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2012年4月

2012年4月29日 (日)

ブラームス「ドイツ・レクイエム」 堀 俊輔/合唱団アニモKAWASAKI 演奏会

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ゴールデンウイークの初日、関東は初夏のような気候でした。そんな昨日、神奈川県の川崎にブラームスの「ドイツ・レクイエム」を聴きに行きました。主催は川崎市で活動するアマチュア合唱団、アニモKAWASAKIで、共催が東京交響楽団です。ご存じの通り、東京交響楽団は川崎のミューザ川崎でも定期的にコンサートを開いていますが、昨年3月の東日本大震災でホールが被災したために、その活動を一時的に横浜と、同じ川崎の教育文化会館に移しています。今日のコンサートも、その教育文化会館で開かれました。

合唱団アニモKAWASAKIを聴くのは今回が初めてでしたが、定期演奏会が今回で13回目。これまで、第九、荘厳ミサ曲、ヴェルディ「レクイエム」、マタイ受難曲、ロ短調ミサ、などの大曲を演奏してきているそうです。定常的にミューザ川崎で東京交響楽団と共演している、非常に恵まれた環境の合唱団なのですね。このような団体を地元に持っている川崎市の音楽ファンはとても幸せだと思います。

この合唱団の音楽監督は、堀 俊輔さん。「ヘルベルト・フォン・ホリヤン」の仮名?でも知られるプロ指揮者です。

今日のプログラムは、「悲劇的序曲」に続いて「ドイツ・レクイエム」という、ブラームス・ファンが大喜びしそうな曲目です。開演前には、ほとんど客席が埋まっていて、とても地域に密着しているのだなぁという印象です。

ステージ上にメンバーが上がって、見るとコンマス席には東響のソロ・コンサートマスターの大谷康子さんの姿が。相変わらず素敵です♡

さて、ホリヤンの棒の一振りで開始された「悲劇的序曲」ですが、僕はこの曲が大好きなのですねー。ブラームスらしい心の内面から揺さぶられるような劇的さと、中間部のロマン的で大きく歌われる愛の歌。10分ほどの曲で、これほど内容が充実している曲も珍しいように思います。演奏も、曲の良さを中々に引き出していて楽しめました。

メインの「ドイツ・レクイエム」ですが、この曲については拙ブログで、昨年の東日本大震災の直後に、~亡くなられた被災者の方へ~ という記事を書いたのですが、今日の会場には、その被災地から避難されて来られた方もいらっしゃったそうです。

この曲は、本当に素晴らしい曲です。通常レクイエムというと、カトリックの葬儀の典礼用の音楽ですが、この曲はブラームスが聖書から自分で選んだ言葉を音楽にしていて、死者の安息のためだけにではなく、この世に生き続ける者へ優しく慰める音楽になっています。

今日の演奏は、合唱団、オーケストラの皆さんの心がそのまま曲に乗り移ったような、美しくも慰めと生きる勇気を与えられるような感動的な演奏でした。僕は元々、どちらかいうとプロの洗練されて上手いコーラスよりも、アマチュアの真摯な歌声に惹かれる人間ですが、今日の歌声は正にそのような、心に響いてくる演奏でした。これは、普段、家で聴いているドイツの著名演奏家のCDで味わう演奏とはまた異なる、音楽の喜びを与えてくれます。独唱はもちろんプロである澤畑恵美さん(ソプラノ)と、青山貴さん(バリトン)でしたが、コーラスの感動を更に高めるような素晴らしい歌唱でした。そして、これら全体を統率した堀さんは、さすがに合唱曲を得意にしているだけあって見事でした。

来年の定期演奏会には、修復の終わるミューザ川崎でバッハの「ヨハネ受難曲」が予定されているようですので、是非また聴きに行きたいと思います。

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2012年4月22日 (日)

J.S.バッハ 管弦楽組曲全集 BWV1066~1069 名盤

バッハの「管弦楽組曲」は全部で4曲存在しますが、この「管弦楽組曲」という呼び名は元々は使われていませんでした。単に「序曲(Overtures)」とされていただけです。4曲とも、その「序曲」で開始され、そのあとに「クーラント」だの「ガヴォット」だの「メヌエット」だのと、短い曲が幾つか自由に並べられています。けれども、どの「序曲」も長大で、組曲全体の長さの約三分の一から半分をも占めますので、後ろに続く曲はなんだかおまけのようです。

これらの中で最も頻繁に単独でも演奏されるのは第3番の2曲目「Air」で、一般に「G線上のアリア」と呼ばれる曲です。この曲は本当に敬虔な美しさを湛えた曲ですし、その「序曲」も輝かしい曲で非常に良いのですが、全体の出来栄えとなると、やはり第2番が群を抜いていると思います。荘厳な序曲はまるで「マタイ受難曲」を想わせますし、ロンド、サラバンド、ブーレ―、ポロネーズ、メヌエット、バディネリーと、どれも名曲ぞろいです。個人的には終曲の短い「バディネリー」が大好きで、子供のころにラジオから流れたこの曲に凄く惹きつけられた記憶が有ります。

第2番に次いでは、むしろ第1番が気に入っています。第4番も悪くはありませんが、他の曲に比べると大分インパクト不足です。「ブランデンブルク協奏曲」は全曲が名曲なのに比べると、幾らか物足りないですね。もちろん好みの問題もありますが。

CDでは、全曲を買い求めるのがもちろんベストなのですが、よく第2、第3番だけで1枚のCDに収められてもいますので、それだけでも決して不足は無いと思います。

それでは、僕の愛聴盤をご紹介します。

1197040818カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管(1960年録音/アルヒーフ盤) オールド・ファンなら誰に聞いても「定番」に上げると思います。演奏は第2番が最高です。序曲の峻厳さはまるで、この人の「マタイ受難曲」の演奏を聴いているようですし、オーレル・ニコレの滋味溢れるフルート演奏を聴くことができます。ところが、第3番の序曲などでは堂々として聴きごたえが有りますが、トランペットの音量が大き過ぎてバランスを崩しています。これはこの人の「ロ短調ミサ」でも感じた欠点です。ですので、全体は手放しで好きな演奏というわけでもありません。

727パブロ・カザルス指揮マールボロ祝祭管(1966年録音/SONY盤) 実は昔アナログ盤で愛聴したのはカザルス盤でした。この人の「無伴奏チェロ組曲」や「ブランデンブルク協奏曲」の演奏には、少々古臭さを感じてしまいますが、この管弦楽組曲には感じません。もちろん現代楽器による編成の大きい演奏ですが、あくまでも弦楽が主体となり、トランペットの音は完全に柔らかく弦に溶け込んでいます。その点では古楽オケ以上かもしれません。また、驚くほどにリズムが厳しく、生命力を持っています。この老カザルスの指揮ぶりには、畏怖心すら感じてしまいます。第2番、第3番はもちろん素晴らしいですが、1番や4番なども、とても良い曲に感じさせてくれます。この組曲の芸術的価値を最も高めている演奏かもしれません。最後に「G線上」の演奏が、うわべの綺麗さとはまるで無縁で感動的なことを記しておきます。

41cbn4e0rkl__sl500_aa300_ラインハルト・ゲーベル指揮ムジカ・アンティクヮ・ケルン(1982、85年録音/アルヒーフ盤) 初めは82年に録音された第2番だけを聴きましたが、それまで聴いて来たこの曲とはまるで異なる新鮮さがとても気に入りました。楽器の響かせ方も含めて非常に室内楽的で、緻密なアーティキュレーションが実にスリリングだったからです。しかも表面的な印象は全く無く、バロック音楽と真剣勝負する真摯さに圧倒されたのです。その後、85年に録音された3曲もやはり同様に素晴らしい出来栄えです。ゲーベルという演奏家の底知れない凄さを感じてしまいます。彼らの「ブランデンブルク協奏曲」も素晴らしい演奏でしたが、この演奏もまた格別です。

51ufofldizl__sl500_aa300_トン・コープマン指揮アムステルダム・バロック管(1988年録音/RCA盤) 古楽器派としては非常にオーソドックスな演奏です。響きは古雅で美しく、安心して聴いていられます。ただし、逆に「古楽器による演奏」だということ以外には余り魅力を感じません。第2番の序曲や「G線上」などは、軽やかに通り抜けてしまうだけで、感動には程遠いように思います。それが「バロック音楽」というものなのであれば、僕はバロック音楽には縁遠い人間だということになるかもしれません。皆さんはどのように感じられるのでしょうね。

ということで、現代楽器では偉大な精神を感じさせるカザルス盤、古楽器ではゲーベル盤が気に入っています。

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2012年4月16日 (月)

J.S.バッハ ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ニ短調 BWV1060 名盤

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バッハには「2台のチェンバロのための協奏曲」BWV1060という曲が有りますが、実はこれは元々「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」として書かれた曲をバッハ自身の手で2台のチェンバロ用に書き替えたものです。ところがオリジナルの楽譜は紛失されてしまったので、残されたチェンバロ用の楽譜を元に後年バッハ以外の人の手によって原曲の楽譜が復元されたという、少々ややこしい経緯が有ります。

なにはともあれ、こうして復元されたのが「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲ニ短調BWV1060」です。おかげで、我々は今こうしてバッハの名曲を鑑賞することが出来るのです。

それにしても、この曲は本当に素晴らしい作品です。比較的短めですが、バッハの魅力が一杯に溢れています。個人的には、3曲のヴァイオリン協奏曲よりも更に好んでいます。もっとも、原曲の復元のために大きな貢献をしたチェンバロ協奏曲として聴くのは余り好んでいません。オーボエの音が抜けると、どうも間が抜けて聞こえます。まるで、歌の無いカラオケの伴奏だけを聴かされているような気がします。ですので、僕はもっぱらヴァイオリンとオーボエの版で、聴いています。特に第1楽章に絶大な魅力を感じますが、2楽章、3楽章も聴くほどに味わいの深まる名曲です。

第1楽章アレグロ いきなり押しの強い旋律が弦楽合奏とともに登場します。どこか哀しみに包まれているようでいて、同時にその涙をふり払うかのような強さを感じて素晴らしいです。オーボエとヴァイオリンの二つの音色のからみ合いは絶妙で、名旋律を最高に生かし切っています。

第2楽章アダージョ この楽章でも、ゆったりとした美しい旋律がオーボエとヴァイオリンによって歌い継がれてゆきます。

第3楽章アレグロ 毅然としたリズムに乗って、ヴァイオリンが妙技を展開します。中間で頻出するシンコペーションは非常に効果的で、ブラームスばりです(逆か??)。

それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

Winschermanヘルムート・ヴィンシャーマン(指揮、Ob)、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(Vn)、ドイツ・バッハ・ゾリスデン(1962年録音/CANTATE原盤:日本コロムビア盤) ドイツ・バッハ・ゾリスデンは日本でも古くから人気が有って何度も来日しましたが、僕は残念ながら実演に触れる機会は無くて、LP盤で親しんでいただけでした。けれども、この演奏は本当に好きでした。ヴィンシャーマンの太く男っぽい音色が、いかにもドイツ気質を感じさせて、フランス系の奏者とはまるで異なりました。素朴で深く、ゆったりと重みのある演奏が何とも言えません。やはり自分にとっては、ヴィンシャーマンのこの演奏がこの曲の原点なのです。GFヘンデルのヴァイオリンはヴィブラートをかなり控えているので、昔は下手なのかと勘違いをしましたが、実は古楽器奏法の先取りをしていたのですね。今改めて聴くと、オーボエとのからみ合いが実に素晴らしいです。

Winscherman_livejpegヘルムート・ヴィンシャーマン(指揮、Ob)、ドイツ・バッハ・ゾリスデン(1970年録音/日本ビクター盤) 幸いなことにドイツ・バッハ・ゾリスデン4回目の来日公演が録音で残されています。会場は東京の杉並公会堂です。前述のスタジオ盤と比べると随分と流麗な音の印象を受けます。ライブならではの感興の高さを感じますので、スタジオ盤とはなかなか甲乙がつけがたいところです。ヴィンシャーマンは、このずっと後にスタジオでの再録音を行っていますが、残念ながらオーボエを吹いているのは別の奏者です。それに、テンポ設定も古楽器派のように速めていますので、自分の好みからは遠ざかってしまいました。

51ef28vxmyl__ss500__2カール・リヒター(指揮)、エドガー・シャン(Ob)、オットー・ビュヒナー(Vn)、ミュンヘン・バッハ管弦楽団(1960年代録音) ヴィンシャーマンに比べれば、ずっと速めのテンポでリズミカルですが、ドイツ的な堅牢さも感じさせるのが良いです。古楽器派全盛の時代に改めて聴き直すと、古めかしさよりも逆に新鮮な印象すら受けます。もちろんソリストの演奏は悪くありませんが、ヴィンシャーマン盤ほどの音の太さとコクは感じません。あくまでもリヒターの指揮するドッペル・コンチェルトの魅力を味わうべきだと言えそうです。

419wmnm084l__sl500_aa300_ネヴィル・マリナ―(指揮)、ハインツ・ホリガー(Ob)、ギドン・クレーメル(Vn)、アカデミー室内管(1982年録音/フィリップス盤) リヒター盤とはうって変って、指揮者のマリナーの存在が霞んでしまう演奏です。ホリガーとクレーメルという、それぞれの楽器の最高の名手が繰り広げるスリリングな掛け合いの楽しみが全てです。第1楽章などは少々速過ぎるように思いますが、この、手に汗握る演奏こそが彼らの真骨頂です。但し個人的には、やはりこの曲はヴィンシャーマンの旧盤のようにどっしりとした演奏が好みではあります。

というわけで、何と言ってもヴィンシャーマンの2種類の演奏が最高です。

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2012年4月12日 (木)

J.S.バッハ ヴァイオリン協奏曲集 BWV1041~1043 名盤

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無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ集は、バッハの残した器楽曲の最高峰と呼べるでしょうが、余りにも音楽的な深さが計り知れないことから、最初はなかなか入り込んで行けないかもしれません。その点、ヴァイオリンのために書かれた3曲の協奏曲は、どれもがとても馴染みやすい曲なので、もしもバッハにこれから親しみたいと思っておられる方には、第一にお勧めできる名曲集です。

ところで、ヴァイオリン協奏曲というのは、イタリアのアントニオ・ヴィヴァルディが確立した音楽だと言っても誤りでは無いでしょう。何しろ、作品の数は200曲以上と言われます。あの「四季」は、その中で最も有名な作品です。それに対して、バッハは現存する作品が僅かに3曲のみ。実際にはもう数曲書いたようですが、楽譜が残っていません。「四季」を含む200対3では、とても勝負にならなそうですが、ところがどっこい、この3曲は非常な傑作ぞろいです。例えてみれば、大阪城で20万の徳川軍勢を迎え撃つ、真田幸村率いる少人数の精鋭隊のような作品集です。もっともそれは、そんな傑作集をも遥かに凌駕してしまう無伴奏ソナタとパルティータというのは、いったい何という作品なのだということになります。まあ、それはともかくとして、この3曲を聴きましょう。

第1番と第2番はヴァイオリン学習者の練習曲に使われるぐらい技術的には易しいですし、音楽的にも分かりやすい曲ですが、プロが弾くにはそれ相応の内容を求められますので、そんなに簡単にはすみません。

ヴァイオリン協奏曲集第1番イ短調BWV1041

冒頭から、ヴィヴァルディ先生の甘く優しい音楽とはだいぶ異なります。威厳に満ちていて、やはりドイツの音楽だなぁと思わずにいられません。1楽章は短調の哀愁漂う旋律が非常に魅力的です。2楽章は美しいアリアで、宗教曲のような崇高さを感じます。3楽章はブランデンブルク協奏曲のような楽しさが有ります。この曲は、後に「チェンバロ協奏曲BWV1054」に編曲されました。

ヴァイオリン協奏曲集第2番ホ長調BWV1042

1楽章は第1番とは対照的に長調の明るい曲で祝典的な喜びに満ちていますが、この格調の高さは、やはりイタリアン・バロックの雰囲気とは異なります。2楽章は荘厳な美しさがあります。3楽章は舞曲風ですが、楽しさで一杯です。この曲は、後に「チェンバロ協奏曲BWV1058」に編曲されました。

2つのヴァイオリンのための協奏曲二短調BWV1043

2台のヴァイオリンが対等に扱われていますが、独奏を支える合奏も充実していて、3者の掛け合いが非常に魅力的です。独奏は1番、2番ほどには目立ちませんが、凛とした雰囲気が素晴らしいです。2楽章の詠嘆の歌も美しく、心の底に深く染み入ります。この曲は、後に「2台のチェンバロのための協奏曲BWV1062」に編曲されました。

通常は1枚のCDに3曲を収めているので、購入がし易いです。それでは僕の愛聴盤をご紹介します。

M000083423310204ヘンリク・シェリング独奏/指揮コレギウム・ムジクム・ヴィンタートゥール(1965年録音/フィリップス盤) 昔アナログ盤で聴いていた演奏で、定番と呼ばれました。マリナー指揮の再録音盤も有りますが、こちらではシェリングが自ら指揮もしています。現在聴くと、だいぶロマンティックに偏ったヴァイオリンだなとは思いますが、音程が完璧なのと、リズムを少しも崩さないので古臭さを感じません。楽器の音色がとにかく綺麗です。「無伴奏」の録音よりも、むしろこの人の実際の音に近く感じます。落ち着きのあるテンポには威厳を感じますし、ヴィンタートゥールの響きもがっちりしていて素晴らしいです。「2台」でヴァイオリンを弾くのはペーター・リバールですが、シェリングとぴったりの音色でとても上手いです。古楽器全盛の時代にあって、少しも魅力を失わないどころか、より輝きを増す素晴らしい演奏だと思います。

Bach_violin_conカール・ズスケ独奏、クルト・マズア指揮ゲヴァントハウス管(1977-78年録音/Berlin Classics盤) ズスケの音は非常に端正で美しいですが、楽章によっては真面目過ぎて面白みに欠ける気もします。技術的には完璧とは言えずとも、充分許容範囲と言えます。むしろ問題なのは、ゲヴァントハウスの音が弱いことです。あの荘厳な響きを期待すると裏切られます。そういえばマズアのバッハというのは余り他に記憶が有りませんが、何を聴いても感心したことのないマズアはゲヴァントハウス管にバッハを演奏させても「マズあ」なのでしょうか。それとも管弦楽の音の薄い録音のせいなのか・・・。

419wmnm084l__sl500_aa300_ギドン・クレーメル独奏、ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管(1982年録音/フィリップス盤) どの曲も速いテンポで駆け抜ける演奏は爽快です。一見飄々と弾いているようで、速いパッセージにもニュアンスが込められているので聴き逃さないようにするのが楽しみです。現代楽器でもこれほど新鮮で刺激的な演奏が可能だと言う良い手本ではないでしょうか。特に面白いのは、クレーメルが一人で多重録音をした「2台のための協奏曲」です。2台が対等に書かれている作品なので、これが究極の演奏かもしれません。でも、いくらクレーメルが上手くても実演では絶対に不可能なのが残念ですね。どうせ録音なら、合奏団も自分で全部演奏してしまえばいいのにね。うん?楽団ひとり??

Bach_violin_con_haggモニカ・ハジェット独奏、トン・コープマン指揮アムステルダム・バロック管(1985年録音/エラート盤) ハジェットがコープマンとコンビを組んでいた時代の録音です。「無伴奏」では、あれほど自由奔放に弾いていたハジェットですが、ここではかなり規律正しく弾いています。とは言え、やはり彼女の表現力は並みではありません。速さを競うような古楽器派とは一線を画して、むしろ落ち着いたテンポで、ニュアンス豊かに弾いているのがとても楽しいです。それでも古雅な音色は、管弦楽と共にとても魅力的ですし、ヴィブラートを控え目にでもかけているのは、自分としてはノン・ヴィヴラートよりも好ましく思います。「2台」の相方はアリソン・ベリーですが、ハジェットに比べると幾らか聞き劣りします。

というわけで、現代楽器ならシェリング、クレーメルのどちらも好きですが、最近は古楽器のハジェットを好んで聴いています。

ところで、せっかくですのでチェンバロ協奏曲に編曲した演奏もご紹介しておきます。

41022e8tq7l__sl500_aa300__2トレヴァー・ピノック独奏/指揮ジ・イングリッシュ・コンソート(1979-81年録音アルヒーフ盤) バッハの曲は元々、演奏楽器を余り特定されない傾向が有りますが、名曲は何の楽器で演奏されても名曲です。バッハのチェンバロ協奏曲は12曲以上有りますが、最初からチェンバロ用に作られたものはその半分以下です。チェンバロの古雅な雰囲気もヴァイオリンとはまた違った良さが有って楽しめます。楽器の特性から調も変わりますので、音楽の印象も随分と変わって面白いです。ただ、この3曲の中で一番チェンバロに向いているのは「第1番」だと思います。「第2番」と「2台」は、明らかにヴァイオリンに向いていると思います。全曲盤は、僕はピノック盤で聴いていますが、第1番、2番に関しては、少々古いですがヘルムート・ヴィンシャーマン/ドイツ・バッハ・ゾリスデンのゆったりと貫禄のある演奏が大好きでした。

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2012年4月 5日 (木)

J.S.バッハ 「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」BWV1001~6 名盤 ~奇跡の音楽~

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”大海のごとく偉大なバッハ”(ベートーヴェン談)の最高峰作品は「マタイ受難曲」、「ヨハネ受難曲」、「ロ短調ミサ曲」であるとしても、僕がかねがね奇跡の音楽と思っているのは「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ集」です。あの小さな楽器のヴァイオリンたった一台のために書かれた曲集であって、鍵盤楽器の伴奏も何も有りません。それが、大編成の声楽曲や交響曲にも負けないほどの大きな音空間を創り上げます。それは正に宇宙的なまでの広がりを持っています。これこそは奇跡以外の何物でもないと思います。

この曲の凄さを知ったのは、今から30年以上も前の僕がまだ20代の頃です。東京文化会館にヘンリク・シェリングのヴァイオリン・リサイタルを聴きに行きましたが、その日の演奏曲目にバッハの無伴奏パルティータの第3番が含まれていました。演奏が始まると、それまで聴いたことも無いような美しい響きが、あの大きなホール一杯に響いてゆきました。演奏するシェリングの身体には少しも力みが無く、一見すごく軽く弾いているのですが、ふわりと自然に広がっていく音に、客席全体が包み込まれてしまいました。僕が聴いていたのは最上階5階のサイドなので、シェリングは見下ろすステージの上で弾いているのですが、音はまるで大きなホールの空間がそのままヴァイオリンになってしまったかのように感じられました。それは、あたかも大きなヴァイオリンの箱の中で聴いているかのような感覚なのです。ヴァイオリンのコンサートを聴きに行って、こんな感覚を持った経験は後にも先にもこの時だけです。恐らくは、バッハの音楽とシェリングの演奏が組み合わさって、初めてこのような現象が起こるのだと思います。この時の来日公演では、別の日のコンサートがTDKからライブCDとして出ていますが、あの体験は実際の会場で無ければ味わえないものだと思います。

要するに、この曲は、”音楽の神様に選ばれし者”に演奏されたときには、とてつもない音楽になってしまうのです。

この曲はバッハの自筆譜において3曲のソナタと3曲のパルティータが交互に配列されています。

1.ソナタ第1番 ト短調 BWV1001
2.パルティータ 第1番 ロ短調 BWV1002
3.ソナタ 第2番 イ短調 BWV1003
4.パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
5.ソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005
6.パルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006

最も良く知られているのは、パルティータ第2番の終曲の「シャコンヌ」です。その長大な変奏曲は、パイプオルガンにも匹敵する巨大な音空間を想わせます。
そして曲集で重要な肝となるのが各ソナタに置かれたフーガです。フーガが果たしてヴァイオリン1台で演奏することが出来るものだろうかと、曲を実際に聴く前までは不思議でなりません。しかしいざ聴いてみれば各ソナタのフーガは実に堂々たるもので、多声部が次々と追いかけ合って行く様は、これをたった4本の弦と1本の弓で演奏しているかと思うと驚愕するばかりです。
もちろんヴァイオリンは基本的に同時に二つの音(重音)しか出すことができませんので、三重音以上は分散和音のように弾きます。それをオルガンのように聴かせるわけですから、演奏も至難を極めます。音程と弓使いが完璧でないと音楽になりません。しかも単にテクニックだけで片付けられるような浅い内容の音楽ではありませんので、いよいよ演奏家には多くのものが要求されます。

いずれも第2楽章にフーガを置く4楽章構成のソナタも素晴らしいですが、古典舞曲を元にした短い曲を多く並べたパルティータの魅力も絶大です。第3番の「ブーレ」などは楽しさの極みですが、一方で第2番の「シャコンヌ」のような長大な楽曲も存在します。

いずれにしても、この「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」こそは、バッハの究極の器楽曲だと思います。

それでは僕の愛聴盤のご紹介です。

6c592408cbd172778c635c24b9b8e558ヘンリク・シェリング(1967年録音/グラモフォン盤) 昔から定盤と呼ばれている演奏です。本来はアナログ盤で聴くのが一番ですが、不公平になるのでCDで聴き比べることにします。実演での音空間は体験できなくても、家で聴くには充分美しいです。シェリングのベートーヴェンやバッハは、何ら大げさなことをしていないのに何故これほど音楽の偉大さを感じるかというと、基本は技術です。特筆すべきは音程の完璧性です。それは実演の場合でも全く変わることがなく、他の誰のスタジオ録音よりも音程が確かで、一音たりとも外すことが有りません。その結果、重音、アルぺッジオが非常に美しく響きます。まるでオルガンのような響きを感じさせる奏者が他に居たでしょうか。その為には、ボウイング(弓使い)のなめらかさも不可欠なのですが、この人はほぼ晩年まで衰えることが有りませんでした。技術的な難所にあっても微動だにしないテンポの安定性も特筆されます。結果として、フーガでの構築性や立派さは比類が有りません。演奏家としての自分を表に全く出さないので、一聴すると個性が無いように感じるかも知れませんが、それは間違いであり、シェリングはバッハの偉大な音楽を完全に演奏しようとするからこそ、そこに演奏家の矮小さを介在させないのです。この曲の計り知れない大きさや凄さを最も感じさせてくれるのは、やはりこの演奏です。

Swscan00106ヨハンナ・マルツィ(1954年録音/テスタメント盤) 原盤はEMIですが、古いアナログ盤が希少のために、中古市場で驚くほどの高値を呼んだことで有名です。それが今では普通にCDで聴くことが出来るのが嬉しいです。彼女の音を聴いていて、なぜか連想してしまうのがピアノのリパッティの音です。派手さは無いのですが、純朴でとても美しい音です。技術的にも安定しているので、重音が美しく響きます。演奏スタイルも良く似ていて、誇張や派手さは全く無いのですが、深く心に染み入ってきます。何よりも音楽に「祈り」を感じさせるのが素晴らしいです。この敬虔な雰囲気の中に、いつまでも浸っていたくなる感覚というのはそうそう有るものではありません。とはいえ曲によっては相当な気迫を感じさせます。フーガの演奏も実に素晴らしく、彼女はやはり凄いバイオリニストだったと思います。テスタメントのリマスターには充分満足していますが、本家のEMIからもボックス盤で出ています。

398ヨゼフ・シゲティ(1955-56年録音/ヴァンガード盤) シゲティは偉大なヴァイオリニストだと思いますし、この人の弾くブラームスなどは感情表現の深さに涙が止まらなくなるほど感動させられます。このバッハの演奏もやはり同様のスタイルであり、大きなヴィブラートやポルタメントを遠慮なく用いて情緒的に強く訴えかけます。「シャコンヌ」などはそれが痛切なほどです。いささか古めかしさを感じますが、その真実味を帯びた人間性溢れる表現は比類が無く、好き嫌いが分れるところだと思います。重音や、スタッカートの音に気迫がこもり切っているので音に荒さを感じますが、これぞシゲティの本領発揮でファンには気にならないでしょう。昔はともかく、今では広く一般にお勧めするべき演奏ではないのかもしれませんが、同じハンガリー出身でもマルツィとまるで異なるタイプの名演奏として大切な存在です。

Ym449ユーディ・メニューイン(1956-57年録音/EMI盤) 子供のころから「神童」ともてはやされたメニューインは、ある専門家によれば、デビュー前にマスターしておかなければならないヴァイオリニストとしての基礎技術が欠けていたそうです。それでは大人になってからは、豊饒な音も持たず、確かな技術も無いとなると、何が特徴かということになりますが、月並みな表現ですが、この人には「精神」が有ったと思います。この演奏も、聴き始めは音程の不安定さと汚い音に耳を覆いました。第1番のフーガなどは、「のこぎりを引いているのではないか」と思ったぐらいです。ところが聴き進むうちに、それでもバッハの偉大な音楽に真正面から必死で立ち向かう姿が浮き上がってくるのです。それは、燃えさかる炎の中に人を助けに飛び込んでゆくような、人間の意思を超えた何か壮絶なものを感じずにいられません。決してリファレンスの演奏にはなり得ませんが、「凄いものを体験した」という聴後感は、ことによるとシゲティ以上かもしれません。しかしこれは誰にでもお勧めできる演奏ではありません。

51j21715r8l__sl500_aa300_ナタン・ミルシテイン(1973年録音/グラモフォン盤) 昔から、(シゲティは別にして)シェリングと並ぶ定番なのは知っていましたが、実は聴いたのは今回が初めてです。シゲティほどに激しく楽器を痛めつけませんが、その気迫はかなりのものです。技術も鮮やかですし、演奏に非常に切れが有ります。基本的にはロマン派の演奏スタイルなので、音楽の形式が自由で舞曲を多く含むパルティータのほうが適していると思います。事実、非常に素晴らしいです。ソナタも情感深く歌わせるアダージョやシャコンヌは素晴らしいと思いますが、フーガ楽章で音が次々に重なって巨大になってゆく造形性はシェリングほどには再現できていません。重音の和音の美しさも、やはりシェリングには一歩譲ります。とは言え、やはり一つの時代を画した、非常に存在感の有る名演奏だと思います。

4110080336カール・ズスケ(1983-88年録音/シャルプラッテン盤) ズスケは、実演ではカルテットでしか聴いたことは有りませんが、非常にしなやかで美しい音でした。このバッハもドレスデンのルカ教会の響きと相まって、非常に美しい音を聴くことが出来ます。ユニークなのは、聴き手に聴かせようという意思が希薄で、ひたすら自己の内面に向き合っているかのように内省的な演奏です。自分の魂との対話・・・そんな印象なのです。技術的には、フーガ楽章などでポリフォニーが充分に再現できているかというと少々難しいといころですが、細部にこだわらず全体を通して聴いていると、いつの間にか惹き込まれてしまいます。

ここで古楽器派についても上げておかないわけには行きませんね。

Bach___sl1259_シギスヴァルト・クイケン(1981年録音/独ハルモニア・ムンディ盤) 古楽器派の代表的な奏者としてはやはりクイケンが上げられそうです。1700年製のストラディバリウス「ジョヴァンニ・グランチーノ」を使用していて、これはバロック・ヴァイオリンによる全曲録音の先駆けの一つです。以前は古楽器の音を「干物の魚」のようにどうも貧相に感じましたが、最近ではやはりこのような音がバロックには合うのかなと思うようになりました。確かに無心で耳を傾ければ、アダージョなどの遅い曲では素朴な音色と落ち着いた歌い回しとが相まってとても懐かしさを誘い魅了されます。けれどもフーガのような難しい部分となると演奏の完成度はまだまだ低く、正直聞き苦しさを感じてしまいます。クイケンには二度目の再録音も有りますのでそちらに期待をしたいところです。

971モニカ・ハジェット(1995-96年録音/EMI盤) 女流のハジェットもトン・コープマンと一緒にアムステルダム・バロック合奏団を結成して途中までコンミスを務めてみたり、まだ10代だった1970年頃からバロック・ヴァイオリンを弾くという筋金入りの古楽器奏者です。その後大勢の奏者が出てきましたが、この人の演奏は一味違うと思っています。40代に録音したこの「無伴奏」は楽しめます。ズスケが自分の魂との対話だとすれば、ハジェットは、さしづめ名女優です。表情が豊かで雄弁に演奏していますので、下手をすると単に姑息な演奏に陥ってしまいそうですが、そうはならずにバッハの音楽の別の面を語り尽くしています。まるで、英国のシェイクスピア俳優の台詞を聴いているみたいです。そういえばハジェットもイギリスの出身でした。アマティ制作の1618年クレモナのヴァイオリンの素晴らしい音が優秀な録音で楽しめるのも魅力です。

もちろん、これ以外にも魅力的な演奏があるとは思いますが、シェリングの演奏を大本命として、マルツィを次点、シゲティ、ミルシテインを外せない演奏だと思っています。

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