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2012年11月 7日 (水)

ブラームス 「4つのバラード」作品10 名盤

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ブラームスの初期のピアノ独奏曲の中でも、人気の高いのが「4つのバラード」作品10です。ヨハネス青年21歳の作品です。

話は「バラード」からは少々離れてしまうのですが、ブラームスは自身が名ピアニストで、なおかつ古典的な形式を重んじた作曲家であるにもかかわらず、ピアノ・ソナタを20歳までに3曲書いただけで、それ以降、書くことはありませんでした。何故なのでしょう?
それは、やはりベートーヴェンの存在が大きいと思います。このジャンルにおける、あの32曲の不滅の金字塔が余りにも偉大で、とてもそれを越えることは出来ないと諦めたからではないでしょうか。ブラームスは楽器の重ね合わせの才能が抜群でしたので、独奏作品よりも、むしろ重奏作品に適性が有るのも事実です。

そんなブラームスですが、この「4つのバラード」は、20歳そこそこの傑作だと思います。僕もとても好きです。「バラード」というのは、物語性のある詩のことですが、それを音楽にしたショパンもブラームスも、必ずしも物語性を明確にしていたわけではありません。4曲の中では、唯一「第1番」のみが、父親を殺した息子が母親に罪を告白するというスコットランドの叙事詩「エドワード」にアイディアを得たとされます。第2番以降は、特に詩との関連性はありません。

4曲の構成は次の通りです。

第1番 アンダンテ ニ短調 

第2番 アンダンテ ニ長調 

第3番 「間奏曲」アレグロ ロ短調 

第4番 アンダンテ・コン・モート ロ長調

同主調の曲が二組合わさっていますが、調性の関連からしても4曲は、連続して演奏されるべきです。ブラームスの「4つのバラード」は、ショパンのバラード集のように各曲が単独で演奏可能な曲とは異なります。
第3番が「間奏曲」というのも意味が有りそうです。仮に全体を4楽章のソナタとすれば、この曲はスケルツォ楽章に相当します。
第4番は他のアンダンテと異なり、コン・モート(動きをもって)の指示がありますので、幾らか速めに演奏されることが多いようですが、この場合は物理的(肉体的)な速さではなく、精神的(気分的)な動きを要求しているように思います。これは演奏家の解釈に委ねられるべきでしょうね。終曲として位置づけられていますが、もしも1曲だけ単独で演奏するとすれば、第4番だけが可能だと思います。

このように全4曲の均衡がとれているのも、この曲集の存在感を高めていますが、それにも増して、全体を通してこぼれるばかりの若々しい抒情性が素晴らしいです。ファンの間で人気が高いのも当然です。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

473ba372lジュリアス・カッチェン(1962年録音/DECCA盤) ブラームスの初期曲集の中に収められています。全体的にテンポは幾らか速めで、若々しい青年ブラームスを感じさせる演奏です。力強い打鍵とタッチにより、表情の抑揚の巾も大きく、いかにも若い男性が意欲的に弾いているというような印象です。録音時のカッチェンの年齢と、作曲当時のブラームスの年齢が重なり合った、ごく自然な演奏に感じられます。ただしその分、元々(音楽的に)年齢不詳のブラームスの落ち着きや老獪さは失われがちです。第4番も多少せかされているように感じられなくもありません。

31rwsq1v7jl__sl500_aa300_アルトゥール・ルービンシュタイン(1970年録音/RCA盤) 晩年の録音ですが、ピアノの音が非常に美しく感じられます。といってもミケランジェリの美音とは性質が異なり、しいて言えばバックハウスの弾くベーゼンドルファーのような柔らかいいぶし銀の印象です。テンポは中庸で、速いカッチェンと遅いミケランジェリの丁度中間です。若々しさと老獪さがまだら模様に混じり合ったブラームスの音楽には一番ぴったりしているように思います。そういえばこの人の弾く協奏曲の演奏も同じように「大人のブラームス」を聴かせていて非常に素晴らしかったです。

G7022103wアルトゥーロ・ベネディッティ・ミケランジェリ(1981年録音/グラモフォン盤) ミケランジェリは独自の美学を持っている人なので、フランスものも、ショパンもベートーヴェンも、みなミケランジェリの個性が強く出ています。このブラームスも同様です。けれどもホロヴィッツのように個性が、えげつないほどにむき出しになる(だから魅力なのですが)のではなく、作曲家のオリジナリティを尊重したうえでの個性ですので、ある種離れ業です。遅めのテンポでじっくりと沈滞した表情は、決して青年ブラームスのイメージではありませんが、この曲の美しさを極限まで引き出しています。何とデリケートなタッチの美しい音と表情なのでしょうか。若きブラームスが「夢に見たかのような」美しい音楽です。うーん、唖然!

91okcm7og8l__aa1500_ヴァレリー・アファナシエフ(1993年録音/DENON盤) よくアファナシエフは「鬼才」と呼ばれます。しばしば遅いテンポで、普段聴く曲を全く別の曲のように演奏するからです。この演奏も、ミケランジェリ以上に遅いテンポで重苦しく憂鬱です。第4番などはカッチェンの倍の演奏時間です。若きブラームスの作品が、まるで晩年の曲のように聞えます。けれども、ここで表現される孤独感を否定することは決して出来ません。もしかしたらブラームスは20代で、これほどの孤独を胸に秘めていたのかもしれない。そんな風にも思えてしまいます。アファナシエフのピアノのタッチは非常に美しく、ミケランジェリにも匹敵します。「鬼才」は時に「天才」をも凌駕します。

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コメント

ハルくんさん、こんばんは。 「4つのバラード」は ホントに作品10か?(笑)というくらい ブラームスらしい情緒に溢れた名作ですね。たまに無性に聴きたくなることがあります。私は 基本的にはレーゼルの演奏が好きなのですが、「バラード」は ルービンシュタインが一番好きです。 ルービンシュタインのブラームスは どれも素晴らしいですよね。余程、相性が良かったのでしょうね。   彼のブラームスを聴くたび、「ショパンもこれくらいやって欲しかったな~・・・。」 と思うのは 私だけでしょうか?(笑)

投稿: ヨシツグカ | 2012年11月 8日 (木) 22時34分

ヨシツグカさん、こんばんは。

まぁ、なにしろピアノ協奏曲第1番が作品15ですからねぇ。本当に青年らしくない青年でした。(笑)

ルービンシュタインのバラードはホントに良いですね。何度聴いても心が癒される点で、僕も一番好きかもしれません。ショパンも数少ないライブ録音は素晴らしいですよ。スタジオ録音とは別人のようです。

投稿: ハルくん | 2012年11月 8日 (木) 23時14分

こんばんは。
>唯一「第1番」のみが~
1番だけ異質に感じていた理由が判り勉強になりました。
グールド/CBS→リヒテル/Live Classics盤を。後者は2番までなので、前者しか通して聴いたコトがないのですが、余り叙情性を感じていなかったのです。2番の前半は打鍵も結構強いですし。

ミケランジェリは以前に試聴するも値段から購入せず。ルービンシュタインを探します。

ところで、Live Classicsから出てるリヒテルのシリーズは余り流通しなかったのでしょうか。バラードと併録されてるバッハが素晴らしいし、別商品のモーツァルト/幻想曲なんて愛聴盤ですが、検索しても取り上げおられるBlogが余りないのです。

投稿: source man | 2012年11月 8日 (木) 23時47分

バラードには錚々たる人達の録音がありますが、私の印象ではミケランジェリの演奏があまりにも凄すぎて、もうこれ以上を望むのは無理という感じです。嬉しいことに動画でも見られます。ドイツの曇天を思わせる4番のミュゼット風な中間部はブラームスのピアノ曲でも白眉中の白眉で、何度聴いても絶妙な音楽だと思います。

投稿: NY | 2012年11月 9日 (金) 18時56分

source manさん、こんばんは。

ルービンシュタインは決して神経質にならないおおらかさに心が癒されます。好みは有りますが、是非お聴きになられてみてください。

Live Classicsというのはドイツのレーベルのはずですが、なぜかロシアの演奏家が多くリリースされていますね。でも自分はリヒテルのモーツァルトの演奏は聴いたころが有りません。

投稿: ハルくん | 2012年11月 9日 (金) 19時09分

NYさん、こんばんは。

ミケランジェリの演奏は本当に素晴らしいですが、異なる行き方でルービンシュタインやアファナシエフも凄いと思います。個人的な好みで言うとルービンシュタインが一番好きなのです。

4番の中間部というのは本当に魅力的ですよね。いかにもブラームスです。

投稿: ハルくん | 2012年11月 9日 (金) 19時22分

ハルくん様

>ブラームスの初期のピアノ独奏曲の中でも、人気の高いのが「4つのバラード」作品10です。ヨハネス青年21歳の作品です。

ええええ~! そんな若い時に作曲したのですか……! (どびっくり&絶句!)

morokomanは、確かギレリス盤で聴いた覚えがありますが、その時はあまりに晦渋な感じがしました。だから晩年の作品だと思ったのですが……(解説書をよく読んでませんでした)。

アファナシエフ盤、聴きたいなぁ。実は最晩年のピアノ小品集を聴き、深い感動に包まれた事があります。ですので、このバラードの演奏も聴いてみたいですね。

投稿: morokoman | 2012年11月10日 (土) 08時39分

いい曲ですよね、老成していたとも言える・・・ブラームスがいわゆるピアノソナタをたくさん書かなかったのは、先達を意識したこともあるでしょうが(でもそれなら交響曲も同じ)、「独奏」という形態を好まなかったのではないか、という気もします。異なる人格の出会い、からみあい、の妙を好んだという意味です。本人は「え?書いたよ。ピアノとクラのソナタだって書いたじゃないか。」と言いそうです。

投稿: かげっち | 2012年11月11日 (日) 14時31分

morokomanさん、こんばんは。

申し訳ありません。レスが遅くなりました。

ギレリスのドイツものは結構評判が良いようですが、実は僕は余り魅力を感じていません。相性が合わないのでしょう。

アファナシエフの最晩年のピアノ小品集を聴かれて感動されたのでしたら、この曲も絶対気に入ることでしょうね。是非お聴きになられてください。

投稿: ハルくん | 2012年11月12日 (月) 18時16分

かげっちさん、こんばんは。

交響曲は円熟期に4曲も書きましたからね。この人にしては凄く多いですから、第1番で自信が生れたのでしょうね。
ピアノソナタは20歳以降書かなかったのは、やはり、この形式では自信が無かったのだと思います。
ピアノだけで、「ピアノとクラ・ソナタ」のような大傑作はまず生まれなかったでしょうね。

投稿: ハルくん | 2012年11月12日 (月) 18時31分

ハルくん様
このところブラームスのピアノ曲にはまっています。
カッチェンのベスト盤を聞いてそのオーソドックスな演奏のすばらしさが何であるのかがわからないままきいていました。吉田秀和氏が大昔ラジオで誉めていたのをじかに聞いていましてその時からいままでずーっとカッチェンというピアニストのブラームスが気になっておりました。
そして、先日はなんとソロの全集六枚組を手にいれてしまいました。
それも輸入盤ではなく日本盤でです。
これがしみじみしていて奥深くなんとも言えない情緒の優れものでありました。この秋にじっくりと聞いてみようと思っています。
しかし、私には文章能力が無いのでこの演奏の良さをどうしたらうまく表現できるのかを見いだせないままでの文章でなんともはずかしく躊躇しておりましたが、やはりいいものはいいのですね。色々考えることはないのかも知れません。
私がブラームスのピアノ曲を聴くなんてこと事態大変珍しく普通では無いことだと思っています。だんだんと年を重ねてくると考え方も側ってくるのですねえ。彼、アメリカのピアニストであることは全く知りませんでした。
この先いろいろと聴いてみようと思います。ではまた!

投稿: まつやす | 2013年9月18日 (水) 17時24分

まつやすさん

カッチェンの全集とは素晴らしいものを入手されましたね!僕のは全集ではありませんので。
男っぽく感受性豊かなカッチェンはブラームスにピッタリです。何よりカッチェン本人がブラームスを本当に好んだようですし。
秋にゆっくりと聴いて味わうには最高の音楽ですね。存分に楽しまれてください。
それではまた!

投稿: ハルくん | 2013年9月19日 (木) 01時04分

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