内楽ですが、弦楽四重奏曲に関しても、3曲とも名作です。人によってはそれを否定しますが、決してそんなことはありません。ベートーヴェンのそれらと比べれば、かなり地味なことは否めませんが、何度も聴き込んで親しんでみると、少しも劣らない魅力を持っていることに気付きます。少なくともブラームスのファンにとっては大切な宝なのです。但し、これからブラームスの室内楽に親しもうという方に対しては、最初にはお勧めしません。まずは、聴き易いヴァイオリン・ソナタあたりから入って、ピアノを含む三重奏、四重奏、五重奏と聴き込んでからでも少しも遅くはないからです。同じ弦楽の重奏曲であれば、六重奏曲が親しみ易いので、そちらから聴き始められることをお勧めします。

ということで、ブラームスの室内楽鑑賞も弦楽四重奏曲まで来れば、いよいよ最終段階に入って、貴方もブラームジアーナーのお仲間入り。「同じ穴のムジーナー」ですね。

それでは、僕の愛聴盤のご紹介です。

―全集盤―

790 アマデウス弦楽四重奏団(1959年録音/グラモフォン盤) ブラームスの室内楽曲集BOXに収められています。アマデウスSQは、1stVn奏者のブレイニンの誇張の有る表情とクセのある歌い回しが、曲によっては余り好きではありません。けれどもブラームスの特に第1番あたりは曲そのものがドラマティックなので、ぴたりとハマっています。彼ら以降のカルテットと比べると、技術的には幾らか見劣りしますが、それを補う音楽の味わいが感じられます。弦楽五重奏、六重奏、クラリネット三重奏、五重奏までカバーした、このBOXは最初にまとめて揃えるのには適しています。

177 ブダペスト弦楽四重奏団(1963年録音/SONY盤) ブラームスの室内楽曲BOXセットに収められています。20世紀を代表するカルテットでありながら、だいぶ忘れ去られた感があるのは、彼らの厳しい音が、今の時代の耳に馴染まないからだと思います。残響の少ない録音が尚更そう感じさせます。けれども1stVnのヨゼフ・ロイスマンの醸し出すヴァイオリンの哀しい音色は胸に迫り来て、まるでヨゼフ・シゲティのようです。時折使うポルタメント奏法からは、通常の「甘さ」では無く、「痛切さ」を生んでいます。従って曲想から、第1番に関しては、彼らほどに心を打たれる演奏は聴いたことが有りません。他の曲の演奏ももちろん好きです。

51nzozhnhvl__sl500_aa300__2メロス弦楽四重奏団(1986‐87年録音/グラモフォン盤) これはシューマンとブラームスというドイツロマン派の弦楽四重奏曲を合わせた好企画セットでしたが、演奏も非常に素晴らしいです。彼らはドイツ音楽の伝統の上に、高度な技術と現代感覚を持ち合わせた素晴らしい団体でしたが、いつの間にか影が薄くなったのが残念です。音色は美しく、しなやかに歌いますが、あくまでウイーン風とは異なるドイツ風のスタイルで、全てに過不足無く、音楽そのものを味わえます。その点で文句のつけ様の無い名演奏だと思います。

G2509773wアルバンベルク弦楽四重奏団(1991‐92年録音/EMI盤) ドイツ・スタイルのメロスSQに対して、やはりウイーンの団体であることを強く認識させる演奏です。彼らのテクニックは完璧ですし、アンサンブルは強固なのですが、そこかしこに甘く柔らかなウイーン風の味わいを感じさせるのが素晴らしいです。それでいて気合の入った迫力は大変なものです。特に1stVnのギュンター・ピヒラーの名人芸が圧倒的です。第2番のみがライブ録音ですが、全く差を感じません。録音も優秀です。

81npdo10pelジュリアード弦楽四重奏団(1993年録音/SONY盤) ロバート・マンはこのカルテットの創設メンバーであり、かつ1stVnを50年もの間務めた凄い人ですが、このブラームス録音時には既に73歳でした。ですので、かつてのこの団体の「精密機械」という印象はありません。むしろテンポは遅く、リズムも念押しをするような、ゆったりとした実にロマンティックな演奏スタイルに変化しています。個人的な好みで言えば、若い頃の演奏よりもこの頃の老熟した演奏の方がずっと好きです。

以下は全集ではありませんが、単独の録音盤にも触れておきます。

―第1番―

Vegh967ヴェーグ弦楽四重奏団(1949年録音/CASCAVELLE盤) クラリネット五重奏曲とのカップリングの古いライブ録音です。濃厚な浪漫の香りを感じさせる点では、ブッシュSQと並ぶヴェーグSQの音楽性と曲との性格が見事に合っています。第2楽章の情緒の深さはいかばかりでしょう。元々、彼らは技巧重視のスタイルではありませんが、この演奏に晩年の技術の衰えは感じません。第1番を愛する方には是非聴いて頂きたい演奏です。音質は多少ひずみますが、それほど聴き難くはありません。

―第3番―

Busch_brahms_piano_quart1ブッシュ弦楽四重奏団(1949年録音/EMI盤) 偉大なブッシュSQの晩年のスタジオ録音盤が有ります。ただ、アドルフ・ブッシュの音楽性には悲劇的な曲想の第1番のほうが合っているとは思います。第3番は古典的な性格の色合いが濃いので、ブラームスの音楽の造形面に不足しがちな彼らのスタイルには幾らか物足りなさを感じます。けれども、それを補う深いロマンの味わいには、やはり惹き込まれます。特に終楽章での遅く甘い表現が一番印象的です。音質も彼らの録音の中ではしっかりしています。

とうことで、自分の好みで言えば、第1番の素晴らしいブダペストSQに最も惹かれます。但し、音の個性が強過ぎますし、もしもこれから全集を聴いてみようと思われている方には、アルバンベルクSQがお勧めです。

<関連記事>
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コメント

ハルくんさん こんんちはーー
いよいよブラームス弦楽四重奏曲ですね。
はるりんはひと月ほど前に秋は「やっぱりブラームス!」というわけで意気込んでこのあたりを聴いたのですが、あいかわらずこの三つ子ちゃんのとっつきの悪いことと言ったらーーって感じです。
やっぱりむじゅかしーー(~_~;)
私はなにげ弦楽五重奏曲が好きであります。

ブラームスは交響曲、ピアノ三重奏曲、そして弦楽四重奏曲はシューマンとホント同じ数しか残していないんですよね。ここまでくると偶然じゃなくて意図的だと思うわぁ。
律儀な人よね。クララに「めっ!」って言われたとかーー、ウソだぴょーーんo(^▽^)o


投稿: はるりん | 2012年11月13日 (火) 14時22分

はじめまして。

私もブラームスは大好きなのですが、最近記事にされていたピアノソロの曲はあまり聴かないので中々コメントできませんでした(笑)しかし、ブラームスのピアノ協奏曲は最高だと思います!

弦楽四重奏曲では第1番が好きで、アルバン・ベルク四重奏団の演奏が気に入っています。

それでも、四重奏曲は気合が入りすぎている気がして(笑)とっつきにくいのは確かですよね。聴こうと思って手が伸びるのは五重奏や六重奏です。

投稿: こもじゃー | 2012年11月13日 (火) 20時47分

はるりんさん、こんばんは。

やっぱり、春はシューマン、秋はブラームスですよー。

意図的に、ですかぁ。
でもヴァオリンソナタとかピアノ四重奏もありますしねー。決してクララの顔色を窺っていたばかりではないのでしょうねぇ。

弦楽四重奏の三兄弟、イイですよ~。
とにかくスルメのように噛み続けることですよ。一度味がしみ出したら、♪やめられないとまらない~♪ですからね。

投稿: ハルくん | 2012年11月13日 (火) 22時27分

こもじゃーさん、はじめまして。
コメントを頂きまして、誠にありがとうございます。

ピアノ協奏曲は1番も2番も最高ですね。一度聴き始めると、長丁場を少しも飽きさせません。何度聴いてもですね。

弦楽四重奏に力が入り過ぎているのは確かですね。ピアノの重奏曲のようにインスピレーションから生れた印象が薄いですからね。でも、それでも素晴らしいのが凄いです。僕も1番が好きですが、2番や3番もイイですよ。特にアルバンベルクSQで聴くと、なおさらですね。

今後とも何でもお気軽にコメント下さい。どうぞよろしくお願い致します。

投稿: ハルくん | 2012年11月13日 (火) 22時39分

ハルくん様

今回は弦楽四重奏全集ですね。morokomanは第2番を知るのみです。(涙)

あれは数年前でしょうか、やはり秋の季節でした。出し抜けに「人生の無常」を感じ、無性に「クラリネット五重奏曲」を聴きたくなりました。

しかしこの時期、ハイパー貧乏だったmorokomanは、お金がありません……。現在は図書館という、ありがたや施設を使うことが出来ますが、当時は図書館を利用する時間すらありませんでした。

そういう人間にとって、最後に頼るのは廉価盤……そう、貧乏なクラシックマニアの最後の砦&ありがたやCD会社

       ナクソス

のCDを購入しました。

そのCD、これまた訳あって現在は所有していませんが、カップリングに弦楽四重奏曲の第2番を収録しておりました。

どこが演奏していたのか、記憶も定かではないほどの無名の四重奏団でしたが、なかなかの佳演だったと思います。

たとえ無名の四重奏団でも、誠実な演奏家を揃えることでは定評のあるナクソス。くわえて優秀な録音とあっては、入門者には最適だったと思います。

この第2番では、特に第1楽章の印象が強く、最も感動しましたが、2楽章以後の音楽が弱かったように思います。これは元々の曲のせいなのか、それとも四重奏団の力量のせいか、よくわかりませんが。今となっては懐かしい思い出です。

ハルくん様は第2番に関してはどの演奏がとりわけ良かったのでしょうか? やはりアルバン・ベルクあたりでしょうか? 

投稿: morokoman | 2012年11月13日 (火) 23時32分

morokomanさん、こんばんは。

名曲中の名曲、クラリネット五重奏曲は無性に聴きたくなる時がありますよね。これからが最高の季節ですし。

弦楽四重奏の2番だけで言えば、アルバンベルクQが、やはり良いと思います。と言ってもブダペストQやメロスQも好きですし、「とりわけ」ということも無いのですけど。

曲としては、1番を是非聴かれてみて下さい。もしかしたら見事にハマるかもしれませんよ。

投稿: ハルくん | 2012年11月13日 (火) 23時55分

ハルくんさん、こんばんは。 ブラームスの弦楽四重奏曲は 一般的には 人気がないですよね~・・・(笑)。確かに 地味で取っ付きにくいですからね。でも、聴き続けるうちに、昔のモノクロ写真や映画のような、どこかロマンチックで懐かしい気分にさせてくれる名作だと思います。    私は もちろん3曲とも大好きなのですが、尊敬するベートーヴェンへの「オマージュ」のように感じる 第3番 が一番お気に入りです。CDは A・ベルクQ盤とブダペストQ盤を持ってますが、子供の頃から ブダペストQのベートーヴェン全集や モーツァルトの「弦五」を聴いてきたので、やはり ブダペストQを聴いてしまいます。 タワーレコードからBOXセットが発売された時は、本当に嬉しかったですね。(笑)

投稿: ヨシツグカ | 2012年11月14日 (水) 20時41分

ヨシツグカさん、こんばんは。

ブラームスの弦楽四重奏曲って、確かに馴染みにくさは有りますが、聴き込んで一度気に入ってしまえば、やはり傑作ぞろいですよね。

ブダペストSQの演奏は大好きです。特に1番が好きですね。ただ、3番だとどちらかいうとアルバンベルクのほうが好きかなぁ。

タワーレコードの企画は本当に大したものですね。大手レコード会社よりもよほど企画力が有ると思います。

投稿: ハルくん | 2012年11月14日 (水) 23時30分

わたしがもっているのはアルバン・ベルクSQです。ブラームスに限らないのですが、古い時代のSQは4人が額をつきあわせるようにして内省的に奏くスタイルが多かったのに対し、この20年ほどはもっと自由なスタイルの演奏が増えてきたように思います。ブラームスは、つい前者のスタイルで奏きたくなってしまうのではないかと想像しますが、ハルくん的にはどんな演奏を好まれますか?

ちなみに経験では、弦のパワーが足りないとクラリネットに負けてしまうので、前者のスタイルは厳しいです。ブラームスは弦楽四重奏以外にいろいろな編成を試していますが、SQでは不足を感じる時があったのかもしれない、などとも思ってしまいます。

投稿: かげっち | 2012年11月20日 (火) 13時10分

かげっちさん、こんにちは。

古いSQというのが、どのあたりを指すのか迷いますが、概ね古い方が好きです。
ベートーヴェンならブッシュSQとか。
ブラームスの場合は情緒も大事ですが構築性も大事にしたいので、そうするとブダペストSQが好きです。そう言いながらもアルバンベルクSQは上手いし美しいしで、本当に素晴らしいですけど。

ブラームスは複数の楽器が絡み合うのがイイです。特にピアノが入ると本当に良いです。クラ5は別格ですけど。

投稿: ハルくん | 2012年11月20日 (火) 13時57分

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