ブラームス クラリネット五重奏曲 続・名盤
クラリネット五重奏曲ロ短調op.115は、ブラームスが晩年に名クラリネット奏者リヒャルト・ミュールフェルトの為に書いた一大傑作ですが、そればかりかブラームスの全室内楽作品の中でも間違いなく頂点を極めていると思います。
僕もこの曲は、心中しても良いと思うぐらい(古い言い方だぁ~オヤジくさっ!)大好きですので、3年前にも一度「クラリネット五重奏曲 名盤」で記事にしています。今回は、その後に加わった愛聴盤をご紹介したいと思います。
アントニー=ピエール・ド・バヴィエ(Cl)、ヴェーグ四重奏団(1949年録音/CASCAVELLE盤) ジュネーブでの古いライブ録音ですので、お世辞にも音質は良いとは言えません。ノイズも多いです。けれども、この演奏で強烈に耳に残るのは、第1ヴァイオリンのシャンドール・ヴェーグの奏でるロマンティックな音です。何とも言えぬ懐かしさで胸がいっぱいになります。どこをとっても人間的で、機械的な感じが全くありません。味わいの濃さでは、ウイーン・コンツェルトハウスのアントン・カンパ―と並びます。それはジプシー・ヴァイオリンの血を引くハンガリーの出身だからかもしれません。バヴィエのクラリネットも上手さはともかくも味わいが有ります。但し、この演奏は余りに個性的ですので、誰もにお薦めするのは少々ためらいます。
ベーラ・コヴァーチュ(Cl)、バルトーク四重奏団(1974年録音/フンガトロン盤) オール・ハンガリーのメンバーによる演奏です。この曲にはハンガリーの音が良く似合うと思います。バルトークQはヴェーグあたりと比べるとずっとスマートで、しなやかな弦の響きが新鮮です。しかも現代的な冷たさは少しも有りません。ポルタメントを多く使って甘さを醸し出しています。ここには強い哀しみは存在しません。良くも悪くも「老境の孤独」というよりも、「青春の感傷」というようなイメージを感じます。
ミッシェル・ポルタル(Cl)、メロス四重奏団(1990年録音/ハルモニアムンディ盤) ポルタルはフランスのベテランですが、音色に翳りが有るのでこの曲に向いています。メロスQも第1ヴァイオリンのメルヒャーを中心に、しっとりとした美演を聞かせてくれます。決して枯れた味わいでは無く、瑞々しさを感じさせます。非常にニュートラルな演奏なので、この曲を聴く時のリファレンスとしても良いと思います。但し、余り強いクセが無いので抵抗なく自然に聴いていられる反面、もっと個性が欲しいかな、という気も起きてきます。
デヴィッド・シフリン(Cl)、エマーソン四重奏団(1996年録音/グラモフォン盤) これは凄い演奏だと思います。音の彫琢の度合いが半端で無く、メンバー全員の弾く音符全てに意味が有ります。確かにクールには違いありませんが、機械的だとか無機的な印象は全く感じません。もちろんシフリンは素晴らしいですが、弦楽が非常に素晴らしく、両者のからみ合いは、初めてこの曲を聴くかの如く新鮮に感じます。特に気に入っているのは、遅めのテンポで立体的な1楽章と、万華鏡のように様々な変化を見せる4楽章です。ある意味、シンフォニックとも呼べる演奏であり、何となくジュリーニの演奏するシンフォニーを連想させます。
というわけで、どんな演奏を聴いても、あのウラッハ/ウイーン・コンツェルトハウスSQ盤の王座は揺るぎませんが、バヴィエ/ヴェーグSQ盤とシフリン/エマーソンSQ盤も絶対に欠かせないマイ・ベスト3の座に就きました。
※補足: その後、更に名盤の「続々編」を記事にしています。
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コメント
今晩は~。こちらにもお邪魔しま~す。クラリネット五重奏は、妄想美男美女5人組のコメントの際にブラームス・モーツァルトのカップリング聞いてますとお話しましたが、アマデウス弦楽四重奏団演奏、カール・ライスター(ブラームス)ジェルヴァーズ・ド・ペイエ(モーツァルト)独奏…クラリネットのお二人の名前は、底の浅い私の事、全然知りませ~ん。ですが、二曲とも良いですね~。クラリネットの音が時に甘く、時に悲しく語りかけてくれます。外は寒いけど、暖かいお部屋で珈琲を飲みながら聞き入っています。妄想5人組を思い浮かべながら…ハルさんとかげっちさんの顔を知らないのにどうやって???
投稿: from Seiko | 2011年12月23日 (金) 21時03分
いつも、記事を参考にさせていただいています。
今回、シベリウスの交響曲全集を買いに行くに
あたり、貴ブログの記事をメモしていきました。
ディスクユニオン新宿にて、レイフ・セーゲルスタムとヘルシンキ響のがあり、購入してきました。
とても良くて気に入っています。
ありがとうございました。
これからも記事を楽しみにしています。
投稿: 四季歩 | 2011年12月24日 (土) 22時01分
Seikoさん、コメントをたくさんありがとうございます!
名曲を奏でるクラリネットの調べ。いいですよね~。二人はどちらも有名なクラリネット奏者ですよ。
僕の場合は、どちらか言えば弦楽のほうについつい耳が傾いてしまいますが、この楽器の音はなんとも心を癒されますね。
本当の顔はご存知ありませんからね。どうぞお好みのタイプのお顔を想像されて思い切り妄想にふけってください!(笑)
投稿: ハルくん | 2011年12月25日 (日) 16時51分
四季歩さん、こんにちは。
ヘルシンキフィルの演奏といえば、一般的にはベルグルンドのものが定評ありますが、セーゲルスタムも本当に素晴らしいと思います。
全集と言うと「ヴァイオリン協奏曲」と「フィンランディア」も入っているものですよね?あの二曲の演奏も大好きなんです。男声合唱付きの「フィンランディア」はいいでしょう!
投稿: ハルくん | 2011年12月25日 (日) 16時59分
そうなんですよ(嬉)
「フィンランデイア」最初聴いてびっくりしました(笑)
合唱付き、とても素晴らしかったです。
「ヴァイオリン協奏曲」も、とても気に入りました。
これからも、記事を楽しみにしています。
投稿: 四季歩 | 2011年12月26日 (月) 20時51分
こちらにもコメントしないわけにはいきません。コヴァーチュは名手ですね。いい音です。ただ2楽章のテンポ設定はせわしない感じがして、好きではありません。
ペイエは20世紀フランスの奏者としてランスロの次に偉大な人でしょう。この二人がメンデルスゾーンの協奏的小品を録音していますが、ランスロと比べるとペイエは物足りないです(私の師匠のコメントでもあります)。まあそもそも、私はフランスのヴィブラート奏法を好みません。なお、現役のモラーグがデビューしたとき「20世紀にランスロのような巨匠がもう一人出るとは思わなかった」と書かれましたが、まだ若い21世紀の人なので(彼は大好きです)。
トリオのときに書き忘れた奏者でボスコフスキーがいました。コンマスで有名なのは弟で、兄はクラリネットでした。プリンツよりいっそう甘美な、実にウィーン的な音色です。彼の五重奏は必聴ですよ。
投稿: かげっち | 2012年1月 2日 (月) 14時47分
この曲に、かげっちさんのコメントを頂かなくては始まりませんね。
コヴァーチュの音は良いですが、テンポが速いのはバルトークSQの特徴でしょう。僕もそう感じます。
モラーグは聴いたことが有りません。聴いてみたいですね。ポルタルもフランスの奏者ですが、僕はとても良いと思うのですが。そういえばボスコフスキーも居ましたね。聴いてみたいです。
投稿: ハルくん | 2012年1月 2日 (月) 16時25分
↑私としたことがつまらぬ誤りを書きました。ペイエはフランスではなくイギリスです、どちらもヴィブラートかけますけど。
パスカル・モラーグ(モラゲスと表記することの方が多い)は63年生まれ、18歳でパリ管スーパーソロイストになりました。録音が少ないですがオケや室内楽で何度も来日しています。あるブログでは「ムローヴァのVnが霞んでしまった」と書かれていました。
そういえばウラッハがVPO首席になったのも18歳だったように思います。ボスコフスキーもぜひお試しください。MozartとBrahmsのカップリングの余白に、コントラバスを加えたベールマン(伝ワグナー)のAdagioが入っていたのが貴重でした。
コヴァーチュの2楽章、SQだけでなく彼自身も速い演奏を狙ったように思います。中間部の巨匠風の箇所もほとんどルバートせず「楽譜の通り」吹いています。技巧的に言えばこの方が凄いのかもしれません。
投稿: かげっち | 2012年1月11日 (水) 18時59分
かげっちさん
色々と詳しく教えて頂きましてありがとうございます。
僕はブラームス晩年のクラの3(4?)作品は本当に大好きなので、まだまだ色々と聴いてみたくなりますす。ボスコフスキーにはモノラルとステレオの二種類が有りますね。ご推薦頂いたのはどちらでしょう?ステレオ盤かな?
投稿: ハルくん | 2012年1月11日 (水) 19時48分
わたしはステレオ番しか聴いたことがありません。
余談ですがイギリスのクラリネット奏者には小さい頃Violinを弾いていた人が多く、ヴィブラートのかけ方が弦楽器的なのだそうです(これも師匠による)。
投稿: かげっち | 2012年1月12日 (木) 13時01分
かげっちさん
ありがとうございます。
僕もステレオ盤の方を探してみることにします。入手できた時の感想を楽しみにしておいてください。
イギリスのクラリネット奏者に小さい頃Violinを弾いていた人が多いというよりも、音楽家が生まれるような家では、クラリネットに限らず、まずはViolinを習わせるのではないでしょうか?勝手な想像ですが、そんな気がします。
なるほど、弦楽器的なヴィブラートとは面白い表現ですね。こんどから意識して聴いてみrます。
投稿: ハルくん | 2012年1月12日 (木) 21時46分
この曲も、『何だか在り来たりの選択だね。』とブログ参加者の皆様に申されそうですが‥。実は何れもLPで、westminster原盤のウラッハ&ウィーン-コンツェルト-ハウスSQの、VIC-5361と言う番号のvictor音産盤、アルフレート-ボスコフスキー&ウィーン八重奏団員の、英DeccaのSDD-249と言う番号の外盤です。グランドピアノやオーケストラと異なり、モノ録音でも円やかな管楽器と弦楽四重奏の組み合わせでは、何の不都合もございません。懐古的、後ろ向きと御指摘されれば反論や否定の余地は、ございませんけれども気分に応じこの二種を聴き分けるのは、贅沢な楽しみだなぁ‥と、一人納得です。 ライスター氏のものが一枚もないのは、怠慢と片手落ちの謗りは免れないでしょうけれども‥。
投稿: リゴレットさん | 2020年1月22日 (水) 17時44分
リゴレットさん
「ありきたりの選択」と言われるほど、誰からも絶賛されるのは大変なことですね。
曲と演奏スタイルとの幸福な出会いであったわけです。
ライスターも素晴らしいですが、共演カルテットを含めると、アマデウスQとのDG盤が最上位でしょうか。
投稿: ハルくん | 2020年1月23日 (木) 16時19分