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2012年3月31日 (土)

J.S.バッハ カンタータ 第140番「目覚めよと我らに呼ばわる声あり」BWV140 名盤

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「バッハは小川にあらず、海よりも偉大である。」と語ったのはベートーヴェンです。「Bach」はドイツ語で「小川」を意味するので、例えに使ったわけです。

それにしても、この小川さんは大変な人です。教会音楽家ですので、宗教声楽曲を数えられないほど多く書いていますし、器楽曲などもやはり相当な数に及びます。そのうえ、子供の数も数えられないほど(というのはオーバーですが、20人です)たくさん作ったことは良く知られています。「音楽の父」であり、大勢の子供の父親でもあったわけです。作曲に忙しかったのでしょうに、夜もホントに精力的だったのですね。やっぱり偉人は違います。

話を戻して、声楽曲の大傑作と言えば何と言っても「マタイ受難曲」「ヨハネ受難曲」「ミサ曲ロ短調」です。これらは大海に浮かぶ大陸のようなものです。極論すれば、バッハはこの3曲に始まり、この3曲に終わると言っても言い過ぎでは無いのかもしれません。でも、そうは言っても、他にも多くの名作が有ります。特にカンタータには、楽譜が残っているものだけで200曲以上、分らなくなったものも合わせると300曲は書いているはずだと言われています。そんなアルプス山脈のようなカンタータ群には、聴き込もうとしても、余りの曲の多さに、どこから山頂を目指して登って良いのか分からず、山のふもと辺りでうろうろしている自分を見るような気分です。

でも、そんなカンタータの中に、昔から大好きな愛聴曲が有ります。第140番「目覚めよと我らに呼ばわる声あり」です。この曲のコラールは、何でも「三位一体節後第27日曜日用の作品」として書かれたそうですが、キリスト教徒でない自分にはそれが何のことかよく分かりせん。ただ、この日は暦の関係で、復活節が相当早く、3月26日以前に繰り上がった年にのみ巡ってくるそうで、かなり珍しいのだそうです。バッハのカントル在職中にもたった2回有っただけなので、この日のためのカンタータはこの曲が唯一なのだそうです。

この曲の歌詞は、マタイ伝の一節が元になっていますが、それは花婿の到着を待つ花嫁と出迎えの10人の乙女たちの話です。

『結婚式が予定されて、花嫁と乙女たちは花婿の到着を待っているが、いつまでたっても到着しないので、皆寝込んでしまう。すると、夜も更けた頃に花婿の到着を告げる物見らの「目覚めなさい」という声に起こされる。けれども、灯火の油をちゃんと用意していた5人の乙女は婚礼に参加できたが、残りの5人の乙女は参加させてもらえなかった。』という内容の話です。

「花婿」というのはイエスのことで、「10人の乙女たち」というのは我々人間(信者)のことです。要するに、これはイエスの再臨(神の国の到来)についての例え話です。その日は中々やっては来ないけれども、その日のためにいつも心して準備しているように、という教えなのですね。

曲は7曲で構成されています。

1.コラール「目覚めよと我らに呼ばわる声あり」

2.レシタティーフ(テノール)「来る、来る、花婿が来る」

3.アリア(ソプラノ、バス)「いつ汝は来るや、我が救いよ」

4.コラール(テノール)「シオンは物見らの歌うを聞く」

5.レシタティーフ(バス)「さあ私のところに来なさい」

6.アリア(ソプラノ、バス)「我が友は我がもの」

7.コラール「栄光が汝に向かって歌われよ」

第1曲のコラールは付点リズムでさっそうと、かつ威厳を持って足取りを進めます。非常に素晴らしい曲ですが、そういえば、ソフトバンクのお父さん犬のCMの初めのころのにバックで流れていました。

第3曲の二重唱は、イエスと花嫁として描かれた信者の魂との対話です。オブリガードで奏されるヴィオリーノ・ピッコロが非常に美しいです。

第4曲のコラールは、バッハの書いた最も美しいコラールではないかと思います。弦楽のユニゾンに伴奏された歌のなんと美しいこと!ところが、実は大きな問題が有ります。この曲のテノールのパートが、楽譜上にただ「テノール」と書かれている為に、合唱なのだか独唱なのだかが明確でなく、演奏は解釈で分かれます。楽譜の指示では確かに独唱のように受け止められなくも有りませんが、3曲のコラールのこの曲だけが独唱で歌われるのには違和感を感じます。結論は出ないでのしょうが、個人的にはこのテナー・パートの音型はどう聴いてもコラール(合唱)音型ですので、合唱が正解だと思っています。

第6曲の二重唱も再びイエスと花嫁の対話ですが、印象的なオーボエの助奏を伴って、「汝は我と天のバラの中で楽しまん」と喜びを歌う至上の愛のデュエットです。

第7曲のコラールは栄光の喜びに溢れた感動の終曲になります。

このカンタータは本当に素晴らしい作品です。他にも好きなカンタータは幾つか有りますが、この曲ほど充実仕切った名作は、いまだ知りません。バッハ愛好家にとっては、何を今更のことでしょうが、もしも、これから聴き始めようという方がおいででしたら、真っ先にお勧めしたいのがこの曲です。

僕の愛聴盤ですが、教会合唱団が好きなので、かなり偏っています。

089クルト・トーマス指揮聖トーマス教会合唱団/ゲヴァントハウス管(1960年録音/Berlin Classics盤) 大学生のときに最初に聴いた演奏です。東芝EMIのアナログ盤でした。現在はCDで聴いていますが、この名曲をこの演奏で知ったのは幸せでした。ゆったりとしたテンポのコラールは威厳に満ちていて、立派この上ありません。第4曲のコラールも独唱では無く合唱ですが、これを聴いてしまっては独唱では満足できません。独唱陣もロッチェ、グリュンマー、アダムの3人とも素晴らしいですが、二重唱のアリアも最高です。ゲヴァントハウス管も現代楽器ながら古風な音色が素晴らしく、上手さも文句無しです。クルト・トーマスはラミンの後任としてトーマス・カントルに就任しましたが、たった3年で西側へ亡命してしまったために、録音が非常に少ないので、カンタータ集のCDが海外盤だけとはいえ数枚残されているのは嬉しいです。

P1000831エアハルト・マウエルスベルガー指揮聖トーマス教会合唱団/ゲヴァントハウス管(1966年録音/アルヒーフ盤) クルト・トーマスの後任のトーマス・カントル(洒落では無い)は、マウエルスベルガー兄弟の弟のエアハルトです。トーマスと比べると幾らか速めのテンポですが、伝統的なスタイルを守っています。独唱陣はギーベル、シュライヤー、アダムと名歌手が揃っていますし、ゲヴァントハウス管ももちろん素晴らしいです。ところが問題は、第4曲をテノール独唱にしていることです。これは、どんなにシュライヤーの歌唱が素晴らしくても、合唱の感動には及びません。非常に悔やまれます。この演奏は組み物のCDには含まれているようですが、単独では出ていないません。ですので僕は昔のアルヒーフのアナログ盤で聴いています。

909ハンス・ヨアヒム・ロッチェ指揮聖トーマス教会合唱団/新バッハ・コレギウム・ムジクム(1983年録音/Berlin Classics盤) 弟マウエルスベルガーの後任としてトーマス・カントルに就任したのはロッチェでした。この人は、クルト・トーマス盤で素晴らしいテノールの歌を聴かせていました。この演奏ではオーケストラがゲヴァントハウス管のメンバーからなる小編成の合奏団になっています。そのためか、演奏のスタイルはテンポが速めでリズムを強調した、ピリオド奏法に近づいています。第4曲を合唱が歌うのは我が意を得たりで良いのですが、ソプラノがやや落ちるために、二重唱の感動がいま一つです。聖トーマス教会合唱団は相変わらず真摯な歌声が素晴らしいです。

Imagescak42olwカール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合唱団/管弦樂団(1978年録音/アルヒーフ盤) リヒターが音楽家になるきっかけになったのは、この曲に心を打たれたからだという話を記憶しています。その為に、非常に思い入れの有る演奏をしていて一般の評判も良いのですが、僕には遅いテンポでリズムが重く、引き擦るように感じられます。思い入れが余りに強過ぎてしまったように思うのです。リヒターも第4曲のコラールをテノール独唱としているので、それも僕には大きなマイナスポイントです。

51zb5vcyvll__sl500_aa300_ヘルムート・リリング指揮ゲヒンゲン聖歌隊/シュトゥットガルト・バッハ合奏団(1983‐4年録音/ヘンスラー盤) これは全集盤からの演奏です。古楽器風の速いテンポによる躍動感のある演奏ですが、反面、この曲の持つ威厳は損なわれているように感じます。第4曲のコラールを合唱にしているのは良いのですが、リズムの過度の強調が、あの美しい旋律を少々損ねているようにも感じます。あくまでも全集の中の1曲ということで価値が有るのだと思っています。

ということで、この曲の素晴らしさを最高に感じさせてくれるのは、やはりクルト・トーマス/聖トーマス教会合唱団盤です。

この曲は、福音書の内容や歌詞が全く分らずとも、音楽的な素晴らしさに感動することが充分に可能です。ですのでご心配なくこの名曲を気軽に味わってください。そして、どうかバッハの素晴らしさに目覚められんことを!

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コメント

ハルくんさん、こんにちは。 バッハのカンタータの中では 第106番、第147番と この第140番が好きですね。私の場合、リヒターの演奏から 入りましたので テンポが速いと ちょっと違和感があります。トーマス盤も好きですが やはり リヒター盤が 一番しっくり来ます。好みの違いって 面白いですね。(笑)

投稿: ヨシツグカ | 2012年3月31日 (土) 16時00分

ヨシツグカさん、こんばんは。

第106番は初期の瑞々しさが魅力ですね。僕も好きです。第147番ももちろん好きです。

リヒターも遅いテンポは別にしても、第4曲のコラールが合唱であれば良かったのですけれどね。
僕にはトーマスの遅過ぎず速過ぎないテンポは絶妙に感じられます。

投稿: ハルくん | 2012年3月31日 (土) 22時52分

こんにちは。
私のように、カンタータの中でこれがいちばん好き、という人は多いのではないでしょうかnote
わが家では、ストーブの灯油が切れそうになると「思慮の足りない乙女だった」と言っていますpaper聖書ではイスラエルの民のことを「シオンの娘」と表現することもありますね。
ところで記事トップの写真は、聖母マリアではなく、花嫁の像ですか?

投稿: かげっち | 2012年4月 3日 (火) 12時42分

かげっちさん、こんばんは。

やはり140番の人気は高いでしょうね。147番は更に有名ですが、内容的にはそれ以上だと思っています。

しかし、灯油を切らせてしまう女の人は嫁に行けないというのも随分と厳しい話ですね。そもそも婚礼に出られた乙女達だって、居眠りはしていたのじゃないんですか??

写真はマリア像ですよ。どこの教会のだったかは忘れましたが。

投稿: ハルくん | 2012年4月 3日 (火) 21時27分

実はこの10人の乙女は、花嫁ではなくて「花嫁を訪ねてくる花婿の到着を待っていた近所の若い娘たち」です。花婿の到着が遅くなり夜になってしまったので(普通はあり得ない)眠ってしまったけれど、起こされたとき5人は灯りを用意していなかったので祝宴の席に行けなかったという話です。

投稿: かげっち | 2012年4月 4日 (水) 13時24分

かげっちさん、ご指摘をどうもありがとうございます。

なにせ、にわか勉強ですので内容を間違えてしまいました。マタイ伝の該当する章を調べてみたら、確かにおっしゃる通りでしたので、記事の修正を行いました。

確かになんか変だとは思っていたのですよ。どうして一夫多妻なのかなぁ?とか。もし、これで花婿も10人だったら、集団結婚式ですものね。ずいぶん昔、話題になりましたね。

投稿: ハルくん | 2012年4月 4日 (水) 21時56分

こんにちは。
カンタータ第140番ですが、
ソフトバンクのCMで使われている演奏が
とても気に入っています。
演奏者を知りたいです。
古楽器の団体ではないように感じます。
もしわかりましたらご教示いただきたく、
すみませんがよろしくお願い致します。

投稿: ハミング | 2013年4月28日 (日) 00時24分

ハミングさん、こんにちは。
コメントを頂きましてありがとうございます!

ソフトバンクのCMで、これまで使用された曲を集めたCDが出ています。下記をご覧ください。
http://www.white-classic.com/

このCDで演奏しているのは梅田俊明さん指揮のホワイト・オーケストラだそうですが、過去のCMで使われた演奏と同じなのかどうかまでは残念ながら分りません。聴く限りではテンポなど非常に似通っていますので違和感は無いですね。ことによると同じかもしれませんし。

カンタータのテンポも僕の好きなトーマス盤に近いゆったりとした演奏でとても素晴らしいですね。僕もこのCMの演奏好きですよ。

以上、ご参考までに。
またお気軽に何でもコメント下さい。

投稿: ハルくん | 2013年4月28日 (日) 09時40分

ハルくんさん、
早速の回答、ありがとうございます。
実はこのCD、もしかしたらと気にはなっていたのですが、
自分の探し方が悪かったせいか試聴サイトも見つけられず、
購入までは踏み切れないでいました。

早速、リンク先の試聴で聞いてみました。

テンポはCMより幾分遅いようですが、
ピッチやオーボエの濃厚な感じなど、かなりCMの演奏に近い感じがしました。

以下は私の勝手な推測ですみませんが、
CMの演奏はやはりこのオーケストラで、
区切りのいいところまでをCM枠(30秒)に収めるために、
ちょっと早めのテンポでCD収録とは別テイクで録音したのではないか、というところです。

それにしてもCMのちょっとした演奏なのに
どうしても気になって頭から離れなくなってしまっていたので、
これで一旦自分なりに納得できました。

本当にありがとうございました。

投稿: ハミング | 2013年4月28日 (日) 22時50分

ハミングさん、こんばんは。

ご丁寧に御礼頂きましてありがとうございました。
CM録音と別テイクという御推測は案外当たっているかもしれませんね。
オケの音は同じ様に聞こえますからね。

それにしてもこの白戸家のCDは毎回ユニークですが、音楽の選曲と使い方は本当に素晴らしいですね。よほどのスタッフが企画しているのでしょう。感心しきりです。

それではまた!

投稿: ハルくん | 2013年4月28日 (日) 23時21分

我が家の小2の娘は、オルガニストのウォルフガング・リュプザムのコンサートでこの曲を聴いて「かわいい!」と感激していました(笑)

私はバッハは大好きなのですが、「歌」というものが苦手なせいか、専らピアノとチェロばかりきいているので、今度カンタータに挑戦してみたいと思います。

投稿: blue monk | 2016年7月 5日 (火) 23時00分

blue monkさん、こんにちは。

娘さんは素晴らしい感性をお持ちですね!
これからが楽しみですね。

カンタータの代表的な何曲かをお聴きになるのは良いですね。まずはこの140番、有名な147番あたりからが良いと思います。

またカンタータ以外に「マタイ受難曲」という大作も有り、長さが苦でなければ是非ともお勧めしたい音楽史上稀にみる大傑作です。いずれは是非挑戦されてください。

投稿: ハルくん | 2016年7月 8日 (金) 12時51分

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