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2012年6月 1日 (金)

ショパン ピアノソナタ第2番変ロ短調op.35「葬送」 続・名盤

ショパンの曲の中で、僕が一番好きなのはピアノ・ソナタです。2番と3番は中々に甲乙が付け難いところですが、どちらか1曲と言われれば、やはり第2番を選びます。第1楽章の焦燥感と感情の高まりには心を激しく揺さぶられますし、第3楽章の葬送行進曲と美しい中間部もとても好んでいます。この曲については、以前、ピアノ・ソナタ第2番「葬送」名盤で記事にしていますが、それ以降に聴いた幾つかの演奏を今回はご紹介します。

Cortot_chopin_sonataアルフレッド・コルトー(1933年録音/EMI盤) コルトー全盛期のSP録音です。現代の耳からすれば、テクニックは乏しく、仕上がりも粗いです。ところが演奏からプンプンと迸る香りはいかばかりでしょう。どんなに表情が大げさで芝居がかかっていても、少しもわざとらしく聞こえません。コルトーが心で感じたそのままを自然に演奏するからだと思います。それは、まるで人間の肉声の歌声を聴いているようです。これほど真に「心」を感じさせるピアニストは現代には中々見当たりません。

941アルフレッド・コルトー(1956年録音/ARCHIPEL盤) 同じコルトーのこの曲の最晩年の演奏です。クレジットには一応ミュンヘンでのライブ録音と有ります。ミスタッチは数え切れず、テクニックの衰えは痛々しいほどですが、音楽の表情の大きさと豊かさは、1933年盤を更に上回ります。パウゼやルバートも頻出しますが、全てが堂に入っていて、驚くほど説得力が有ります。現代のメカニカルな演奏に慣れた耳だと、受け入れ難いかもしれませんが、「音楽とは本来何なのか」という、哲学的な思考を試みるためにも、これは一聴の価値が有ると思います。

865グリゴリー・ソコロフ(1992年録音/NAIVE盤) ソコロフは日本でも近年では知られた存在になりましたが、長い間、幻のピアニストでした。実は僕も演奏を聴いたのはこれが初めてです。感想を一言で言えば「凄いピアニスト!」です。スケールが大きく、足取りは非常に巨大です。と言っても、速い部分はそれなりに速く弾きます。テクニックも申し分有りませんし、ダイナミックレンジの広さも尋常ではありません。フォルテシモの打鍵の強さと繊細なピアニシモのどちらもが凄いです。但し、この演奏ではフォルテが強過ぎに感じた箇所も有りました。表情づけは極めて豊かで、テンポ・ルバートを駆使した歌いまわしの大きさには驚かせられます。第3楽章での、葬礼の列が遠くから足取り重く、少しづつ近づいて来る表現や、低音を鐘のように響かせるのも面白いですし、アイディアが実に豊かですね。もっとも演奏のカロリーが余りに高過ぎて、繰り返して聴くと胃が持たれる感もあります。カップリングされた「24の前奏曲」も凄い演奏ですが、それは次回にまた。

5024709160341 セルジオ・フィオレンティーノ(1993年録音/APR盤) 幻のピアニストが続きます。イタリア生まれのフィオレンティーノは生涯の大半を音楽教師として過ごし、演奏活動を継続しては行っていません。その為に、若い頃に行った録音もほとんどお蔵入りのままです。しかし幸いなことに円熟期の録音がそれなりに出たことから、知る人ぞ知る名奏者であることが証明されました。この録音はドイツでのコンサートツアーから編集したライブ2枚組に収められています。実演の為か、メカニカル的には細かい傷が幾つも見られますが、音楽の味わいの深さはやはり流石です。あのミケランジェリから激賞されたのもうなずけます。

Chopin-51wmpgcybl_ac_ ユリアンナ・アヴデーエワ(2010年録音/ショパン協会盤) 第16回ショパン国際ピアノ・コンクールを制したアヴデーエワのそのコンクール本選におけるライブです。第1楽章は荒々しいほどに一気呵成に進む中に、気分の切り替えが感じられて、どことなく若い頃のアルゲリッチを思わせます。葬送行進曲は重々しいですが、中間部の深いしじまのような美しさが心に沁みます。コンクールの本選の中でこれほどの音楽を聴かせるとはやはり流石です。これは2枚組の中にピアノ協奏曲第1番も含めたコンクールで弾いた全部の演奏が収録されています。

Chopin-25785245 カティア・ブニアティシヴィリ(2012年録音/SONY盤) ブニアティシヴィリのショパン・アルバムに含まれます。彼女のピアノの打鍵はしっかりしていますが、音が硬いとか強過ぎには感じません。音色は温かな肌のぬくもりが感じられる美しい音です。メカニカルなタイプの演奏家とは異なる優しさが感じられるタイプだと思います。このソナタでは自由な表現が魅力的で、地獄の深淵を覗かせるような怖さでは無く、亡き人を温かく天国に送るような「愛情」を感じます。でも、決して迫力不足の微温的な演奏ではありません。繰り返して聴いて飽きない面白さに満ちています。

Chopin91doot4i07l_ac_sl1500_ ラファウ・ブレハッチ(2021年録音/グラモフォン盤) ブレハッチがようやく録音した待望のソナタ集です。1楽章の開始こそ荘重ですが、第1主題は抑揚が効き過ぎのように感じます。もっと切迫感が欲しいです。第2主題も飛翔する心の高まりが感じられません。2楽章には激しさは無くいたって冷静です。3楽章の行進曲も淡々としています。そこに“悲劇性”が姿を見せることは無く、純音楽的に楽譜を音にした印象です。知的な演奏だとは思いますが、それほどの魅力は感じられません。 

<関連記事>
カティア・ブニアティシヴィリのショパンアルバム
ラファウ・ブレハッチ「ショパン」

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コメント

こんばんは。
今日は、珍しく(?)ショパンですね。ショパンのソナタ(2&3番)を聴いたのはポリーニのスタジオ録音が初めてです。これはわりと好きだったので、昔はよく聴いてました。

ソコロフは、ショパンに限らず、”音の力”の吸引力が強く、どんな曲を弾いてもスケール感があります。
表現意欲旺盛なので、ロシア人好みのこってりしたボルシチでも食べているようにカロリーが高くて、胃がもたれそうになりますね。
終楽章の無窮動は、ポリーニで聴いたときは殺風景な印象がしましたが、ソコロフはこういう曲でも音楽的で華麗です。

ソコロフのプレリュードは評価が高いようです。曲集としてはエチュードの方が好きですが、若い頃に録音したピアノ協奏曲第1番は、それらとは違った清楚なタッチで、ソコロフのショパンではこれが一番気にいってます。

投稿: yoshimi | 2012年6月 2日 (土) 01時06分

2番と3番、どちらかといえば私は2番が好きです。3番はフィナーレの演奏効果が高く、ピアノ愛好家の人気も高いですが、2番の暗さはある意味でショパンの本質だと思います。一楽章の不思議な転調にはこの作曲家の一筋縄ではいかない情熱を感じます。

ショパンの作品には平明な和声を使ったものも多い反面、幻想ポロネーズのように複雑で晦渋な和声をもつものもあり、それが乱調の美学になってとても感動的です。短かかった波乱の人生を振り返っているように思われますね。

投稿: NY | 2012年6月 2日 (土) 01時57分

yoshimiさん、こんにちは。

珍しくショパンでしょう。(笑)
曲によっては結構好きなんですよ。

ソコロフのスケール感は凄いですね。
表現も非常に深く考え抜かれていて凄いです。おっしゃるとおりボルシチシチューで満腹になった感じです。
それに対して、ポリーニは端麗辛口という感じで、あれも中々好きですよ。

ソコロフのプレリュードはソナタ以上に完成されている印象ですね。曲そのものも、僕は逆にエチュードよりも好きなんです。

若いころの協奏曲1番も、やはり聴いてみなくてはなりませんね。ありがとうございます。

投稿: ハルくん | 2012年6月 2日 (土) 09時19分

NYさん、こんにちは。

3番のほうが一般的には好まれるのでしょうね。2番は、かなり個性的ですからね。
3番は、僕は3楽章の中間部の分散和音のようなところの、静寂の美しさが何とも言えず好きです。

>複雑で晦渋な和声をもつものもあり、それが乱調の美学になってとても感動的です。短かかった波乱の人生を振り返っているように思われますね。

ええ、全く同感です。僕はこういう文学的な聴き方がとっても好きなんです。

投稿: ハルくん | 2012年6月 2日 (土) 09時29分

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