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2012年11月26日 (月)

ブラームス 弦楽五重奏曲 名盤 ~やめるべきか、やめざるべきか~

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日増しに秋が深まってゆきますね。自宅にほど近い丹沢の山に入ると、すっかり色づいた木々の美しさに目を奪われます。皆さんのお近くでも同じような光景が見られるのではないでしょうか。

さて、秋のブラームス特集ですが、先日の「弦楽四重奏曲」に続いて今回は「弦楽五重奏曲」です。弦楽五重奏曲についても、やはり以前の記事の「弦楽六重奏曲 名盤」の中で簡単に触れたことは有りましたが、余りにお粗末なものでしたので、改めて取り上げてみます。

御存知の通り、ブラームスは弦楽五重奏曲を2曲書きました。どちらも通常の弦楽四重奏にヴィオラを追加した編成です。ブラームスは中声部をカバーするヴィオラを好んで、よく活躍させましたが、この二つの曲においては活躍度合いが更に高まっています。

第1番 ヘ長調 op.88 ブラームス49歳の正に円熟期の傑作です。全3楽章という珍しい構成となっています。楽曲として、ブラームスの才能を最も感じるのが第1楽章で、美しい第1主題に続く第2主題は、同じ小節の中で2拍子と3拍子が絡み合うように書かれていて、ブラームス得意のシンコペーションの旋律が混じりあって、心が揺られるような感覚を味わいます。長大な第2楽章は、緩徐楽章の間に急速なスケルツォ的な要素が含まれるというユニークな構成で、これはベートーヴェンの後期の四重奏の影響かもしれません。この中間楽章によって全体のバランスが見事に保たれています。第3楽章には音楽の深みは余り感じませんが、非常に明るく楽しく高揚して終わります。

第2番 ト長調 op.111 ブラームス58歳の大変な力作なのですが、この作品は同時に問題作でもあります。ブラームスはこの年、交響曲第5番の構想を練っていたのですが、結局頓挫してしまい、代わりに書き上げられたのが、この弦楽五重奏曲第2番です。ですので、第1楽章は、非常にシンフォニックで、そびえ立つ様な構築感が立派この上ありません。それが第2楽章は、うって変わって、ハンガリーかルーマニア風の、まるで「望郷のエレジー」とでも呼べそうな曲となります。続く第3楽章も哀愁を湛えた舞曲風の曲で、孤独を一杯に感じさせます。第4楽章では再び気分を高揚させて終わります。
この曲の聴きどころとしては、交響曲を意識して書かれたであろうスケールの大きな書法と、ブラームスとしては非常に斬新で新しい和音が挙げられますので、この2点を意識して聴くと非常に面白く感じられると思います。
実は、ブラームスはこの曲の原稿を出版商のジムロックに送った際に、次のような手紙を同封しました。
『この手紙とともに私の音楽に別れを告げてもらいたい――やめる時が来たのは確かなのだから・・・・・』という内容です。
つまり、ブラームスは作曲活動から引退することを決めたのですが、それは自分の創作能力の衰えと、既に時代の潮流から取り残されてきたことを感じていたからに違いありません。もし、この曲に満足していれば、引退を考えるはずはありません。確かに、ブラームスとしては新しく斬新な響きと円熟した技法による非常に聴きごたえのある作品ですし、2、3楽章の民族的な曲想は魅力的でブラームス好きの心を確実に捕えます。けれども、この曲が以前のような、ほとばしるようなインスピレーションに満ちているかというと、必ずしも肯定は出来ません。僕も、どちらかと言えば第1番の方が好きですが、しかし第2番も本当に良くできています。とにもかくにも、この問題作をじっくりと聴かずしてブラームスの室内楽を語ることは絶対に出来ないでしょう。

もちろん、この後、ブラームスはクラリネットの名手ミュールフェルトと出会い、一度は失った創作意欲を再び取り戻して、クラリネット三部作(三重奏、五重奏、ソナタ)を書き上げます。ブラームスがここで本当に引退してしまっていたら、あの素晴らしい最晩年の名作達を聴くことが出来なかったことになります。

そうした背景で書かれた円熟期の二つの作品ですが、ともかくは僕の愛聴盤をご紹介します。

―第1番&2番―

177 ブダペスト弦楽四重奏団、W.トランプラー(Va)(1958年録音/SONY盤) タワーレコードの企画で発売されたBOXセットに収められています。第1番の演奏が素晴らしいです。表面的な美音からは遠い、極めて厳しい音ですが、だからこそブラームスの心が滲み出てきます。1stVnのロイスマンを筆頭に、彼らの音色は常に哀しさを感じさせます。シンコペーションを念押しするリズム感も最高です。第2番も同様の演奏ですが、ブラームスの新境地の響きの再現が十全とは言えないので、幾らかマイナスだと思っています。それでも2楽章や3楽章の枯れた味わいと悲劇性は最高です。

790 アマデウス弦楽四重奏団、C.アロノヴィッツ(Va)(1967‐68年録音/グラモフォン盤) これもブラームスの室内楽曲BOXに収められています。いつものように、1stVnのブレイニンが大きく歌いますが、第1番などは基本テンポが比較的速めですし、表情も穏やかです。ブダペストSQでは音が厳し過ぎると言われる方には良いと思います。第2番も同じように良い演奏です。1楽章は響きが美しく、2楽章、3楽章には暗く成り過ぎない節度が有ります。4楽章でもやはり美しさを感じます。録音はバランスが良く、柔かな響きでとても優れています。好みは別にして、リファレンスとしてはアマデウスSQの演奏が良いのかもしれません。

81npdo10pelジュリアード弦楽四重奏団、W.トランプラー(Va)(1995年録音/SONY盤) 弦楽四重奏曲の録音から2年後の、1stVnのロバート・マンが既に75歳で、引退直前の録音です。ゆったりとしたテンポでロマンティックに歌った演奏からは、かつてのジュリアードSQの鋭角で機械的なイメージは全く有りません。技術的な完璧さを前面に押し出す印象は全く感じられませんが、だからといってアンサンブルが崩れている訳では無く、本当に凄い団体だったと思います。円熟のブラームスの音楽を聴かせてくれるこの演奏は、とても気に入っています。

他に、単独曲の録音にも触れておきます。

―第1番―

Cci00051 ウイーン・コンツェルトハウス四重奏団、他(1950年録音/ウエストミンスター盤) ブダペストSQのような暗さは無く、もっと穏やかに昔を懐かしむような風情があります。アントン・カンパーのヴァイオリンを中心とした、昔のウイーン風の甘く柔らかい奏法には何とも言えない魅力を感じます。フレーズの変わり目でテンポを大きくルバートさせるのも、一層強く情緒に訴えかけてきます。第3楽章でも一気呵成に進むのではなく、じっくりと音楽の味わいを与えてくれます。第1番の演奏としては、ブダペストSQと並んで好んでいます。なお。このCDは六重奏曲の第2番がカップリングになっていますが、そちらも実に魅力的な演奏です。

―第2番―

Brahms_melosメロス弦楽四重奏団、J.コセ(Va)(1990年録音/ハルモニアムンディ盤) これは、カップリングされたクラリネット五重奏曲以上に素晴らしい演奏です。各楽器のハーモニーが秀逸で、ブラームスの書いた斬新な響きを完璧に音化しています。音像のスケールも非常に大きいです。中間2楽章も単なる民族的な音楽で無いことに気づかされます。僕は、この演奏を聴いて、初めてこの曲の真価を知ったような気がします。ブラームスは決して古い書法に執着していたわけではなく、新しい書法と響きをしっかりと追及していたのです。それを強く感じさせてくれる点で、これは必聴の演奏です。この曲とクラリネット五重奏曲という晩年の大作をカップリングさせた意味合いも非常に大きいです。

ということで、この2曲の演奏は別々に切り離して考えるべきです。第1番ではブダペストSQとウイーン・コンツェルトハウスSQに非常に惹かれますが、第2番はメロスSQの演奏が自分のフェイヴァリットです。

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コメント

1番も素晴らしいですが、2番は特にいいですね。ブラームスの得意な3拍子系です。1楽章は9/8拍子らしいですね。私はLP時代のアマデウスSQ(だったと思う)で聴きました。ブラームスが還暦あたりで引退を考えるところなどは東洋的で興味深いです。最近は暴走老人と言われる日本人もいますけど。

投稿: NY | 2012年11月27日 (火) 05時56分

またお邪魔します。

私も弦楽五重奏では第1番の方が好きですが、第2番第1楽章の雄大さも捨てがたいと思います。好きな演奏はアマデウスSQと、ウィーン・フィルハーモニア弦楽五重奏団です。後者はウィーンのオケのメンバーによる演奏で、第1番の歌い方など本当に素晴らしいです。

ブラームスはオケでもヴィオラや第2ヴァイオリンが充実していますよね。そういう意味でも、「ブラームスらしさ」という点では弦楽四重奏よりも五重奏、六重奏の方が魅力的だと思います。

投稿: こもじゃー | 2012年11月27日 (火) 19時44分

ハルくんさん、こんばんは。 弦楽五重奏曲は 第1番の方が ブラームスらしい、いかにも「室内楽」という感じで 私は大好きですが、第2番も第3楽章の美しさは たまりませんね。最初に2番を聴いた時は 「あれ?」という感じで、違和感がありましたが A・ベルクQや メロスQの演奏を聴くうちに 「こんなブラームスもアリだな・・・。」と思うようになりました。CDは 第1番は 私も ブダペストQが一番好きな演奏です。第2番は A・ベルクQとメロスQをその時の気分で聴いています。

投稿: ヨシツグカ | 2012年11月27日 (火) 21時32分

NYさん、こんばんは。

60歳定年を前に早期退職しようとしたのですからね。でもブラームスは子供のころから稼いでいたわけですから、もう充分働いたのだと考えたのかもしれません。

指揮者の中にはトスカニーニとかムラヴィンスキーとか、「暴走老人」は沢山いましたね。

投稿: ハルくん | 2012年11月27日 (火) 22時27分

こもじゃーさん、こんばんは。

1番は素直に好きですね。2番は各楽章とも魅力的なのですが、流れが何となくチグハグな感が無きにしもあらずです。でも凄い曲ですけどね。

響きの点では五重奏曲、六重奏曲は魅力的ですが、四重奏曲は曲想としては充分に魅力的だと思います。結局どれもが素晴らしいという結論です。

投稿: ハルくん | 2012年11月27日 (火) 22時36分

ヨシツグカさん、こんばんは。

1番は素直に入り込める曲ですよね。2番は自分も最初は同じようにとまどいました。いまはどちらも大好きですけれど。

1番のブダペストSQはイイですね。非常に好きですねぇ。
アルバンベルクSQは聴いていませんが、四重奏曲があれだけ素晴らしいのですから、きっと良いでしょうね。

投稿: ハルくん | 2012年11月27日 (火) 22時41分

こんばんは。ウィーン・コンチェルトハウス四重奏団演奏のブラームスの弦楽五重奏曲第1番のCDは、現在、廃盤になっているんですか。

投稿: t2 | 2015年3月17日 (火) 18時24分

t2さん、こんばんは。

現在は廃盤の様ですね。
昔からウェストミンスターのレーベルは廃盤と再発売の繰り返しですので、そのうちまたどこからかリリースされるとは思います。
中古で良ければAmazonなどでも入手は可能ですが。

投稿: ハルくん | 2015年3月17日 (火) 20時10分

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